国際情勢について考えよう

日常生活に関係ないようで、実はかなり関係ある国際政治・経済の動きについて考えます。

内戦から国家間紛争へ

2006-12-28 | 国際社会

いわゆる内戦(国内紛争)が、国家間紛争(国際紛争)に転化・拡大する事例、もしくはそのようになりつつある事例が、ここ1ヶ月の間に増えてきています。

一つはエチオピアとソマリアの間の戦争です。もともとこの国際紛争は、ソマリアの内戦から始まりました。ソマリアでは、1991年に中央政府が反政府勢力に倒されて以来、ちょうど日本の戦国時代のときのように、国内の各氏族(クラン)が群雄割拠して、中央政府というものが事実上存在しない無政府状態が続いています。ここ数年は、名前だけの暫定政府と、国土の多くを実効支配する有力氏族の連合体である「イスラム法廷連合(UIC)」という反政府勢力が内戦を繰り広げています。そして、イスラム法廷連合は、首都モガディシュをはじめ、国土の大半を実効支配しているため、このまま事態を放置すると、こちらの方が正統政府になる可能性もありました。

しかし、ここに来て、隣国エチオピアが、公然とソマリア国内に侵攻し、ソマリア暫定政府と結託して、イスラム法廷連合に対する組織的な武力攻撃を開始するようになりました(関連記事)。まさに、内戦が国際紛争に転化してしまったということです。エチオピアがソマリアに侵攻した理由はとしては、表向きは、イスラム法廷連合がイスラム原理主義過激派の一派であり、アルカイダ・ネットワークとも関係があるので、こうした過激分子のエチオピア国内への浸透を防止するためとされています。たしかに、これは部分的には事実のようですが、それよりももっと実態に近い理由としては、エチオピアと国境紛争を戦っているエリトリアが、ソマリアのイスラム法廷連合を支援して、エチオピアの不安定化を図っているため、エチオピアが黙っていられなくなったという点が指摘されています(参考地図)。つまり、エチオピアは、ソマリアの反政府勢力を介して、結局エリトリアに反撃しているということです。

 

もう一つの事例は、まだ国際戦争の段階には至っていませんが、アフガニスタンにおけるタリバン勢力の復興というアフガニスタンの国内問題が、アフガニスタンとパキスタンの対立激化を招いている事例です(関連記事地図)。このアフガニスタンの国内問題の背景には、隣国パキスタンが抱える地政学的条件があると指摘されています。 ― もともとパキスタンという国は、少し離れたカスピ海沿岸地域の石油・天然ガスの産出国へのアクセス、国内の治安維持、国内経済の安定などの理由により、背後に控えるアフガニスタンが、常にパキスタンの言うことを聞くような状態に保っておかなければならない地政学的条件を抱えています。そのため、パキスタンは、これまでアフガニスタンに、親パキスタン的な政権を樹立・維持するために、様々な努力をしてきました。2001年の同時多発テロまで、アフガニスタンのタリバンを、パキスタン政府が公然と支援してきたのも、そのためです。

しかし、同時多発テロが起きて、タリバンがアルカイダ・ネットワークと密接な相互協力関係にあることが明るみに出てからは、パキスタンは大っぴらにタリバンを支援することができなくなりました。しかし、パキスタンとアフガニスタンの地理的関係は不動ですから、2001年以降、パキスタンは相当苦労してきたものと思われます。しかし、ここ一年ほどですが、アフガニスタンではタリバンの勢いが再び急速に復興し、国内の治安も急激に悪化するようになりました。まだ何とも言えませんが、やはりパキスタンが密かにタリバン支援を再開したためではないかということが言われており、最近ではアフガニスタンのカルザイ大統領は、パキスタン政府を公然と非難するようになって、両国の関係は日増しに悪化しています。

 

これら二つのケースは、国際テロ・ネットワークの活動拠点を今後いかに無力化していくかという問題とも密接に関係しているので、アメリカやEU諸国、ロシアなどの大国の利害関心事項でもあり、単なる地域紛争という枠組みを超えた大きな国際問題と言えます。地域の利害と、国際社会の利害が複雑に絡み合っていて、解決が容易でないことも今から予測されます。

しかし、このような小さな国内問題が国際戦争に転化、もしくは転化しつつある状況の中で、一つだけ良いこともあります。犠牲者が出ている問題なので、「良いこと」と言うのは語弊がありますが、不幸中の幸いと言えることが一つだけあります。それは、国内問題としてくすぶっていた段階では、国連などの第三者が仲介に乗り出せなかったのが、国際問題に転化してしまうと、当事国はもはや内政干渉を理由に、第三者の仲介や干渉を排除しづらくなるということです。大国が軍事介入するのは困りますが、外交的手段で、大国が国連の内外で和平交渉を仲介できるようになるのは、悪いことではありません。

悪い問題は内側に潜んでいるときは、その問題が存在しないかのように見えて、何となく気分はいいかもしれませんが、問題の根本的解決が遅れてしまいます。悪い問題が表沙汰になるのは、不愉快なことですが、それだけ問題の根本的解決が早くなります。そんなふうに前向きに捉えて、これらの問題と向き合えれば幸いです。 ― 最後に後味が悪いことを言って申し訳ありませんが、その意味では、ロシアのチェチェン問題などは、実に深刻です。

 ランキングに参加しております。もしよろしければ、ポチッとお願いします。