『日本軍事史〈上巻〉戦前篇』(藤原彰 社会批評社)
歴史は昔から好きで、よく読んできたものだが、軍事史を、政治・経済・技術の分野から、総合的に系統立てて分析したものは初めてで、読み応えがあった。
年表上でしか知らなかったこと。
概略や通説の知識に甘んじていたこと。
それらに詳細な歴史的背景が与えられ、疑問のままに途切れていた回路がつながっていくようだった。
また、特に単なる年表上の出来事として流されがちな開国前後の軍事的事件に関しては、その後の日本軍を知るための伏線が隠されており、意外であった。
著者は前書きでこう記している。
『この軍国主義と戦争の歴史は、日本国民にとって決して誇るべきものとはいえない。しかし、軍国主義の犠牲、戦争の被害が大きかったからこそ、その実態を明らかにし、その原因をつきとめることが必要である。軍事史は、戦争を再発させないためにこそ究明されるべきであろう。』
とすれば、昨今の、歴史解釈をめぐる実態をかけ離れたキャンペーンについて、われわれはもっと警戒すべきだろう。
そして敗戦の一因として、
『いっさいの権力が名目的には天皇に集中するという形式が固定化した。そのことは、政治家も軍部の指導者もすべて官僚化し、いっさいの責任をのがれるという、「膨大な無責任の体系」が育っていたことでもあった。』と指摘する。
これは非常に恐ろしいことだ。事態は変わっていないように、私には感じられる。名目上の主権者が天皇から国民に変わったというだけだ。政府の政策、その最終的な責任の所在は、現政権を選んでいる国民に帰着する。匿名で投票し、あるいは棄権し、自らはその結果に関与していないと高をくくったわれわれひとりひとりの無責任性が、政府の無責任を助長していくだろう。
下巻は戦後篇。いよいよ、現在進行形の歴史に迫るわけだ。これはじっくり読みたいものである。

歴史は昔から好きで、よく読んできたものだが、軍事史を、政治・経済・技術の分野から、総合的に系統立てて分析したものは初めてで、読み応えがあった。
年表上でしか知らなかったこと。
概略や通説の知識に甘んじていたこと。
それらに詳細な歴史的背景が与えられ、疑問のままに途切れていた回路がつながっていくようだった。
また、特に単なる年表上の出来事として流されがちな開国前後の軍事的事件に関しては、その後の日本軍を知るための伏線が隠されており、意外であった。
著者は前書きでこう記している。
『この軍国主義と戦争の歴史は、日本国民にとって決して誇るべきものとはいえない。しかし、軍国主義の犠牲、戦争の被害が大きかったからこそ、その実態を明らかにし、その原因をつきとめることが必要である。軍事史は、戦争を再発させないためにこそ究明されるべきであろう。』
とすれば、昨今の、歴史解釈をめぐる実態をかけ離れたキャンペーンについて、われわれはもっと警戒すべきだろう。
そして敗戦の一因として、
『いっさいの権力が名目的には天皇に集中するという形式が固定化した。そのことは、政治家も軍部の指導者もすべて官僚化し、いっさいの責任をのがれるという、「膨大な無責任の体系」が育っていたことでもあった。』と指摘する。
これは非常に恐ろしいことだ。事態は変わっていないように、私には感じられる。名目上の主権者が天皇から国民に変わったというだけだ。政府の政策、その最終的な責任の所在は、現政権を選んでいる国民に帰着する。匿名で投票し、あるいは棄権し、自らはその結果に関与していないと高をくくったわれわれひとりひとりの無責任性が、政府の無責任を助長していくだろう。
下巻は戦後篇。いよいよ、現在進行形の歴史に迫るわけだ。これはじっくり読みたいものである。
