goo blog サービス終了のお知らせ 

トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

伝統保持と同化 その①

2008-08-11 21:28:09 | 読書/インド史
 インドのゾロアスター教徒パールシーは、名称どおり“ペルシアから来た人”の末裔であり、イスラム化した祖国ペルシア(現イラン)での宗教迫害を逃れ、インドに亡命した少数民族である。千年以上も前からインドに居住しているにも係らず、「その文化と伝統を守り抜いたのは驚くべきことだ」と、ネルーにも言わしめた。自らの文化を守りつつ、社会的に成功し周囲の多数派とも共存する姿勢は実に見事だが、やはり決して容易なこと . . . 本文を読む

インドの英国人官僚夫婦

2008-08-09 20:23:53 | 読書/インド史
 インド人作家ビーシュム・サーヘニーの著書『タマス(tamas:翳(えい)質)』とは、暗黒の意味もある題名通り、印パ分離独立前のインド北部パンジャーブ州での宗教対立を描いた作品である。それまで共に暮らしていた市の住民同士が宗教が違うとの理由で殺しあう場面は言葉も無かったが、陰惨な内容が大半の中で唯一苦笑を感じさせる箇所もあった。この地を管轄する公邸に住む英国人長官補夫妻の描写がそれで、英国人官吏も . . . 本文を読む

イギリスとインド その②

2008-08-08 21:26:10 | 読書/インド史
その①の続き インド支配を担ったのはインド総督以下植民地官僚だったが、英国の宗教界も少なからぬ働きを果たした。インド大反乱まで統治権を持っていたイギリス東インド会社の幹部は、現地に混乱をもたらす恐れのある布教には消極的だったが、宗教界は議会に積極的に布教への支持を訴える。建前こそ政教分離であれ、英国国教会は国王が首長という聖俗一体の宗派であり、信仰の自由が認められてはいるものの、今でも英国国教会が . . . 本文を読む

イギリスとインド その①

2008-08-07 21:17:55 | 読書/インド史
 私の学生時代の教科書には「セポイの反乱」と表記されていたが、1857-59年間に起きた英国の植民地支配への民族運動を、最近は「インド大反乱」と呼ぶようになった。いずれにせよ西欧史観そのままの呼称であり、我国の世界史教科書もそれに従っているが、インド側では第一次インド独立戦争ということもある。この戦争を経て英国によるインド支配が確立、実利主義に基づく徹底した分割統治は、現代の国際政治とも重なるのが . . . 本文を読む

インドの民話集 その③

2008-04-13 20:20:06 | 読書/インド史
その①、その②の続き『お前でなければ、お前の父親に違いない』の説話は興味深い。ある時、子羊が山の流れで水を飲んでいた。そこへ1頭の虎が子羊より数メートル上の所で水を飲みに来るが、羊を見かけ因縁を付ける。「何故お前は俺の流れを濁しているのだ?」。「私は川下にいて、あなたは川上にいるのに、何故水を濁したことになるのでしょう」と羊は言うものの、「しかしお前は昨日濁したのだ」と逆ねじを食わせる虎。「昨日は . . . 本文を読む

インドの民話集 その②

2008-04-12 20:22:27 | 読書/インド史
その①の続き 翻訳者・中島健氏はあとがきで、ギリシア神話とインド民話を比較し、こう述べられている。-ギリシア神話の中では、人間は人間を越え人間の力では如何ともしがたい自然に神格を与え、理解を絶する自然、人間の対立物としての自然を何とか合理的に解釈し、これと戦おうと涙ぐましい努力をしている。しかしインド民話の中では自然は人間の敵ではないようである。自然は人(神)格を持って現れ、また動植物として存在す . . . 本文を読む

インドの民話集 その①

2008-04-11 21:25:11 | 読書/インド史
 先日、『インドの民話』(A.K.ラーマーヌジャン編、青土社)を読了した。どれも味わいのある物語ばかりで、実に面白かった。特にインドに関心がない方でも、十分楽しめる民話集と思う。日本の民話と似た内容のものもあれば、まずありえない話もある。この本を読んで、インドというのは民話の宝庫のような国だと感じさせられた。 まえがきで編集者のラーマーヌジャン氏は、この本に収録した口承民話は22種類の言語から選び . . . 本文を読む

インド大反乱物語 その②

2008-03-21 21:22:09 | 読書/インド史
その①の続き 王女の話によれば、父であるムスリムの太守の宮廷では己の宗教について語られることはなかったという。当時男たちは贅を尽くし、飲酒にふけり驕り高ぶり、宗教的規律は弛緩するばかり。後宮もまた贅沢と愉悦の極みの中にあり、信仰を求める心はなかった。 インド大反乱の余波が彼女の王宮にも押し寄せ、ケショルラルは言う。「今度こそ、牛の肉を食する白人どもをアーリヤ人(インド人は自分たちをこう自称)の聖な . . . 本文を読む

インド大反乱物語 その①

2008-03-20 20:26:55 | 読書/インド史
 アジア初のノーベル文学賞受賞者(1913年)であり、インドでは「グルデーブ」(詩の師匠)と謳われた詩人タゴールは、1890年代に『非望』という短編小説を書いている。インド大反乱(1857-59)を時代背景にした作品であり、ムスリムの王女が若いベンガル人に己の数奇な過去を語るという展開となっている。タゴールがこの物語を書いたのは30代であり、インド知識人があの大反乱の敗北をどのように捉えていたのか . . . 本文を読む

パールシーと西欧の衝撃 その③

2008-02-13 21:25:12 | 読書/インド史
その①、その②の続き パールシー祭司たちが宗派ごとに論争していた頃、ドイツの若く優れた言語学者マルティン・ハウグが、聖典アヴェスターにある「ガーサー(韻文讃歌)」語は、それ以外のアヴェスターより遙かに古く、それだけが真正なゾロアスターの言葉と見なされ得るという重大な発見をする。これに照らし、ハウグはこの極めて難解なテキストを新しく訳し直し、預言者の厳密な一神教(※現代でも欧米(特にドイツ系)の学者 . . . 本文を読む