新潟久紀ブログ版retrospective

新潟独り暮らし時代17「自由な生活時間の下でのバイト三昧(その5・番外編)」

●自由な生活時間の下でのバイト三昧(その5・番外編)

 さて、二十歳前後の頃の私は洋楽のロックを聴くのが好きで、ジョン・メレンキャンプなどカントリーが背景にある少し泥臭いものや、ジャクソン・ブラウンといったフォークテイストの思慮深く内省的なもの、かと思うとピンク・フロイドやイエスといったプログレッシブといわれるものまで幅広に聴いていた。
 洋楽崇拝主義というのではなかったが、当時の昭和後期の日本はバンドブーム前のアイドル歌謡曲の全盛期で、特に、どの曲も同じ雰囲気にしてしまう綺麗にまとまりすぎたオーケストラサウンドが嫌でたまらなかったのだ。
 学業とバイトの狭間に、ウイスキーのロックか豆から轢いたレギュラーコーヒーを用意して、大きなスピーカーで音の波にもまれるように独り聴く時間が重要だった。プロモーションビデオは黎明期であり、画像でへたなイメージを着けられずにイマジネーションの広がりを楽しむことは気分転換に有効だった。
 そして、好みの分野の洋楽は、生活の転機とか私なりに重要な局面において必ず、心を支えてくれる楽曲をもたらしてくれてきた。冬を前に車を失い、3年連続で豪雪の下で通学とバイト以外閉じこもりがちになっていた大学2年生は、イーグルスのドン・ヘンリーがリリースしたソロのセカンドアルバムがそれだった。
 プロモーションビデオで楽曲に固定観念が付随するのは嫌いだったが、「Boys Of Summer」とは、真夜中の灯りを落とした部屋で14インチテレビに流れ始めたMTVのモノクロ画面で衝撃的に出会うことになった。
 ビーチリゾートで夏のひと時限りで離れた女性を振っ切れない男の想いを綴るメランコリックが、深雪の中に引き籠もりがちに暮らしながら夏場に愛車を駆って活動的だった頃の事を思い返すばかりの自分に重なったのだ。物思いに沈みはさせるが、落ち込ませるばかりでなく、ある種の諦めの受入れにより乗り越えさせようという結局は前に進んでいかざるを得ないと諭させるムードを、私は勝手ながら「Boys Of Summer」に感じていた。
 ドン・ヘンリーのソロアルバムは、大学受験を前にした高校3年生の秋頃以来であり、またも、孤独と対峙しているタイミングにリリースされたことに因縁を感じる。
 大雪の晴れ間に鉄道で新潟大学前駅から新潟駅まで向かい、積雪の万代橋を渡って2kmほどのレコードショップでLP「BUILDING THE PERFECT BEAST」を買い求め、直ぐに反転して帰路についた。部屋に着くなりレコード針を落としたアルバムは、例のヒットチューン以外もドンヘンリー得意のシニカルでアイロニックでエスプリの利いた、そして泣かせる楽曲のラインナップであることは今更一々記す必要はないと思う。
 LP「BUILDING THE PERFECT BEAST」のヘビーローテーションを、学業と夜のバイトを交互に重ねる生活のアクセントに繰り返しているうちに、いつのまにか降るのは雪から雨になるようになり、夜中に屋根からしたたる雪解け水の音が春近きを告げる時期になっていた。気付けば車購入の頭金くらいは貯まったようだ。

(「新潟独り暮らし時代17「自由な生活時間の下でのバイト三昧(その5・番外編)」」終わり。仕事遍歴を少し離れた独り暮らし時代の思い出話「新潟独り暮らし時代18「自由な生活時間の下でのバイト三昧(その6)」」に続きます。)
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