イラクとイランは、たがいに国名は似ていますが、国としての中身や歴史背景は、かなり大きく違います。イラクという国は、アラビア語圏に属する国で、その意味では隣国シリアやヨルダンなどと文化的な共通項を多く持つ国です。一方、イランは、ペルシア語圏に属する国で、ルーツはアケメネス朝ペルシア、ササン朝ペルシアまで遡る独自の文化圏を構成する国であり、イラクから北アフリカ西端のモロッコにまで連なる広大なアラビア文化圏とは、一線を画する独自色の豊かな個性的な国です。
しかし、イラクとイランは、互いに似た要素も抱えています。それは両国とも、世界のイスラム人口の10%しかないシーア派が、国内の多数派を占めているという点です。イランでは国内人口の90%、イラクでも60%が、シーア派と言われており、両国は互いに言語がまったく異なるにも関わらず、この特殊な状況を共有しているということから、かつてスンニ派主導のフセイン政権の統治下で抑圧されていたイラクのシーア派の人々が、1979年のイスラム革命以来、シーア派が全権を握るイランに多数留学するなど、草の根レベルの交流が古くからあり、両国のシーア派同士のつながりは外部から見る以上に強いということが指摘されています。
現在のイラクは、国内のシーア派、スンニ派、クルド人という各勢力が三つ巴の戦いをしていますが、政治の実権の多くが、シーア派のマリキ首相に握られていることもあり、中央政府に力がないとは言え、イラクはシーア派政権の統治下にあると言ってもよい状態にあると思います。このような事情もあり、イラク問題の専門家である酒井啓子さんという方は、数週間前の朝日新聞の中で(日付不明、すみません)、シーア派政権によるスンニ派指導者のサダム・フセインの処刑を、イラクにおける「シーア派革命」の大きな節目であるという主旨のことを言っていました。とても分かりやすい分析だと思いました。
しかし、この「シーア派革命」には色々と問題もあり、シーア派政権下のイラク政府軍や警察の中に、シーア派強硬派であるムクタダ・サドル師が率いる民兵組織の構成員が浸透していることが指摘されているほか、彼らが様々なネットワークを通じて、隣国イランの政府機関から軍事支援や経済支援を取り付け、それでイラクの他勢力や米軍と戦っているのではないかという疑惑まで浮上しています(関連記事)。このイラン政府とイラクのシーア派勢力の結託は、アメリカ政府内ではほぼ常識の問題として捉えられており、アメリカ国防省の一部は、アメリカは「イラクの中でイランと戦っている」という感触さえも持っているようです(関連記事)。
このようにアメリカとイランの緊張が高まる中、さらにイランが、核関連施設で核爆弾の原料にもなる濃縮ウランの製造・開発を継続していることが発覚しました(関連記事)。そもそも、石油埋蔵量で世界第二位にいるイランが、「原子力発電のための核開発」をしていると主張することには、最初から信憑性がなく、国際社会から繰り返し警告を受ける中で、このような査察結果が出たことは、アメリカをさらに追い詰めることになっています。
折りしも、アメリカがイラン空爆の計画を具体的に策定したという報道があったばかりですが(関連記事)、今後の先行きは不透明とはいえ、アメリカがイランを攻撃する可能性は減じることはなく、ますます高まりつつあるように見受けられます。アメリカは、2001年に右足をアフガニスタンに突っ込み、2003年に左足をイラクに突っ込み、今年はイランに尻もちをついて、中東に飲み込まれようとしているように見えるのは、私だけでしょうか?
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