『君主論』(マキアヴェッリ 河島英昭訳 岩波文庫)
十年以上前から読もう読もうと宿題のように思い続けていたものである。いまさらになったのは、私の中で、いわゆるマキアヴェリズムという言葉が一人歩きし、頑なにそれを拒もうとしていたからであろうと思う。まったくの独り相撲、阿呆なことをしたと反省している。
読んで、そのしたたかな考察に唸らされた。正義や理想だけでは生きてはいけぬということを、戦乱のイタリアでマキアヴェリはその身を持って感じていたのだろう。
この読書で私は以下二点の開眼を得た。
理想をいうまえに、ちょっと待てよと立ち止まるべきであること。
全体最適を追求するのならば、必要悪は必要であり、それをいかに運用し正当化するかが政治力なのか、という気づき。
しかし、そんな実務上の、したたかな指南書でしかなかったなら、『君主論』は500年を経て生き続けはしなかったろう。マキアヴッェリの文才。それを堪能するためにも、また時間のあるときにじっくり読んでみたい。
感想文とは関係ないが、備忘録として今回気になった部分を以下に抜粋する。
【君主は歴史書を読まねばならない。そしてその内に卓越した人物たちの行動を熟慮し、戦争のなかでどのような方策を採ったかを見抜き、彼らの勝因と敗因とを精査して、後者を回避し前者を模倣できるように努めねばならない。】
【平時にあっても決して安逸にふけることなく、刻苦勉励してこれらの故事を宝物とし、逆境にあってこそこれらを役立て、運命が、たとえ変わったときにも、それに耐えられるよう備えを固めておかねばならない。】
【君主たる者は、おのれの臣民の結束と忠誠心とを保たせるためならば、冷酷という悪評など意に介してはならない。】
【過度の信頼によって無用心を招くことなく、また過度の不信によって耐え難い者とならぬように行動すべきである。】
【二つのうちの一つを手放さねばならないときには、慕われるよりも恐れられていたほうがはるかに安全である。なぜならば、人間というものは、一般に恩知らずで、移り気で、空惚けたり隠し立てをしたり、危険があればさっさと逃げ出し、儲かることにかけては貪欲であるから】
【だがしかし、君主は、慕われないまでも、憎まれることを避けながら、恐れられる存在にならねばならない。】
【慈悲深く、信義を守り、人間的で、誠実で、信心深く、しかも実際にそうであることは、有益である。だが、そうでないことが必要になったときには、あなたはその逆になる方法を心得ていて、なおかつそれが実行できるような心構えを、あらかじめ整えておかねばならない。】
【運命がその威力を発揮するのは、人間の力量がそれに逆らってあらかじめ策を講じておかなかった場所においてであり、そこをめがけて、すなわち土手や堤防の築かれていない箇所であることを承知の上で、その場所へ、激しく襲いかかってくる。】

十年以上前から読もう読もうと宿題のように思い続けていたものである。いまさらになったのは、私の中で、いわゆるマキアヴェリズムという言葉が一人歩きし、頑なにそれを拒もうとしていたからであろうと思う。まったくの独り相撲、阿呆なことをしたと反省している。
読んで、そのしたたかな考察に唸らされた。正義や理想だけでは生きてはいけぬということを、戦乱のイタリアでマキアヴェリはその身を持って感じていたのだろう。
この読書で私は以下二点の開眼を得た。
理想をいうまえに、ちょっと待てよと立ち止まるべきであること。
全体最適を追求するのならば、必要悪は必要であり、それをいかに運用し正当化するかが政治力なのか、という気づき。
しかし、そんな実務上の、したたかな指南書でしかなかったなら、『君主論』は500年を経て生き続けはしなかったろう。マキアヴッェリの文才。それを堪能するためにも、また時間のあるときにじっくり読んでみたい。
感想文とは関係ないが、備忘録として今回気になった部分を以下に抜粋する。
【君主は歴史書を読まねばならない。そしてその内に卓越した人物たちの行動を熟慮し、戦争のなかでどのような方策を採ったかを見抜き、彼らの勝因と敗因とを精査して、後者を回避し前者を模倣できるように努めねばならない。】
【平時にあっても決して安逸にふけることなく、刻苦勉励してこれらの故事を宝物とし、逆境にあってこそこれらを役立て、運命が、たとえ変わったときにも、それに耐えられるよう備えを固めておかねばならない。】
【君主たる者は、おのれの臣民の結束と忠誠心とを保たせるためならば、冷酷という悪評など意に介してはならない。】
【過度の信頼によって無用心を招くことなく、また過度の不信によって耐え難い者とならぬように行動すべきである。】
【二つのうちの一つを手放さねばならないときには、慕われるよりも恐れられていたほうがはるかに安全である。なぜならば、人間というものは、一般に恩知らずで、移り気で、空惚けたり隠し立てをしたり、危険があればさっさと逃げ出し、儲かることにかけては貪欲であるから】
【だがしかし、君主は、慕われないまでも、憎まれることを避けながら、恐れられる存在にならねばならない。】
【慈悲深く、信義を守り、人間的で、誠実で、信心深く、しかも実際にそうであることは、有益である。だが、そうでないことが必要になったときには、あなたはその逆になる方法を心得ていて、なおかつそれが実行できるような心構えを、あらかじめ整えておかねばならない。】
【運命がその威力を発揮するのは、人間の力量がそれに逆らってあらかじめ策を講じておかなかった場所においてであり、そこをめがけて、すなわち土手や堤防の築かれていない箇所であることを承知の上で、その場所へ、激しく襲いかかってくる。】
