祖父の回顧録

明治時代の渡米日記

第49回(大学の創立記念日)

2011-12-07 10:23:22 | 日記
48.大学の創立記念日



 毎年三月二十三日が来ると、大学の創立記念日(Charter Day)の式典が全校挙げて盛大に挙行せられた。

 初めて私が迎えたのは、一学年の後期であった。Charter Dayが近づくと、その際の準備のために四年生と学友会とが中心となって校庭の広場に沢山の小屋掛けを作って、各クラブやフラタニテイー(男性の結社)やソロリテイー(sorority:女性の結社)などが音楽や色々の余興を演じて参観者や学生に見せて楽しんでもらうのである。また同窓生(Alma mater)達は、この機会を利用して、レユニオン(Reunion)同窓会を開催して大学に集まり、親交を新たにして、この式場に臨んで、往時の学生時代を追想する場とした。それで沢山の老若男女の紳士や淑女達がキャンパスに集合するので賑やかだった。

 式典はギリシャ劇場(Greek Theater)で挙行せられ、学生が集合すると、総長ホイラー(Wheeler)、副総長バロース(Barrows)をはじめ各単科大学長や、学部長たちが、皆それぞれ、自分の出身校で最高の学位を受理された時のフッド(Hood:学位の徽章で大学の制服の背後に垂れる頭巾形の布)を制服につけて、正々堂々隊列を作って劇場のステージ(stage:舞壇)に登る威容は実に美しく素晴らしい眺めだった。

 それは正服のガウンが各大学によって筋の色彩が違い、紫あり、紺あり、黄色ありで、実に美しいのである。このガウンは博士に限られて、私のようなBachelor級は、ただ普段の黒布のガウンにカップだけである。

 Hoodは学位(degree)の高い程丈が長く、博士級は長くて腰の下のところまで垂れており、master級は背中一杯位でBachelorは肩のところまでである。そして、そのHoodの色は各大学の校色(college colors)を表しているので、その美しさが一段と人目を引くのである。加大の校色は”Blue and Gold”でスタンフォード大学は”Crimson”(紅色)で、この色が黒色の毛の布地に縫い込まれているからだ。

 またCapの房がBachelorは黒だが博士は大学によって金色あり、紫あり、紺ありで、これも又美しい。

 こういう正服、正帽で数十名の上級教授が米国各地の有名校や欧州の大学のHoodをつけているので、誠に盛観であった。
 式が開会されると、総長の訓示があって、当日は特に招待されたアメリカ一流の大学総長或いは大政治家の演説があって閉式された。日本に見られるような冗長な祝辞などはなかった。

 当日の参列者や参観者は、さしも広い劇場も超満員だった

 私もこの大学の一学生として式に列挙出きる光栄に浴した。式が終わると今度は学生のお祭り騒ぎに変わって、校庭内に作った、それぞれの団体の催し物が夜半まで続いた。沢山の観覧者が集まって大賑わいを呈した。日本人大学生クラブは毎年剣道の試合を見せるので、私も上手ではないがやらされた。

 女子学生などは、お面、お胴とピッシャと打ち込まれるのを見ると、”Ouch! A wonderful Japanese fencing match.”(おお痛い、素適な日本の剣道試合だ)、などと喜んでくれた。

 Charter Dayの余興に出るために、放課後四,五日はクラブの庭で私も練習をさせられたが、これもよい思い出の一つである。
 近所の子供が見に来て、掛け声がおかしいと、ワイワイ真似たりして、面白かった。