新潟久紀ブログ版retrospective

新潟独り暮らし時代41「鈴木辰治ゼミの一年目(その1)」

●鈴木辰治ゼミの一年目(その1)

 鈴木辰治ゼミへの受講希望は思惑通りに足きり振るい落としなしで通過して、いよいよ初日が訪れた。指定の小教室には私を含めて男子学生10人、女子学生2人の総勢12人がそろった。知られていないゼミの割にはよくも二桁揃ったなあと雑談していると、半分くらいは他の人気ゼミを落選しての転向ということだった。
 指定時間に教授が入室されて初めて我々新ゼミ員とのご対面。おにぎりのようなフォルムの頭にあばたがちな頬、上が黒で下が銀縁のオーソドックスな四角いレンズ眼鏡の奥から少し吊り気味の細い目が見える。どう見ても柔道か何かやっていただろうといった感じの、大きくはないが厳つい体つき。ドイツの客員教授から帰国したばかりという話から想像していた洗練された洒落たイメージは一瞬で塗り替えられた。
 「特にあれこれどうこうとは言わないので、私の専門でゼミの項目でもある経営経済学という範疇において、自分たちで課題を考えて研究を進めること。そのとっかかりとして指定しておいた図書を使うこと」。教授から早速繰り出された口上は先輩から聞いていて予想したとおりだった。
 当時の私は、どうせなら思うようにゼミの活動を進めたいと考えていたので、ゼミ員による若干の意見交換を経たうえで、私がゼミ長になることになった。高校時代からの同級生も居たので彼を副ゼミ長に指名し、その後、教授がゼミの恒例行事だと言う「年一度の宿泊合宿」などレクリエーション担当など役割を決めて、あっという間の初日は終わった。
 教授が退室すると一同は皆安堵の雰囲気に。どうやら厳しいゼミにはならなそうだ。遊びたいさかりの男子学生は意気揚々としたが、女性陣は道筋に具体性の無い先行きに不安げな表情でもあったが…。
 冒頭の挨拶と簡単な指示をした後に退室した教授の研究室へ、ゼミ長など割り当て結果などの報告に私と副ゼミ長の二人で伺うと、両脇を図書でぎっしり詰まった本棚に挟まれた机に向かって鈴木辰治教授は何やら熱心に書き込んでおられた。私たちを振り返ると「ようっ」と明るく声掛け、報告を聞くと「ご苦労さん。私は忙しいのであまり面倒見れないと思うから、ゼミ長、副ゼミ長でよろしく頼むね。ガハハハッ」と屈託がない。ドイツの大学での研究結果を著書にするための原稿書きで忙しくなるらしい。「わかりました」と答えて我々は早々に退散した。本棚と机以外には、さほど高価ではなさそうなコンパクトな年季の入った革張りの応接ソファーセットと小さな小さな冷蔵庫、その上にコーヒーメーカーくらいしかない殺風景な研究室が、飾らず学問一辺倒の教授の人柄を如実に表しているようで、私には好印象だった。

(「新潟独り暮らし時代41「鈴木辰治ゼミの一年目(その1)」」終わり。仕事遍歴を少し離れた独り暮らし時代の思い出話「新潟独り暮らし時代42「鈴木辰治ゼミの一年目(その2)」」に続きます。)
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