今年のノーベル平和賞が、バングラデッシュのグラミン銀行(Grameen Bank)と、その総裁、ムハマド・ユヌス氏に授与されました(報道/解説)。この銀行のすごいところは、世界最貧国の一つともいえるバングラデシュの中のさらに最貧地域に住む一般市民に、平均総額約7千円程度のお金をローンとして貸し、それで一般市民の家内制手工業的な仕事を手助けして(一例として、借りたお金でミシンを買ってもらって、服を縫製・販売してもらい、現金収入を確保させる等のサポート)、結果的に彼らの生活水準を引き上げ、銀行側も無理な手段を使わずにほぼ100%の返済率を確保し続けているところです。
ふつう最も貧しい国の最も貧しい人々にお金を貸したら、100%返ってこないと考えるのが常識です。しかし、グラミン銀行は、貸出時に借り手とじっくり話をして信頼関係を築き、最後も強制手段のような無理を一切使わずに、ほぼ100%近い返済率を確保しています。そして、もっとすごいことは、こうした成功を20年近くも維持していることです。さらに、もっともっとすごいことは、このグラミン銀行の手法は、いまやマイクロ・クレジット(小規模融資)という途上国開発の一事業部門として定型化し、世界中に普及して、いまや世界60カ国の約4000万世帯もの支援対象に広く普及しているということです。
私も国際協力の世界の端っこでご飯を食べてきましたが、この世界では、イベント・プロデューサーのような常識を破る企画力や性善説に基づく楽観主義と、会計監査役のような緻密さと性悪説に基づく現実主義の両方の資質がなければ、うまくやっていけないことを痛感しています。国際協力の世界には、慢性的な資金不足の問題があり、既存のルールに固執する組織や個人がおり、陰湿な足の引っ張り合いのようなものも時にはあって、前者のセンスがどうしても必要だと思わされます。
しかし同時に、数億単位のお金をめぐって利害関係者がうごめき、犯罪まがいの悪事が横行しそうになることもあり、後者のセンスもどうしても必要だと思わされます。ですから、グラミン銀行を創設し、維持しているユヌス氏という人も、いきなり大成功したように見えますが、おそらく陰では様々な辛酸を舐めた末に、あのような耐性の高いスキームを打ち建てることができたのではないかという気がします。
これまでの実績を考えると、今回の受賞は遅すぎたくらいではないかと思います。たしかに、マイクロ・クレジットは世界中に普及し始めており、特定の組織と個人に、その功績を帰すには、他の類似団体からクレームが付く可能性もあるのかもしれませんが、今回の受賞は関係者すべてに対して与えられたものとして理解して良いかもしれません。
最後に一つなぞなぞです。グラミン銀行は、主に家庭の主婦に融資して、一家の大黒柱である旦那さんには、お金をあまり貸さないそうです。なぜだか分かりますか? ― 旦那さんに貸すと、すぐに飲んでしまうからだそうです。女性の方が、物事を長期的に考える力があり、現状を打開する意欲と覇気があるとのことです。男よりも女に貸す、これは理論ではなく、実践で明らかになった一つの原則だそうです。面白いですね。
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