リバーリバイバル研究所

川と生き物、そして人間生活との折り合いを研究しています。サツキマス研究会・リュウキュウアユ研究会

第32回 トキの落としばね  幻の加賀毛バリ発見録。

2016-06-20 10:26:56 | ”川に生きる”中日/東京新聞掲載

もう見ることは出来ないと思っていた、トキの羽で作ったあゆ毛鉤! 加賀毛バリの松波三号という幻の毛バリを見つけました。

 

 

 


 木の板にくぎが打ってある。くぎに張り付けた輪ゴムを指に掛け、

調子を取りながらハリに鳥の羽を細い糸で巻きつける。たちまちアユ釣りの毛バリができあがった。
 松波郁代さんは一九三二(昭和七)年、金沢市生まれ。三代続く加賀毛バリ専門店「松波釣具店」に嫁いだ。ご主人の俊一さんに代わって家業を継いだが、俊一さんの転勤で一家は岐阜に移る。以来、岐阜市内の自宅で針を巻いて、金沢の実家に送っておられた。
 「トキの羽の毛バリもあったんよ」。その時、伺った言葉が気になっていた。
 一九九三年、希少な野生生物保全を図る「種の保存法」が施行されて以降、トキはその羽の一部でも流通することはない。トキの毛バリはすでに幻だった。
 最後の日本のトキ、キンが飼育下で死んだ二〇〇三年、トキの羽で巻くという毛バリの製作過程を映像で記録したいと思った。しかし、松波さんは俊一さんを亡くされ、毛バリ作りをやめ、道具も処分された後だった。
 今年五月、再びご自宅を訪ねた。釣り名人だった俊一さんが愛用されたハリ箱があったという。整然と毛バリが並ぶ。別名「蚊バリ」というように黒っぽい毛バリの中に、二つだけ白いものがあった。
 「あら、残ってたわね」
 胴巻きという部位にトキの羽を使った「松波三号」という加賀毛バリだった。
 トキは日本のどこにでもいる里の鳥だった。一度は絶滅したが中国から借りたトキを人工飼育し、〇八年に放鳥が始まった。現在、国内には百四十七羽が野生化している。ほとんどが佐渡にいるが、最初に放鳥されたメスは、石川県能登半島に渡り、輪島周辺に留まっている。本州で最後まで野生のトキが生きたのも能登半島の羽咋市。トキ復活に期待がかかる。
 毛バリは夕暮れの川に投じると光を放ち、アユを誘ったという。いつか、その幻の光を見てみたいと思うのだ。(魚類生態写真家)
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