*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
(花散里3).水鶏だに驚かさずはいかにして荒れたる宿に月を入れまし
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
この本は「教科書」「参考書」の類ではありません。
皆さんに「教える」のではなく、どちらかと言うと、皆さんと「一緒に考える」ことを企図して書かれた本です。
また、私の主観も随所に入っていますが、私はこの方面の専門家でもありません。
ですから、
<効率よく知識を仕入れる><勉強のトクになるかも>
などとは、間違っても思わないようにして下さい。
いわゆる「学習」「勉強」には、むしろマイナスに働くでしょう。
上記のことを十分ご了解の上で、それでもいい、という人だけ読んでみて下さい。
ただし、
教科書などに採用されている、標準的な解釈の路線に沿った訳例は、参考として必ず示してあり、
その場合、訳文の文頭には、「@」の記号が付けてあります。
*****
*****
*****
*****
時々「(注)参照」とありますが、それは末尾の(注)をご参照下さい。
ただし、結構長い(注)もあり、また脱線も多いので、最初は読み飛ばして、本文を読み終えたのちに、振り返って読む方がいいかもしれません。
なお、(注)の配列順序はバラバラなので、(注)を見るときは「検索」で飛んで下さい。
あちこちページを見返さなくてもいいように、ダブる内容でも、その場その場で、出来る限り繰り返しを厭わずに書きました。
その分、通して読むとクドくなっていますので、読んでいて見覚えのある内容だったら、斜め読みで進んで下さい。
電子ファイルだと、余りページ数を気にしなくて済むのがいいですね。
*****
*****
*****
*****
(花散里3).水鶏だに驚かさずはいかにして荒れたる宿に月を入れまし5.txt
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
要旨:
源氏は、京に幾多の愛人を残し、須磨に下向した。
紫上、花散里はじめ、愛人たちが源氏に生涯を捧げ、懐妊を待ちわびながら、それがかなわぬ一方で、
須磨下向の三年足らずの間に、源氏は現地妻の明石上を孕ませ、「后がね」の姫君と、さらに後見厚い大国播磨の受領の義父、という、栄達の礎石としては申し分ない<実弾>を、一石二鳥で手に入れた。
京に残された愛人たちの胸中は、想像に難くない。
夜離れがちで、子を残す望みが消えかかりつつある、その名も「花散る里」の歌について、
<血筋が途絶える>という観点から、和歌の解釈を試みた。
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
目次:
(花散里3).水鶏だに驚かさずはいかにして荒れたる宿に月を入れまし
(源氏130).おしなべて叩く水鶏に驚かばうはの空なる月もこそ入れ
メモ:
語彙、語法・文法、
連想詞の展開例など
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
では、始めましょう。
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
(花散里3).水鶏だに驚かさずはいかにして荒れたる宿に月を入れまし
「水鶏(くひな)」<クイナ><ヒクイナ>の鳴き声は、古来、<戸を叩く音>に例えられます。
「叩く」だけで、<水鶏が鳴く>の意味にもなります。
「おどろかす(驚かす)」サ行四段他動詞<愕かせる><眼を覚まさせる><夢からさます><気を引く><注意を促す><(思いがけないところに)訪問する、便りする>
「おどろく(驚く)」カ行四段自動詞<眼を覚ます><愕く>
「荒れたる宿」<荒廃した宿><人の訪れもなく庭も荒れた邸>
(花散里3)A.
せめて水鶏だけでも戸を叩いて(思いがけなく)訪れてくれなかったら、荒れてしまったこの宿にどうやって月を迎え入れることができるでしょう。
須磨下向から帰京して、久しぶりに源氏は花散里邸を訪れました。
「月」は、しばしば<貴人>の例えとして用いられます。
ここでは、「月」は<源氏>を指すようです。
@(花散里3)B.
せめて水鶏だけでも戸を叩いて(思いがけなく)訪れてくれなかったら、荒れてしまったこの宿にどうやって「月」<あなた:源氏>を迎え入れることができるでしょう。
*****
*****
*****
*****
「月」は、それだけで<月のもの><月経>という意味を持ちます。
「月水」とは<経血>のことです。
お産で<臨月>を迎えることを「月満つ」<月が満ちる>とも表現します。
「つきみつ(月満つ)」<臨月を迎える>
「みづ(水)」が「みつ(満つ)」を連想させるのも興味深いですね。
濁点を打つ習慣の無かった当時、これらはともに「みつ」と表記されました。
ちなみに、「みづ(水)」は「みつ(見つ)」<契った><共寝した>との掛詞としても常用されます。
日本古語の奥深さを感じさせる言葉ですね。
「月」は<女性の生理>を連想させます。
****(注88891):「月」「月経」「潮」<女性の生理>
を参照。
*****
*****
*****
*****
****(注88897):「女」「母」「海」「梅」参照
*****
*****
*****
*****
「つき(月)」は「つぎ(継ぎ)」「つぎ(次)」をも連想させます。
濁点を打つ習慣の無かった当時、これらはともに「つき」と表記されました。
「つぎ(継ぎ)」<跡継ぎ><世継ぎ><子孫>
「つぎ(次)」<次代>
としてみましょう。
「宿」は<子を宿す><子宮>をも連想させます。
「いか」は「いかいか」「いがいが」<赤子の泣き声の擬音語><おぎゃあおぎゃあ><産声>を連想させます。
「いか」を<おぎゃあ><赤子の泣き声>
としてみましょう。
「月」は、それだけで<月のもの><月経>という意味を持ちます。
「月水」とは<経血>のことです。
「水鶏(くひな)」の「水(みづ)」が「みつ(見つ)」を連想させることも、興味を引きます。
濁点を打つ習慣の無かった当時、これらはともに「みつ」と表記されました。
「みづ(水)」は「みつ(見つ)」<契った><共寝した>との掛詞としても常用されます。
「みづ(水)」が「みつ(満つ)」を連想させるのも興味深いですね。
お産で<臨月>を迎えることを「月満つ」<月が満ちる>とも表現します。
「つきみつ(月満つ)」<臨月を迎える>
「みづ(水)」「つきみづ(月水)」<月経>があっても、
「みつ(見つ)」<共寝した>「つきみつ(月満つ)」<臨月を迎える>ということが無ければ、
女性にとっては、何の意味もありません。
「水鶏が戸を叩く」は、<月水が訪れる><月経が来る>をも連想させます。
*****
*****
*****
*****
源氏の胸中の呟きが興味を引きます。
********************
(地の文).
とりどりに捨てがたき世かな。
かかるこそ、なかなか身も苦しけれ。
********************
「とりどり」<様々>
「世」<人間関係><男女関係>
@(地の文)A.
(どの女性も)様々で、捨て難い仲よ。
こんな風だから、却って私自身も苦しいのだ。
「とりどり」は「とり(鶏)」「とり(取り)」を連想させます。
「とり(鶏)」<鶏><「鶏」の字>
「とり(取り)」連用形転成名詞<取ること>
とり どり に 捨てがたき 世 かな。
鶏 とり
取り
(地の文)B.
(「水鶏」から)「鶏」の字を取ろうにも、取って捨てにくい関係だな。
(「水(みづ)」だけ残ったら「みつ(見つ)」「みつ(満つ)」になるが、中々そうも行かないよ)
こんな風だから、却って私自身も苦しいのだ。
これは、
「水鶏」から「鶏」の字を取り去って、残った「水(みづ)」から、
「みつ(見つ)」「みつ(満つ)」
を連想せよ、という紫式部のサインではないでしょうか。
*****
*****
*****
*****
「花散る里」という名は、興味を引きます。
******************************
「はかなの契りや」<はかない縁だ> (源氏物語「紅葉の賀」)
******************************
****(注737341)b参照:<はかない契り>
源氏が須磨に下向した三年足らずの間に、現地妻の明石上は子を身ごもりました。
しかも、産まれた姫君は、天皇に入内させ、源氏が天皇の外戚となるための、かけがえの無い<実弾>としての「后(きさい)がね」であり、
源氏にとって、とても大切な存在となりました。
また、既に親を亡くし、経済的には心許ない紫上や花散里に対して、
明石上の父親は、大国播磨の国司で、「播磨の塩」でたんまり蓄えた財産もあり、手厚い後見も折り紙付きです。
紫上の焦りや花散里の脱力感は、想像に難くありません。
「荒れたる宿」<荒廃した宿>は、
<人の訪れもなく荒れた宿><夫の訪れもなく衰えた子宮>
をも連想させます。
「今はあながちに近やかなる御ありさまももてなしきこえたまはざりけり。」(源氏、初音)
源氏と花散里は、夜離れた関係になっていました。
「夜離れ(よがれ)」とは、<妻への夫の「夜の訪れ」がなくなること>です。
***「あれ」****************
「あれ(彼)」遠称代名詞<あれ><あそこ><あの人><あの時><あの日><そこ><あなた>
「あれ(我、吾)」自称代名詞<我><私>
「ある(生る)」(上代語)ラ行下二段<(神や天皇など)神聖なものが現れる><生まれる>
「あれ(生れ)」連用形転成名詞<(神や天皇など)神聖なものが現れること><生まれること>
「ある(離る)」ラ行下二段<離れる><遠のく>
「ある(散る)」ラ行下二段<散る><散り散りになる>
「ある(荒る)」ラ行下二段<荒れる><激しくなる><荒む><荒廃する><調和が乱れる><興ざめする><しらける>
***********************
「離れ(あれ)」は「夜離れ(よがれ)」をも連想させます。
「あれたる宿(離れたる宿)」<夫の遠のいた宿><夜離れた妻の子宮>
「あれ」は「あれ(我、吾)」をも連想させます。
「あれ(我、吾)」自称代名詞<我><私>
「あれ(吾)たる宿」<私たる子宮><私の本質である子宮><私の存在意義である懐妊>
「つぎ(継ぎ)」<跡継ぎ><世継ぎ><子孫>
水鶏 驚かさずは
くひな だに おどろ かさず は いかにして / 荒れたる 宿に 月 を 入れ まし
くびな 荊 科さず あれたる つき
首無 かざす 離れたる つぎ
挿頭す 継ぎ
次
(花散里3)C.
「みづ(水)」の字を持つ「水鶏」が戸を叩いてくれてすら、私はもう驚かなくなってしまった。
(「みづ(水)」「つきみづ(月水)」<月経>があっても、
「みつ(見つ)」<共寝した>「つきみつ(月満つ)」<臨月を迎える>ということが無ければ、
「かひ(甲斐)」「かひ(卵)」が無いのだから。)
(そんな夜離れた関係なのに)、どうしたら、
「いか」<おぎゃあ><赤子の声>で目覚める(幸せな朝を迎える)ことが出来るのか?
一体どうしたら、
「あれたる宿(離れたる宿)」<夫の遠のいた宿><夜離れた妻のお腹>に、
「つぎ(継ぎ)」<世継ぎ><子孫>を宿し入れることが出来るのか。
*****
*****
*****
*****
直後のセリフの「空なながめそ」は興味を引きます。
***「引き歌」***************
(光源氏183).行きめぐりつゐにすむべき月影のしばし雲らむ空なながめそ
***********************
「空なながめそ」<空を眺めないで下さい>
「空」は「空し(むなし)」をも連想させます。
「空し(むなし)」<空しい><実質が無い><空っぽだ><中身が無い><中空だ><肉体だけあって魂が無い><死んでいる><命が無い><事実無根だ><根拠が無い><無益だ><あてどが無い><甲斐が無い><無駄である><無常である><はかない>
「空」「空なり」は、<上の空><気もそぞろ><空ろ>の意味があり、
また接頭辞「空(そら)」には、<虚偽>「そらごと」、<なんとなく感じる>「そら恐ろしい」の含意があります。
「ながめ(眺め)」には<もの思い>の意味もあります。
「空な眺めそ」は、「空な眺めぞ」をも連想させます。
「空な眺めぞ(ある)」<空しいもの思いだ>
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
(源氏130).おしなべて叩く水鶏に驚かばうはの空なる月もこそ入れ
「おしなべて(押し並べて)」<あまねく><何から何まで><全て><一様に><総じて><普通><並><ありきたり>
「うは(上)の空」<空の上の方><上空><天空><上の空><ぼんやりしていること><気持ちが定まらないこと><落ち着かないこと><根拠が無いこと><当てにならないこと><不確かなこと><軽率なこと><軽々しいこと>
「うは(上)の空の月」は、<気まぐれな浮気男>の例えのようです。
「もこそ」「もぞ」<懸念><~すると困る><~するといけないから><~しないように>
@(源氏130)A.
どの家の戸も一様に叩くという水鶏に驚いていたのでは、
「上の空の月」<気まぐれな浮気男>も入って来てしまいますよ。
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
ここで、源氏物語の世界から一旦離れて、現実の歴史に目を向けてみましょう。
*** 藤原種継殺害事件(785年) ************************
大伴継人は、奈良麻呂の乱で獄死した大伴古麻呂の息子です。
大伴継人は長岡京の造営工事を仕切る藤原種継(たねつぐ)を殺害しました。
そして、大伴継人は兄弟の大伴竹良とともに処刑されました。
奈良麻呂の乱で獄死した大伴古麻呂や佐伯全成で知られる「大伴氏」「佐伯氏」、特に大伴氏はこの事件で多数処罰を受けました。
のみならず、奈良の東大寺との関係が深かった早良親王も関与が疑われました。
早良親王は淡路島に流罪となりましたが、幽閉された乙訓寺では無実を訴え自ら食を断ったため、島に着く前に亡くなりました。
これは<無実を訴えた>ハンガーストライキというよりは、<毒殺を恐れて>何も食べられなかった、ということなのでしょう。
ちなみに、早良親王の叔父にあたる安積親王は17歳で病死(脚気)とされていますが、あまりに不自然な急死のため、藤原仲麻呂に毒殺されたという説が根強くあります。
また、井上廃太后(叔母)と他戸廃太子(いとこ)の母子は、幽閉先の邸内で、なんと同日に亡くなっているので、こちらは完全に<暗殺>でしょう。
桓武天皇は、安殿(あて)皇子(のちの平城天皇)を天皇とするために早良皇太子を犠牲にしたとも言われています。
その後、内裏では貴人の死や病が相次ぎ、また京では凶作、疫病が蔓延しました。洪水まであったそうです。
当時の人々はこれを早良親王の祟りと考えました。
その意味では、天武系列の持統天皇たちと同じく、当然の報いなのかもしれません。
のちに早良廃太子には崇道天皇の「し号」が追贈され、遺骨も大和に改葬されました。
******************************************
ちなみにこの藤原種継殺害事件の直前に、藤原種継は中納言の大伴家持を抜いて正三位となっていました。
そのためもあって、万葉歌人の大伴家持が首謀者だとも言われています。
しかし、偶然か否か、事件の一月前に家持は死亡しています。
まあ、「種継殺害事件」は、色々といわく付きの事件だったようです。
****(553327)参照
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*************************
「はかな(果無)の契りや」<はかない縁だ>、
とおぼし乱るること、、、(源氏物語「紅葉賀」)
*************************
「あなかしこや、あなかしこや」
<ああ畏れ多い、畏れ多い>
「形容詞・形容動詞の語幹」は、体言相当の働きをすることがあります。
***「形容詞・形容動詞の語幹」<体言相当>***************
成田杢之助編「標準文語文法」(京都書房)p.36
(1)体言止め<詠嘆>
あな、心憂(こころう)。虚言と思しめすか。(堤中納言物語)
あな、めづらか。いかなる御心ならむ。(蜻蛉日記)
(2)「語幹+の」<連体修飾>
あな、おもしろの筝(さう)の音や。(古今著聞集)
愚かの仰せ候ふや。(謡曲、土蜘蛛)
はかな(果無)の契りや、とおぼし乱るること、、、(源氏物語「紅葉賀」)
(3)「形容詞・形容動詞語幹+さ」「形容詞語幹+み」<名詞化>
めでたさ。悲しさ。重み。苦しみ。静かさ。
(4)「(体言+を)+形容詞語幹+み」<AがBなので>
(万葉集06/0919).若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る (雑歌 山部赤人)
山深み春とも知らぬ松の戸に絶え絶えかかる雪の玉水 (親古今集)
*************************************
形容詞の語幹には、体言するなど、様々な用法があります。
感動詞「あな」<ああ>をしばしば伴って、<ああ~だ><とても~だ>の強意表現にもなります。
また、「あな」を伴わずに形容詞の語幹が単独で用いられることもあります。
***********************
「をさな」と書い給へれば、、、(落窪物語)
後ろめた 風吹かずとも 埋み火のあたりの花は散りやまさらむ (赤染衛門集)
心細(こころぼそ) 誰か煙となるならむ 遥かに見ゆる野辺のともし火 (赤染衛門集)
(土佐日記35).おぼつかな 今日は子の日か 海人ならば うみまつ(海松)をだに 引かましものを
(紫上1).かこつべき ゆへを知らねば おぼつかな いかなる草の ゆかりなるらん
(薫1).おぼつかな 誰に問はまし いかにして はじめもはても 知らぬ我身ぞ
***********************
「かしこ」「あなかしこ」<ああ畏れ多い>
「くさ」「あなくさ」<ああ臭い>
*****
*****
*****
*****
藤原種継殺害事件の処分として、伴継人を始め、八人もが<斬首>されました。
「くひな(水鶏)」は「くびな(首無)」<ク活用形容詞語幹>
を連想させます。
濁点を打つ習慣の無かった当時、これらはともに「くひな」と表記されました。
桓武天皇は、藤原種継殺害事件で腹心の種継は失いましたが、これをきっかけに、平城京からの遷都反対派を一掃することが出来ました。
しかし、長岡京に移るも、早良親王の祟りか、桓武天皇の近親者や側近の死が相次ぎ、巨椋池が近いこともあり、短期間の内に二度の洪水(桂川)に襲われるなど、長岡京の状況は荒れていました。
「月の都」とは、<月にあると言う想像上の宮殿><都が美しいことを例えて言う美称>ですが、
これではとうてい「月の都」とは行かず、十年足らずで今度は平安京に遷都となりました。
****(772265)参照
*****
*****
*****
*****
井上皇后(廃后)と、その息子他戸親王(廃太子)は、百川らの誣告によって幽閉され、その一年半後の776年4月、なんと二人同日に亡くなります。
あまりの不自然さから、それは藤原氏側の暗殺であったと考えられています。
*** 井上廃后と他戸廃太子の祟り *************
怨みを抱いて亡くなった井上廃后は、蛇神(竜)に生まれ変わったと噂されました。(水鏡)
母子の死後から、白い虹が空にかかる天変があり、宮中に妖怪が現れるという事件が続発しました。
動揺した朝廷は、六百人の僧、百人の沙弥(年少の修行僧)を集め、大般若経の転読を行わせます。
疫病封じのための大祓(おおはらえ)も行われました。
それでも怨霊の祟りはおさまらず、井戸は枯れ、川は干上がります。(777年)
ちなみに竜や蛇は、しばしば水の神様として祀られます。
母子を死に追いやった藤原百川、光仁天皇、山部親王(後の桓武天皇)は、
<百余人の鎧武者に追いかけられる>
という同じ悪夢にうなされ続けました。
*******************************
井上皇后(廃后)を陥れて、息子の他戸親王(廃太子)ともども死に追いやった藤原百川は、のちに様々な悪夢にうなされることになります。
百川はある僧に帰依していました。
その僧が779年7月5日の夜、百川が亡き井上皇后を殺したかどで、<首をはねられる>という夢を見ました。
驚いたその僧は、翌朝慌てて百川邸を訪れます。
しかし、あいにくその朝は百川も夢見の悪さのため物忌みで自宅に籠もっていた日でした。
物忌みのため僧は百川に会うことが出来なかったのですが、なんとその日に百川は急死してしまいました。(続日本紀(797年))
百川も同じ夢を見ていたのでしょうか。
「つき(月)」は「つき(憑き)」を連想させます。
「つきもの(憑き物)」とは、<人にとり憑く霊>のことです。
「つく(憑く)」<とり憑く><憑依する>
「つき(憑き)」連用形転成名詞<とり憑くこと><憑依>
「月」は<僧侶の坊主頭>を連想させることも、興味を引きます。
*****
*****
*****
*****
「おどろく(驚く)」の「おどろ」という言葉は、興味を引きます。
「おどろ(荊、棘)」<イバラなど、棘のある木><イバラの繁る場所><髪が乱れている様>
「かす(科す)」サ行四段<科す>
「かざす(挿頭す)」
水鶏 驚かさずは 月
くひな だに おどろ かさず は いかにして 荒れたる 宿に つき を 入れ まし
くびな 荊 科さず あれたる 憑き
首無 かざす 離れたる つぎ
挿頭す 継ぎ
次
「おどろかす(驚かす)」サ行四段他動詞<愕かせる><眼を覚まさせる><夢からさます><気を引く><注意を促す><(思いがけないところに)訪問する、便りする>
「おどろく(驚く)」カ行四段自動詞<眼を覚ます><愕く><気がつく><目が覚める><驚く><ハッとする>
「おどろおどろし」<激しい><はなはだしい><恐ろしい>
の語源は、<激しい雷の音>だそうです。(荻野文子「マドンナ古文単語230 パワーアップ版」)
***「とが(咎)」「おどろ」「上より落つる」********************
(夕霧33).いつとかはおどろかすべき明けぬ夜の夢さめてとか言ひしひとこと
(夕霧)「上より落つる」
******************************************
「おどろ」<雷の音の擬音語><ゴロゴロ><雷鳴><道真公の天罰>
「かみなり(雷)」は「かみなり(神鳴り)」とも書きました。
雷鳴は<神の怒りの声>と考えられていました。
和歌の直後の「上より落つる」という夕霧のセリフは意味深です。
詳細は、上記和歌のファイルをご参照下さい。
*****
*****
*****
*****
直後の地の文にある、「うしろめたう」が興味を引きます。
「うしろめたし」は「後ろ目痛し」から来た形容詞です。
人間は、自分の後ろが見えないことから、分からない何かに対する不安を表す言葉です。
「うしろめたし」<心配だ><気がかりだ><不安だ><気が許せない><油断がならない><後ろ暗い><気が咎める><心疚しい>
*****
*****
*****
*****
井上廃后と他戸廃太子の母子を死に追いやった藤原百川、光仁天皇、山部親王(後の桓武天皇)は、
<百余人の鎧武者に追いかけられる>
という同じ悪夢にうなされ続けたそうです。
「つき(月)」は「つき(憑き)」を連想させます。
「つき(憑き)」「つきもの(憑き物)」<憑依霊>
「たたく(叩く)」は「ただ来(く)」をも連想させます。
「ただ来(く)」<ただただやって来る><百余人の鎧武者がどこまでもただただ追いかけてくる>
「うは(上)の空の」<上空を漂う(霊魂)><虚空をさ迷う(霊魂)>
としてみましょう。
「おどろかば(驚かば)」は「おどろ」「かは」を連想させます。
「おどろ」<雷鳴><天罰>
「かは」
<疑問><~であろうか>
<反語><~であろうか。いやない。>
「おどろかば(驚かば)」<驚けば><驚くと>
「おどろかは」<天罰か!?>(とおののく)
上記の連想イメージを重ねて、この歌を<鎮魂>の観点から、解釈してみましょう。
月
おしなべて 叩く 水鶏に 驚 かば / うはの空なる つきもこそ入れ
くひな おどろ かは 憑き
くびな
首無
(源氏130)B.<鎮魂>
藤原百川、光仁天皇、山部親王(桓武天皇)の、どの家の戸も全て叩くという、
(斬首した)首無し死体の怨霊に、
「おどろかは」<天罰か!?>と驚くと、
「上の空の憑き」<虚空をさ迷う憑依霊>も、
みな入って来てしまいますよ。
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
「あれたる(荒れたる)」の「あれ」も興味を引きます。
***「あれ」****************
「あれ(彼)」遠称代名詞<あれ><あそこ><あの人><あの時><あの日><そこ><あなた>
「あれ(我、吾)」自称代名詞<我><私>
「ある(生る)」(上代語)ラ行下二段<(神や天皇など)神聖なものが現れる><生まれる>
「あれ(生れ)」連用形転成名詞<(神や天皇など)神聖なものが現れること><生まれること>
「ある(離る)」ラ行下二段<離れる><遠のく>
「ある(散る)」ラ行下二段<散る><散り散りになる>
「ある(荒る)」ラ行下二段<荒れる><激しくなる><荒む><荒廃する><調和が乱れる><興ざめする><しらける>
***********************
「ある(荒る)」<荒れる>は、<井上廃后の怨霊が暴れる>
「ある(離る)」<離れる>は、<(世から)遠のく><百川が物忌みで自宅にこもる>
をも連想させます。
「月」が<僧侶の坊主頭>を連想させることも、興味を引きます。
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
源氏は、京に幾多の愛人を残し、須磨に下向しました。
そして、須磨での三年足らずの間に、源氏は持ち前の強運で、「后がね」の姫君と、さらに後見厚い大国播磨の受領の義父、という、栄達の礎石としては申し分ない<実弾>を、一石二鳥で手に入れました。
親を亡くし、手厚い後見など望むべくも無い紫上、花散里はじめ、その他の愛人たちは、
源氏に生涯を捧げ、懐妊を待ちわびましたが、その願いが叶うことは、ついにありませんでした。
後見の期待できないところに子が出来たって、源氏にとっては何の得にもならないからです。
***「ちぎり」「みのり」***********
(紫上22).絶えぬべきみのりながらぞ頼まるる世々にと結ぶ中の契りを
(花散里5).結びおくちぎりは絶えじおほかたの残りすくなきみのりなりとも
(光源氏175).唐衣又から衣からころもかへすかへすもから衣なる
************************
詳細は、上記和歌のファイルをご参照下さい。
源氏物語は「ちぎり」の物語です。
しかし、それは、<男女の色恋>の物語、<恋バナ>という意味ではありません。
源氏物語では、
「ちぎり(契り)」<絆(血筋、血縁)を結ぶこと>というコトバが、
「ちぎり(血切り)」<絆(血筋、血縁)を断ち切ること>
という、<正反対の意味>を背負わされて、暗号に組み込まれています。
「皇統断絶」とは、<天皇家の血筋が途切れる>ということであり、
「他氏排斥」とは、藤原氏が<他氏と天皇家との血縁を遮断する>ということです。
そして、「皇統断絶」と「他氏排斥」という二つの「血切り」が、源氏物語の<鎮魂>の二大テーマとなっています。
****************************
(光源氏85).別れしに悲しきことは尽きにしを またぞこのよのうさはまされる
(夕霧21).ことならばならしの枝にならさなむ葉守の神のゆるしありきと
(落ち葉の宮1).かしは木に葉守の神はまさずとも人ならすべき宿のこずゑか
****************************
「皇統断絶」については、これらの歌のファイルをご参照下さい。
***************************
(紫上22).絶えぬべきみのりながらぞ頼まるる世々にと結ぶ中の契りを
(花散里5).結びおくちぎりは絶えじおほかたの残りすくなきみのりなりとも
(薫57).法の師と尋ぬる道をしるべにて思はぬ山にふみまどふかな
(薫5 大島本).手にかくるものにしあらば藤の花 松よりまさる色を見ましや
***************************
「他氏排斥」については、これらの歌のファイルをご参照下さい。
*****
*****
*****
*****
実子を産めなかった花散里の血脈は、そこで途絶えます。
(花散里3)は、懐妊を待ち望みながら、出産適齢期を逃した女性の悲哀を連想させます。
その「ちぎり(血切り)」の連想のクサビを、紫式部は読者の心にまず打ち込んで、
そして、そのクサビをテコの支点として、
(源氏130)の和歌によって、井上廃后と他戸廃太子の「血切り」を、
グイと地表に持ち上げ、我々の目に曝したかったのだろう、と私は思います。
その<告発>は、母子の怨霊にとって、何よりの<鎮魂>となる、と紫式部は考えたのでしょう。
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
映画「インセプション」の夢ではありませんが、「源氏物語」の構造は、<三階建て>です。
しかし、それは「一階、二階、三階」という<地上階>ではありません。
「一階、地下一階、地下二階」という、<地下三階建て>の構造です。
竹が、地上に花を公然と咲き誇らせるのではなく、地下の闇に、人知れず根を張り巡らせ、竹の子を生やすように、
地下深く掘り進む<三階建て>です。
紫式部は、<地下一階の暗号>によって、源氏物語の登場人物の心の闇を照らし出し、
ひいては、当時の全ての女性たちの痛みを代弁しました。
でも、紫式部が伝えようとした真意は、それだけではありません。
そのような、表沙汰に出来ない<隠し子>や<石女(うまずめ)>といった、源氏物語の<地下一階のホンネ>の、さらに下には、
<皇統断絶>や、他紙排斥を巡る<藤原氏の悪行>、という、どす黒い「歴史の闇」が、<地下二階のホンネ><ホンネのホンネ>として秘められています。
「皇統断絶」とは、<天皇家の血筋が途絶えること>であり、
「他氏排斥」とは、藤原氏が<天皇家と他氏との血縁を断ち切ること>です。
それはまさしく、「ちぎり(契り)」「ちぎり(血切り)」の世界です。
紫式部が「源氏物語」を書いた真の創作意図も、
その初版製本が、全冊道長に持ち去られた本当の理由も、
全ては、その<地下二階のホンネ><ホンネのさらに裏のホンネ>「ちぎり(血切り)」に関わっています。
紫式部は、そうした<地下二階の暗号>によって、菅原道真の汚名を雪ぎ、紀静子の死の真相を告発し、また、皇統断絶された仲哀天皇を鎮魂しました。
そして、道長の直近、宮中の最奥部から、あろうことか「藤原氏の悪行」と「天皇家の万世一系というウソッパチ」を、ともに攻撃し続けました。
要するに、平安貴族社会に対して、片っ端からケンカを売って、全面戦争を仕掛けていたわけです。
光源氏は、藤壺宮と密通し、その不義の子が皇位に就くことによって、桐壺院と冷泉帝の間の皇統を<断絶>しました。
また、娘の明石姫君を中宮として入内させ、ライバルを抑えて朝廷に君臨し、最終的には準太政天皇の称号まで獲得しました。
そこには、<本人の政務能力ではなく、姻戚関係で権力の帰趨が決まる>という「摂関政治の愚」まで含めて、宮中の「闇」が幾つも象徴されています。
ここで試みたような和歌の解釈内容そのものが正しいか否かは別として、
上記のような<地下二階のホンネ>を探索しない限り、「源氏物語」を真に読んだことにはならない、と私は思います。
*****
*****
*****
*****
「源氏物語」の、地上一階で我々が直接目にする表向きのタテマエを、「てこ」の<力点>になぞらえれば、
地下一階のホンネは、<支点>に当るのでしょう。
我々の視線を反転させるために、地中深くに打ち込まれた、その支点のクサビを足掛かりとして、
支点の向こう側の<作用点>、すなわち、さらに奥深く埋められた地下二階の<ホンネのホンネ><歴史の闇>を、グイっと持ち上げ、地上にさらけ出す。
それが、紫式部の真の創作意図だった、と私は思います。
源氏物語の修辞が、そのような二重三重の重層的な構造を持つ理由、それは、もちろん、
<命に関わるので、防弾チョッキを一重にするわけにはいかない>
ということに他なりません。
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
メモ:
語彙、語法・文法、
連想詞の展開例など
あくまでこれは「タタキ台」として、試みに私の主観を提示したものに過ぎません。
連想に幅を持たせてあるので、自分の感覚に合わない、と感じたら、その連鎖は削って下さい。
逆に、足りないと感じたら、好きな言葉を継ぎ足していって下さい。
そして、自分の「連想詞」のネットワークをどんどん構築していって下さい。
詳細は「連想詞について」をご参照下さい。
*****
*****
*****
*****
「水鶏(くひな)」<クイナ><ヒクイナ><戸を叩く音>
「叩く」<水鶏が鳴く>
「おどろかす(驚かす)」サ行四段他動詞<愕かせる><眼を覚まさせる><夢からさます><気を引く><注意を促す><(思いがけないところに)訪問する、便りする>
「おどろく(驚く)」カ行四段自動詞<眼を覚ます><愕く>
「月」<貴人>の例え<源氏>
「月」<月のもの><月経>
「月水」<経血>
「つきみつ(月満つ)」<月が満ちる><臨月を迎える>
「みづ(水)」「みつ(満つ)」「みつ(見つ)」「みつ」
「みつ(見つ)」<契った><共寝した>
「月」<女性の生理>
「月」「月経」「潮」<女性の生理>
「大潮」<満月(十五夜)><新月(太陰暦の月初≒月末)>
「潮汐(ちょうせき)」<潮の満ち干き>
「月」「潮」「月経」「初潮」
「月水(つきみづ)」<経血>
「月経」「排卵」
「経血」「卵」
「月」「卵」<丸くて白い>
「つわり」<カキ><大潮に産卵>
「つき(月)」「つぎ(継ぎ)」「つぎ(次)」「つき」
「つぎ(継ぎ)」<跡継ぎ><世継ぎ><子孫>
「つぎ(次)」<次代>
「宿」<子を宿す><子宮>
「いか(如何)」
「いか」「いかいか」「いがいが」<赤子の泣き声の擬音語><おぎゃあおぎゃあ><産声>
「いか」<おぎゃあ><赤子の泣き声>
「水鶏(くひな)」
「水(みづ)」「みつ(見つ)」「みつ」
「みづ(水)」「つきみづ(月水)」<月経>があっても、
「みつ(見つ)」<共寝した>「つきみつ(月満つ)」<臨月を迎える>ということが無ければ、
女性にとっては、何の意味もありません。
「水鶏が戸を叩く」<月水が訪れる><月経が来る>
「とりどり」<様々>
「世」<人間関係><男女関係>
「とりどり」「とり(鶏)」「とり(取り)」
「とり(鶏)」<鶏><「鶏」の字>
「とり(取り)」連用形転成名詞<取ること>
******************************
「はかなの契りや」<はかない縁だ> (源氏物語「紅葉の賀」)
******************************
*** <はかない契り> *******************
<はかない契り>「一夜の契り」「気まぐれな、かりそめの逢瀬」
「はかなし」「果無し」<効果が無い><結果が得られない>
「はか」<果実の「果」>
<はかない契り><何度夜をともにしようが、一生添い遂げようが、子が出来ない>
***「夜離れ(よがれ)」********
今はあながちに近やかなる御ありさまももてなしきこえたまはざりけり。 (源氏物語「初音」)
********************
「夜離れ(よがれ)」<夫から妻への「夜の訪れ」がなくなること>
「里子(さとこ)」<養子>
「里親(さとおや)」<養父母>
「花散里」<花が散る里><花が散っても種が無く、里子しかいない><花が散った里親>
「はかなくなる」「いふかひ(言ふ甲斐)なくなる」<死ぬ>の隠語
「はかなし」「墓無し」
「かひ(甲斐)」「かひ(卵)」
「かひ(卵)」<卵><受精卵>
「荒れたる宿」<荒廃した宿><人の訪れもなく荒れた宿><夫の訪れもなく衰えた子宮>
「離れ(あれ)」「夜離れ(よがれ)」
「あれたる宿(離れたる宿)」<夫の遠のいた宿><夜離れた妻の子宮>
「あれ」
「あれ(我、吾)」自称代名詞<我><私>
「あれ(吾)たる宿」<私たる子宮><私の本質である子宮><私の存在意義である懐妊>
「つぎ(継ぎ)」<跡継ぎ><世継ぎ><子孫>
***「引き歌」***************
(光源氏183).行きめぐりつゐにすむべき月影のしばし雲らむ空なながめそ
***********************
「空なながめそ」<空を眺めないで下さい>
「空」
「空し(むなし)」<空しい><実質が無い><空っぽだ><中身が無い><中空だ><肉体だけあって魂が無い><死んでいる><命が無い><事実無根だ><根拠が無い><無益だ><あてどが無い><甲斐が無い><無駄である><無常である><はかない>
「空」「空なり」<上の空><気もそぞろ><空ろ>
「空(そら)」接頭辞<虚偽>「そらごと」、<なんとなく感じる>「そら恐ろしい」
「ながめ(眺め)」<もの思い>
「空な眺めそ」「空な眺めぞ」
「空な眺めぞ(ある)」<空しいもの思いだ>
*****
*****
*****
*****
「つくづくし」<土筆(ツクシ)>
「つくづくし」「つぐつぐし」「つくつくし」
「つぐ(継ぐ)」<藤原種継(たねつぐ)>
「つぐ(継ぐ)」<大伴継人(つぐひと)>
「し(死)」
「つぐつぐし(継ぐ継ぐ死)」<相次ぐ死><藤原種継に引き続く大伴継人の死><藤原種継殺害事件>
「つみ(摘み)」「つみ(罪)」<罪><罰>
「春」「春宮(とうぐう)」<皇太子><次期天皇筆頭皇子>
「しかば」「しかばね(屍)」「かばね(姓)」
「おどろ(荊、棘)」<イバラなど、棘のある木><イバラの繁る場所><髪が乱れている様>
「かす(科す)」サ行四段<科す>
「かざす(挿頭す)」
「おどろかす(驚かす)」サ行四段他動詞<愕かせる><眼を覚まさせる><夢からさます><気を引く><注意を促す><(思いがけないところに)訪問する、便りする>
「おどろく(驚く)」カ行四段自動詞<眼を覚ます><愕く>
「月の都」<月にあると言う想像上の宮殿><都が美しいことを例えて言う美称>
「かしこ」「あなかしこ」<ああ畏れ多い>
「くさ」「あなくさ」<ああ臭い>
「くひな(水鶏)」
「くびな(首無)」<ク活用形容詞語幹>
「くひな」
「荒れたる宿」<荒れた宿><長岡京>
「つぎ(継)」<藤原種継(たねつぐ)>
「つぎ(継)」<大伴継人(つぐひと)>
「ゆふづくよ(夕月夜)」
「月」「つく」
*******************
ゆふづくよ(夕月夜)のをかしきほどに出だし立てさせたまひて、やがて眺めおはします。(源氏物語「桐壺」帖)
*******************
「つく(月)」(上代東国方言)<月>
********************
(万葉集14/3565).かの子ろと寝ずやなりなむはだすすき宇良野の山に月(つく)片寄るも (東歌 相聞)
********************
「おどろかす(驚かす)」サ行四段他動詞<愕かせる><眼を覚まさせる><夢からさます><気を引く><注意を促す><(思いがけないところに)訪問する、便りする>
「おどろく(驚く)」カ行四段自動詞<眼を覚ます><愕く><気がつく><目が覚める><驚く><ハッとする>
「おどろおどろし」<激しい><はなはだしい><恐ろしい>
の語源は、<激しい雷の音>だそうです。(荻野文子「マドンナ古文単語230 パワーアップ版」)
***「とが(咎)」「おどろ」「上より落つる」********************
(夕霧33).いつとかはおどろかすべき明けぬ夜の夢さめてとか言ひしひとこと
(夕霧)「上より落つる」
******************************************
「おどろ」<雷の音の擬音語><ゴロゴロ><道真公の天罰>
「かみなり(雷)」「かみなり(神鳴り)」<雷鳴><神の怒りの声>
「上より落つる」<上から落ちる(雷)><天罰>
「つき(月)」「つき(憑き)」
「つきもの(憑き物)」<人にとり憑く霊><憑依霊>
「つく(憑く)」<とり憑く><憑依する>
「つき(憑き)」連用形転成名詞<とり憑くこと><憑依>
「月」<僧侶の坊主頭>
***「あれ」****************
「あれ(彼)」遠称代名詞<あれ><あそこ><あの人><あの時><あの日><そこ><あなた>
「あれ(我、吾)」自称代名詞<我><私>
「ある(生る)」(上代語)ラ行下二段<(神や天皇など)神聖なものが現れる><生まれる>
「あれ(生れ)」連用形転成名詞<(神や天皇など)神聖なものが現れること><生まれること>
「ある(離る)」ラ行下二段<離れる><遠のく>
「ある(散る)」ラ行下二段<散る><散り散りになる>
「ある(荒る)」ラ行下二段<荒れる><激しくなる><荒む><荒廃する><調和が乱れる><興ざめする><しらける>
***********************
「ある(荒る)」<荒れる><井上廃后の怨霊が暴れる>
「ある(離る)」<離れる><(世から)遠のく><百川が物忌みで自宅にこもる>
「おしなべて(押し並べて)」<あまねく><何から何まで><全て><一様に><総じて><普通><並><ありきたり>
「うは(上)の空」<空の上の方><上空><天空><上の空><ぼんやりしていること><気持ちが定まらないこと><落ち着かないこと><根拠が無いこと><当てにならないこと><不確かなこと><軽率なこと><軽々しいこと>
「うは(上)の空の月」<気まぐれな浮気男>
「もこそ」「もぞ」<懸念><~すると困る><~するといけないから><~しないように>
「うしろめたし」「後ろ目痛し」
「うしろめたし」<心配だ><気がかりだ><不安だ><気が許せない><油断がならない><後ろ暗い><気が咎める><心疚しい>
「つき(月)」「つき(憑き)」「つきもの(憑き物)」<憑依霊>
「たたく(叩く)」「ただ来(く)」
「ただ来(く)」<ただただやって来る><百余人の鎧武者がどこまでもただただ追いかけてくる>
「うは(上)の空の」<上空を漂う(霊魂)><虚空をさ迷う(霊魂)>
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
ここまで。
以下、(注)
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
(553327)
家持の遺体の埋葬は許されませんでした。
それは、遺体を放置したり水に流したりする、ということです。(井沢元彦「逆説の日本史3」)
***「中納言」「大伴家持」「骸」*******************
(中の君10).この春はたれにか見せむ なき人のかたみにつめる峠の早蕨
「さわらび(早蕨)」は<さわら(早良)親王>を連想させます。
(直前の地の文).
「中納言殿の、骸をだにとどめて見たてまつるものならましかばと、朝夕に恋ひきこえたまふめるに、同じくは、見えたてまつりたまふ御宿世ならざりけむよ」
と、見たてまつる人びとは口惜しがる。
************************************
詳細は、上記和歌のファイルをご参照下さい。
淡路島に着く前に亡くなった早良親王も、遺体を京に戻すことは許されませんでした。
「さわらび(早蕨)」の帖の直前の地の文を見てみましょう。
***「わらび(蕨)」「つくづくし」*********************************
(直前の地の文).
蕨、つくづくし、をかしき籠に入れて、
(宇治のアジャリ1).君にとてあまたの春をつみしかば常を忘れぬ初蕨なり
「つくづくし」<土筆(ツクシ)>
この事件では、被害者の藤原種継も、加害者とされる大伴継人も、ともに死を迎えました。
「つくづくし」を「つぐつぐし」
としてみましょう。
濁点を打つ習慣の無かった当時、これらはともに「つくつくし」と表記されました。
「つぐ(継ぐ)」<藤原種継(たねつぐ)>
「つぐ(継ぐ)」<大伴継人(つぐひと)>
「し(死)」
「つぐつぐし(継ぐ継ぐ死)」<相次ぐ死><藤原種継に引き続く大伴継人の死><藤原種継殺害事件>
「つみ(摘み)」は「つみ(罪)」
を連想させます。
ちなみに、古語では、「つみ(罪)」には<罪>の他、<罰>の意味もあります。
「春」は「春宮(とうぐう)」<皇太子><次期天皇筆頭皇子>
を連想させます。
大伴家持は早良親王の春宮大夫も兼任していました。
「しかば」は「しかばね(屍)」
をも連想させます。
「かばね(姓)」
**********************************************
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
(772265)
「荒れたる宿」<荒れた宿><長岡京>
「つぎ(継)」<藤原種継(たねつぐ)>
「つぎ(継)」<大伴継人(つぐひと)>
「ゆふづくよ(夕月夜)」などのように、「月」の字は「つく」と読む場合もあることは、興味を引きます。
*******************
ゆふづくよ(夕月夜)のをかしきほどに出だし立てさせたまひて、やがて眺めおはします。(源氏物語「桐壺」帖)
*******************
「つく(月)」(上代東国方言)<月>
********************
(万葉集14/3565).かの子ろと寝ずやなりなむはだすすき宇良野の山に月(つく)片寄るも (東歌 相聞)
********************
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****
*****