はまあるきの東屋

 ブログ、ホームページ、釣、畑、ハイキング、園芸、読書など趣味の多い壮年の精神科医師です。奇麗な写真をおみせします。

スクラップ・アンド・ビルト:芥川賞受賞作品

2016-06-04 21:00:23 | 読書


スクラップ・アンド・ビルト
羽田圭介著
文芸春秋
1200円+税
2015年
芥川賞受賞作品

主人公の田中健斗は28歳。
元、カーディーラー社員だったが、自主退職している。
仕事を探してはいるが、3流大学卒で、つぶしの効く資格はなにも持っていない。
祖父は87歳で、元農業を長崎でしていた。
祖父は口癖のように、「死にたい」という。
健斗は仕事をしないで、家に生活費の分担金も払わないかわりに、
祖父の世話をすることになっている。

健斗は祖父の「死にたい」という希望を、過剰介護「足し算の介護」をして、穏やかに、
遂げさせてあげようと決めた。

棲んでいる所、多摩グランドハイツは4階建て住宅の2階。
母、鈴江は祖母の5人の子供たち(男3人女2人)の上から2番目の長女にあたる。
祖父は子供たちの所(最初は長男のところ)を転転として、3年前に最終的に母の所に来た。

 この物語は老後の問題を、辛辣に、時にはユーモア、時には皮肉を持って沢山提起していて、大変面白かった。

 以下、印象に残った文章を抜書きして、紹介に替えます。

「早う迎えにきてほしか」
「もうじいちゃんなんて、早う寝たきり病院にでもやってしまえばよか」
「じいちゃんは邪魔じゃけん部屋に戻っちょこうかね」

「いちいち宣言しなくていいんだよ糞ジシィが」(母:祖父の長女)

「人間、骨折して身体を動かさなくなると、身体も頭もあっという間にダメになる。
筋肉も内臓も脳も神経も、すべて連動してるんだよ。骨折させないまでも、
過剰な足し算介護で動きを奪って、ぜんぶいっぺんに弱らせることだ」(介護職の友人の大輔)

「仕事にいくなら、いっそ殺していけ」(祖父)
「いやよ面倒」(母)
「あんたがやらんなら、自分で身ば投げる!」(祖父)
「どうすんのよ、そこの階段で転びでもする?痛いぞ!」(母)

「たった3年祖父と同居しただけでも今のような状況であるのだから
、祖父がこのさき5年も10年も生き続ければその間に母は祖父を絞殺しかねないし、
特養はどこも順番まちだ。特養以外の民間施設に入居させる金などない。」