(紫上19).住の江の松に夜ふかくおく霜は神のかけたる木綿鬘かも (2) から続く。
****参照:(紫上19).住の江の松に夜ふかくおく霜は神のかけたる木綿鬘かも (2)
(紫上19).住の江の松に夜ふかくおく霜は神のかけたる木綿鬘かも (3)
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(紫上19).住の江の松に夜ふかくおく霜は神のかけたる木綿鬘かも23C15rr(3).txt
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ところで、
「神代」と言えば、下記の歌が思い出されます。
***「二条の后」<藤原高子>*************
詞書:
「二条の后」の春宮のみやす所と申しける時に、御屏風に龍田川にもみぢながれたるかたをかけりけるを題にてよめる。
(古今集294).ちはやぶる神代も聞かず竜田川 唐紅に水くくるとは (秋下、在原業平)
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ここで、この一幕の冒頭の地の文を見てみましょう。
***「竹の節は松の緑に見えまがひ」「紅葉の散る」*******
山藍に摺れる<竹の節は松の緑に見えまがひ>、かざしの花のいろいろは秋の草に異なるけぢめ分かれで何ごとにも目のみ紛ひいろふ。
求子(もとめご)はつる末に、若やかなる上達部は肩ぬぎておりたまふ。
にほひもなく黒きうへの絹に、蘇芳襲の、海老染の袖をにはかにひき綻ばしたるに、紅深きアコメの袂の、うちしぐれたるけしきばかり濡れたる、松原をば忘れて、<紅葉の散る>に思ひわたさる。見るかひ多かる姿どもに、いと白く枯れたる荻を高やかにかざして、ただ一かへり舞ひて入りぬるは、いとおもしろく飽かずぞありける。
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「唐紅」<紅葉の色>は<鮮血の色><天皇家の純血>を、
「水」は「真清水」<増し水><割り水>
を連想させます。
詳細は下記の和歌のファイルをご参照下さい。
<伊勢物語><在原業平><藤原高子><清和天皇><皇統断絶>
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「唐紅」<紅葉の色>は<鮮血の色><天皇家の純血>
「水」「真清水」<増し水><割り水>
(古今集294).ちはやぶる神代も聞かず竜田川 唐紅に水くくるとは (秋下、在原業平)
(古今集293).もみぢ葉のながれてとまるみなとには紅深き波やたつらん (秋下、素性法師)
(夕霧17).なれこそは岩もるあるじ見し人のゆくゑは知るや宿の真清水
(雲居雁4).なき人のかげだに見えずつれなくて心をやれるいさらゐの水
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(古今集294).ちはやぶる神代も聞かず竜田川 唐紅に水くくるとは (秋下、在原業平)
@(伊勢物語)A.
(人の代はもちろん)、神代の昔の話としても聞いたことがない。
竜田川が、(流れる紅葉で)水を真紅に「くくり染め」で染めているとは。
(伊勢物語)C.<鎮魂>
「ちはやぶる(血は破る)」<天皇家の血統が敗れる><天皇家の純血が壊れる>だって?
神代の昔から、そんな話<不義>は聞いたこともない。
(神=天皇家の言うことも全く聞かず)、
(清和天皇から陽成天皇に繋がる血筋を)断ち切った「たか(高)」<高子><二条后>は、
「唐紅」<鮮紅色><血の色><天皇家の純血の血統>に、
「水」<在原業平の血><薄まった天皇家の血統>を「括る」<束ねる>とは。
(古今集293).もみぢ葉のながれてとまるみなとには紅深き波やたつらん (素性法師)
@(古今集293)A.
紅葉葉の流れ集まって溜まっている場所には、深い紅色の波が立っているのだろうか。
(古今集293)B.<鎮魂>
「紅葉葉」<紅色><血の色><天皇家の純血の血統>が流れずに止まってしまった所には、
「紅深き波」<天皇家の血><本来の継嗣>が次々と立ち現れるのだろうか。(いや、そうではないようだ。)
(<本来の皇統>を断ち切る「らん(卵)」<托卵><陽成天皇>が立ちはだかり、
悲しい「紅深き涙」<血の涙><皇統断絶の悲劇>が流れている。)
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(地の文).
求子(もとめご)はつる末に、、、
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「求子(もとめご)」<東遊の歌>
「東遊」「東舞」<東国の民謡をもとにした舞楽>
「はつ(果つ)」タ行下二段動詞<終わる><死ぬ>
@(地の文)A.
「求子」<東遊の歌>の舞踊が終わると、、、
「はつる(果つる)」タ行下二段連体形の「つる」は「つる(蔓)」をも連想させます。
「つる(蔓)」<草木のつる><つる植物>
「蔓(つる)」は「かづら(蔓)」とも読みます。
「かづら(蔓)」は、「かづら(葛)」を連想させます。
「かづら(葛)」<草木の「つる」><ツタ><つる植物の総称>
前述のように、
「葛」という字には、「かづら」「かつ」「かど」「つら」「くず」「ふぢ」など、数多くの読み方があります。
例えば、第51代平城天皇の皇子、阿保親王を産んだのは、葛井藤子(ふぢゐのふぢこ)です。
どんだけ藤が好きなんだよ!
すみません。
ついに我慢できずツッコんでしまいましたが、まあそれは置いといて、
「蔓(つる)」は「かづら(蔓)」「かづら(葛)」を通じて、「葛(ふぢ)」「ふぢ(藤)」をも連想させます。
「葛(ふぢ)」<葛井>
「藤(ふぢ)」<藤子>
「葛井藤子(ふぢゐのふぢこ)」<平城天皇の妃><阿保親王の母親><在原業平の祖母>
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「伊勢物語」きってのラブロマンス、といえば、
在原業平と藤原高子の<禁断の恋>の物語です。
****参照:(注774431):「伊勢物語」<禁断の恋>「在原業平」「藤原高子」<駆け落ち>
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「末」<末端><末裔><子孫>
「蔓(つる)」は「かづら(蔓)」「かづら(葛)」を通じて、「葛(ふぢ)」「ふぢ(藤)」をも連想させます。
「葛(ふぢ)」<葛井>
「藤(ふぢ)」<藤子>
「葛井藤子(ふぢゐのふぢこ)」<平城天皇の妃><阿保親王の母親><在原業平の祖母>
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(地の文).
求子(もとめご)はつる末に、、、
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「求子(もとめご)」を
<子を求める><求めた子><陽成天皇>
としてみましょう。
求子 果つる
もとめご は つる 末 に、、、
蔓
葛
藤
(地の文)B.<鎮魂>
「求子」<求めた子><陽成天皇>
求めた子は「葛井藤子(ふぢゐのふぢこ)」<阿保親王の母親><在原業平の祖母>の「末」<子孫>に、、、
(<在原業平の子になってしまった!)
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源氏物語で「葛(くず)」は三回出てきます。その最初がこの「若菜下」帖の、正にこの唱和の場面の冒頭に当たります。
そう言えば、「わかな(若菜)」は「わがな(我が名)」を連想させましたね。
それは、「玉鬘」<かづら(鬘)の美称>という「かづら(葛)」<つる植物>を連想させる通り名を持ち、
源氏物語中、唯ひとり「藤原一族」の出であることが明示されていた「藤原瑠璃」君の歌でした。
詳細は下記の和歌のファイルをご参照下さい。
***「わかな(若菜)」「わがな(我が名)」「玉鬘」「かづら(葛)」「藤原瑠璃」******
(玉鬘20).若菜さす野辺の小松をひきつれて もとの岩根をいのるけふかな
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直前の地の文:(「若菜下」住吉の願ほどき)
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(地の文).
十月中の十日なれば、神の斎垣にはふ葛も色変りて、、、、
@(地の文)A.
十月の二十日なので、神の斎垣に這う葛も色が変って、、、
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「神の斎垣(いがき)」<神の聖域><神社の境内>は、以下の引き歌から来ています。
***「ちはやぶる」「紅葉」******************
(古今集262).
(詞書):神のやしろのあたりをまかりける時に、いがきのうちのもみぢをみてよめる。
(古今集262).
ちはやぶる神のいがきにはふ葛も あきにはあへずもみぢしにけり (紀貫之)
********************************
「ちはやぶる」の枕詞と、「紅葉」が興味を引きます。
しかも詠み手は、他ならぬ「紀氏」の紀貫之です。
***「二条の后」<藤原高子>*************
詞書:
「二条の后」の春宮のみやす所と申しける時に、御屏風に龍田川にもみぢながれたるかたをかけりけるを題にてよめる。
(古今集294).ちはやぶる神代も聞かず竜田川 唐紅に水くくるとは (秋下、在原業平)
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地の文の「十月中の十日」は、「十月十日(とつきとおか)」を連想させます。
それは、<懐妊期間>の別称でもあります。
「神の斎垣にはふ葛」は<天皇家の後宮に這い延びる藤原氏>のイメージに重なります。
これらの連想イメージを合わせて、地の文を解釈してみましょう。
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(地の文).
十月中の十日なれば、神の斎垣にはふ葛も色変りて、、、
(地の文)B.<鎮魂>
懐妊期間が過ぎても(出産がないので)、天皇家の後宮に這い延びる藤原氏(葛井藤子)も顔色が変わって、、、
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出産予定日が来ても、なかなか子が産まれないことに、高子や、それを取り巻く藤原氏一族の面々は、ヒヤヒヤしていたのかも知れません。
もっとも、どの道恋多き女、高子は、業平亡き後、五十過ぎてからも幽仙や善祐という僧侶たちとの情事がバレて、廃后になってしまったわけですが。。。
ちなみに坊主の善祐は伊豆に流刑となりました。高子さんは結構人騒がせな女性だったようです。
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さて、ここで問題です。
日本のパトカーに無いものは何でしょう?
正解は「グレーゾーン」です。
暴徒鎮圧用の「ショットガン」(riot shotgun)ではありません。
パトカーは「グレーゾーン」が無く、白黒のツートンカラーのコントラストが明瞭ですね。
ツートンカラーと言えば、パトカーやパンダだけでなく、「葛」もそうなのです。
***「葛」(くず)<コントラスト> *******
(参考:「ライジング古文」p.243)
(古今集823).秋風の吹き裏返す葛の葉の うらみてもなほ恨めしきかな (平貞文)
「裏見て」と「恨みて」が掛詞となり、<いくら恨んでも恨み足りない>という心情を詠っています。
「(葉の)裏」は、しばしば<手のひらを反すこと><心変わり><裏切り>の例えとしても用いられます。
とりわけ葛の葉は、表の緑色と裏の白色の<コントラスト>が明瞭なので、この比喩で多用されます。
ちなみに、「うら」には、<裏>のほか、
表には明瞭にみえない「うら(心)」<心>、
また、「うら(末)」<枝葉><先っぽ>という意味があります。
ちなみに、
「あき(秋)」と「あき(飽き)」も掛詞として常用されます。
*************************
葛の葉は、表の緑色と裏の白色のコントラストが明瞭なので、風に揺られて裏返る様が、<心変わり><裏切り>の例えとして多用されます。
詳細は下記の和歌のファイルをご参照下さい。
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(中宮大夫1).見し人もなき山里の岩垣に心ながくも這へる葛(くず)かな
(衛門督1).いづこより秋はゆきけむ山里の紅葉のかげは過ぎうきものを
********************
上記和歌の詠み手が「中宮大夫」<中宮に仕える高官>であることも、興味を引きます。
ちなみに、源氏物語で、「葛」(クズ)が登場する場面は、三回とも全て、
「九月十余日」「十月一日」などと、月日の記述が見られることは興味を引きます。
クズは夏に花を咲かせますが、秋には紅葉し、それが描写されているわけです。
秋なので、十月頃となり、偶然か否か、自動的に<懐妊期間>を連想させますが、
それは<紅葉>をも連想させます。
「紅葉」<血の色><血筋>
上記の一致は、偶然では無い、と私は思います。
「修辞の天才」紫式部の面目躍如、と言ったところでしょうか。
念のため付け加えますが、
私はもちろん、高子が浮気性だった、とか、身持ちが悪かった、と言っているわけではありません。
好きでもない年下の男性を、政略結婚であてがわれた女性の身になって考えてみて下さい。
****参照:(注220076):「 You can choose. That's why you don't understand me.」
そして、
「葛」(くず)の葉の<裏表>や、
「葛」(つる)が木を絞め殺すしたたかさは、
高子ではなく、藤原氏そのものを象徴しているのでしょう。
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(明石尼君7).昔こそまづ忘られね住吉の神のしるしを見るにつけても
「まづ(先づ)」<まず><真っ先に><何はともあれ>
明石の一介の地方受領の娘であった明石上が、皇后の母親(東宮の祖母)になったわけですから、
そのシンデレラストーリーは、京の人みなの憧れとなりました。
この歌の詠み手は、その明石上の母親の明石尼君です。
***「明石の尼君」「幸ひ人」************
よろずのことにつけてめであさみ、世の言種にて、「明石の尼君」とぞ、幸ひ人に言ひける。
かの致仕大臣の近江の君は、双六打つ時の言葉にも「明石の尼君、明石の尼君」とぞ賽はこひける。
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「しるし(験)」<霊験><効き目>
「しるし(印)」<目印>
「しるし(証)」<証拠>
「しるし(徴)」<特徴><前兆><予兆>
「しるし(著し)」<著しい><顕著な><明瞭な><ハッキリした><霊験あらたかな>
@(明石尼君7)A.
昔のことがまず思い出される。
住吉の神のご利益(ゆえの私たちの幸運)を見るにつけても。
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「まづ(先づ)」は「まつ(松)」を連想させます。
「松」は<天皇家><天皇>の象徴として、しばしば用いられます。
「松」<天皇家><天皇><仲哀天皇>
前述のように、
「住吉の神」<河内王朝><応神天皇>
としてみましょう。
「しるし(徴)」<特徴><応神天皇の顔立ちに表れた武内宿禰の面影>
「しるし(徴)」が「しるし(著し)」を連想させることも興味を引きます。
「しるし(著し)」<著しい><顕著な><明瞭な><ハッキリした>
先づ
昔こそ まづ 忘られね 住吉の神の しるしを 見るに つけても
まつ
松
(明石尼君7)B.<鎮魂>
昔と言えば、
「松」<仲哀天皇>
のことが、何より思い出される。
「住吉の神」<河内王朝><応神天皇>(の顔立ち)の
「しるし(徴)」<特徴><武内宿禰の面影>
を見るにつけても。
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(中務の君1).祝子が木綿うちまがひおく霜はげにいちじるき神のしるしか
「祝子(はふりこ)、祝(はふり、はぶり)」<神職><神職につく者の総称><(神主、禰宜より下位の)神職>
「げに(実に)」<実に><本当に><なるほど><いかにも>
「いちじるし(著し)」<はっきりしている><明らかな>
「いち」は接頭辞<甚だしい意>、「しるし」は<顕著なさま>
「しるし(徴、験)」<神仏の霊験><利益><効能><効き目><かい(効)><兆し><前兆>
@(中務の君1)A.
神主たちの木綿と見まがうほど真白な霜は、いかにもあらたかな神の霊験でしょうか。
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参考までに関連語句を挙げておきます。
特に興味がなければ読む必要はありません。
****参照:(注770016):「ふる」の<同音異義語>
****参照:(注770026):「かく」の<同音異義語>
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「はふる、はぶる(葬る)」ラ行四段<葬る><火葬する><荼毘に付す>、連用形転成名詞<葬送><葬式>
「はふる、はぶる(放る)」ラ行四段<放る><散らす><捨て去る><見捨てる><遠くへ追放する>、下二段<見捨てられさ迷う><落ちぶれる>
「はふる(溢る)」ラ行四段・下二段<溢れる>
「はふる、はぶる(羽振る)」ラ行四段<羽ばたく><飛び立つ><(鳥が羽ばたくように)風や波が立つ>
「はふり、はぶり(羽触り)」<羽が触れること>
「紛ふ」自動詞ハ行四段、他動詞ハ行下二段<乱れる><入り混じる><見分けがつかなくなる><見分けられないほど似ている><分別を失う><理性をなくす><見失う>
「はふる、はぶる(羽振る)」<羽ばたく><飛び立つ><(鳥が羽ばたくように)風や波が立つ>
は、<鳥>を連想させます。
紫上と同じく実子がなく、自らの与り知らぬ養女玉鬘を育てた花散里。
花散里はしばしば「橘」や「橘鳥」と呼ばれる「ホトトギス」<托卵する鳥>とともに登場します。
花散里の養育した<玉鬘>は<夕顔>と<頭中将>の子であり、いわば<托卵>です。
前述のように、
武内宿禰は、天皇家という<巣>に、<応神天皇>を<托卵>しました。
直前の地の文を見てみましょう。
「篁」の朝臣の、「比良の山さへ」と言ひける雪の朝を思しやれば、祭の心うけたまふしるしにやと、いよいよ頼もしくなむ。
***「篁」「竹」<武内宿禰>「皇」<神功皇后>**********
「篁」は<小野篁>(おののたかむら)です。
「篁(竹かんむりに皇)」の字は、もともと<竹薮><竹原><竹>の意味で、<笛>の意味にもなります。
「小野の篠原」などというように、小野は篠<細い竹の総称>の歌枕です。
「たけ(竹)」は<武内宿禰>を連想させます。
「皇」は「皇后」<神功皇后>を連想させます。
<武内宿禰>を連想させる「竹」かんむりと、
<神功皇后>を連想させる「皇」を合わせた「篁(竹かんむりに皇)」の字は、前述の<不義><皇統断絶>のエピソードを暗示しているように、私には思えます。
「竹」かんむりが、「皇」の上に乗っているのも興味を引きます。
ここで「小野篁朝臣」を出したのは、「比良の山さへ」の作者(菅原文時)との混同であろう(小学館新編古典文学全集)と見る向きもありますが、私はこれは、「この近辺の歌は、柏木と三宮にあるような<不義>の文脈でも読んでね」という、読者に対する紫式部の意図的な合図であるように思います。それは、和歌のみならず漢籍にも通暁していた紫式部の真骨頂とも言える伏線ではないでしょうか。
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「はふる、はぶる(葬る)」ラ行四段動詞が、
<葬る><火葬する><荼毘に付す>という意味を持つことも興味を引きます。
「はふり(葬り)」<連用形転成名詞><葬送><葬式>
仲哀天皇の命は、琴の音とともに、こと切れました。
************************
何その上手いこと言ったみたいな顔。腹立つ。
(増田こうすけ「ギャグまんが日和」妖怪ろくろ首)
************************
これが言いたかったためだけに、この和歌の解釈をわざわざ付け足しました。
長い前フリですみません。
とはいえ、乗りかかった船なので、ひと段落するまでためしに書き続けてみましょう。
興味の無い人は、ここで読み終わって頂いてかまいません。
ここまでお付き合いありがとうございました。
ちなみに、「こと切れる」「事切れる」とは<(息が)途切れる><(命が)途絶える><死ぬ>という意味です。
「祝子(はふりこ)、祝(はふり、はぶり)」<神職><神職につく者の総称><(神主、禰宜より下位の)神職>
「はふり(葬り)」<連用形転成名詞><葬送><葬式>
「ゆふ(木綿)」の音は、「結ふ(ゆふ)」を連想させます。
「結ぶ」(むすぶ)は濁点を打つ習慣のなかった当時、「結ふ(ゆふ)」と表記されました。
「結ぶ」は「露」の縁語であり、「涙」「玉」を連想させます。
ちなみに、「完璧」という言葉の「璧」は<玉><球>という意味です。
確かに、部首として「玉」の字が入っていますね。
「完璧」で、<完全な球><傷一つ無いまん丸の玉><真球>という意味になります。
「玉」は<美称>の<接頭辞>として用いられます。
「玉」<美称><完璧なもの><ホンモノ>
「露」<はかないもの><ニセモノ>
***「玉」<ホンモノ>「露」<ニセモノ> **********
蓮葉の濁りに染まぬ心もて なにかは露を玉とあざむく (僧正遍照)
********************************
ちなみに、天皇の正統性の象徴である「三種の神器」の一つが、「勾玉」(まがたま)です。
夜、気温が下がって、空気の単位体積当たりの飽和水蒸気量が減少すると、
それまで気体として存在していた大気中の水蒸気が凝結し、液状の水になります。
これを「結露」<露が結ぶ>と言い、これが草木の葉や窓ガラスに付いたのが「露」です。
そして、さらに気温が下がって氷点下になると、「露」が凍って「霜」になります。
つまり、
「玉」<ホンモノ>ではなく、
「露」<ニセモノ>が固まって形になったものが、「霜」です。
たしかに、「勾玉」などと違って、「霜」は夜が明けて暖かくなると、溶けて「露」となり、さらに昼には蒸発して消えてしまいますね。
「しも(霜)」<ニセモノの結晶>
また、「かみ(神)」がを連想させるのに対して、
「しも(霜)」が「しも(下)」を連想させることも興味を引きます。
「上(かみ、うへ)」は<目上の人の尊称><貴人の尊称>ですが、<天皇の尊称>としても常用されます。
「上(かみ、うへ)」<主上><天皇の尊称><おかみ>
***「上(かみ)」<主上><天皇の尊称><おかみ>*******
吾は兄なれども、「かみ」となるべからず。
(「古事記」中巻)
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「しも(下)」<「かみ(上)」で無いもの><「かみ(神)」で無いもの><天皇で無いもの>
「上」との対比を背景として、
「げに(実に)」の「げ」が「げ(下)」を連想させることも興味を引きます。
「げ(下)」<下><臣下>
「結ぶ」は<生じさせる><形にする><結露する><契る><男女の仲になる>の意味があります。
***********************
「結ぶ」<結ぶ、ゆわえる><生じさせる><結露する><契る><約束する><結婚する><男女の仲になる><(掬ぶ)水を掬う>など
「むすぶのかみ(産霊の神)」<万物生成の神><男女縁結びの神>
「むすび」=「むす(生す、産す)」+「ひ」<神にまつわる接尾辞>
「むす(生す、産す)」<生じさせる><産む>
*****************
「うち(内)」<内裏><宮中><天皇><天皇家>
「ゆふ(木綿)」の音は「ゆふ(結ふ)」を連想させます。
「ゆふ(結ふ)」は「結ぶ(むすぶ)」を連想させます。
濁点を打つ習慣の無かった当時、これらはともに「結ふ」と表記されました。
「むすぶのかみ(産霊の神)」<万物生成の神><男女縁結びの神>
「結ぶ」<結ぶ><結露する><契った結果として子が出来る>
確かに、今でも「結びの神」とか、「愛の結晶」とか言いますね。
「ゆふ(木綿)」が「ゆふ(夕)」を連想させることも興味を引きます。
「夕(ゆふ)」<夕顔>
「玉鬘」の「玉(たま)」は<玉子(たまご)><卵>を連想もさせます。
「玉鬘」は、<夕顔>から花散里に<托卵>された<玉子(たまご)>でした。
****参照:(注55742):「卵の四角」<あるはずもないこと>
「しるし(験)」<霊験><効き目>
「しるし(印)」<目印>
「しるし(証)」<証拠>
「しるし(徴)」<特徴><前兆><予兆>
「しるし(著し)」<著しい><顕著だ><明瞭だ><はっきりしている><霊験あらたかだ>
祝子 木綿 実に
はふり こ が ゆふ うち まがひ おく 霜は げに いちじるき 神のしるしか
羽振り 子 夕 家 禿げ 上
葬り 子 夕顔 下 異に
放り 子 夕霧
結ふ
結ぶ
葬り 子が 結ぶ 内 紛ひ 置く 霜は 実に 著き 神の 徴か
下 下 上
(中務の君1)B.<鎮魂>
(仲哀天皇を)葬り、「子」<応神天皇>が産まれた「内」<内裏><天皇家>。
紛らわしく置かれた、
(「玉」<ホンモノ>ではなく「露」<ニセモノ>が固まり形になった)
(その「かみ(上)」でない「しも(下)」の)「霜」<応神天皇>には、
本当にハッキリした「神」<天皇>の「しるし(徴)」<特徴>「しるし(証)」<証拠>があるのか?
***「玉」<ホンモノ>「露」<ニセモノ> **********
蓮葉の濁りに染まぬ心もて なにかは露を玉とあざむく (僧正遍照)
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参考までに、「しるし」に関連する語句を、以下に挙げておきます。
***「しるし」*******************
「しるしの帯」<懐妊を祝い、胎児の安定をはかり、安産を祈願して妊娠五ヶ月目の吉日に結ぶ帯。岩田帯><腹帯>
「しるしの頼み」<結納><結納品>
「しるし(標、証、印)」<目印><標識><合図><記録><署名><証拠><結納><討ち取った首><首級>
「しるし(印、璽)」<印><印綬><天皇の位を表すもの><三種の神器、特に八尺(やさか)にの曲玉><神璽>
「しるし(徴、験)」<神仏の霊験><利益><効能><効き目><かい(効)><兆し><前兆>
「しるしの杉」など。
***************************
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「はふる、はぶる(羽振る)」<羽ばたく><飛び立つ><(鳥が羽ばたくように)風や波が立つ>
は、<鳥>を連想させます。
紫上と同じく実子がなく、自らの与り知らぬ養女玉鬘を育てた花散里。
花散里はしばしば「橘」や「橘鳥」と呼ばれる「ホトトギス」<托卵する鳥>とともに登場します。
花散里の養育した<玉鬘>は<夕顔>と<頭中将>の子であり、いわば<托卵>です。
直前の唱和には、興味深い言葉が並んでいます。
***「かひ(卵)」「らん(卵)」「とり(鳥)」***********
(明石尼君6).住の江をいける「かひ」ある渚とは年経るあまも今日や知る「らん」
「かひ」は、掛詞として常用されます。
「かひ(甲斐)」<甲斐><効>
「かひ(殻)」<殻>
「かひ(貝)」<貝>
「かひ(卵)」<卵>
(明石中宮3).神人の手に「とり」もたる榊葉に木綿かけ添ふるふかき夜の霜
(明石中宮3)A.
神主が手に持っている榊の葉に、木綿を掛け添えているかのような、夜更けの純白な霜であることよ。
********************************
「かひ(殻)」という言葉から、「かひ(貝)」や「かひ(卵)」という言葉が派生したのだそうです。
(明石尼君6)の末尾の「らん」が「らん(卵)」を連想させることは興味を引きます。
また、
(明石中宮3)の「とり」<接頭辞>が「とり(鳥)」を連想させることも興味を引きます。
「とり(鳥)」<托卵鳥>
「ゆふ(木綿)」が「ゆふ(夕)」を連想させることも興味を引きます。
「夕(ゆふ)」<夕顔>
「玉鬘」の「玉(たま)」は<玉子(たまご)><卵>を連想もさせます。
「夕顔」は、<一年生草本>のつる植物です。
一年生で、毎年冬には枯れて切れてしまうため、
年々肥大成長する、ということが出来ません。
だから、夕顔のつるは、とても細くか弱く、見るからに頼りないものです。
それは玉鬘という種を飛ばした後、すぐにあの世に行ってしまった夕顔のはかなさをも彷彿とさせます。
同じつる植物でも、「藤」は<多年生木本>です。
多年生のため、年々肥大し、時に絡みついた本体の木を締め上げて枯らしてしまうほど太く硬くなります。
「藤」と「夕顔」のコントラストは印象的です。
****参照:(注228816):「藤かかりぬる木」<藤原氏><紀氏>
「はふる、はぶる(羽振る)」<羽ばたく><飛び立つ><(鳥が羽ばたくように)風や波が立つ>
は、<鳥>を連想させます。
「紀氏」と「鳥」とくれば、伊勢物語の「かりのつかひ」が連想されます。
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藤かかりぬる木は枯れぬるものなり。いまぞ紀氏はうせなむずる。
(「大鏡」「道長(藤原氏物語)」)
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***「業平の義理の父」<紀静子の兄>*************
日本一の美男子として名高い彼は、清和天皇が幼帝だったころに、その婚約者でもあった藤原高子と恋愛し、問題を起こしたと伝えられている。これを単なる伝説だと考える学者もいるが、彼の義理の父が、藤原氏の血を引く清和天皇と皇位を争った惟喬親王の生母であった紀静子の兄であることを考えれば、決して有り得ない話ではない。
業平は、当時、唯一天皇と釣り合う年齢にあった藤原氏の娘、高子を誘惑することで、藤原氏の勢力拡大を妨害するという使命を担っていたのかもしれない。
(井沢元彦「井沢式日本史入門講座4 怨霊鎮魂の日本史」)
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***「皇族・紀氏の反藤原連合の陰謀」*********
ですからひょっとしたら、皇族・紀氏の反藤原連合の陰謀として、そうしたことが実際にあったのではないか、という考え方も出来るわけです。
(参考:井沢元彦「井沢式 日本史入門講座4」)
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「雁の使ひ」
<女を渡り歩く伊達男が妃を孕ませる使命を負った>
<産むはずの無い父親(在原業平)が藤原高子を孕ませた>
詳細は下記の和歌のファイルをご参照下さい。
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(末摘花4).年を経てまつしるしなきわが宿を花のたよりにすぎぬばかりか
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藤原高子は、自分より八歳も年下の、まだ幼い惟仁親王(後の清和天皇)を結婚相手として無理矢理当てがわれました。
しかし、高子の真の想い人は、17歳年上の、平安きってのイケメン、在原業平でした。
藤原高子(二条后高子)は、藤原長良の娘で、清和天皇の女御となり、貞明親王(のちの陽成天皇)を産みます。
***「伊勢物語」第六九段「狩の使い」:伊勢斎宮の「夢」*************
(伊勢物語).
女のもとより、ことばはなくて、
きみやこしわれやゆきけむおもほえず夢かうつつかねてかさめてか
おとこ、いといたうなきてよめる。
かきくらす心のやみにまどひにきゆめうつつとはこよひさだめよ
とよみてやりて、かりにいでぬ。
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「かりのつかひ(狩りの遣ひ)」<狩りの遣い>は、
「かりのつがひ(雁の番)」「かりのつがひ(仮の番)」
を連想させます。
濁点を打つ習慣の無かった当時、これらはともに「かりのつかひ」と表記されました。
「かりのつがひ(雁の番)」<雁の夫婦><子を産むはずの無い男女>
「かりのつがひ(仮の番)」<仮の夫婦><仮初の男女><束の間の逢瀬>
「つかひ(遣ひ)」<遣い><使者>
「つがひ(番ひ)」<一対><ひと組><雌雄の対><番うこと><共寝すること><夫婦になること><具合><頃合><つなぎ目>
「つがふ(番ふ)」は、もともと「つぎあふ(継ぎ合ふ)」から来た言葉だそうです。
今でも、<交際する>ことを「つき合う」と言いますね。
「つがふ(番ふ)」ハ行四段<対になる><組になる><対にする><組み合わせる><矢を弓の弦に当てる><つがえる><固く約束する>
詳細は下記の和歌のファイルをご参照下さい。
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(良清1).かきつらね昔のことぞ思ほゆる 雁はその世のともならねども
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「禁断の恋」の「夢の逢瀬」とくれば、「伊勢物語」の<在原業平>と<藤原高子>です。
清和天皇の后、高子と通じた在原業平は、京を追われて東国に行く羽目になりました。
それが「伊勢物語」の「東下り」です。
***「伊勢物語」第十段「たぬむの雁」********************
みよしのの「たのむのかり」もひたぶるにきみがゝたにぞよるとなくなる
わが方によるとなくなるみよし野の「たのむのかり」をいつかわすれむ
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***「頼り(たより)」「かり(雁)」**********
(末摘花4).年を経てまつしるしなきわが宿を花のたよりにすぎぬばかりか
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清和天皇の<ワケアリの子>、陽成天皇には在原業平の血、すなわち紀氏をはじめとする<反藤原勢力>の血が入っている、と仮にしてみましょう。
藤原基経は陽成天皇を暴虐であるとして廃し、また阿衡の紛議を起こして橘広相を政界から追いやるなど、絶大な権力を振るっていました。
「はふりこ(葬り子)」<葬った子><朝廷から葬った陽成天皇>
「はふりこ(羽振り子)」<羽を振る鳥><雁><かりのこ><産まれるはずの無い子><陽成天皇><産むはずの無い親><渡り鳥><在原業平><藤原高子>
「はふり(羽振り)」<(雁が)羽を振り><(伊達男業平があちこちで)羽を振り>
「ゆふ(結ぶ)」は<つる植物>の<藤>をも連想させることは興味を引きます。
葬り
羽振り 子が 結ぶ 内 紛ひ 置く 霜は 実に 著き 神の 徴か
下 下 上
(中務の君1)C.<鎮魂>
「羽振り」<雁(業平)が羽を振り>、
「子」<陽成天皇>が産まれた「内」<内裏><天皇家>。
紛らわしく置かれた、
(「玉」<ホンモノ>ではなく「露」<ニセモノ>が固まり形になった)
(その「かみ(上)」でない「しも(下)」の)「霜」<陽成天皇>には、
本当にハッキリした「神」<天皇>の「しるし(徴)」<特徴>「しるし(証)」<証拠>があるのか?
***「玉」<ホンモノ>「露」<ニセモノ> **********
蓮葉の濁りに染まぬ心もて なにかは露を玉とあざむく (僧正遍照)
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(紫上19).住の江の松に夜ふかくおく霜は神のかけたる木綿鬘かも (4) へ続く。
****参照:(紫上19).住の江の松に夜ふかくおく霜は神のかけたる木綿鬘かも (4)
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