リバーリバイバル研究所

川と生き物、そして人間生活との折り合いを研究しています。サツキマス研究会・リュウキュウアユ研究会

第33回 もう一つの長良川鵜飼  小瀬鵜飼を楽しむ。

2016-07-03 14:06:18 | ”川に生きる”中日/東京新聞掲載

鵜飼は漁である。そして、篝火の芸術だ!と思っています。長良川のもうひとつの鵜飼。小瀬鵜飼の乗船記です。


 鵜舟の上は忙しい。鵜匠は、アユを驚かせるための篝(かがり)に薪をたき、鵜たちを川に放つ。鵜を操る手縄が絡まぬように、複数の手縄のうち、潜る鵜の手縄を一番上に持ち替える。ホーホホッー。声を掛け、鵜を舟に引き上げ、丸のみにしたアユを吐き出させて籠にとる。

 長良川では二カ所で鵜飼が行われている。岐阜城の直下、長良橋上流で行われる長良川鵜飼が名高いが、長良橋から十四㌔上流、関市の鮎之瀬橋上流で行われるのが小瀬鵜飼だ。鵜匠の三人は、長良川の六人同様に宮内庁式部職鵜匠だ。 

 小瀬では、鵜舟が観覧船を伴い川を下る「狩りくだり」を見ることができる。左岸は愛宕神社の裏山、右岸は上流にホテルがあるだけ。暗闇の中で小瀬鵜飼は行われる。鵜飼の期間はともに五月十一日から十月十五日までの約五カ月間。今年の小瀬鵜飼は増水で二日遅れて十三日に始まった。
 鵜匠足立陽一郎さんの鵜舟に同乗した。鵜舟は観覧船よりも上流の早瀬から滑り出す。河原のたき火から船上の松割木に移した炎は小さい。鵜舟が速度を増し早瀬を下る。下流からの川風を受け、篝火は一気に燃え上がった。観覧船から歓声が上がる。鵜舟は観覧船を伴って川を渡る。岸辺の岩場で鵜匠は篝棒を回し、篝を観覧船の側に張り出させた。篝棒がしなり、火の粉が舞う。カメラを構えた私の手や腕に、そして寂しくなった頭頂の地肌に火の粉が降る。篝の間近で、鵜匠は炎に身をさらし水面下を凝視していた。

 初日を終え、足立さんご家族と初物のアユを頂いた。鵜飼の季節の始まり。
 「典雅な」と形容される鵜飼の様式美。漆黒の闇の中で、観客を感嘆させた篝火の美しさに私も感動したと話した時だった。
 「あの岩で、舟が当たるほど寄せておれば、もっとアユはとれた」
 お客さんに、鵜がアユを捕るところを見せて感動させたかったと、今年四十一歳の鵜匠は漁師の顔をして言った。(魚類生態写真家)
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