先週火曜(2月27日)に上海の株式市場が暴落し、それにつられて、ロンドン、ニューヨーク、東京などの世界の主要な株式市場が連鎖的に値を下げた世界同時株安は、まだ記憶に新しいところかと思います(参考記事)。これまでの世界レベルの株式市場の暴落というのは、ニューヨーク市場が発信源となったものがほとんどで、東京市場や、フランクフルト、ロンドン、ミラノのような欧州市場が発信源になったものはあまりありません。ましてや中国の市場が火元になったことは今回が初めてで、その意味では先週の暴落は、中国経済の存在感を否応なく露(あらわ)にしたアクシデントとなりました。
また、今回の問題は中国経済の存在感を示すとともに、その問題点も浮き彫りにしたところがあります。今さらという感じはしますが、中国経済のプラス面の特徴は、その巨大な人口ベースのスケール・メリットにありますが、マイナス面の特徴は、他の経済大国には見られない一党独裁体制に基づく政治による経済の締め付け、つまり政治権力による経済活動への恣意的な干渉と言えるように思います。いくら、改革開放政策が進んだと言っても、この中国の一党独裁体制は、国外から見ても、国内から見ても、中国経済の安定と成長の大きな足かせになっています。
今さら言うまでもないことですが、アメリカ、EU諸国、日本といった市場原理を尊重した資本主義経済を標榜する既存の経済大国は、独占・寡占、外部経済(環境問題など)といった健全な市場活動を阻害する要因を除去する目的以外では、あまり経済活動に干渉することをせず、市民の自由な経済活動を原則的に放任することによって、国内・国際レベルの市場から信任を獲得して、安定的な経済成長を達成してきています。そして、この経済活動の自由放任を保障し、内外の市場の信任を獲得する基盤となっているものが、実は政治の自由、つまり複数政党制に立脚する民主主義です。
このような政治の自由がある国では、企業や個人は、民主主義の各種制度(選挙、圧力団体の形成など)を利用して、政治権力と対等に渡り合い、自らの経済活動の自由を確保しています。つまり、政治の自由というのは、国民による経済活動の自由を保証し、商業上のインセンティブを維持する上での不可欠な要素でもあります。政治の自由のある国では、国民は自由に経済活動を行うことができ、そのような経済環境の下では、おのずと国民は労働意欲をかき立てられ、諸外国も投資の魅力にかき立てられ、結果的にその国は大きな経済成長を達成することができます。
しかし、ご存知の通り、中国という国には、政治の自由がありません。中国は、長く一党独裁体制を維持しており、国内に政党間の競争が存在しないため、政権党である共産党は、自らの政治的意思によって、市民の経済活動に対して、気の赴くままに恣意的な経済政策(財政政策、金融政策、産業政策など)を執り行ってきました。
このような状況では、国民はヤル気をなくし、諸外国も、中国経済が市場原理以外の政治的要素で動くために、やむなく投資を控えざるを得なくなります。中国経済は、すでに限定的な改革開放政策によって大きな成長軌道に乗っているので、これらの潜在的なマイナス要因はあまり顕在化していませんが、中国の人口と国民の労働意欲を考慮すれば、もしこの国に政治の自由があれば、成長のペースはこんなものではないはずです。
そして、さらなる問題は、この中国が一党独裁体制の国である問題が、今後の中国経済の動向を左右する大きな問題であるだけでなく、巨大な中国経済に左右される世界経済の動向さえも左右する大きな問題でもあるということです。「世界経済を左右する」という意味は、私たちの暮らし(賃金・雇用、消費生活など)を左右するという意味です。その意味で、この中国の一党独裁体制の問題は、もはやイデオロギーの問題ではなく、私たちの生活の実利に関わる問題でもあります。
その一方で、確かにこの問題は、一朝一夕では解決しない巨大な問題です。ロシアのような国を見ても、いかに市場経済と民主政が根付くのに時間がかかるか良く分かります。しかし、なぜアメリカが、一世紀近くにわたり世界一の経済大国のポジションを守り続けているのか、なぜ米ドルが世界で最も信用され、最も汎用される通貨であり続けているのか、なぜ世界の頭脳がアメリカに惹き付けられ、ノーベル賞受賞者の数でもダントツでトップなのか、なぜ常に科学技術の最先端を走り続けているのか等々といった問題を考えると、政治の自由が経済成長に果たす役割を過小評価することはできないと思わされます。
その意味でも、中国の民主化は、人権などの政治的観点だけでなく、私たちの生活面における経済的観点からも推進されるべきであろうと思わされます。中国経済の成長が、日本経済の脅威になるという見方もありますが、日本とアメリカの50年来の共存共栄的な関係を考えてみても、一時的な雇用の問題が起きたとしても、長期的には日本経済に大きなメリットをもたらすものと思います。
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