『茨木のり子詩集』(現代詩文庫 思潮社)
紀伊国屋の詩集コーナーで、なんとなく手にとったら、帯に『追悼・茨木のり子』の字が。
知らなかった。私はてっきり、フランスのルオー爺さんのように、元気に長生きしているものとばかり思っていた…
私は茨木のり子の、ざくざくと畳み掛けるような勢いが好きだ。姉のような優しさと、女革命家みたいな激しさが共存していて。
たとえるなら叱咤激励されながら抱擁を受けるような。
有名ないくつかの詩については置いておくとして、私がこの詩集で見つけた女革命家っぷりは以下の詩に集約されている。
最上川岸
子孫のために美田を買わず
こんないい一行を持っていながら
男たちは美田を買うことに夢中だ
血統書つきの息子に
そっくり残してやるために
他人の息子なんか犬に喰われろ!
黒い血糊のこびりつく重たい鎖
父権制も 思えば長い
風吹けば
さわさわと鳴り
どこまでも続く稲の穂の波
かんばしい匂いをたてて熟れている
金いろの小さな実の群れ
<あれはなんという川ですか>
ことこと走る煤けた汽車の
まむかいに座った青年は
やさしい訛をかげらせて 短く答える
<最上川>
彼のひざの上に開かれているのは
古びた建築学の本だ
農夫の息子よ
あなたがそれを望まないなら
先祖伝来の藁仕事なんか けとばすがいい
和菓子屋の長男よ
あなたがそれを望まないのなら
飴練るへらを空に投げろ
学者のあとつぎよ
あなたがそれを望まないのなら
ろくでもない蔵書の山なんぞ 叩き売れ
人間の仕事は一代かぎりのもの
伝統を受けつぎ 拡げる者は
その息子とは限らない
その娘とは限らない
世襲を怒れ
あまたの村々
世襲を断ち切れ
あらたに発って行く者たち
無数の村々の頂点には
一人の象徴の男さえ立っている
ここまで書くのもすごいが、やはり詩人はこうでなくちゃ、と思う。
茨木のり子。私にとって座右の書となりそうである。

紀伊国屋の詩集コーナーで、なんとなく手にとったら、帯に『追悼・茨木のり子』の字が。
知らなかった。私はてっきり、フランスのルオー爺さんのように、元気に長生きしているものとばかり思っていた…
私は茨木のり子の、ざくざくと畳み掛けるような勢いが好きだ。姉のような優しさと、女革命家みたいな激しさが共存していて。
たとえるなら叱咤激励されながら抱擁を受けるような。
有名ないくつかの詩については置いておくとして、私がこの詩集で見つけた女革命家っぷりは以下の詩に集約されている。
最上川岸
子孫のために美田を買わず
こんないい一行を持っていながら
男たちは美田を買うことに夢中だ
血統書つきの息子に
そっくり残してやるために
他人の息子なんか犬に喰われろ!
黒い血糊のこびりつく重たい鎖
父権制も 思えば長い
風吹けば
さわさわと鳴り
どこまでも続く稲の穂の波
かんばしい匂いをたてて熟れている
金いろの小さな実の群れ
<あれはなんという川ですか>
ことこと走る煤けた汽車の
まむかいに座った青年は
やさしい訛をかげらせて 短く答える
<最上川>
彼のひざの上に開かれているのは
古びた建築学の本だ
農夫の息子よ
あなたがそれを望まないなら
先祖伝来の藁仕事なんか けとばすがいい
和菓子屋の長男よ
あなたがそれを望まないのなら
飴練るへらを空に投げろ
学者のあとつぎよ
あなたがそれを望まないのなら
ろくでもない蔵書の山なんぞ 叩き売れ
人間の仕事は一代かぎりのもの
伝統を受けつぎ 拡げる者は
その息子とは限らない
その娘とは限らない
世襲を怒れ
あまたの村々
世襲を断ち切れ
あらたに発って行く者たち
無数の村々の頂点には
一人の象徴の男さえ立っている
ここまで書くのもすごいが、やはり詩人はこうでなくちゃ、と思う。
茨木のり子。私にとって座右の書となりそうである。
