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よい子の読書感想文 

2005年から、エッセイ風に綴っています。

読書感想文196

2008-12-26 15:00:00 | 純文学
『きれぎれ』(町田康 文春文庫)

 町田康の芥川賞受賞作である。読むのは三度目くらい。
 表現力というより、分解の仕方が途方もなく面白い。例えばランパブで他の客が歌う歌詞を要約してこう書く。
《芸術のためであれば配偶者がどんな悲惨な目にあっても自分は気にしないし、配偶者もそれを承知で自分と婚姻関係を結んだのであって、さらに、自分の芸術が発展するためには、配偶者が嫌がるような浪費や放蕩はこれを進んでやるべきであり、自分は今後もそういうことを断固やっていこうと思う。》
 冷笑ではない。この作風に漂うのは、分解して確かめてみたいという探求心と、その結果こうむる通念からの逆襲、そして避けられぬ自嘲と、相反する自負である。混沌としている。
 とはいえ、作中人物は、混沌の中、もがいてあがいてはみるが、そこから逃げようとはしない。ドン・キホーテのように滑稽に、しかし本気な闘いが、程よい自嘲と自負の狭間で行われていく。
 先日購入したデビューアルバム『メシ喰うな』では、この傾向がもっと先鋭化して、ギラギラして、聴くものに噛みつくようだった。
 最近の小説も読んでみようと思う。


読書感想文195

2008-12-15 12:43:00 | エッセイ
『へらへらぼっちゃん』(町田康 講談社文庫)

 町田康が『くっすん大黒』で文壇デビューした頃のエッセイである。
 煮詰まった。身動きならぬ。そんなとき、久しぶりに読んでみようと思って出張に携えた。
 通念への挑戦。あるいは解体。90年代が求めた文学だと思う。支離滅裂のようでいて、多彩で含蓄ある語彙は、日本近代文学の素養に裏付けられ、偏執狂的な原理・原則へのこだわりは、ポスト・モダンが笑い飛ばしたつもりで丸投げしてしまった問題を面白おかしく提起する。
 危険でこっけいな幼児性。しかしそれはそもそも言葉を扱うものに、こだわってほしい部分だったのである。町田康が『日本文学の救世主』と呼ばれる所以だろうか。
 今度はデビューアルバム『メシ食うな』を聴きたくなって、CDを注文してみた。