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(光源氏197).はちす葉をおなじうてなと契りおきて露のわかるる今日ぞ悲しき
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この本は「教科書」「参考書」の類ではありません。
皆さんに「教える」のではなく、どちらかと言うと、皆さんと「一緒に考える」ことを企図して書かれた本です。
また、私の主観も随所に入っていますが、私はこの方面の専門家でもありません。
ですから、
<効率よく知識を仕入れる><勉強のトクになるかも>
などとは、間違っても思わないようにして下さい。
いわゆる「学習」「勉強」には、むしろマイナスに働くでしょう。
上記のことを十分ご了解の上で、それでもいい、という人だけ読んでみて下さい。
ただし、
教科書などに採用されている、標準的な解釈の路線に沿った訳例は、参考として必ず示してあり、
その場合、訳文の文頭には、「@」の記号が付けてあります。
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時々「(注)参照」とありますが、それは末尾の(注)をご参照下さい。
ただし、結構長い(注)もあり、また脱線も多いので、最初は読み飛ばして、本文を読み終えたのちに、振り返って読む方がいいかもしれません。
なお、(注)の配列順序はバラバラなので、(注)を見るときは「検索」で飛んで下さい。
あちこちページを見返さなくてもいいように、ダブる内容でも、その場その場で、出来る限り繰り返しを厭わずに書きました。
その分、通して読むとクドくなっていますので、読んでいて見覚えのある内容だったら、斜め読みで進んで下さい。
電子ファイルだと、余りページ数を気にしなくて済むのがいいですね。
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(光源氏197).はちす葉をおなじうてなと契りおきて露のわかるる今日ぞ悲しき‐3.txt
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要旨:
不義の子薫を産んですぐ、現実から逃げるように出家してしまう三宮と源氏の贈答歌を、
「蓮」から連想される様々な象徴イメージを背景として解釈した。
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目次:
(光源氏197).はちす葉をおなじうてなと契りおきて露のわかるる今日ぞ悲しき
(三宮6).へだてなくはちすの宿を契りても君が心やすまじとすらむ
メモ:
語彙、語法・文法、
連想詞の展開例など
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では、始めましょう。
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源氏の正妻三宮の出家に際しての歌です。
(光源氏197).はちす葉をおなじうてなと契りおきて露のわかるる今日ぞ悲しき
「うてな(台)」<台>
「はちす」<蓮>
みなさんは、サトイモの葉が、水をはじくため、うわ露が一粒一粒ころころと玉のように分離してしまうのを見たことがあるでしょう。
ハスの葉も同様です。
(光源氏197)A.
同じ蓮の葉の上でと約束しても、露が別れる今日の日の悲しいことよ。
源氏は、この単なる自然の描写に託して、何が悲しいと訴えているのでしょうか。
「露」は、<露>のほか、<露のように儚く消えてしまうもの><涙><ごくわずかの間>などの例えとして用いられます。
同じ宿世で結ばれた夫婦は、来世で同じ蓮の葉の上に生まれ変わると信じられていました。
@(光源氏197)B.
来世では同じ蓮の葉の上で(一蓮托生で)と約束しても、露のように別れる(現世の)今日の悲しいことよ。
(私もすぐ後を追って出家します。待っていて下さい。)
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蓮は、水底の泥中に根茎を横に延ばし、節々から茎を水面上に直立させ、花を咲かせます。
つまり、花を作り種子(子種)を宿すほか、無性生殖(栄養生殖)も行います。
それは、ススキや葦や竹と同じです。玉鬘がしばしば例えられるアヤメもそうです。
ちなみに冒頭に挙げた、大きな葉が水玉を弾くサトイモも塊茎(子芋、孫芋)で増えます。
このような無性生殖は、有性生殖のような雄と雌の交合(花のめしべが花粉を受粉すること)を伴いません。
いわば、<処女懐胎>に当たります。
マリアは、処女懐胎(性交なしの懐妊)によって、イエスをみごもったといわれます。
これを、「無原罪の宿り」と言ったりします。
<処女懐胎>=<出産の日から逆算して、夫と妻が交わる機会がありえないはずの妊娠>としてみましょう。
それは、<無原罪>どころか、普通の妻なら犯さない<禁忌>を犯した結果の<不義の子>です。
「おく(置く)」は<置く><据える>ほか、<脇に置く><残す><見捨てる>、<(心を)隔てる、気兼ねする><(時間・距離)を隔てる><(身分)を隔てる>
補助動詞<あらかじめ~しておく><~して残す>「~おきて」で<~しておいたくせに>
また、しばしば「露」「霜」の縁語として、「露を置く」<結露する><涙が流れる>の意味になります。
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この世にて契りしことを改めて蓮の上の露と結ばむ (為頼集)
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「結ぶ」は「露」の縁語であり(結露)、「涙」「玉」を連想させます。
しばしば蓮の上の露は、はかない人間存在の例えとされます。
「結ぶ」には、<結ぶ><結わえる><連結させる>のほか<契る><約束する><生じさせる><生成する><生み出す><結露する><結婚する><男女の仲になる><(掬ぶ)水を掬う>の意味もあります。
「むすぶのかみ(産霊の神)」<万物生成の神><男女縁結びの神>
「むすび」は、「むす(生す、産す)」<生じさせる><産む>から来ています。
「はちす葉」を<処女懐胎><不義の子を宿す三宮>としてみましょう。
「うてな(台)」は<床>のイメージと重なるでしょうか。
三宮は不義の子を産むと、五十日の儀も待たずにすぐ出家します。
仏教ゆかりの花である蓮の有名な歌を、ここでの引き歌に設定してみましょう。
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(古今集165).はちす葉のにごりにしまぬ心もて なにかは露を玉とあざむく (僧正遍照)
@(古今集165)A.
蓮は、泥の濁りにも染まらぬ清らかな花を咲かせるのに、そんな清い心で、なぜはかない露を美しい玉のように偽って見せるのだろうか。
「玉」は<源氏の子>:完璧なもの、全きもの
「露」は<柏木の子>:玉の偽物
「はちす葉」は、<三宮>
三宮は不義を気に病んで出家することになります。
「蓮」は、泥の中から生え、清らかな花を咲かせることから、<穢れに染まらない清さ>の象徴としても用いられます。
俗世の凡夫でも、仏性をそなえ、成仏することが出来るという仏教の例えもここから来たそうです。
(古今集165)B.
正妻三宮は、出家して、濁りに染まらぬ心のはずなのに、なぜ"露"<柏木の子>を"玉"<源氏の子>と欺くのだろう。
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(光源氏197)C.
<処女懐胎>する三宮を(私源氏と)同じ床で契り宿した絆(子)と分かれる今日の悲しいことよ。
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「蓮(はす)」は、花びらが散った後の台(花托)の穴に、種子が残り、それが<蜂の巣>のようにみえることから「蓮(はちす)」と名づけられました。
そのため、「はちす」という呼称は、<実><子>を強く連想させます。蜂の巣に宿っているのも、蜂の幼虫ですよね。
ちなみに蓮の実は生で食べると甘みがあります。
単為発生とは、雌の配偶子だけから子が産まれ、成長することです。したがって子は半数体(n)となります。
ハチは単為発生で雄を産みます。
単為生殖とも言い、無性生殖の一種です。
これは単なる偶然かもしれませんが、
この<単為発生>が、
<雄の配偶子を必要としない生殖>=<夫との交わりのない妊娠>=<夫の身に覚えの無い妊娠>
を連想させるのは興味を引きます。
三宮に生まれたのは、夫の源氏ではなく、柏木との間の不義の子でした。
「台(うてな)」を、実が出来る土台となる<花托(かたく)>としてみましょう。
ニクヅキに、「台(だい)」で、「胎(たい)」になります。
「胎(たい)」<おなかの子、胎児><妊娠><子袋、子の宿るところ、子宮><はらむ、みごもる><始め、兆し、胚胎>
偏継ぎや韻塞ぎ(いんふたぎ)などの遊びに常日頃親しんでいた平安貴族にとっては、「台」から「胎」を連想することは、ごく容易だったことでしょう。
ちなみに、濁点を打つ習慣のない当時、「台」も「胎」も同じく(たい)と表記されました。
「契り」<約束>のほか、<宿世><宿縁><縁><絆>、男女の<契り>
女王蜂は、複数の雄を交尾の対象とします。その意味では、平安貴族のような一夫多妻制とは逆の、<一妻多夫>制です。
源氏は夫の自分以外の男と交わった三宮を揶揄しているのでしょうか。
ニホンミツバチの雌は十数匹の雄と交尾するそうですが、交尾が終わると雄の交尾器はちぎれてオスは死んでしまうのも示唆的です。
密通相手の柏木は、この不義が原因で心労に斃れ、不義の子薫が産まれて間もなく、子の顔を見ることなく亡くなりました。
紀元前2500年には古代エジプトですでにミツバチが飼われていたそうです。わが国では早くも日本書紀に記述が見られます。(「復本、俳句の鳥・虫図鑑」,etc)
ハチが一妻多夫制であるのは当時すでに知られていたでしょう。
(光源氏197)E.
蜂の巣のように、同じ女性と(複数の男性が)交わって生まれた子。ほんの少しの間でも、柏木と別れる現世の今日が悲しい。
ハスやサトイモの葉は、表面が水をよく弾くため、他の植物よりもいっそう葉の上で水玉が転がります。
「蓮葉」(はすは、はすっば)とは、<水をはじく蓮の葉の上で、水玉が不安定にころころ転がること、ひとところに落ち着かないこと>から転じて、
<不安定な><身持ちの定まらない><浮薄な><浮気性な>の意味になります。「はすっばな女」は現代語にも残っていますよね。
「蓮葉」<浮気女>には、源氏の強烈な皮肉が込められているようにも見えます。
「蓮葉」<身持ちの定まらない女><蓮っ葉><身持ちの堅くない女><アバズレ><三宮>
「はちす(蓮)」の「はち」が「はぢ(恥)」を連想させることも興味を引きます。
濁点を打つ習慣の無かった当時、これらはともに「はち」と表記されました。
(光源氏197)F.
浮気性な女を(柏木と)同じ床で契り、(その不義が元になった)別れの涙で今日は悲しい。
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「泥(こひぢ)」<泥><泥土><土>と「恋路(こひぢ)」
「泥土(うき)」<泥深い地><沼><沼地><泥沼>と「憂き」は掛詞として用いられます。
<辛い恋の泥沼>と言ったところでしょうか。
「泥土(うき)」<水底>と「浮き」<水面>が同じ音なのは興味深いですね。
「憂き」<悲しい>と「浮き」<浮ついた>も。
今でも、「ウキウキ」って言いますよね。
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三宮の返歌です。
(三宮6).へだてなくはちすの宿を契りても君が心やすまじとすらむ
「へだつ」(隔つ)<隔てる><区別する>
「へだてなく」<離れずに><区別なく><同じように>
@(三宮6)A.
(現世と同じく来世でも)離れずに同じ蓮の葉の上に宿りましょうと約束しても、あなたの本心はそこにお住みにはなりますまい。
住まじ
へだてなくはちすの宿を契りても君が心や すまじとすらむ
澄まじ
済まじ
「はちすの宿」を<無性生殖><三宮の宿した不義の子薫>としてみましょう。
当時は一夫多妻制(正しくは、<一夫一妻多妾>。工藤重矩「源氏物語の結婚」)でした。
男だけが複数の女性を相手に出来る不公平を、三宮は訴えていたのでしょうか。
係助詞「や」による係り結びの強い疑問が、(光源氏197)Fの皮肉に対する強烈なカウンターパンチのようにも見えます。
「へだてなく」<同じように>
「すむ(済む)」<気が済む、済ませる>
「すむ(澄む)」<すっきりする>
「はちす(蓮)」の「はち」が「はぢ(恥)」を連想させることも興味を引きます。
「宿」は「宿す」<子を宿す>をも連想させます。
(三宮6)D.
[女の私(三宮)が] 男性と同じように複数の相手と交わっても、男性のあなたの心はそれを許さないのでしょうか。
(ご自身の浮気や、お義母さまとの密通は許されるのですか?)
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メモ:
語彙、語法・文法、
連想詞の展開例など
あくまでこれは「タタキ台」として、試みに私の主観を提示したものに過ぎません。
連想に幅を持たせてあるので、自分の感覚に合わない、と感じたら、その連鎖は削って下さい。
逆に、足りないと感じたら、好きな言葉を継ぎ足していって下さい。
そして、自分の「連想詞」のネットワークをどんどん構築していって下さい。
詳細は「連想詞について」をご参照下さい。
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はちす葉-蓮-地下茎-無性生殖-
蓮-露-玉-濁りに染まぬ-欺く-不義の子-出自
はちす葉-蜂巣-単為生殖-処女懐胎-
蜂巣-一妻多夫-浮気女-はすっぱ女-三宮
玉-本物
露-偽物
台-床-胎-
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「うてな(台)」<台>
「はちす」<蓮>
「露」<露><露のように儚く消えてしまうもの><涙><ごくわずかの間>
「おく(置く)」<置く><据える><脇に置く><残す><見捨てる><(心を)隔てる、気兼ねする><(時間・距離)を隔てる><(身分)を隔てる>
補助動詞<あらかじめ~しておく><~して残す>「~おきて」で<~しておいたくせに>
<「露」「霜」の縁語>
「露を置く」<結露する><涙が流れる>
「結ぶ」:「露」の縁語(結露)、「涙」「玉」を連想させます。
しばしば蓮の上の露は、<はかない人間存在>の例えとされます。
「結ぶ」<結ぶ><結わえる><連結させる><契る><約束する><生じさせる><生成する><生み出す><結露する><結婚する><男女の仲になる><(掬ぶ)水を掬う>
「むすぶのかみ(産霊の神)」<万物生成の神><男女縁結びの神>
「むすび」は、「むす(生す、産す)」<生じさせる><産む>から来ています。
「はちす葉」<地下茎><処女懐胎><不義の子を宿す三宮>
「うてな(台)」<床>
「玉」は<源氏の子>:完璧なもの、全きもの
「露」は<柏木の子>:玉の偽物
「はちす葉」<三宮>
「台(うてな)」<実が出来る土台><花托(かたく)>
「台(だい)」「胎(たい)」
「胎(たい)」<おなかの子、胎児><妊娠><子袋、子の宿るところ、子宮><はらむ、みごもる><始め、兆し、胚胎>
ちなみに、濁点を打つ習慣のない当時、「台」も「胎」も同じく(たい)と表記されました。
「契り」<約束><宿世><宿縁><縁><絆>、男女の<契り>
「蓮葉」(はすは、はすっば)<水をはじく蓮の葉の上で、水玉が不安定にころころ転がること、ひとところに落ち着かないこと>から転じて、
<不安定な><身持ちの定まらない><浮薄な><浮気性な>
「はすっばな女」は現代語にも残っていますよね。
「蓮葉」<浮気女>
「蓮葉」<身持ちの定まらない女><蓮っ葉><身持ちの堅くない女><アバズレ><三宮>
「はちす(蓮)」「はち」「はぢ(恥)」
「はちすの宿」<無性生殖><三宮の宿した不義の子薫>
「へだてなく」<同じように>
「すむ(済む)」<気が済む、済ませる>
「すむ(澄む)」<すっきりする>
「宿」「宿す」<子を宿す>
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ここまで。
以下、(注)
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