リバーリバイバル研究所

川と生き物、そして人間生活との折り合いを研究しています。サツキマス研究会・リュウキュウアユ研究会

第31回 はじまりからおわりまで 流域を丸ごと保全した小網代の森

2016-06-06 14:14:49 | ”川に生きる”中日/東京新聞掲載

はじまりから おわりまで

降った雨が海に注ぐまで、つまりは川の始まりから終わりまで、集水域の森すべてと、河口に広がる干潟までが丸ごと保全されている場所がある。神奈川県三浦市、三浦半島の「小網代の森」だ。

森には1980年代にゴルフ場などのリゾート開発の計画があった。その開発計画が変更され、開発用地約168haのうちの約70haが国と県によって取得された。人工通路などが整備され一般に開放されたのは2014年7月のことだ。通常は昼間だけだが、昨年からホタルの季節は夜間にも開放されている。神奈川県のホームページで確認して、ホタル見物にでかけた。

小網代の森は都心から1時間半という距離にある。大都市圏に残った流域に人間が住まない自然豊かな森だ。京浜急行の終点三崎口から森の入り口まで勾配のない国道を歩いて30分。バスなら5分の距離に、森の入口がある。

私がこの森に来たのは初めてではなかった。28年前、ゴルフ場建設が近く開始されるという森を訪ねた。当時は苦労して歩いた川沿いの道は整備され、通路は普通の靴でも歩くことができる。30分ほどで河口に着いた。当時と同じヨシ原が広がっていた。あの時は、この光景も見納めかと、無数のアカテガニが幼生を海に放つ瞬間を見守った。

ヨシ原のテラスでNPO小網代野外活動調整会議の代表岸由ニさんを待った。昔のままの姿ですね。私が話しかけると違うという。河口のヨシ原は、一度は乾燥して笹に覆われた。それを人間の力でヨシ原に戻したのだという。どのように森が残されたのか。その経緯は今春、岸さんらが上梓した『「奇跡の自然」の守りかた』に詳しいが、小網代の森は人々が作り上げた「奇跡の自然」でもあるということか。  

夜が訪れた。森と川のはざまに、ゲンジボタルの艷やかな光が流れだした。

(魚類生態写真家)

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