日韓往来 [Journal Korea]

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確定判決・アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件 ◆

2013-02-07 22:20:09 | 戦後・「慰安婦」問題◆
アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件 判決

判決評価について、専門的には「弁護団声明」のとおり。
最高裁判決は、▽憲法上の賠償請求権、▽法第144号の憲法財産権違反等に判決。(憲法判断)
現憲法が想定していない案件だから、として棄却。

結果は最高裁棄却となった。しかし法廷で明らかにされた事実、判決で確定された違法・不法行為認定がある。日本批判、非難を主目的にして、事実と責任、共有すべき課題をおろそかにする運動体などは、こうした裁判記録や判決にも関心をはらってほしいものだ。

東京高裁の判決を否定してはいない。
したがって事実関係、軍人・軍属に関する違法性等と、軍隊慰安婦の違法性の部分認定が残った。それによる損害賠償請求権の存在について、肯定的。
けれども時効、除斥期間経過によって、損害賠償については棄却。
事実関係と違法性については、かなり認めている。


────
2004年11月29日
最高裁判所判決

 第二小法廷 裁判長裁判官 津野修 裁判官 北川弘治 滝井繁男

             言渡 平成16年11月29日
             交付 平成16年11月29日
             裁判所書記官   *書類ゴム印部分

 平成15年(オ)第1895号
 判 決
         当事者の表示   別紙当事者目録記載のとおり*

 上記当事者間の東京高等裁判所平成13年(ネ)第2631号アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件について、同裁判所が平成15年7月22日に言い渡した判決に対し、上告人らから上告があった。よって、当裁判所は、次のとおり判決する。

 主文

  本件上告を棄却する。
  上告費用は上告人らの負担とする。

 理由

1 上告代理人高木健一ほかの上告理由第1の2のうち憲法29条3項に基づく補償蒲求に係る部分について

(1)軍人軍属関係の上告人らが被った損失は、第二次世界大戦及びその敗戦によって生じた戦争犠牲ないし戦争損害に属するものであって、これに対する補償は、憲法の全く予想しないところというべきであり、このような戦争犠牲ないし戦争揖書に対しては、単に政策的見地からの配慮をするかどうかが考えられるにすぎないとするのが、当裁判所の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和40年(オ)第417号同43年11月27日大法廷判決・民集22巻12号2808頁)。したがって、軍人軍属関係の上告人らの論旨は採用することができない(最高裁平成12年(行ツ)第106号同13年11月18日第二小法廷判決・裁判集民事203号479頁参照)。

(2)いわゆる軍隊慰安婦関係の上告人らが被った損失は、憲法の施行前の行為によって生じたものであるから、憲法29条3項が適用されないことは明らかである。したがって、軍隊慰安婦関係の上告人らの論旨は、その前提を欠き、採用することができない。

2  同第1の2のうち憲法の平等原則に基づく補償請求に係る部分について

 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第27号)の締結後、旧日本軍の軍人軍属又はその遺族であったが日本国との平和条約により日本国籍を喪失した大韓民国に在住する韓国人に対して何らかの措置を講ずることなく戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項、恩給法9条1項3号の各規定を存置したことが憲法14条1項に違反するということができないことは、当裁判所の大法廷判決(最高裁昭和37年(オ)第1472号 同39年8月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁昭和37年(あ)第927号同39年11月18日大法廷判決・刑集18巻9号579頁等)の趣旨に徹して明らかである(最高裁平成10年(行ツ)第313号同13年4月5日第一小法廷判決・裁判集民事202号1頁、前掲平成13年11月16日第二小法廷判決・最高裁平成12年(行ツ)第191号同14年7月18日第一小法廷判決・裁判集民事206号833頁参照)。したがって、論旨は採用することができない。

3 同第1の2のうち、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に射する法律(昭和40年法律第144号)の憲法17条、29条2項、3項違反をいう部分について

 第二次世界大戦の敗戦に伴う国家間の財産処理といった事項は、本来憲法の予定しないところであり、そのための処理に関して損害が生じたとしても、その損害に対する補償は、戦争損害と同様に憲法の予想しないものというべきであるとするのが、当裁判所の判例の趣旨とするところである(前掲昭和43年11月27日大法廷判決)。したがって、上記法律が憲法の上記各条項に違反するということはできず、論旨は採用することができない(最高裁平成12年(オ)第1434号平成13年11月22日第一小法廷判決・裁判集民事203号613頁参照)。

4 その余の上告理由について

 その余の上告理由は、違憲及び理由の不備・食違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、民訴法312条1項又は2項に規定する事由に該当しない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 最高裁判所第二小法廷
       裁判長裁判官    津 野    修
       裁判官       北 川  弘 治
       裁判官       滝 井  繁 男

*上告人(原告・代理人)、被上告人・国(法務大臣・代理人)氏名。住所等の記載があり省略


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【最高裁判決文・韓国語仮訳】 *裁判所公式なものではない


 =最高裁判所


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最高裁判決について弁護団声明(同事件)

声明文

本日、最高裁判所第二小法廷において、アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求訴訟の上告審判決があった。

判決は、原審東京高等裁判所の判断をおおむね是認して、私たちの上告を退けるものであったが、私たちの主張の一部にもせよ、日本の裁判所が原告ら被害者に対する救済の必要性を認め、法律的判断の一部においてこれを認めたことの意義は大きいと考える。

原告ら韓国人もと軍人・軍属・慰安婦、そして遺族らは、日本軍及び日本国の非道の行為によって傷つけられ人間としての尊厳さえも奪われその後半生を塗炭の苦しみの中で過ごさねばならなかったのであり、事理の糾されるべきことを信じ新生したわが国の裁判所の正義を信頼して、この日を千秋の思いで待ちかねてきたものである。

韓国人もと軍人軍属らは、今日に至るまで何らの補償さえ受けていない者が大部分であり、もと慰安婦に至っては、その虐げられた名誉さえ十分に回復すべき措置がとられてはいない.そして何よりも、加害者であるわが国が、率直に責任を認め、被害者らの人生に対し加えた重大な損害を少しでも填補する措置が取られるべきであるのに、政府は一貫して責任を回避する傾向が顕著であり、補償的措置への取り組みは進んでいない.

 私たちは、本日の判決を契機に、日本国政府が襟を正して被害者らに対する補償的措置の進展に努力して行くことを切に望むものである。

 2004年11月29日
         アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求訴訟原告弁護団






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2003年7月22日
控訴審判決要旨
アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求控訴事件 控訴審(東京高裁)
控訴人 韓国・社団法人太平洋戦争犠牲者遺族会控訴人
控訴人代理人 高木健一弁護士ほか
支援 日本の戦後責任をハッキリさせる会(ハッキリ会)

東京高等裁判所平成13年(ネ)第2631号各アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求控訴事件
(戦後補償控訴審判決平成15.7.22言渡)
(原審・東京地方裁判所平成3年(ワ)第17461号、平成4年(ワ)第5809号)
控訴人ら 朴七封ら35名
被控訴人 国

判決要旨

1 主文
(一)本件控訴をいずれも棄却する。
(ニ)控訴費用は控訴人らの負担とする。

2 事案の概要
第1審原告ら40名は、いずれも韓国人であるが、内32名は太平洋戦争の頃旧日本軍の軍人軍属であった者又はその遺族であり、内8名はその頃軍隊慰安婦(従軍慰安婦)であった者である。本件は、第1審原告らが、第1審被告である被控訴人の行為により、本人又は被相続人が旧日本軍の軍人軍属として、あるいは本人が軍隊慰安婦として、耐え難い苦痛を被ったなどと主張して、国際法及び国内法に基づき、被控訴人に対し損失補償ないし損害賠償を求めるなどした事案である。

3 第1審は、第1審原告らの請求は理由がないとして、いずれも請求を棄却した。控訴人らは、第1審原告らのうち軍人軍属関係の本人又はその遺族29名及び軍隊慰安婦関係の本人6名の合計35名である。

4 判決理由の要旨
(一)国際法及び国際慣習法に基づく請求について
ハーグ陸戦条約及びハーグ陸戦規則、ニュールンベルグ国際軍事裁判所条例6条等および極東軍事裁判所条例5条、奴隷条約、強制労働条約、カイロ宣言及びポツダム宣言並びに国際法上の平等原則によって、控訴人ら各個人が被控訴人に対し損害賠償請求権ないし補償請求権を取得するものではない。また、これらの条約等を基にして控訴人ら個人が被控訴人に対し損害賠償請求ないし補償請求をすることができるという国際慣習法が成立しているとは認められない。

(二)国内法に基づく請求について
(1)財産権の補償を定める憲法29条3項は、控訴人らが主張する損失補償につき適用ないし類推適用する根拠規定とはなり得ない。また、戦傷病者戦没者遺族等援護法及び恩給法が規定する、日本国籍を有することを補償等を受ける要件とする国籍条項を、直ちに法の下の平等を定める憲法14条1項に違反するということはできない。さらに、立法を待たずに披控訴人に国家補償を請求できるという条理は未だ存在しない。

(2)被控訴人は、公法上の勤務関係にある軍人及び徴用された軍属、雇用された軍属に対しても、安全配慮義務を負っており、その具体的内容は状況により異なるが、戦時においてもこれを負うものと解される。
ア 控訴人朴七封、同金泰仙の父金炳國、第1審原告文炳煥の被害については、具体的状況や原因に応じた具体的な安全配慮義務の内容が特定されず、同義務の履行可能性や回避可能性を判断できないから、安全配慮義務違反を認めることはできない。
イ 第1審原告趙武雄の父趙殷鐸の終戦直後の帰還が遅れたこと、マラリアにより戦病死したことは、安全配慮義務違反の結果といえず、軍属として受忍せざるを得なかった戦争被害と推認せざるを得ない。
ウ 控訴人韓永龍の父韓錫熈は、軍属の徴用を解除された上で軍令に基づいて浮島丸に乗船したものであるから、被控訴人は、韓錫熈に対し運送上の安全配慮義務を負うところ、浮島丸を出航させたこと、大湊港に引き返さず航行を続けたこと、舞鶴港に入港するに際しての行為は、当時の状況下において合理的選択によるものであって、安全配慮義務に違反があったとは認められない。
エ 控訴人朴七封、同金戴鳳、同趙鐘萬、同在鳳、同金判永、第1審原告李永桓、控訴人成興植の戦地や駐留地における疾病・傷害に対する治療・予後措置については、当時の状況のもとにおける医療状況や医療水準の下でどのような治療措置・予後措置を施すことが可能であったか、可能な治療を怠ったといえるかについて具体的に判断し得る資料がないなどのため、被控訴人の安全配慮義務違反があったとまで認められない。
オ 控訴人朴ピョンチャン(炳瓉)は、軍属である俘虜監視員として、旧日本軍に命じられて連合軍側の捕虜を重労働に使役し虐待するという非人道的職務を遂行したものであるが、この旧日本軍の命令は、軍属に対し、戦後戦争犯罪人として刑罰等を受けることがないようにすべき安全配慮義務に違反したものであり、控訴人朴ピョンチャン(炳瓉)は安全配慮義務違反による損害賠償請求権を有していたものという余地があった。
カ 控訴人鄭キヨン(永)は、事実関係、態様等になお不明な点もあるが、初年兵として勤務中、中国において、上官に命じられて中国人捕虜を銃剣で突き刺して殺したり、集団射殺したりしたことがあると認められ、この命令は軍人に対し将来戦争犯罪人として処罰される危曝を生じさせる違法な行為を命ずるものであるから、安全配慮義務に違反し、控訴人鄭永は、安全配慮義務違反による損害賠償請求権を有していたものという余地があった。
キ 第1審原告李潤宰、控訴人朴壬善の父朴載甲の劣悪な食糧補給等による被害については、当時の戦争状況や物資事情等から受忍せざるを得ない戦争被害といわざるを得ず、安全配慮義務違反があったとまでいえない。
ク 控訴人高允錫の父高在龍の死亡の原因について、その真相を究めるに足りる的確な証拠はない。
ケ その他の軍人軍属関係の控訴人らの安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求は、具体的状況に応じた具体的な義務の内容を特定されていなかったり、義務違反に該当する具体的事実が不明であるから、結局理由がないといわざるを得ない。

(3)軍隊慰安婦関係の控訴人らは、直接的には慰安所経営者との間で軍隊慰安婦として雇用契約を締結したものであるが、被控訴人は、慰安所の営業に対する支配的な契約関係を有した者あるいは民間業者との共同事業者的立場に立つ者として、日常の旧日本軍人との売春に関する事実上の管理に当たって、慰安婦の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負う場合があり得たことは否定できない。しかし、その内容として包括的ないし抽象的な安全配慮義務を直接負担していたと解することはできないし、移動に際しての安全確保の支援等が万全でなかったことがあるのも、戦争被害といわざるを得ない面がある。

(4)民法の不法行為に基づく請求について、現行憲法下では、国家賠償法施行前における公務員の権力的作用に伴う損害賠償請求についても民法の不法行為による損害賠償請求を、いわゆる国家無答責の法理で否定すべきものと解されない。しかし、被控訴人が戦争を遂行する国の権力作用として命じ、ないしはそれに付随した行為に基づき軍人軍属関係の控訴人らに生じた損害につき、被控訴人が民法上の不法行為責任を負うか否かは、結局、安全配慮義務違反の事実があるか否かの判断と同じである。軍隊慰安婦関係の控訴人ら軍隊慰安婦を雇用した雇用主とこれを管理監督していた旧日本軍人の個々の行為の中には、軍隊慰安婦関係の控訴人らに軍隊慰安行為を強制するにつき不法行為を構成する場合もなくはなかったと推認され、そのような事例については、被控訴人は、民法715条2項により不法行為責任を負うべき余地もあったといわざるを得ない。

(5)軍隊慰安婦関係の控訴人らに対する旧日本軍の措置に強制労働条約及び醜業条約に違反する点があった可能性は否定できないから、被控訴人にはこれらの条約上の義務違反に基づく国際法上の国家責任の解除の方法として日本国内の補償立法を行うことも採り得る一施策であったといえる。また、軍人軍属関係の控訴人らの被った戦争被害に対しても、旧植民地日本人として独立後の韓国等の内情により補償政策、社会援護政策によって民族的日本人の場合とは異なる援護しか受けられないことにかんがみ、外交政策等として日本国内補償立法を行うことも採り得る一施策であったといえる。しかし、国家責任の解除の方法は多様であり、援護政策の拡大適用などして補償立法を行うか否かの判断は、国会の裁量に属する立法政策判断である。憲法上、国会議員につき一義的に立法の不作為義務違反があったとはいえない。

(6)ア 被控訴人に対し、軍人軍属関係の控訴人朴炳煥及び同鄭永並びに軍隊慰安婦関係の控訴人らは、安全配慮義務違反ないし不法行為に基づく損害賠償債権を取得した余地があり、控訴人朴七封ら9名が未払給与債権及び未払軍事郵便貯金債権を有していたことが認められる。これらの債権は、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定2条3にいう「財産、権利及び利益」に含まれるものであるから、昭和22年8月15日以降我が国に居住したことがある控訴人沈美子の債権を除き、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定2条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律1条により昭和40年6月22日において消滅したものである。
イ 控訴人沈美子が取得した余地がある損害賠償請求権の除斥期間の起算日は、日韓請求権協定の発効日及び措置法の施行日である昭和40年12月18日と認められるが、控訴人沈美子は、同日から除斥期間である20年を経過した後の平成4年4月13日に本訴を提起して損害賠償を求めたものであるから、同損害賠償請求権は、除斥期間が経過した時点で法律上当然に消滅した。

(三)以上によれば、控訴人らの本件請求は理由がないから、いずれも棄却する。

  東京高等裁判所第16民事部

   裁判長裁判官 鬼頭季郎  裁判官 納谷肇  裁判官 任介辰哉



── http://www.zephyr.dti.ne.jp/~kj8899 ──から


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