ロッテ井口監督は「牛飼い」か「羊飼い」か
<ニッカンスポーツ・コム/プロ野球番記者コラム:CATCH!!>
ぽかぽか陽気とは裏腹、心の中は「火花バチバチ」の試合のようだった。今季、ソフトバンク初の対外試合は井口ロッテとの対戦となった。昨年までいた鳥越、清水両コーチがロッテに移籍し、自由契約となった大隣がテスト入団。井口監督もホークスは古巣。何かと「因縁」のある両チームの初対決だった。
試合前。日焼けした顔に笑顔をつくって井口監督は話してくれた。「まだ、選手たちからは監督と呼ばれるより、『井口さん』と呼ばれることの方が多いですよ」。昨年まで現役選手。チーム内にはまだまだ「兄貴分」の雰囲気が漂う。この日も練習中はトンボを持ち、内野ノックを受けた選手の後ろからグラウンドをならしていた。「キャンプ中も宿舎にいると選手から電話がかかってきて『井口さん、バッティング見てもらえませんか』って。(SNSの)LINEもよく選手から来ますしね」。そう言って白い歯をこぼした。
最下位に沈んだチームの立て直しは厳しい。でも青年監督は「監督」という絶対的な存在感を示すよりも「仲間」としてチーム再建を目指しているように感じた。威厳を示したところでチームはついて来ないということか…。守備中にはベンチの選手は立っていた。少しずつ変わりつつある。
リーダーは大別して2タイプある。「牛飼い型」か「羊飼い型」。前面に立ってグイグイ引っ張る「牛飼い型」。後ろから押しつつ1つの方向へいざなう「羊飼い型」。さて井口監督はどんな手綱さばきを見せてくれるだろうか。【ソフトバンク担当 佐竹英治】
(日刊)
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球道雑記
30本、30盗塁も夢じゃない!
ロッテ中村奨吾を覚醒させた2人の師。
「吹っ切れました」
千葉ロッテ・中村奨吾がそう言って、一軍の舞台に戻ってきたのは昨年の6月中旬。シーズン後半戦が今まさに幕を開けようとしていた頃だった。
その心境の変化が彼の成績にどう影響を及ぼしたのかは、中村本人にしか分からない。しかし、昨年の開幕から5月7日までに出場した7試合で18打席ヒットがなかった彼が、2度にわたる二軍降格を経て一軍に戻って来たとき、それまでの不振が嘘のように晴れ晴れとした表情で戻って来たのは、記憶の片隅にある。
まずは下記の成績を見てほしい。
3月 打率.000 1試合2打数0安打0打点0本塁打0盗塁
4月 打率.000 2試合4打数0安打0打点0本塁打0盗塁
5月 打率.000 4試合11打数0安打0打点0本塁打0盗塁
6月 打率.273 6試合11打数3安打2打点1本塁打0盗塁
7月 打率.317 20試合63打数20安打10打点2本塁打1盗塁
8月 打率.276 25試合87打数24安打13打点3本塁打2盗塁
9月 打率.289 22試合83打数24安打7打点3本塁打8盗塁
10月 打率.316 5試合19打数6安打0打点0本塁打0盗塁
2度にわたってファーム降格を言い渡された5月までに比べ、6月の一軍再々昇格以降は明らかな変化が出ている。
6月~10月の成績を合わせるとこうなる。78試合263打数77安打、32打点9本塁打、打率.293。それまでの不振が嘘のようだ。
「奨吾のバッティングを見てやってほしい」
そこで復調の理由を尋ねると、中村はこう返した。
「考え方、バッティングに関しては大きく変えてはいないです。自主トレから今年はこれでやろうと決めたことがあったので、基本となる部分はそこから変えないで……。
ただ、二軍の(大村巌)コーチだったり、先輩だったりにアドバイスをもらったりした中で、2度目にファームに落ちたときに、福浦(和也)さんから教えてもらったことがあったので、それがハマった感じで、徐々に結果も出るようになりました」
中村が福浦からアドバイスをもらったのは、中村の不振を見ていられなかった中村と福浦の共通の知人が、福浦に「奨吾のバッティングを見てやってほしい」と言ったことがきっかけだった。
目線とタイミングを改善して、すぐに結果が。
当時は打撃コーチがいる手前、あまり出しゃばりたくないと思っていた福浦。断り切れない知人からの頼みとあって、中村に自分の感じることを要点だけ伝えたという。
福浦のアドバイスした修正点は主に2つあった。
ひとつは目線の位置、もうひとつはタイミングの取り方だ。この2点が上手く噛み合わさり、中村の打撃はそれまでと比べ、明らかに良化した。
中村が言う。
「目線の部分で言うと、打ちに行くときに顎が浮いてしまってバットの出が悪くなっていたところがあったので、少し顎を引きました。タイミングに関しては『早めにとって、ゆっくり伸ばす』という意識ですかね」
すると、それまでどうしても手が出ていた外角のボールになる変化球をしっかり見逃せるようになった。さらにタイミングがずれて、内野のポップフライで終わっていた打球も強いライナーや外野の頭を越えるような打球へと変わった。シーズン前半、スタンドから漏れていたため息が、歓声に変わっていったのもこの辺りからだ。
「(以前も)フライアウトのときは『ああ惜しかったな』という感覚が自分の中でありました。打球的にもそういう感覚が多かったかもしれないです。やっぱりタイミングが合っていなかったりすると、そうした打球になっていたところもあったので」
「詰まらされてもしっかり振れている」
それでも強いライナーが打てたり、高いフライが上がったときは自分のバロメーターにはなっていたと中村は言う。強く振れているからこそ、打球は高いフライになって上がり、あとはタイミングひとつで修正が可能だからだ。
中村はこう続ける。
「詰まらされてもしっかり振れているから、上がった打球でも外野の前に落ちたとかもあると思うんですね。一方でゴロでも間を抜ければヒットはヒットですし、たとえばセカンドゴロで二遊間に飛んだ打球でもタイミングがもう少し早ければヒットになっていたとかの反省にもなるのかなって」
目指すのは、現役時代の井口監督の打撃。
中村が目指すところ。それは逆方向にも強い打球が打てる現役時代の井口資仁監督のようなバッティングだ。
それは入団当初からぶれていないし、何を言われようと貫くところは貫いて、ずれが生じればその都度修正する。それをプロ入りからこの3年間繰り返してきた。
継続してきた努力がようやく実を結ぼうとしている。今がその時期だ。
そんな中村に対して井口監督は「サーティーサーティー(30本塁打、30盗塁)に一番近い」と評する。
昨年後半の彼の変化、そして2015年の入団時から高く評価されてきた潜在能力。それらを買ってのことだろう。けっして大口を叩かない井口監督である。中村がそれを実現する日は案外遠くないような気がした。
井口監督が推し進める“走塁改革”。
昨年、中村に貴重なアドバイスをくれた福浦が今年から選手兼任打撃コーチになったのに加え、井口の現役時代の師匠である金森栄治が6年ぶりに打撃コーチに就任したのも心強い。金森の復帰で昨年まで不振にあえいでいた清田育宏も、肉離れというアクシデントは残念だったが、この春季キャンプで復調気配を見せていた。中村にとってもきっと追い風になるだろう。
井口監督が推し進める“走塁改革”についても高い理解を示している。
昨年は11個に終わった盗塁も今年は積極的に狙うことを約束。30盗塁も高い確率で実現すると見ていい。
「チーム内で走りたい選手はいっぱいいたと思いますし、自分も出れば走りたいという気持ちは当然あります。
(昨年は)9月に盗塁を8個決めて、ちょっとは自信になりましたし、オギさん(荻野貴司)みたいに、そこまで警戒されていないから走れたというのもあると思うんですけど、でも(2017年に)2桁走れたのは、2016年やその前の年に比べて、自信になりましたし、実際(数字的にも)多く走れたと思っているので、この感覚を今後に活かしていきたいなと思います」
では理想と今と、どれほどの差がある?
そんな中村に自分の思い描いている理想と、現在の自分とのギャップがどれくらいあるか聞いてみた。すると彼はこう答えた。
「まだまだ全てではないですけど、体を開いて打ちにいっているなと思えば、そこをすぐに直すこともできていますし、1球ずつだったり、1打席ずつだったり、修正して打てているなって感じも出てきました。
まだ同じ凡打を繰り返すときもありますし、全てが修正して上手くやれているかと言われればまだ完璧ではないです。だけど、今こうやっているから、こうなっているという感覚は以前と比べて、だいぶ自分でも分かるようにはなってきているんじゃないかなって思います」
いつのまにか……5試合連続ヒット。
春季キャンプの仕上げとして行われた2月17、18日のLamigoモンキーズとの練習試合では2試合で8打数4安打1打点の活躍を見せた。
2月10日から3日間行われた紅白戦も合わせれば、実戦で5試合連続ヒットが続いている。2018年は幸先良いスタートを切ったと言えるだろう。
「今も100点になることはないと思ってやっています。10割打てたら、それは100点ですけどそれはないので……。1打席、1打席で捉えて、そこでヒットが打てればそれがベストかなと。いつもそう思いながらやっています」
その積み重ねが井口監督のいう大記録にも繋がる。2018年は昨年以上に躍動する中村の姿が見られそうだ。
文=永田遼太郎
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