4月4日
≪創発≫
MOOKで「脳と創造性」を受講し、頭の中に俳人芭蕉が浮かんだ。更に、新しいジャンルを切り開く実験「スモールワールドネットワーク」を実践したスタンレー・ミルグラムと芭蕉の「奥の細道」の旅が重った。
旅の主な目的は、①芭蕉が敬愛する「西行」が訪れた「歌枕」を自分も訪ね、西行という昔の人と多くの情報を共有し、「リアルなコミュニケーション」に基づく自然(当時の言葉では「造化」)との共通の共感性を確認、②芭蕉庵での「身近な人とのある程度予想のできる繋がり」からの解放による「Anterior Cingulate Cortexのアラームシグナルへの気付き」能力の深化、と共に、③「創造性は個人の独創性だけで生まれるものではなく、様々な人が様々な形で情報を交換することで育くまれる」との実感を踏まえて、「弱い絆」で結ばれている地方の門人たちと同伴の曾良を含めた「スモールワールドネットワーク」での俳諧連歌の創作の3点であり、芭蕉は自身の創造性を育み、創作手法を確立、俳諧連歌を日本文化として育てようとしたのではないかと感じた。
俳諧連歌は、「発句」に次の詠み手が「ミラーニューロンによる共感回路で自分があたかも体験したかのように、ありありと思い浮かべ」た上で、自分の「Anterior Cingulate Cortexからのアラームシグナル」に気付き「脇句」を詠み、これを「挙句」まで続ける創作活動。芭蕉は、地域の気候風土・歴史・社会慣習・造化などの分野の「Absorptive Capacity」が高い地元門人とのコミュニケーションにワクワク感を抱いていたと思う。
芭蕉の「実験」の結論は?小生は「旅に病んで 夢は枯野を 駆け廻る」の句から、発句は「俳句」として日本文化になったが残念ながら「俳諧連歌」を集団の創造性を高める文化とする「夢」は叶わなかったと思いう。この「夢」は現在の「創発」を目指す様々な実践の中で日本文化として現実になるのではないでしょうか。
2月23日
≪iPS細胞≫
1)iPS細胞の特徴:造血幹細胞や神経幹細胞などの体性幹細胞ではなく、ES細胞などと同じく体外で人工的に作り出される幹細胞であり、ほぼ無限に増殖でき、どんな細胞にも分化することができる特徴をもつ。また、ES細胞は胚から作られるが、iPS細胞は血液や皮膚などのからだの細胞から作るので倫理的課題が相対的には少ない。
2)再生医療: iPS細胞だからこそ可能な研究が実用段階にある。傷つき易い体内の神経細胞を使わずに「ドーパミン神経細胞」を作るパーキンソン病への適用、長期保存のきかない血小板のもととなる細胞「巨核球」の凍結保存、癌などとの長期戦で弱った「Tリンパ球」の補充など。また、自家移植だけではなく、他家移植でも免疫反応を起こりにくくするためにHLAホモドナーのiPS細胞ストックも始められている。
3)創薬研究:疾患特異的iPS細胞を活用すると、多量の人の細胞で①病態を体の外で再現でき、三好型筋ジストロフィーやALSなどへの創薬研究のように②創薬スクリーニングに効果的であり、骨軟骨疾患の創薬研究でのスタチンのように③ドラッグ・リポジショニングとして既に安全性が確認されている薬が利用され、更に、アルツハイマー病の創薬研究のようにアミロイドβタンパク質の関与する部位による個別化医療が可能になる。
4)研究支援:①安価な公共技術にするための知的財産の確保、②キメラ動物や生殖細胞の作製などを含む倫理的課題の検討、③医薬品医療機器等法・再生医療等安全性確保法などによる適切な規制、④臨床研究と治療との違いの認識、⑤研究資金の確保、⑥サイエンスコミュニケーションが研究支援に必要。中でも研究資金の確保については一般からの寄付による研究基金の充実が支援になる。
5)感想:iPS細胞から様々な細胞に分化誘導する方法は創薬・再生医療の基盤になることを実感。十分に対応策が検討されているとは思うが以下の三点が気にかかる。①ミスでiPS細胞が残ったままの細胞の移植。②研究者の好奇心での非倫理的な行為。③アンチエージング分野で患者の貧富差による治療内容の格差がますます拡大。
1月4日
《日本中世の自由・平等・平和》
1)「自由・平等・平和」という用語について:日本の中世以前の「武力」を背景とする国家システムに現代の法治国家で用いられている「~からの、~への」自由、「機会均等としての」平等、「人の命が脅かされない」平和の概念をそのまま適用せずに、それぞれ、自由は「土地の、自分自身の、物などの」所有として、平等は「身分制度による」差別の反意語として、平和は「社会システムの」維持継続として把握する必要がある。現代社会では「自由で平等な平和な社会」という表現が成立するが、中世以前では「自由と平等が無いので平和な社会」という表現も成り立つことになる。
2)所有権の未成熟と「自由」:土地の所有は武力に基づく当知行が「ザイン」であり、文書などに記録されている公権力による「ゾレン」は建前論の域を出ないので所有権は未成熟であった。主従制に立脚した公権力にはツリー型とリゾーム型、更にはホリスティクな型まで考え得るが外的要因や経済の発達などによる「國」の規模拡大に伴い、武力行使に適合するツリー型が織田信長の時にリゾーム型の一揆を凌駕した。文書などに記されている土地の所有も他者に所有を妨げられた場合でも公権力が武力などを背景に責任を持って他者を排除できる社会システムへと変化した。この時点で「土地所有」を対象とした「自由」は成熟した。
3)熊谷直実と「平等」:成熟した公権力を持たない社会の安定を維持するために、人を差別して貴族を頂点とする身分制度を維持することは有効であろうが、村落のリゾーム型の主従制運営形態は多数の地主と多数の作人の合意形成形態どあるので上意下達ではなく村落運営参加機会の平等の概念の萌芽が見られる。熊谷直実は大乗仏教の教えるところの自己と他者の関係から中世身分制度との矛盾を自身の「叫び」として顕在化させた。
4)人口の増加と「平和」:日本列島の延喜年間(西暦900年)の人口と耕地面積は600万人、100万ha、太閤検地(西暦1600年)では1,200万人、200万ha。享保年間(西暦1,700年)では2,800万人、300万haである。現在の耕地面積は500万haあり中世と江戸時代の人口の制約条件にはなっていない。中世と江戸時代の社会システムでそれぞれに適応した人口が決められたと考えられる。中世までは貴族、武士などの身分を持たない人々の命が軽く扱われ、武士による理由なき虐殺さえも行われていた時代であったことが江戸時代と比較して人口が少なかったことの一つの要因とも考えられる。この残虐で野蛮な武士の世の中を嫌って、12世紀に活躍した西行は武士を捨てて和歌を詠み、南北朝時代の吉田兼好は京都に東国の武士が入ってくる前に貴族の身分を捨てて徒然草を綴ったのかもしれない。この両者から社会システムはどうあれ人の深層は昔も今も変わらないことが覗える。
《芭蕉の俳句》
梅がゝや 見ぬ世の人に 御意を得る(出典:「芭蕉全句集」角川ソフィア文庫、平成22年11月)
【目新しさ】座五の「御意を得る」は侍口調であり、俳諧としての目新しさを持つ。上五の歌ことばである「梅が香や」との対比には強いインパクトを感じる。
【普通の言い方との違い】基底部の「見ぬ世の人に 御意を得る」は、芭蕉とは時代を異にする貴人に御意を得るとしており、矛盾を含む表現で「見ぬ世の人」と芭蕉の心の響き合いを強調している。普通の表現ならば「見ぬ世の人に お目通り・お会いする・想い馳せ・導かれ・教えられ」などが考えられる。
【句意】「芭蕉全句集」によると、「江戸の楚舟亭で初対面の人に示した挨拶吟と知られる」として、「梅の香が漂う中でお目にかかり見ぬ世の人と近づきになった思いがする」と訳している。また、「見ぬ世の人」とは昔の世の人、徒然草13段の「ひとり灯のもとに文をひろげて、見ぬ世の人を友とする」によるとしている。
【全体的な意味づけ】干渉部の「梅がゝや」が、昔の貴人とお近づきになれた感概を表した句意を方向付けている。
【この句を選んだ理由と面白さ】我家の庭に白梅が在り、「梅が香」の下に座っていると、自然の営みに溶け込むような心の落ち着きを感じるので選んだ。以下は勝手な解釈だが、西行の「梅をのみ 我が垣根には 植えおきて 見に来む人に 跡しのばれん」の和歌に込められた梅の香を時代を隔てて楚舟亭で聞くことができた芭蕉が「西行さんに微笑みかけて頂けた」の感概を挨拶吟としたのかもしれない。また、「見ぬ世の人」を我々現代を生きる人へのメッセージとして、歌ことばである「梅が香」が持つ不易の含意を当時の流行語を使って伝えているのかもしれない。このような想像ができる「脇の甘さ」に面白みを感じた。
《化学》
形状記憶ポリマーを利用した水泳用ゴーグルの提案
(1)問題点:耐久消費財の生産者は一般に最終製品まで造り込んでしまっているために逆に消費者満足度が低い商品が供給される場合がある。具体例として小生の趣味である水泳で一般に使われているゴーグルは眼鏡部分と両眼のつなぎ部分がポリカーボネイト、顔に接触する部分とバンドはソフトシリコンゴムでできており、50年前のガラスとゴムで作られていた水中メガネと比較すると格段のフィット感が得られているが、いまだにバンドをきつくすると眼に圧迫を生じ、ゆるいと内部に水が入ってしまうのが現状である。また、同じく50年前に三宅島で出会った漁師さんがご自分の顔の骨格に合わせて木を削って作ったフレームとガラスでできた一品生産の水中メガネは顔と全面で均等に接しているのでバンドをしなくとも外れることがなく、そのフィット感を得るには至っていない。
(2)科学者による取り組み その中での課題:形状記憶ポリマーが医用工学等に利用されているが耐久消費財への適用事例は乏しい。水泳用ゴークルにポリカーボネイトとソフトシリコンゴムが使用されることで耐用性、安全性、フィット感が格段に向上したのは紛れのない事実である(出典:化学辞典、吉村壽次編、森北出版株)。更なるフィット感向上のシーズとして形状記憶ポリマーの利用が考えられる(出典:「機能性プラスチック」のキホン、桑嶋幹他、ソフトバンク クリエイティブ株、2011.11.25)。具体例の一つとして、体温付近に形状応答温度を持つ形状記憶ポリマーに薬物を内包して体内で徐放させるなどの開発(出典:大矢裕一「鋭敏な温度応答性と薬物徐放を示す生分解性形状記憶ポリマーの医療応用」(ネット検索))がなされてはいるが耐久消費財への適用例は少ない。なお、調査は文献調査によった。
(3)自分なりの提案:生産者は一次製品を販売し、消費者が形状記憶ポリマーの機能を発現させて自分だけにフィットする最終製品を作る。一般の水泳用ゴーグルのバンドを除く部分をポリカーボネイトの一体構造で作成し、顔に接する部分と両眼のつなぎ部分に分岐型オリゴカプロラクトンを用いて可逆相の転移温度(形状応答温度)が45℃程度の架橋体を調製して一次製品とする。スイマーは購入した一次製品を50℃程度の温水で温めてからゴーグルが室温まで冷却されて顔の骨格にフィットした形状に一時的に固定されるまでゴーグルの両眼部分を指で顔に密着させながら押し当てる。なお、充分なフィット感が得られなかった場合、本人以外が利用する場合は形状応答温度以上に加温することで1次製品に戻し、再び上記に操作を行うことで50年前の三宅島の漁師さんが得ていたフィット感が一般のスイマーにも拡がる。
≪創発≫
MOOKで「脳と創造性」を受講し、頭の中に俳人芭蕉が浮かんだ。更に、新しいジャンルを切り開く実験「スモールワールドネットワーク」を実践したスタンレー・ミルグラムと芭蕉の「奥の細道」の旅が重った。
旅の主な目的は、①芭蕉が敬愛する「西行」が訪れた「歌枕」を自分も訪ね、西行という昔の人と多くの情報を共有し、「リアルなコミュニケーション」に基づく自然(当時の言葉では「造化」)との共通の共感性を確認、②芭蕉庵での「身近な人とのある程度予想のできる繋がり」からの解放による「Anterior Cingulate Cortexのアラームシグナルへの気付き」能力の深化、と共に、③「創造性は個人の独創性だけで生まれるものではなく、様々な人が様々な形で情報を交換することで育くまれる」との実感を踏まえて、「弱い絆」で結ばれている地方の門人たちと同伴の曾良を含めた「スモールワールドネットワーク」での俳諧連歌の創作の3点であり、芭蕉は自身の創造性を育み、創作手法を確立、俳諧連歌を日本文化として育てようとしたのではないかと感じた。
俳諧連歌は、「発句」に次の詠み手が「ミラーニューロンによる共感回路で自分があたかも体験したかのように、ありありと思い浮かべ」た上で、自分の「Anterior Cingulate Cortexからのアラームシグナル」に気付き「脇句」を詠み、これを「挙句」まで続ける創作活動。芭蕉は、地域の気候風土・歴史・社会慣習・造化などの分野の「Absorptive Capacity」が高い地元門人とのコミュニケーションにワクワク感を抱いていたと思う。
芭蕉の「実験」の結論は?小生は「旅に病んで 夢は枯野を 駆け廻る」の句から、発句は「俳句」として日本文化になったが残念ながら「俳諧連歌」を集団の創造性を高める文化とする「夢」は叶わなかったと思いう。この「夢」は現在の「創発」を目指す様々な実践の中で日本文化として現実になるのではないでしょうか。
2月23日
≪iPS細胞≫
1)iPS細胞の特徴:造血幹細胞や神経幹細胞などの体性幹細胞ではなく、ES細胞などと同じく体外で人工的に作り出される幹細胞であり、ほぼ無限に増殖でき、どんな細胞にも分化することができる特徴をもつ。また、ES細胞は胚から作られるが、iPS細胞は血液や皮膚などのからだの細胞から作るので倫理的課題が相対的には少ない。
2)再生医療: iPS細胞だからこそ可能な研究が実用段階にある。傷つき易い体内の神経細胞を使わずに「ドーパミン神経細胞」を作るパーキンソン病への適用、長期保存のきかない血小板のもととなる細胞「巨核球」の凍結保存、癌などとの長期戦で弱った「Tリンパ球」の補充など。また、自家移植だけではなく、他家移植でも免疫反応を起こりにくくするためにHLAホモドナーのiPS細胞ストックも始められている。
3)創薬研究:疾患特異的iPS細胞を活用すると、多量の人の細胞で①病態を体の外で再現でき、三好型筋ジストロフィーやALSなどへの創薬研究のように②創薬スクリーニングに効果的であり、骨軟骨疾患の創薬研究でのスタチンのように③ドラッグ・リポジショニングとして既に安全性が確認されている薬が利用され、更に、アルツハイマー病の創薬研究のようにアミロイドβタンパク質の関与する部位による個別化医療が可能になる。
4)研究支援:①安価な公共技術にするための知的財産の確保、②キメラ動物や生殖細胞の作製などを含む倫理的課題の検討、③医薬品医療機器等法・再生医療等安全性確保法などによる適切な規制、④臨床研究と治療との違いの認識、⑤研究資金の確保、⑥サイエンスコミュニケーションが研究支援に必要。中でも研究資金の確保については一般からの寄付による研究基金の充実が支援になる。
5)感想:iPS細胞から様々な細胞に分化誘導する方法は創薬・再生医療の基盤になることを実感。十分に対応策が検討されているとは思うが以下の三点が気にかかる。①ミスでiPS細胞が残ったままの細胞の移植。②研究者の好奇心での非倫理的な行為。③アンチエージング分野で患者の貧富差による治療内容の格差がますます拡大。
1月4日
《日本中世の自由・平等・平和》
1)「自由・平等・平和」という用語について:日本の中世以前の「武力」を背景とする国家システムに現代の法治国家で用いられている「~からの、~への」自由、「機会均等としての」平等、「人の命が脅かされない」平和の概念をそのまま適用せずに、それぞれ、自由は「土地の、自分自身の、物などの」所有として、平等は「身分制度による」差別の反意語として、平和は「社会システムの」維持継続として把握する必要がある。現代社会では「自由で平等な平和な社会」という表現が成立するが、中世以前では「自由と平等が無いので平和な社会」という表現も成り立つことになる。
2)所有権の未成熟と「自由」:土地の所有は武力に基づく当知行が「ザイン」であり、文書などに記録されている公権力による「ゾレン」は建前論の域を出ないので所有権は未成熟であった。主従制に立脚した公権力にはツリー型とリゾーム型、更にはホリスティクな型まで考え得るが外的要因や経済の発達などによる「國」の規模拡大に伴い、武力行使に適合するツリー型が織田信長の時にリゾーム型の一揆を凌駕した。文書などに記されている土地の所有も他者に所有を妨げられた場合でも公権力が武力などを背景に責任を持って他者を排除できる社会システムへと変化した。この時点で「土地所有」を対象とした「自由」は成熟した。
3)熊谷直実と「平等」:成熟した公権力を持たない社会の安定を維持するために、人を差別して貴族を頂点とする身分制度を維持することは有効であろうが、村落のリゾーム型の主従制運営形態は多数の地主と多数の作人の合意形成形態どあるので上意下達ではなく村落運営参加機会の平等の概念の萌芽が見られる。熊谷直実は大乗仏教の教えるところの自己と他者の関係から中世身分制度との矛盾を自身の「叫び」として顕在化させた。
4)人口の増加と「平和」:日本列島の延喜年間(西暦900年)の人口と耕地面積は600万人、100万ha、太閤検地(西暦1600年)では1,200万人、200万ha。享保年間(西暦1,700年)では2,800万人、300万haである。現在の耕地面積は500万haあり中世と江戸時代の人口の制約条件にはなっていない。中世と江戸時代の社会システムでそれぞれに適応した人口が決められたと考えられる。中世までは貴族、武士などの身分を持たない人々の命が軽く扱われ、武士による理由なき虐殺さえも行われていた時代であったことが江戸時代と比較して人口が少なかったことの一つの要因とも考えられる。この残虐で野蛮な武士の世の中を嫌って、12世紀に活躍した西行は武士を捨てて和歌を詠み、南北朝時代の吉田兼好は京都に東国の武士が入ってくる前に貴族の身分を捨てて徒然草を綴ったのかもしれない。この両者から社会システムはどうあれ人の深層は昔も今も変わらないことが覗える。
《芭蕉の俳句》
梅がゝや 見ぬ世の人に 御意を得る(出典:「芭蕉全句集」角川ソフィア文庫、平成22年11月)
【目新しさ】座五の「御意を得る」は侍口調であり、俳諧としての目新しさを持つ。上五の歌ことばである「梅が香や」との対比には強いインパクトを感じる。
【普通の言い方との違い】基底部の「見ぬ世の人に 御意を得る」は、芭蕉とは時代を異にする貴人に御意を得るとしており、矛盾を含む表現で「見ぬ世の人」と芭蕉の心の響き合いを強調している。普通の表現ならば「見ぬ世の人に お目通り・お会いする・想い馳せ・導かれ・教えられ」などが考えられる。
【句意】「芭蕉全句集」によると、「江戸の楚舟亭で初対面の人に示した挨拶吟と知られる」として、「梅の香が漂う中でお目にかかり見ぬ世の人と近づきになった思いがする」と訳している。また、「見ぬ世の人」とは昔の世の人、徒然草13段の「ひとり灯のもとに文をひろげて、見ぬ世の人を友とする」によるとしている。
【全体的な意味づけ】干渉部の「梅がゝや」が、昔の貴人とお近づきになれた感概を表した句意を方向付けている。
【この句を選んだ理由と面白さ】我家の庭に白梅が在り、「梅が香」の下に座っていると、自然の営みに溶け込むような心の落ち着きを感じるので選んだ。以下は勝手な解釈だが、西行の「梅をのみ 我が垣根には 植えおきて 見に来む人に 跡しのばれん」の和歌に込められた梅の香を時代を隔てて楚舟亭で聞くことができた芭蕉が「西行さんに微笑みかけて頂けた」の感概を挨拶吟としたのかもしれない。また、「見ぬ世の人」を我々現代を生きる人へのメッセージとして、歌ことばである「梅が香」が持つ不易の含意を当時の流行語を使って伝えているのかもしれない。このような想像ができる「脇の甘さ」に面白みを感じた。
《化学》
形状記憶ポリマーを利用した水泳用ゴーグルの提案
(1)問題点:耐久消費財の生産者は一般に最終製品まで造り込んでしまっているために逆に消費者満足度が低い商品が供給される場合がある。具体例として小生の趣味である水泳で一般に使われているゴーグルは眼鏡部分と両眼のつなぎ部分がポリカーボネイト、顔に接触する部分とバンドはソフトシリコンゴムでできており、50年前のガラスとゴムで作られていた水中メガネと比較すると格段のフィット感が得られているが、いまだにバンドをきつくすると眼に圧迫を生じ、ゆるいと内部に水が入ってしまうのが現状である。また、同じく50年前に三宅島で出会った漁師さんがご自分の顔の骨格に合わせて木を削って作ったフレームとガラスでできた一品生産の水中メガネは顔と全面で均等に接しているのでバンドをしなくとも外れることがなく、そのフィット感を得るには至っていない。
(2)科学者による取り組み その中での課題:形状記憶ポリマーが医用工学等に利用されているが耐久消費財への適用事例は乏しい。水泳用ゴークルにポリカーボネイトとソフトシリコンゴムが使用されることで耐用性、安全性、フィット感が格段に向上したのは紛れのない事実である(出典:化学辞典、吉村壽次編、森北出版株)。更なるフィット感向上のシーズとして形状記憶ポリマーの利用が考えられる(出典:「機能性プラスチック」のキホン、桑嶋幹他、ソフトバンク クリエイティブ株、2011.11.25)。具体例の一つとして、体温付近に形状応答温度を持つ形状記憶ポリマーに薬物を内包して体内で徐放させるなどの開発(出典:大矢裕一「鋭敏な温度応答性と薬物徐放を示す生分解性形状記憶ポリマーの医療応用」(ネット検索))がなされてはいるが耐久消費財への適用例は少ない。なお、調査は文献調査によった。
(3)自分なりの提案:生産者は一次製品を販売し、消費者が形状記憶ポリマーの機能を発現させて自分だけにフィットする最終製品を作る。一般の水泳用ゴーグルのバンドを除く部分をポリカーボネイトの一体構造で作成し、顔に接する部分と両眼のつなぎ部分に分岐型オリゴカプロラクトンを用いて可逆相の転移温度(形状応答温度)が45℃程度の架橋体を調製して一次製品とする。スイマーは購入した一次製品を50℃程度の温水で温めてからゴーグルが室温まで冷却されて顔の骨格にフィットした形状に一時的に固定されるまでゴーグルの両眼部分を指で顔に密着させながら押し当てる。なお、充分なフィット感が得られなかった場合、本人以外が利用する場合は形状応答温度以上に加温することで1次製品に戻し、再び上記に操作を行うことで50年前の三宅島の漁師さんが得ていたフィット感が一般のスイマーにも拡がる。