『中国、「宇宙強国」への野望』(寺門和夫 ウェッジ)
中国版GPS『北斗』が間もなくサービスを開始するというニュースは、象徴的だった。中国は、米露が主役だった宇宙に、脇役としてでなく、主役級として参入したのである。
本書は、中国の宇宙開発の歴史と現状をまとめたものであり、あまり知らなかった中国の先進的技術と宇宙進出の現在を知る良いガイドブックとなっている。
ロケット、人口衛星開発の黎明期から紐解き、有人宇宙飛行そして現在に連なる月面探査や宇宙ステーション開発の経緯も分かりやすく述べられている。ロケットの種類、系統や人工衛星それぞれの目的も整理されており、資料的にも役立つものになっている。
だが最も興味深いのは、宇宙開発の目的、表題に謂う“野望”の中身である。よく言われるように、中国が軍の近代化を重視するきっかけとなったのは湾岸戦争であり、いわゆるC4ISR(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察)が戦争の根幹となることを認識させられたことで、それまでの質より量の軍備を見直したという。
本書においては、また違った考察がされている。
江沢民政権の時代から、人民解放軍は近代化を進めてきた。その人民解放軍に大きなインパクトを与えたのが、1991年の湾岸戦争である。人民解放軍は、湾岸戦争におけるアメリカ軍の作戦は、インテリジェンス活動の70~80%、通信手段の80%を宇宙に依存していたと分析した。つまり、人工衛星とネットワークによってもたらされる「情報」が、作戦を成功させる決定的な要因であることに気付いたのである。この確信は2003年のイラク戦争でさらに深まった。こうして、人民解放軍は未来の戦争に勝利するには「制情報権」を握ることが必要であり、そのためには「制天権」が必要と考えるにいたった。
これは面白いと思った。陸における決戦が勝敗を分けていた時代においては、戦場を見下ろす地点、「制高点」を得た者が戦いを有利に進めた。海軍力が重要視されると制海権、そして航空機が戦場を跋扈する第一次世界大戦以降は制空権が重視された。さらに宇宙を制する「制天権」・・・
中国が国家を挙げて宇宙への進出に力を注ぐ理由が一つは理解できた。また、宇宙における開発が強力な外交ツールになっているという指摘は、私には盲点だった。本書はこう指摘している。
2022年に完成予定の中国の宇宙ステーションには、中国にとって戦略的に重要な国々の宇宙飛行士が訪れることになるであろう。(中略)
これは、かつてソ連が共産圏の結束を固めるためにインターコスモス計画で用いた手法である。共産圏諸国の宇宙飛行士が次々とサリュート宇宙ステーションやミール宇宙ステーションを訪れたものである。自前の宇宙ステーションをもつということが、いかに国際的な地位を高め、周辺の国々をひきつけるものであるかを、中国はロシアから学んだのであろう。
もはや中国の宇宙進出に対抗したり、それを抑制できる国家はないだろう。とするなら、取るべきは共存の道であり、平和、友好でしかない。
欧米諸国を含めて、私たちは中国の動向に、不安を抱くことがある。それは彼らの謂う“復興”とか“夢”というものが、かつての屈辱の裏返しであると知っているからであり、私たちの祖父以前の世代が、加害者だった歴史を否定できないからだ。
著者は最後にこう書いている。
中国の宇宙開発は確かに目覚ましい進展を遂げている。ただしその未来は「中国の夢」として語られ、宇宙開発の本来の姿である「人類共通の夢」として語られることはない。この点が、中国の宇宙開発に対して多くの国が不安や懸念をいだく最大の原因となっている。
「中国の夢」=「人類共通の夢」であるという文脈を得られるよう努力する必要があるだろう。その場合、日本が架け橋となり得るのかもしれない。
私は以下に引用する日中平和友好条約の精神を信じたい。それが世界の平和にも貢献するものであることは確かである。
第一条
1
両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする。
2
両締約国は、前記の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。
第二条
両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対することを表明する。
第三条
両締約国は、善隣友好の精神に基づき、かつ、平等及び互恵並びに内政に対する相互不干渉の原則に従い、両国間の経済関係及び文化関係の一層の発展並びに両国民の交流の促進のために努力する。

中国版GPS『北斗』が間もなくサービスを開始するというニュースは、象徴的だった。中国は、米露が主役だった宇宙に、脇役としてでなく、主役級として参入したのである。
本書は、中国の宇宙開発の歴史と現状をまとめたものであり、あまり知らなかった中国の先進的技術と宇宙進出の現在を知る良いガイドブックとなっている。
ロケット、人口衛星開発の黎明期から紐解き、有人宇宙飛行そして現在に連なる月面探査や宇宙ステーション開発の経緯も分かりやすく述べられている。ロケットの種類、系統や人工衛星それぞれの目的も整理されており、資料的にも役立つものになっている。
だが最も興味深いのは、宇宙開発の目的、表題に謂う“野望”の中身である。よく言われるように、中国が軍の近代化を重視するきっかけとなったのは湾岸戦争であり、いわゆるC4ISR(指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察)が戦争の根幹となることを認識させられたことで、それまでの質より量の軍備を見直したという。
本書においては、また違った考察がされている。
江沢民政権の時代から、人民解放軍は近代化を進めてきた。その人民解放軍に大きなインパクトを与えたのが、1991年の湾岸戦争である。人民解放軍は、湾岸戦争におけるアメリカ軍の作戦は、インテリジェンス活動の70~80%、通信手段の80%を宇宙に依存していたと分析した。つまり、人工衛星とネットワークによってもたらされる「情報」が、作戦を成功させる決定的な要因であることに気付いたのである。この確信は2003年のイラク戦争でさらに深まった。こうして、人民解放軍は未来の戦争に勝利するには「制情報権」を握ることが必要であり、そのためには「制天権」が必要と考えるにいたった。
これは面白いと思った。陸における決戦が勝敗を分けていた時代においては、戦場を見下ろす地点、「制高点」を得た者が戦いを有利に進めた。海軍力が重要視されると制海権、そして航空機が戦場を跋扈する第一次世界大戦以降は制空権が重視された。さらに宇宙を制する「制天権」・・・
中国が国家を挙げて宇宙への進出に力を注ぐ理由が一つは理解できた。また、宇宙における開発が強力な外交ツールになっているという指摘は、私には盲点だった。本書はこう指摘している。
2022年に完成予定の中国の宇宙ステーションには、中国にとって戦略的に重要な国々の宇宙飛行士が訪れることになるであろう。(中略)
これは、かつてソ連が共産圏の結束を固めるためにインターコスモス計画で用いた手法である。共産圏諸国の宇宙飛行士が次々とサリュート宇宙ステーションやミール宇宙ステーションを訪れたものである。自前の宇宙ステーションをもつということが、いかに国際的な地位を高め、周辺の国々をひきつけるものであるかを、中国はロシアから学んだのであろう。
もはや中国の宇宙進出に対抗したり、それを抑制できる国家はないだろう。とするなら、取るべきは共存の道であり、平和、友好でしかない。
欧米諸国を含めて、私たちは中国の動向に、不安を抱くことがある。それは彼らの謂う“復興”とか“夢”というものが、かつての屈辱の裏返しであると知っているからであり、私たちの祖父以前の世代が、加害者だった歴史を否定できないからだ。
著者は最後にこう書いている。
中国の宇宙開発は確かに目覚ましい進展を遂げている。ただしその未来は「中国の夢」として語られ、宇宙開発の本来の姿である「人類共通の夢」として語られることはない。この点が、中国の宇宙開発に対して多くの国が不安や懸念をいだく最大の原因となっている。
「中国の夢」=「人類共通の夢」であるという文脈を得られるよう努力する必要があるだろう。その場合、日本が架け橋となり得るのかもしれない。
私は以下に引用する日中平和友好条約の精神を信じたい。それが世界の平和にも貢献するものであることは確かである。
第一条
1
両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする。
2
両締約国は、前記の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。
第二条
両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対することを表明する。
第三条
両締約国は、善隣友好の精神に基づき、かつ、平等及び互恵並びに内政に対する相互不干渉の原則に従い、両国間の経済関係及び文化関係の一層の発展並びに両国民の交流の促進のために努力する。
