新潟久紀ブログ版retrospective

柏崎こども時代29「漫画家志望(その2)」

●漫画家志望(その2)

 昭和半ばの小学生の頃の私といえば、自分から新しい物事を探していくような開拓心とか積極性というものに欠けていたように思える。6歳も年上の兄がいて遊びから学校生活など何でもあらかじめ情報が得られることで”知ったかぶり”でやり過ごせる物事が多かったし、逆に近所の同い年には長男たる友達が何人かいて、自ら見つけた新しい話題などをのんびり屋の私に教えて少し優越感に浸りたがるようだったりしたので、私は受け身的に過ごしていれば難なく過ごせていられたのだ。
 大概がそのような調子の中、好きになった漫画も友達が薦めてきた「週刊少年ジャンプ」であり、小学生の私には掲載されている作品は、少し背伸びする感じも含めて面白さが満載に思えたので、その他の漫画雑誌や単行本などを漁るようなことまではしていなかった。漫画の世界に関してはこれで十分と決め込んでいたのだ。
 そんな小学4年生の終わり、春休みの頃であったか。日用品以外の買い物ということで両親に連れられて自家用車で隣の長岡市まで出掛けた時があった。生まれ育った柏崎市においては、大きな百貨店がなく、現在のように気の利いた郊外型大型店舗が蔓延る以前であり、少し値の張る耐久財などを購入する際に、新潟県内第二の都市である長岡市に出向くことがままあった。
 目的の買い物を済ませて時間的に余裕があったのか、買い物の母親を待つ間にパチンコに行った父との待ち合わせまで間があったのか、とにかく少し時間つぶしということで大きな書店に入ることになり、何か漫画でも一冊買っていいということになった。
 活字の書籍など全く関心のなかった私は即座に漫画コーナーに行き、続けて買っていた単行本の新刊が出ていないかと探し始めた。真偽はともかく当時は柏崎より大都市の長岡市の方が漫画の新刊の入りが早いとの噂もあった。
 自分の身長を超える高さの本棚にぎっしりと詰められた単行本の背表紙を目で追っていくと、少年漫画にあるべきと思われる軽快さや明るさがみじんも感じられない漢字4文字の題目が視野に入ってきた。
 「漂流教室」。大人か気むずかしい人向けの漫画なのではと視線を先に進めようとしたが、「少年サンデーコミックス」との表示から少年ジャンプと並ぶ少年誌に掲載されている作品なのだろうと察しはつく。私にとって夢や希望を比較的ライトに楽しませてくれる世界であるはずの週刊少年漫画誌で「漂流教室」という標榜はなんたるものなのだろうと少し驚きもあって視線が釘付けになってしまったのだ。
 「教室」という小学生の私にとって親しく馴染んでいるものが「漂流」という極めて大人の世界を感じさせる文字と結びついていることからもう気持ちが離れられなくなってしまった。
 果たしてそれを本棚から引き出して表紙を見るとまた衝撃だ。そこにはギョロリとした大きな目と両腕がハサミになっている巨大なムカデのような多足動物が恐ろしいまでに極めて精緻に描き込まれていて、それが粉塵を上げる姿を背景にして少年が恐怖する顔が前面にあるのだ。
 人物も動物もキャラクターは太い線で荒っぽく描かれがちで、モノや背景もデフォルメがちなのが当たり前と思っていた少年漫画において、繊細でかつ迫力のある絵柄の表紙だけで本編の恐怖が十分に子供心にも伝わってくるような作品があるのかと、本当に衝撃を受けた思いだった。
 迷わず第1巻を買って読み始めたいと思ったが、人気作だったと思えて大きなこの書店をしても新刊である第3巻しか見当たらない。音楽CDで言うならジャケ買いといったところか、表紙だけで完全に魅了されてしまった「漂流教室」の第3巻を携えてレジに向かったのだ。

(「柏崎こども時代29「漫画家志望(その2)」」終わり。仕事遍歴を少し離れた実家暮らしこども時代の思い出話「柏崎こども時代30「漫画家志望(その3)」」に続きます。)
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