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南房総館山・なぎさの自然詩

南房総館山の自然や海での出来事を紹介しています。

ハマナデシコとシロチドリの卵

2024-07-29 20:45:37 | シロチドリ
ハマナデシコがようやく咲き始めました。
6月から毎朝、南房総市の海岸を生き物の調査の為に歩いているのですが、ハマナデシコの芽を見つけてから花の咲くのを心待ちにしていたのです。


ハマナデシコは岩場や崖の上に自生する海浜植物の一つです。
南房総では7月頃から明るい紫色の花を咲かせ、別名フジナデシコとも呼ばれています。
千葉県レッドリストではD要保護生物に指定されており、生息数が減少傾向にある海浜植物です。

草丈約50cm、一つの花の大きさは約1.5cm、葉は艶のある緑色をしています。
種子から育つ植物なので崖の上で花を咲かせているのは、どのようしてにその場所に定着する事が出来たのかと不思議に思います。
強い潮風で舞い上がり、崖の上に飛ばされたのでしょうか?
植物の移動は種子を遠くへ運ぶ事で可能になります。
それを種子散布と呼ぶそうで、その方法は大きく分けて重力散布、自動散布、風靡散布、風散布、水散布、動物散布の6種類だそうです。
海浜植物の場合は海流散布と潮風散布といった感じなのかもしれません。

そんなハマナデシコの咲く海岸を歩いていると、なんと卵が落ちていました。
よく見るとそれは卵の殻でウズラの卵ほどの大きさです。

実はその直前に毎日観察しているシロチドリの巣でヒナの孵化を確認していました。
抱卵していた場所に2羽のヒナが見えます。
棒の近くにある流木の影に隠れていて、望遠鏡で観察しているとヨロヨロと動いているのが見え、孵化直後の為まだ歩くことが出来ないようでした。
この巣は7/8に海岸の砂丘下で親鳥が抱卵しているのを見つけたものです。
その日から数えて21日目にヒナが孵化しました。
その巣から近い波打ち際で見つけた卵殻は、その親鳥が捨てに来たのだと思います。
卵の殻をそのまま巣の中に放置すると他の動物に狙われやすいのかもしれません。


同じ海岸にはもう一つシロチドリの巣があります。
この巣でもヒナが孵化したようで、メスの近くに2羽のヒナがいました。
それぞれ海浜植物の影に隠れるようにしてジッとしています。
この2羽のヒナは十分歩けるようで、親鳥から離れて自由に走り回り自分で餌を食べているようでした。

二つの巣で同時に孵化したのはとても嬉しい出来事です。
繁殖期に入ってから海岸の環境の変化等たくさんの困難がありました。
更に今年は猛暑の影響で海岸の砂浜は異常な熱さで、そんな中での抱卵を約3週間耐えてきたメス達の努力が報われたように思います。
ヒナが孵化しても他の動物に捕食される等の危険があります。
飛べるようになるには約3週間かかるので、それまでは何事も起こらず、無事に成長してほしいと願っています。






7月の海浜植物

2024-07-28 15:15:24 | 植物
夏は海浜植物が花を咲かせ、海岸では砂丘を覆う葉の緑色の中に様々な花の色が混ざり合い色彩豊かです。

紫色の花を咲かせたハマゴウ。
海岸の砂丘の奥の方に群生し、その強い根は海岸の砂を固定する役割があります。
その根が生きていれば再生可能で、繁殖力がとても強い植物ゆえに厄介者扱いされてしまうのです。
海岸では草刈り機などで刈り取られた無残な様子をよく見かけます。
しかし、その種子はマンケイシ(蔓荊子)と呼ばれ、漢方薬では風邪の症状に効き、頭痛、神経痛にも効果があるそうです。
海岸にも人にも大変有用な植物だと思うのですが、一般的にはその事があまりよく知られておらず残念です。
個人的には真夏に潮風が運ぶハマゴウの香りが大好きです。


オレンジ色の大きな花のスカシユリ。
海岸の崖や岩場で花を咲かせ、オレンジ色の目立つ花はとても美しいです。
人が登れないような急斜面の崖で咲く花を見ると、スカシユリの生命力の強さを感じます。
他の海浜植物が進出出来ないような厳しい環境を選ぶという知性ある植物だと思います。


小さなヒマワリのようなネコノシタ。
別名ハマグルマとも呼ばれ、葉を触るとザラザラして猫の舌に似ているのが由来だそうです。
砂丘の手前から這うようにして全体を覆っている植物です。
波打ち際から砂丘を見た時に緑色に見えるのは、ほとんどがネコノシタの葉といってよいくらい勢いがあります。


熟したハマボウフウの種子。
花期の長いハマボウフウは夏にも白い花を咲かせていますが、春頃に咲いていたものは一足先に種がこぼれ落ちそうです。
こぼれた種は来年またこの場所で芽吹き、砂丘全体に広がっていきます。


海辺に咲くハマユウ。
近づくと潮風にのって花の香りが漂ってきます。
一説によると人によって海岸に植えられたハマユウがあるそうです。
白い花の美しさとその香りが人に好まれたのかもしれません。
南房総市の太平洋側の海岸砂丘には大きな群落があるのですが、それが人為的なものだとしたら残念です。
その他の例として別の海岸ではガサニアが植えられていたりします。
以前海岸でピンク色のガーベラのような花が一輪咲いているのを見たことがあります。
おそらく園芸種の球根が川から流れ着き、偶然にも根付いたものだと思うのですが、人為による植物の増殖はとても危険に感じます。
その場所に適応した植物を駆逐してしまうことにも成りかねません。
人が海岸の自然環境に手を加えてしまったものは、元に戻すことが難しいと思うのです。
また、それとは逆に海岸に適応した海浜植物が増えれば、ハマゴウのように排除されてしまいます。
海岸へ流れ着いた一つの種子から長い時間をかけて定着した様々な植物が、種子から種子へと引き継がれた海浜植物の歴史が現在の海岸の姿です。
もっと海浜植物が重要視されるようになれば、海岸に暮らす生き物の種も増えて来て、その先には豊かな海へと繋がっていくかもしれないと思っています。