goo blog サービス終了のお知らせ 

よい子の読書感想文 

2005年から、エッセイ風に綴っています。

読書感想文756

2020-11-03 12:21:00 | その他
『さくらと扇』(神家正成 徳間書店)

 新聞の紹介記事で見つけて、後で読もうと思っていたのを、半年ほどしてから入手した。
 歴史小説は巷に溢れていて、読み物的な、消費されて終わる品質のものが少なくない。だから余程のことがないと冒険はしない。たとえば地元に縁ある武将の話とか、個人的に思い入れある戦国大名のストーリーなら、多少は文章がまずくても感情移入できる。まあガッカリしても良いから読んでみようと思う。本作もそのような経緯で手に取った。
 何故か分からないが凋落した由緒ある武将に惹かれる。かつて熱中した歴史シミュレーションゲーム『信長の野望』においても、足利将軍家や姉小路家が捨てがたかった。弱いからスリルがあるし、なんとか生き延びさせようと判官贔屓の情熱が沸いてくるのだ。
 さらに弱小過ぎて、『信長の野望』においても一部のシリーズでしか大名として登場しないのが、古河公方や小弓公方の足利家だ。で、本作は、この足利家を舞台に描く話なのである。これまで題材に選ばれたことはないだろう。読んで損なしと思った。マニア心をくすぐる。歴史小説にも隙間産業があるのだろうか。
 古河公方家が戦国期、北条家の傀儡となり、さらに足利義氏が世継ぎないまま死に、小弓公方系の男子が婿入りして江戸の世に名を残した。という経緯は知っていた。本作は、義氏の娘で婿を取って名を残した足利氏姫と、婿の姉で、家を守るため秀吉の側室に入った足利嶋子、ふたりの女性を主人公として描かれる。
 子を成し或いは政略結婚で家名を守る、女の戦がテーマで、チャレンジングな内容だが、歴史ものとしては難しいだろうと思う。
 どうしても普通の武将を中心に据える話に比して、合戦の場面はメインにならない。いろいろな駆け引きや、女ゆえの知恵を活用した権謀術数で、“戦”は進められる。
 数年前の大河ドラマ『女城主直虎』もそうだったが、退屈さは否めない。本書は枕頭で読み進めたが、なかなか熱中はできなかった。
 人間の人生模様を描くドラマとしては、面白かった。終盤に向け、次々と伏線が回収されていく構成も、なかなかのものだった。
 ただ、ちょっと子供向けというか、『ジャンプ』にでも連載されている歴史マンガみたいに、くさい表現が散見され鼻についた。現代におけるエンタメ系歴史小説が纏う、デフォルトの匂いなのかもしれない。もしくは、最初から読者をジャンプのような週刊コミック誌愛読の輩と想定しての文体だったのか。



読書感想文726

2020-04-19 10:33:00 | その他
『発達障害のピアニストからの手紙』(野田あすか 野田福徳・恭子 アスコム)

 5年前、朝日新聞『ひと』欄に載っており、以来気になっていた。ドラマ版『のだめカンタービレ』を妹に勧められて好きになり、実はモデルとなったピアニストがいると聞いていた。記事に載った野田あすかさんの写真は、上野樹里演じる“のだめ”と雰囲気がとても似ていた。
 スクラップブックをパラパラめくっていて、記事の切り抜きを見つけ、本書を注文した。コロナ禍で時間がある。それに発達障害への関心の高まりに伴い、私は自分自身の傾向に多くの該当項目のあることに気づいてきて、その本人と家族の書いたものという意味でも読まないわけにはいかないと思ったのだ。他人事ではないからである。
 プロフィールにある通りだが、壮絶な半生が描かれている。野田あすかさんは私の4つ年下のほぼ同世代。発達障害という概念は、子供のころ誰も知らなかった。いじめられるだろうし、できない自分を責め、心の健康を損なっていくのは、ある意味で必然である。
 私も学校は居心地が悪かった。軽度で、幾つかの傾向に該当する程度の私でも、朝になるとしょちゅう腹痛を起こし、休みがちだった。次第に解離性障害を発症していく野田あすかさんは、それだけ強いストレスを抑圧してきたということだろう。私は(結果的に)タバコ、文学、異性、クルマ、酒、ランニングというふうに心を紛らわすことを、無意識のうちに、たくさんセッティングし、なんとか生きてこれたが、自傷行為に至る心理はよく分かる気がする。自分を罰する、痛みによって苦痛を紛らす、早く死んでしまえば良い・・・というふうに私も、若いころは根性焼きをやったり、タバコを自棄くそのように1日40本くらい吸っていたのだ。(ようやく止められたが大酒を飲むのも、現在進行形の走りまくりの日々も、形を変えた自傷行為といえなくもないだろう)。
 学校を追い出され、解離性障害で飛び降り事故という壮絶さの中にも、ピアノをやりたい、コンクールに出たいと思い続けて、大成していく。本人にとっても救いだろうが、そのエピソードと音楽そのものが、多くの人の勇気になるだろう。
 CDもついている。透き通るような歌声が印象的だ。いつかコンサートにいってみたい。


読書感想文658

2019-01-11 09:47:00 | その他
『自閉症スペクトラム障害』(平岩幹男 岩波新書)

ここ数年、アスペルガーなどの発達障害に関する書籍や番組が増え、ようやくそれらが周知されてきた観がある。昨年末にはNHKが“ふつうってなんだろう”という切り口で特集していて、そもそも健常者とか“ふつう”っていうのが、恣意的なのかなと考え直すきっかけになりそうで、歓迎すべきことと感じた。
 実は私自身、自己診断ながらアスペルガー的要素を多く持っていると感じている。長年の生きづらさの由来が、その症例と符合している。そうか、自分は発達障害なのかと落ち込むことはなく、これまでの苦しみの要因が少し解き明かされつつある気がして、そうと知れば対処も心の準備もできるから、知っておくべきと前向きに捉えている。
 知らないで周りとの軋轢を増幅させたり、自らを責めたりし、長らく私は抑うつ状態あるいは適応障害的な状態に苦しんできた。本書でも指摘されるとおり、一定の要素を持ち合わせている人の割合は非常に高く、どこからが発達障害と呼べるのかは定義が難しい。私もかろうじて社会人として生きてこれた以上、グレーなゾーンに居るのだと思うが、いずれ受診して調べてもらい、今後の生活の参考、指針を得たいと思う。
 こういった問題意識をもともと持っていたので、本書は大変興味深く読めた。軽いものや漫画などはよく目にするが、医療現場で真摯に向き合ってきた著者ならではの成果が、誰にでもわかりやすく書かれていて、開眼させてくれる読書となった。頁の半分は幼児や学童期の診断と対処に割かれていて、飛ばして読まざるを得ない部分もあったけれど。
 今後も参考にこの分野のものは手にすると思う。そのための土台となる知識が得られた。


読書感想文208

2009-03-28 11:31:00 | その他
『ロスジェネ 第2号』(かもがわ出版)

 昨年創刊した“超左翼マガジン”の2号である。店頭で見つからないのでネットで注文した。
 創刊号は1万部近く売れたという。新聞での紹介で私も惹かれて買ったわけだが、問題意識を持つ人がそれだけ増えてきたということだろう。なにしろ『蟹工船』がベストセラーになるというご時世だ。
 しかし、『ロスジェネ』が3号雑誌にならぬとは限らない。読者の投稿も掲載され、オープンな雰囲気で良いが、特集のウェイトは対談に置かれ、それ以外のエッセイや小説は同人雑誌的な雰囲気だ。洗練されているとは言えない。
 と、高望みしてしまうのは『ロスジェネ』に対する私の過度な期待のせいであろう。現在は年に2回の刊行、半年に一度手にするこの小さく重い雑誌を、私はこれからもかすかな連帯を感じながら待つだろう。



読書感想文57

2006-01-26 22:21:00 | その他
『さよなら絶望先生 第一集・第二集』(久米田康治 講談社)

 マンガはあまり読まない。いまではたまにネットカフェで『カバチタレ』を読むくらいだ(広島が懐かしいのと法律の勉強になるため)。
 しかし、あるインテリな人に勧められ、このマンガを手にした。その人が面白いというからには、何かあるのだろうと期待したからである。少女マンガみたいな画風には、その人とのギャップがあって驚いたが…
 帯にはこう書かれている。
「世界のホントを、
ある意味教える!
新感覚・反面教師ギャグ!」
 たしかに“ある意味”面白かった。ほぼ支離滅裂といっていいほどネガティブな教師と、病的にポジティブな女生徒、その他、人間のある性格を極端にクローズアップした登場人物たち。また、いたるところに文学的なシャレや逆説がコラージュされ、単なるギャグマンガにはないブラックユーモアや味わいが出ている。
 しかし、私が“ある意味”とくくるのは、町田康を先に読みこんでしまったからだ。この作品には少なからず町田康のパロディ的要素が散見される。
 面白さのツボが近いだけに、町田康の強烈さに比べると……、なのである。