goo blog サービス終了のお知らせ 

よい子の読書感想文 

2005年から、エッセイ風に綴っています。

読書感想文865

2023-10-26 18:13:50 | 人物伝
『スターリン その秘められた生涯』(バーナード・ハットン 木村浩訳 講談社学術文庫)

 スターリン伝はさまざま出ているが、どれも政治的に一方の側から描かれたような匂いがして、何を信じれば良いかわからなかった。
 その点、本書は中立的な立場から、私的な面を描いた稀有のスターリン伝記である。大いに参考になると思って読んだ。
 その若き日から備えていた党への全身全霊の忠誠心は、権力を握るにつれ、他者への威力として悪いほうに発揮されていく。その推移を本書は教えてくれた。
 スターリンはグルジアの活動家として活躍し、「妥協を断乎として拒むことこそ。革命運動における最上の武器なのだ。私が粗暴で無礼な男だと人はいうかも知れない。しかし、そんなことは私には問題じゃない。私は、党を破壊しようとするあらゆる敵と戦いつづけるだろう」と宣言、若干22歳にして党指導者の一員にのしあがった。
 粗暴といわれようが、革命を断乎行う。危急存亡のときに、この強引な暴力性と指導力は、必要とされ、評価もされたのだろう。
 党の資金を得るため、銀行強盗すら行うのである。(日本のブント赤軍派が同様のことを行っていたのも、こうした先例があったわけである)
 と、後のスターリンを知る上で、グルジア時代は示唆に富んでいる。しかし驚くべきは、その飽くなき欲である。権力欲、物欲、性欲、その衰えを知らぬ欲が、ソ連の独裁者としてスターリンを支えていく。
 党のためという欲は、党=自分だったのではないかとさえ思える。晩年の狂乱は、信じ難い。猜疑心に振り回され、腰巾着はこれに応じて暴虐の限りを尽くした。
 それでもソ連が倒れなかったこと、独ソ戦に勝ったことは驚異だが、もしかしたら、ロシアの国家、軍隊は、非常時を乗りきるのに、スターリンの狂気を必要ともしていたのかもしれない。
 普通の神経の持ち主であるなら、あれほどの死者を出してなお、戦いつづけるだろう続けようとはしないだろうから。

読書感想文864

2023-10-20 08:52:45 | ノンフィクション
『フォークランド紛争の内幕 狂ったシナリオ』(朝日新聞外報部 朝日新聞社)

 フォークランド紛争に関する書籍は原書房のものを持っているが、他にないかなと探して見つけた。案外、少いのである。島嶼防衛・奪還という観点から、日本には学ぶところ多い戦例だと思うのだが。
 とはいえ、本書は朝日新聞特報部がまとめたルポルタージュ(というか報道まとめ版みたいなもの)であり、対象は一般大衆向け。軍事的な資料としての価値はあまりない。
 読んでいて発見はあり、面白さは抜群だが、双方の部隊についての配置図や見積等、資料館的なものがほとんど加えられておらず、やや歯痒かった。
 しかし紛争翌年に、これだけのものを発刊する熱量、仕事力には感心する。
 直後の報道に依拠しているため、微妙に誤ったデータも散見されたが、それを補って余りある読み物にはなっている。
 サンデータイムズがまとめた原書房のものとは違った切り口なのも良かった。

読書感想文863

2023-10-15 22:09:57 | ノンフィクション
『自衛隊「影の部隊」情報戦』(松本重夫 アスペクト)

 目につく題名なので、以前から知っていたが、目につくだけに胡散臭さも感じ、手が伸びなかった。古書店で見つけて、ようやく読む機会を得た。
 著者は本作刊行時、88歳。終戦時25歳で参謀少佐という逸材だが、さすがに老齢のためか、どうやらライターが書いたものらしい。奥付けには「本文構成」という名目でライターの名が記されている。
 題名といい、ゴーストライター(といってもいいだろう)の執筆といい、売りたい鼻息が前面に感じられ、眉唾ものと見ざるを得なかった。
 真実も記されているのかもしれないが、年寄りの自慢話みたいなのが過半を占めているし、ヒューミントの世界は証拠もなにもあったものではないから、「あの事件は俺が、裏で関わっていて云々」といった話はいくらでも書けるのだ。
 調査隊がどのように編制されていったか、また、調査学校発足間もない頃の逸話など興味をもって読んだが、概ね週刊誌にでも掲載されてるような話と思って読まざるを得なかった。