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よい子の読書感想文 

2005年から、エッセイ風に綴っています。

読書感想文871

2023-12-27 21:16:08 | 人物伝
『続 昭和の怪物 七つの謎』(保阪正康 講談社現代新書)

 一昨年、半藤一利氏が亡くなったとき、昭和史を書き継ぐことを使命とする物書きとして、並び称されていた。
 恥ずかしながら、私が保阪正康氏について興味を持ったきっかけとなった。
 両氏に共通することを単純化して謂うなら、「愚かな歴史を繰り返さぬようにしたい」というモチーフと、それに起因したライフワークということだろうか。
 戦争を知らぬ世代が政治・経済界の中心に立つにつれ、「愚かな」ことを忘れつつあり、想像力も失われてきたこと。それは実感せざるを得ない。
 肌感覚は、時とともに滅亡していく。埋め合わせるのは想像力でしかない。著者らは、そこに期待して書き続けたのだろう。われわれは、真摯に、歴史を学ばねばならないと思う。(皮肉にも、経済成長の衰えを埋め合わせるようにして、日本は(防衛力を含めた意味での)外交力を強化しようとしてきたのだから、想像力は意図的にも弱められようとしているのかもしれない)

 本書はちょっと軽めのエッセイ的な人物伝という体裁をとるが、読みやすさはイコール低俗、低次元ではないことを、深く納得させてくれる読書となった。
 示唆。発見。そのことが新たな疑問や課題へのガイドになる。
 思わず引用して、教え子らに紹介した一節もあった。
 例えば、著者は、「日中戦争や太平洋戦争、そして日本型ファシズムの仕組みを実感をともなって理解」するため、3000人近い当事者たちにインタビューしたといい、そのことでの気づきの一つを、こう書いている。

「真実を語る時はどういった態度、話し方をするのか、それがある程度わかるようになった。真実を語っているか、嘘を語っているか、あるいは記憶を操作しているか、などについて私は、「一対一対八」の法則が成り立つような気がする。真実を語る人が一割、虚言を弄する人が一割、残りの八割は私たちの大半である。」

 記憶は改竄される。そのことには二十代で気づいた。私が日記を継続する所以の一つである。
 ファクトチェックできるように、学習も継続していこうと思う。いまや虚言を弄する割合に関して、「一割」と見るのは、お人好しといっていいくらいだろう。

読書感想文870

2023-12-26 11:13:37 | エッセイ
『富士山1周レースができるまで~ウルトラトレイル・マウントフジの舞台裏~』(鏑木毅 福田六花 ヤマケイ新書)

 鏑木毅さんを師と仰ぐ私としては、必読の書であったろうが、読むのが遅くなってしまった。
『ウルトラトレイル・マウントフジ』については、長らく大会オフィシャルDVDでイメージを膨らませ、2019年に念願を果たした。さらに2020年、鏑木さんが主催する『チーム100マイル』に入会、直にその指導を受けてきた。
 指導を受けるに当たって、その理論を知るために必要と思われる著書は読んできた。そういう経緯で漏れていたのが本書だったわけだ。
 今回、手にしたのは、この大会に対して、少し初心に戻れたら良いなという希望的観測のためである。
 あれほど憧れたのに、2019年の29位の後、表彰台(10位まで)を目指した2020、2021年は新型コロナ禍で中止。やっと開催された2022年は万全の練習を経てきたのにもかかわらず胃腸トラブルでリタイア・・・
 エントリフィーの値上げも重なり、この大会への情熱は失ってしまっていた。あまりに報われない年月を過ごしてしまって、立ち直れなくなってしまったといっていいだろう。
 もしかしたら、『ウルトラトレイル・マウントフジ』を、また走りたくなるかなと本書を手にしたわけだが、大会立ち上げの情熱や苦労は、既知の話も多く、新たに感動する読書ではなかった。
 その大変さを詳しく知ることができ、有意義ではあった。しかし、実行委員の対価を求めぬ情熱とは裏腹に、商業主義化してきた近年の『UTMF』を知っているため、複雑な印象を受けてしまったのは否めない。

読書感想文869

2023-12-26 10:21:40 | 歴史・時代小説
『項羽と劉邦(上)』(司馬遼太郎 新潮文庫)

 三国志はいちど現代語訳を読んだが、それほどには感情移入できないままだった。
 だから本書も、さして期待せずに手にした。¥100なら失敗でもいいだろうと。
 湯船に浸かる僅かな時間に読んだ。不熱心な、細切れの読書となったが、それでも一定の集中力を保たせてくれた。気づくと感情移入しつつあった。さすが司馬遼太郎だなと、改めて感心させられた。
 人物を描く手法が、その距離感がとてもよい。書き手の筆が、べたべたしていない。一方、綿密に調べた上で、物語に下味として加え、香味としてまぶし、正当な食器に綺麗に盛り付けてくれる。
 適度、的確、丁寧、しかし、えもいわれぬ風味が香る。多くのドラマやマンガなどに影響を与え、司馬史観などという言葉さえ生まれる所以だろうかと思う。
 つまらないかもしれないと注意して、上巻だけ買っていたが、すぐに中・下巻もBOOK・OFFで入手した。

読書感想文868

2023-12-26 10:12:04 | 人物伝
『ニーチェからスターリンへ』(トロツキー 森田成也・志田昇訳 光文社古典新訳文庫)

 ウクライナ侵略について、何か示唆が得られるだろうかと手にした。
 トロツキーには個人的に関心があって、かつて『裏切られた革命』や『永続革命論』を読んだ。しかし、ウクライナ出身とは気づかなかった。
 私はそもそも、ロシアによるクリミア占拠までは、ウクライナに着目することもなかった。ソ連においては、一つの地域という扱いだったろうし、私が覚えた世界地図は、ソ連が存在した時代のものだった。
 ウクライナ侵略がきっかけで、ロシアとウクライナの歴史を紐解き、一筋縄ではないことを知った。もっと知りたいと思って、ソ連の指導者らの著作等を当たっている一環で、本書も手にした。
 
 多才さを再認識する読書となった。文学論にも秀でた才能を見せたトロツキーだが、人物論はライフワークと呼ぶべき仕事を残している。本書はその中でも優れたものを選んで編まれたもので、面白く読めてしまった。
 とはいえ、ウクライナについての言及はほとんどなく、行間からもウクライナへの想い等は読み取れなかった。
 そもそも、人生の大半を亡命先で過ごしたトロツキー。ロシア革命(それはソ連邦を形成することであり、ウクライナを後景に退ける結果となる)の原動力となった人。彼にとって、祖国ウクライナは、他人に語る類いのものではなかったのだろう。
 スターリンに対する舌鋒は鋭く読み応えがあるけれど、それは無論ウクライナ人としての批判ではない。世界革命を志したトロツキーは、故郷への愛着を文章に表しはしない。
 他の、未読の著作も紐解いてみたい。ウクライナについて、あるいはロシアとの関係性について、何らかの言及はあるはずだ。