ボリショイ劇場 & シドニ-オペラハウス観劇記

元モスクワ、現在シドニ-赴任の元商社マンによるボリショイ劇場やシドニ-オペラハウスなどのバレエ、オペラ観劇記です

:ドンキ -ステパネンコー4 月8日-

2007年04月13日 | Weblog

4月8日はステパネンコ、ベロゴロフツェフ ペアのドンキを見ました。

ステパネンコは4月29日の彼女のガラに向けて体調を整えているのでしょう今まで彼女の舞台を見た中で間違いなくベストの舞台でした。見せ場の3幕のフェッテで軸がぶれないばかりか最後になって回転が加速するという余裕を見せた踊りでした。ベロゴロフツェフは今までこのブログで説明をUPしていませんでしたがボリショイ通の方の情報ではひざを痛めていたのでここ4-5ヶ月ほどお休みしていたのです。復活の舞台だったので舞台前は可也緊張していた(ボリショイ通情報)そうです。

尚森の女王を踊るはずだったシプリナがドタキャンでした。同日朝に印刷されるチラシではシプリナになっていて舞台には出なかったので当日に舞台に立つことを断念したようです。未だに体調が戻っていないのか心配です。

さてこの舞台には前の2つの観劇記を寄稿頂いたボリショイ通の方の友人の方から観劇記を寄せて頂きました。ご覧下さい。

 改めてステパネンコの凄さについて考えさせられる舞台でした。

いえ、冷静に頭で分析して吟味する、考えさせられる、という言い回しよりも、実感せざるをえない、といった方がしっくりくるような、頭ではなく感情に直接訴えかけてくるただただすばらしい舞台でした。

ステパネンコは一幕目から勢いがあり、やや飛ばしすぎかな、という印象を受けましたが、そんな不安は8日の彼女の前では杞憂に終わり、三幕目でも勢いは衰えるどころか、むしろ加速していき、最後のフェッテで最高潮に達する、といったボリショイのプリマとしての貫禄をまざまざと見せつけていました。特にフェッテは本当にすばらしかったです。まったくぶれない軸って、本当にあるのだと感動しました。びくともせず、勢いも最初から最後までまったく衰えることなく、ダブルもトリプルもいれることなく、ひたすらに回り続けるその美しさにただただ見とれていました。そして、余裕をもたせて決めてくるのですから、たまりません。本当に彼女はキトリだったと思います。自分の中でキトリという役を消化しきっているからこそうまれる自信たっぷりの表情やしぐさ、そして踊りが確かに存在していました。たくさんある演目の中の、たくさんの人が踊る役の一つとしてではなく、ステパネンコはキトリという役を唯一の自分のものとして受け入れて、見事に一体化していたと思います。二幕目の夢のシーンでも森の女王よりも女王らしいといった感じの威厳があって美しく、うっとりと見ていられました。

 バジル役のベロゴロフツェフも4ヶ月というブランクを感じさせない、力強くはじけた踊りで、良かったです。マイムは多少おおげさな印象をうけるところもありましたが、明るくて嫌味がなく、何よりも実に楽しそうに演じているので、観ているこちらも楽しくなり、思わず頬が緩むというようなすてきなバジルでした。三幕目の最初のソロで、回転がだんだん甘くなってきて、ややお疲れかな、と思わせる場面もありましたが、最後までしっかり決めてくれてすばらしかったです。彼はスタイルが良いので、ジャンプした時のシルエットが映えてとてもきれいですね。素直にすてきだなあと感じます。

 キャスト変更があった夢のシーンの森の女王、ニクーリナは凄く可憐で可愛かったです。女王というには威厳や貫禄がたりず、彼女はまだどちらかというと華奢な姫という感じですが、夢というカテゴリーで考えれば、儚い感じで良いのかもしれません。手足の使い方が滑らかで、全体的な体のラインが美しく、個人的にとても好きなので、これからがんばって欲しいです。

キャスト変更のため、本来ならばニクーリナが踊るはずの第二バリエーションはコバヒゼになりました。コバヒゼは個人的に好きで応援しているのですが、8日の彼女はやや固いかなと感じました。足をあげたラインはきれいですが、動きが多少ぎこちなく感じました。彼女は基本的に華奢で可憐に見えますが、意外に男らしいところもある気がするので、面白いと思います。引き続き、これから楽しみです。第一バリエーションはケルンも悪くないと思いますが、やはりオシポワが凄いなと思います。

8日のドンキは今季のステパネンコの中で最も良い舞台だったのではないでしょうか。 1月20日のガムザッティは貫禄は十分であるものの、全体的に体が重たく感じられ、姫という感じはでていなかったように思います。マイムは控えめで、一幕目の最後でニキアがガムザッティに切りかかろうとする場面で顔を手で覆って背中をみせるといったしおらしい演技でしたが、ややわざとらしく感じられ、どうにも「演技をしている感」が前面に出てしまっているような気がしました。二幕目にして、すでに疲れてる感じがしたので、このときの彼女は本調子ではなかったとは思いますが、それでも軸は決してぶれないなどところどころの場面で年季を感じました。 2月1日のキトリは勢いはあり、ポアントも相変わらず強くて全体的によかったのですが、音楽に体がついていっていませんでした。三幕目ではややお疲れムードが漂っており、少しはらはらしました。 2月8日のショパニアーナも良かったと思いますが、軽やかできれいなバレエだけに、どうしても彼女の重たさは際立って感じざるをえない印象でした。

3月17日のカルメンは全体的に凄く良かったと思います。ですが、どうしても年季の入ったカルメンと言わざるをえない感じで、年を重ねたことによる色気を持つ魔性の女といった印象を受けました。初演がプリセツカヤだったことを思えば、正統なカルメンなのかもしれませんが、もう少し、カルメンの持つはじけた元気の良さがあるといいなと思います。(キトリではその元気の良さや明るさがあるのにカルメンでは感じられないのが多少不思議ではあります) 最近の彼女の舞台は良いのですが、全体的にどこか年を感じさせるものでした。そんな彼女の姿に、そろそろ体にがたがきてるのかな、大丈夫かな、と正直不安に思っていたのですが、 8日のキトリでそんな心配をしていたことすらすっかり吹き飛んでしまいました。彼女はやはりステパネンコです。ボリショイのプリマです。これぞキトリ、これぞステパネンコ、これぞボリショイのプリマなのだと、それぞれ別々の言葉が一つに重なって、自然に深く心に刻まれた夜でした。



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8 コメント

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画像と観劇記のUpありがとうございました (茉莉亜)
2007-04-13 19:25:21
管理人様、

今回はステパネンコさん、ベロゴロフツェフさんの「ドン・キ」の観劇記のUPありがとうございました。

私は、ボリショイ・バレエという団体と舞踊スタイルが好きですので、この2人も大好きです。29日のステパネンコさんのガラはとても豪華な顔ぶれになるようですね。観に行きたかったです。

ベロゴロフツェフさんは膝を悪くしていらっしゃったのですね。長く踊っていらっしゃらなかったので、お怪我をされているのだろうと思いとても心配していました。

今回彼が、全幕の舞台に復帰できたことを、管理人様撮影のカーテン・コールの画像、また現地のバレエ通の方のレポートでこのように把握できますこと嬉しく存じます。

彼は「ライモンダ」のアブデラフマンや、「白鳥」の悪の天才などキャラクター役が多いですが、バジルのような地で演じられる役は、おおらかで健康的かつ包容力があって良いですね。

管理人様が29日にガラをご覧になられるようでしたら、また画像や映像・観劇記など楽しみにしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

お友達のボリショイ通の方々にもどうぞ宜しくお伝え下さいませ。

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すてぱねんこ (ひめ)
2007-04-13 22:32:54
通の方のご意見、なるほどぉ、です。
ステパネンコはシャピニアーナなどを見て
うーん、ロマンチック系は厳しいし
ちょっと重々しいかな、と思っていましたが
やはり調整の問題?なのでしょうか。
昨年の9月30日に見たドンキの1幕目は
確かにかーなりキレがよく素晴らしかったので
あれがホントの姿なのですね、きっと。
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回転の女王ステパネンコ (Nana)
2007-04-14 02:03:11
祝・ベロゴロフツェフ復帰!
(好調時のベロゴロフツェフとグダーノフはポジションが正確で美しい踊りをしますよね)近況情報感謝です。

寄稿第3弾、
冷静さを要する仔細な分析がありまがら、客席の生の感動の体温が伝わってくる観客にしか書けない文章、ボリショイの様子もわかるけど、読んでて心が熱くなりました。お二方、ありがとうございました。

(ボリショイ通の方、管理人様、海外で日本企業を支えるお仕事をされている方々のはずで、こ、こんなにいい文章って集中力が要りそうで、・・・お仕事大丈夫でしょうか・・・ハハハ変な心配をしてしまいました。御身大切に。)

ステパネンコは日本で、初来日から教科書のような超絶技巧美フェッテを見せていましたが、(このときは回転で音を正確にとるとこが特に目立ってた)とりわけ数年前、弟9回世界バレエフェスでの32回転は、
空前絶後、「世界一の回転」だったと思います。

ガラコンなので、日替わりで、白鳥、ドンキ、海賊で毎日32回転。
ダブル、トリプル、(私の動体視力、目算で)4回転までやってたかしら。グランパ・ド・ドゥのグランフェッテ、2回転シングルで回って3回目にトリプル(3回転)等いれるパターンだったかと。
去年5回転やってる人いたけど、5回転目が完全に脚を全く上げないルティレの位置のままでまわっちゃう、かなりイレギュラーなもの。

ステパネンコほどフェッテの超絶技巧を美しく行う人は類例を見ないですね。
パのポジションが正確で、脚は当然つま先が全て伸び、90度キープ。そして、この周りながら90度キープしてる時間が長く(これが短くて蹴りを入れているような感じでやる人もいる。90度まであげるだけましだけど)トウで立ち片脚あげた形で、まっすぐにつま先まで伸びた美しい脚ががすう~っと床と水平に美しい弧を描くのです。上げた脚が折りたたまれるまで間がある、「フェッテかくあるべき」のお手本フェッテ。
ここまでなら他にもやる人はいるけど、彼女はフェッテで音を外さず、ダブル以上の超絶技巧を何度も入れられるのが売り、かな。(シングルで音外さないのと、わけがちがうから)
しかもグランフェッテ中、脚も腕も全身が全ての動作、ラインがアカデミックに磨かれて美しい。アプロン、回転軸がぶれず、安定感抜群、は勿論。

他、弟10回バレエフェスの「ガラ」では、2回シングルで早くまわり、3回転目に両手を手を上に上げ、片脚を90度に上げ、つま先まで伸ばしきったまま、そのままゆっくり1回転する、という、つまりグランフェッテ中に回転の速度が変わる難度の高いフェッテをしてたような(うろおぼえ)

弟9回のほうでは、ガラの「海賊」で、ステパネンコが1度、32回転を決め、そこからウヴァーロフに変わるはずが、彼女が指揮者に合図を送り、「もう1回」オーダーし、またダブルトリプル4回転が何度も入るフェッテをし、終わったら「またもう1回」。
唖然でした。相手を無視して延々自分の技巧を誇示したのは苦笑いだったけど、待たされたウヴァーロフは晴れやかに残りを踊り、事なきをえました。

最初は私は終演後フランス等のスターのファンの友人たちに囲まれて、針のむしろ気分だったのですが。
「なにあれあの態度ステパネンコ」みたいに言われてました。冷や汗苦笑いだったけど。でも、年月を経て、彼女はその気丈な個性が評価されフェスでも人気スターの一角として認められるようになりましたね。

闘いかたとは色々あるものだと。

とにかく、ステージマナーは置くと、その、ダブルトリプル4回転入りグランフェッテアントールナン×3回、というと、100回転以上、その後ガラ名物の「余興コーナー」でも回転したり。最後にギエムというプリマに煽られて、最後までまたグランフェッテをやらされるはめになり、非ロシアのダンスールノーブルに助け舟を出されて、やっと回転終了。女の子ぶりっこして「もうだめ~」というように、相方のウヴァのほうに倒れこみ、精神的に男性パートナーを頼る心理はあるのだなと思いましたが。
この日1日で、130回転以上やってますね~~いや、もっとか。よくトウシューズが壊れなかった。やはりきれいな回り方してるので、擦り切れ方が比較的少ない?。

一方、99年ボリショイ日本公演ガラ、シングルだけでフェッテを行った時、その回転の滑らかな質感が快感で。

あと、ドンキのステパネンコはグランパドドゥのソロで、トゥで立ちルティレの連続技を見せる時、高速に軽やかに行い、だんだん加速していくのが見るに快感でした。

膝の故障での去年のフェスでは、「レイモンダ」のあでやかな女っぷりに瞠目。10月「レペシンスカヤ・ガラ」のここの写真も、成熟した色気があってその変化に驚きました。今のステパネンコなら色っぽいのもやれるんじゃないかと期待があるのですが。

フェスでのステパネンコ「カルメン」辛口書きましたが、あそこは気押されるような独特な雰囲気もあるし、正統派のプリセツカヤの継承者の一人として、あるいは「ステパネンコのカルメン」で、モスクワではもっといい踊りをしているのでしょう。(私が見たのは、振りが流れてるのがNGでしたが器用なタイプでなく踊りこんでよくなるので「絶品」のカルメンの舞台もコーラス練習間に余裕があったらご紹介下されば嬉しく思います)尚、日本でアロンソ版踊ったのは5人位で、内二人はファムファタル定評系。アレクサンドロワを比較した私が愚かでした。彼女も向上型で。
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ステパネンコは貫禄があります (やわかつま)
2007-04-14 06:37:15
私は残念ながら、ステパネンコの全幕は見たことがないのです。
昨年の世界バレエフェイスティバルでは、本当に堂々として「カルメン」(アロンソ版)と「ライモンダ」を踊りました。
「カルメン」を踊ったことは、日本ではクラシックでしか見たことのない、批評家さんたちも新鮮だったようです。
スターダンサーがずらりと並んでも、堂々としたカーテンコールで、さすがだなと感じました。
来年は主演作品で見たいなと思います。
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皆様ども (管理人)
2007-04-15 18:34:02
皆様
早速さまざまなご感想ありがとうございました。
今回の観劇記を寄稿頂いたのはモスクワで大学に通われている方です。ボリショイではロシアの学生証のある方を対象に毎日40人が3階の立ち見ですが20ルーブルで見ることが出来るのですがこれで可也の頻度でボリショイにいらしています。先着40名ですから早めに来て並んでいるそうです。ボリショイ付属バレエ学校で勉強されているバレリーナの卵の方も同じ様に並んで切符買われている様です。
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祝ステパネンコ復活ですね (shushu)
2007-04-16 12:54:13
管理人様
いつもありがとうございます。日本のバレエ雑誌はパリ(とベルリン)偏重なので、こちらのレポと写真を有難く見せていただいています。

昨日、上野で東京バレエ団の「ドン・キホーテ」を見て来ました。キトリデビューの小出さんは見事でしたが、やはりここのドンキを見ると4年程前のバレエフェスでの全幕プロでのステパネンコ&ウヴァーロフを見たときの楽しさ、喜びを思い出すなぁ、と思っていたらステパネンコの舞台レポを読むことができて、偶然ですが、本当に嬉しかったです。

怪我で引越公演には降板、去年のバレエフェスではイマイチだったし、こちらでもあまり登場していなかったので、年齢もありこのまま見ることができないのかなぁ、と残念に思っていましたから。また、日本でも観ることができるかも、と希望がわきました。

上で書かれているように、ステパネンコのフェッテは私もビックリしました。特に彼女の場合は、何をやっても音楽と合っているところが凄いですね。ダブルにして音とずれるダンサーが多い中、ずば抜けていると思います。

それでは、今後の記事も楽しみにしています。
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ドン・キホーテ (Nana)
2007-04-17 02:19:38
うわっ!思わず出てきてしまいました。

4年前の世界バレエフェスのおまけで「全幕特別プロ」として1日だけ上演された、ステパネンコ、ウヴァーロフ客演、東京バレエ団「ドン・キホーテ」は、見ていてわくわくするような、楽しい舞台でしたよね~。

ステパネンコの全幕は相手フィーリン、クレフツォフ、ウヴァーロフで何度か見てますが、あの日は客席にいられて本当に良かったです。

ステパネンコの技術が高いのは別の公演でしたが、息の合ったコンビのウヴァーロフとともに、バレエ団に溶け込み、全体で見せてくれました。ウヴァーロフがバレエ団のホープ高岸直樹さんや男性群舞とジプシーダンスでいっせいにジャンプの連続した時は壮観でクラクラきたし、主役二人の幕間のアダージョはステパネンコで見たアダージョの中で一番美しくて。

このコンビを前に見た時と居酒屋ダイブのやり方が変わり、豪快な飛び込みのあとキトリをキャッチしたバジルが一瞬すくっとステパネンコの身体を立ててきれいなアラベスクの線を見せ、迫力にオ~ッと歓声が。迫力は出してもプリマの身体に負担のかけないのがウヴァーロフ流なんだなと思いました。

彼の1幕パドトロワの見せ場はこの日の出来が一番で、飛翔の時両腕を広げた姿が雄大さを感じさせ、ザンレールのキレも抜群で素晴らしかったです。

99年のステパネンコ、ウヴァーロフ、ボリショイバレエ団来日公演の「ドンキ」はテレビ放映されてますが、その時ともちょっと違っていて、ステパネンコがいつもよりやさしく、かわいく見えるといわれていました。

外人ゲストからエネルギーを得て、東京バレエ団は自前のプリマで同じ演目をやってるんだな~と思うと感慨ありますね。

>バレエ雑誌はパリ他偏重
そうなんですよね~~~。
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ですね (管理人)
2007-04-19 04:28:02
Shushuさん
返事遅くなり申し訳ありません。初めましてですよね。ステパ復活ですね。今後ともコメントお待ちしています。

NANAさん
いつも示唆に富んだコメントありがとうございます。
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