祖父の回顧録

明治時代の渡米日記

第44回(大学生の伝統について)

2011-12-02 09:14:58 | 日記
43.大学生の伝統について



 アメリカの一流大学では学生間の守るべき特殊の伝統(Traditions)があって、私の大学でも各学年毎に守るべき色々の制約が設けられていた。デモクラテイック・エジュケーション(Democratic Education)をモットーとする大学でも、その大学精神(University spirit)を鼓吹して、学生の根性を叩きのめして、真に立派なCalifornian college boyとして社会に出るキャラクター(Character:性格)を啓培する手段でもあったろう。

 一年級をFreshman、二年級をSophomore、三年級をJunior、四年生をSeniorと呼んでいた。

 一年生はFreshman hatと呼ぶ紺色の中折帽子に黄色のリボンで巻いた帽子を校内ではかぶることになっており、(当時サンフランシスコ市では市の条例で無帽で町を歩くと、五弗の罰金を処せられた。)これを被らずにほかの帽子を被ると、上級生の制裁をうけて、衆人環視の前で、上着を脱がせられて、裏側に着せられ、奴隷のように歩かされたり、ひどいのになると化学会館の前まで運ばれて噴水の中に投げ込まれなどした。また校内で女子学生とは絶対に口をきけず、またコーンパイプ(マドロスパイプともいう)で喫煙も禁じられていて侵す者は制裁を受けた。

 この外sophomore lawnといって特に二年生が座る芝生があって一年生はオフリミットだった等々、一年生に限って特に厳しかった。

 私はこういう(茶目気じみた伝統)制裁については、入学前に先輩よりよく注意されていたのでOKだった。

 二年生はキャップ(cap)を被り、三年生は特別の帽子がないからその学年が選んだ柄のcapを用い、四年のseniorになるとSenior hat(上級帽)と呼ぶ、カウボーイの被るソンブレロ(Sombrero)に皮革バンドで加州大学と印刷された帽子を被るので、一見して分かるようになっていた。

 またコーヂュロイ(Corduroy)パンツ(コールテンの白色)をはくのは三年生以上でなければならず、一般にJuniorがはいていた。

 また四年生だけの腰掛椅子もあって三年生以下には禁止されていたが、こんな制限が行われていた(”Senior bench”と呼ばれていた)。

 一年、二年、三年と進級してSenior class(単元がとれて)となると、校内でも幅がきいてくるし、日本人学生デモオークランドやシスコ市に出てSombrero hatで歩いていると、肩身の広くなった気がした。

 以上は形式的なConcrete traditionsだったが、大学の勉強の精神の峻厳さや、生徒の風紀指導の厳格さや、スポーツ精神の猛烈さなど、今学生時代を追慕してバークレー生活が懐かしくなる。