新潟久紀ブログ版retrospective

新行政推進室7「時限的に求められる成果」編(2/2)

新行政推進室7「時限的に求められる成果」編(2/2)

 平成5年に行政手続法が制定され、許認可等の事務の標準処理期間が全庁的に明らかにされていたが、5年ほど経たところであり、全庁的に見直しを働きかけるには丁度いいタイミングだ。全ての行政手続きの点検を通じて、事務処理の迅速化や事務手順の効率化などに繋げられれば、そして全容を取りまとめて表すことは今までにない事でもあると考えられるので、"当室の成果"と言えるものにできそうである。
 鬼の首でも取ったかのように喜び勇んで室長へ早速説明する。新行政推進室は、試行的な意味も込めて、通常の係、補佐、所属長というライン制の三角型組織ではなく、担当が直接に所属長と繋がるスタッフ制であったため、末席の私であっても、一応上長の位置づけとなる行政調査員と相談した上で、室長へダイレクトに伺うことができた。私の意気込みに反して室長は「極めて事務的な取組だな…」とあまり食指が動かないご様子。別途議論が始まっていて、より重く政治的な調整難度も高い組織機構改革の検討に比べれば…ということだったのかも知れない。
 いずれにしても、「細かくも堅実な改善に取り組むことも大事だ」と室長のご了解も得られたので、県庁全部署を対象とした「行政手続総点検調査」の準備に着手した。
実は、「行政手続法に関する事」は法務や文書を扱う部署の所管とされており、当該調査にあたっての主導的役割をお願いできるか相談してみたのだが、法に基づく国からの通知や照会等を部局につなぐのが業務であり、法令の運用を超えて行政事務の改善改革を目的とする総点検は範疇外だといった趣旨でお断りをうけていた。いかにもお役所仕事的反応だな…とは思ったが、確かに、新行政すなわち行革の熱に浮かされた若手からのいきなりの申し入れに対する冷静な対応だ。
 ここに至り今更ながら気付かされるのは、新行政推進室には何の「力」も無いということだ。役所では法令や制度に基づきキッチリと事務分掌が決められている。それに拠らない仕事をお願いするにあたって、当室には相手を動かす予算調整や人事などインセンティブやブラフが示せない。県庁全体のためだとかいった理念や、いずれ当該部署の利益になるなどという屁理屈で、"おだてたりすかしたり"しながら"拝み倒して"いくしかないのだ。
 担当による折衝が不調になったからといって、一々室長やら総務部長を出っ張らせるわけにはいかない。また、室長はスタッフ制の下で、我々担当者が理屈だけを武器にどの程度部局を動かせるか、動かなければ何をどうするのか見計らっているようなきらいも感じる。私は割り切りが早い方なので、拒む相手の腹が硬いとみたら何時までも食い下がらない性分。ならば自分で全庁全部署を相手とする総点検作業をやることにした。
 本庁の職場は約100箇所あり、法令や予算補助制度等に基づく行政手続きは約3000件に上るという。その総点検の依頼から取りまとめまで一人でやってやろうということにした。従前であれば、回答を求めて点検して集計して…という作業を紙媒体で、ということで依頼文発出も取りまとめも大変な作業とになったであろうが、私は、前職での公金不適正支出問題の集計担当を通じて、当時県庁では普及間もないMSエクセルやMSアクセスの要領を得ており、ようやく端末が係に一台配備されるようになってきた庁内LANを活用して、オンラインで効率的に作業を進めていけるとの目算があった。
 かくして、平成11年の夏前から着手した、県本庁の各所属とダイレクトにやり取りしながらの行政手続き総点検調査は、報告内容の確認はもとより、更なる処理期間短縮や出先機関経由の省略など中間手続きの効率化の促しも含めて、会議会合方式によらず基本的にオンラインでやりきるという前代未聞の対処となり、その作業期間も紙媒体のやり取りとは比べものにならない短期間となる秋口には終えることができた。
 結果は「行政手続簡素化計画」との名称の冊子として取りまとめ、約3000件に及ぶ本件行政手続きの一件一件について概要や手続きの流れ、受付から処理期間の現状と、点検の結果の改善策として処理期間の短縮や提出書類の削減など、県民たる申請者に対するサービスの見える化と向上策を一覧的に整理したものとできた。冊子化にあたってはエクセル表で提出された膨大な個票をMSアクセスにインポートしてデータベース化し、製本機能を活用した。仕上がりを印刷した時には、一人で100ページ近い冊子が作れてしまう時代になったのだなぁと感慨深かった。
 しかし、作業中は勢いに任せた感じで突き進めたのだが、取りまとめ後にしっぺ返しが待っていた。取りまとめ結果を庁内にフィードバックするに際して、他部署の手続きの簡素効率化の取り組みを自身の部署の業務の更なる改善のための比較考量に活かして頂けるよう、本庁各課から出先機関の隅々まで情報が行き渡るようにと、本庁の部局主管課を"川上"とし各部局内部の本庁職場や出先機関を"川下"とする"組織系統"を活用することとしたのだが、当室と各職場がダイレクトにやり取りして取れまとめたことについて、手厳しい苦言が寄せられた。何がどのように進められているか知らせず主管課を蚊帳の外において勝手に作業しておいて、結果だけ見せられ、周知をよろしくと言われるようなやり方は良くないというのだ。
 反射的にはそうした考えこそが封建的だと思ったが、確かに、県庁のような大きな組織を動かすに当たっては、当面の直接的関わりが薄くとも、先々の事を考えたり、予見しない影響の広がりも勘案して、根回しであったり、いわゆる仁義を切るべきことは必要だと思われる。自分一人で責任を負いきれない展開になることも十分にあり得るということだし、なによりも部局内の各課に精通し統括する主管課の関与があれば、更なる改善案も調整できたかも知れない。私は反省しきりだ。
 ただ、このような経緯で私が発案してほぼ単独で作業して取りまとめた「行政手続簡素化計画」は、当室の他の班が取り組む事務事業評価システムの導入や組織機構改革の検討に時間を要している中で、難易度や重みから見て取るに足らないと見ていた室長も、新行政推進室発足2年目にあたり何か見える成果が求められ始めた事に応えるための"打ち出し"として活用することとしてくれたのだ。
 今から考えると、末席職員が一人で県本庁の約100もある職場と直接やり取りしてデータベースを作り、総覧的に行政事務の改善策を取りまとめるということは、ある意味で無謀なことであったと振り返る。例えば現時点で、私の部下が同様なことをやりたいと発意しても、私はともかく私の上司や部署内外の関係者から、上長による根回しや監督、進行管理などを細かく求められるだろう。それでも、当時は"新行政"という新しい風に吹かれて前例のない取り組みを許容しようという機運があった。
 20年近くを経て、再び保守度の増す昨今の庁内の雰囲気を感じるたびに、意気盛んにやれた当時をしみじみと思い返すのだ。

(「新行政推進室7「時限的に求められる成果」編(2/2)」終わり。「新行政推進室8「恒久的な仕組みを残す~ISO9000s,MB賞~」編(その1)」に続きます。)
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