国際情勢について考えよう

日常生活に関係ないようで、実はかなり関係ある国際政治・経済の動きについて考えます。

「過去の亡霊」政策

2007-01-11 | 地域情勢

10日19時(アメリカ東部時間)、ブッシュ大統領はイラク問題に関する新政策を発表しました(関連記事演説全文・動画)。新政策の骨子は、1)さらに2万1千人の兵力増派、2)今年11月までに治安維持権限をイラク政府に移譲、3)12億ドルの経済復興支援、といったもので、圧倒的な兵力で反対勢力を一掃し、親米政権の基盤を強化した上で、全面撤退するということが政策目標となっているようです。

すでに一部報道でも指摘されていますが、この新政策は、以前の投稿で取り上げたイラク研究グループ(ISG)の政策提言とは、趣きが大きく異なるものです。ISGの提言は、今回増派の部隊も含めた米軍の主要任務を、イラク政府軍に訓練を施した上で早急に移譲すること、またイランとシリア政府との外交強化などを骨子としていましたが、今回の新政策は、こうしたISG提言の中核となるポイントを採用しておらず、内容的にも互いに相反するところがあります。

もちろん、ISGの提言は、たしかに一民間シンクタンクによるひとつの提案に過ぎず、大統領が従わなければならない法的義務は一切ありません。しかし、この提言は、共和・民主両党の裏ボス的な人々によってまとめられたものであり、議会からも幅広く支持を集めていました。それだけに、ここまで内容が食い違うと、今後大統領は、政策の実行段階で様々な障害に出会う可能性が出てくるように思います。

 

その中でも最大の障害として予想されるのでは、新政策の予算承認の手続きです。アメリカの大統領の権限は、日本の総理大臣とは比較にならないほど強大なものですが、法案と予算の承認権を議会が握っている点は、日本もアメリカも同じです。そして、アメリカの連邦議会は、先般の中間選挙以来、野党の民主党が多数を占めていますから、今回の新政策の予算措置が、議会を無事通過するとは到底思えません。ですから、今後この新政策に関する最大の注目ポイントの一つは、議会で実際に予算が承認されるかどうか、もしくはどの程度変更を迫られるかという点にあると言えるでしょう。

一方、仮に何らかの政治的妥協がホワイトハウスと議会の間で成立して、政策がそのまま実行に移されることになったとしても、この新政策が現場で功を奏すかどうかは別問題です。たしかに大統領は、今回の新政策の発表に先立ち、政策の履行面で万全を期すため、関係する主要幹部の大幅な人事異動を行いました。外交面では国務副長官、国連大使、イラク大使、軍事面では、国防長官、中央軍司令官、イラク現地司令官などを、すべて入れ替えました(関連記事)。しかし、このような人事面での体制の立て直しでは、どうにもならないほど、現地情勢が混迷する可能性は大いにあります。

 

今回の新政策の特徴は、一言で言うと、「増派して、一気に叩いて、平定する」というものですが、このやり方は、かつてアメリカがベトナムから足を抜くために行った政策と酷似しています。いまから約40年前、アメリカはベトナムに中途半端に介入して足が抜けなくなり、「増派して、一気に叩いて、平定する」ために、「撤退のための増派」を重ねました(参考記事)。その結果、足だけでなく、体半分が飲み込まれてしまい、アメリカの軍事的威信は失墜、アメリカ経済は凋落し、この覇権国の没落は、他の同盟国の政治・経済にまで大きな影響を与えました。

いまのブッシュ政権の幹部には、当時のケネディ、ジョンソン、ニクソン政権によるベトナム政策に、若手スタッフとして直接関与した人も多く、軍幹部にはベトナムでの実戦経験のある人もたくさんいます。これらの人々は、当然今回の新政策が、かつてのベトナムの政策に酷似していることを知っているはずです。なぜ、こんな「過去の亡霊」のような呪われた政策を、もう一回やろうとしているのでしょうか。やはり、大統領の権限が強いということなのかな?う~む、理解に苦しみます・・・。

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