「GAFA(ガーファ)」という言葉をご存知でしょうか?
「Google」「Apple」「Facebook, Inc.」「Amazon.com」の米国4企業をまとめたこの「GAFA」という呼称が、経済分野を中心に(世界的に)ポピュラーになりつつあるようです。
ITの発達によってそれぞれの分野で市場を席巻しプラットフォーマーとして支配的地位を占めつつあるこれらの企業については、新たな付加価値の源泉が「データ」にシフトする中、デジタル経済の推進役としての期待ばかりでなく、データの占有がもたらす弊害への懸念が広がっているのも事実です。
GAFAが独占するとされているのはビッグデータだけではありません。たとえば、検索エンジン最大手のGoogleは全世界の92.36%のシェア(201年1月現在)を占めており、検索エンジン市場をほぼ独占していると言えます。
また、米国の20~60代の77.1%がFacebookのアカウントを持っていると言われることからも、米国の広告市場がGoogleとFacebookの2社に大きく依存していることが判ります。
日本において2016年12月に「官民データ活用推進基本法」が成立した背景にも、GAFAへの危機感があるとされています。平井卓也・自民党IT戦略特命委員長は法案提出に当たり、「GAFAがデータを囲い込んでいる。データ活用のイニシアチブを取り戻す必要がある」と内閣委員会で説明したということです。
こうしてデジタル社会の巨大企業と化したGAFAと、日本企業は今後どのように向き合っていけばよいのか。
10月31日の日本経済新聞では、メディアなどでも活躍する一橋大学教授の楠木健氏が、「特定領域で深掘り戦略を「対抗」より「利用」の道探れ」と題する論評を寄せています。
なぜ日本からは、GAFAに対抗できるような世界的なネットワーク企業が出てこないのか。その言い訳として、「企業家精神の不足」「言語の壁」「資本市場の未熟」「労働市場の固定性」「ITエンジニアの不足」「規制の強さ」などが繰り返し指摘されてきたと楠木氏はこの論評で述べています。
しかし、こうした議論は欧州でもよくある話で日本に限ったことではない。実際、GAFAのような巨大プラットフォームは米国の「お家芸」といってよく、前述の要因などはあるにしても、最終的には米国の巨大な国内市場の規模とその特性によるところが大きいというのが、この問題に対する氏の認識です。
確かに、日本や欧州のように高密度で集約的な社会に比べ、広大な米国では物理的に離れた人々をつなぐネットワークの需要が桁違いに大きいことは言うまでもありません。また、ビジネスも分散的でフリーランスとして働く人々が多く、そもそも水平的なプラットフォームに対する需要が厚いことが米国経済の特徴だと楠木氏は説明しています。
「GAFA=グローバル」というイメージがあるが、現実の彼らの商売は北米に偏っていると楠木氏は言います。実際、Amazonは売上高の6割以上を北米市場に依存しており、どんなに情報集約的になってもサービス業は本質的に「ローカル」だということです。
一方、例えば国内比率は、消費財のトヨタで25%、産業財のコマツで20%、村田製作所のような部品メーカーになると10%以下で、こうした日本のメーカーの方が実際はずっと「グローバル」なことが判ります。
(元も子もない話ですが)GAFAのような会社がなかなか出てこない最大の理由は、世の中が巨大なプラットフォームをいくつも必要としないということにあるというのが楠木氏の見解です。プラットフォームの要件は独占にあり、論理的に言って、GAFA級のプラットフォームは数でいえば片手で足りるということです。
そう考えれば、GAFAへの正面切っての対抗は「愚策」と言わざるを得ないと楠木氏は指摘しています。
「多くのプレーヤーが乗ってくる土台」というプラットフォームの定義からして、ほとんどの企業にとってGAFAは「利用」するものであって、「対抗」する敵ではない。GoogleやFacebookの広告や販促機能はその典型で、誰にでも利用可能な「非競争領域」といってよい便利な販売・決済・流通のプラットフォームとして活用するのが得策となるということです。
さて、そこでGAFAを利用するばかりでなくより積極的に「差別化」するとすれば、正面から対抗するのではなく、側面を突くべきだと楠木氏は言います。
それは、競争の土俵を明確に定め、その範囲で垂直的プラットフォームを構築すること。情報やデータとリアルなオペレーションとを組み合わせ、独自のプラットフォームを構築する戦略だということです。
例えば、衣料品通販サイトの「ゾゾタウン」はファッション性の高いアパレルに特化した垂直的なプラットフォームで成功しています。最近のユニクロがITと物流に積極的に投資しているのも、(同様に)垂直的プラットフォームを意図した戦略として注目に値すると氏は言います。
楠木氏は、GAFAはあくまでも水平的な汎用プラットフォームであり、そこに商売の生命線があると説明しています。
(彼らは)特定の事業領域を垂直的に深耕するのは得意でないし、そのような狭いところに力を尽くす気もない。自社の収益に結びつかないデータやシステムに興味はなく、「ビッグデータ」とは言っても、その巨体に見合う商売として成立しないところには手を出さないということです。
つまり、日本企業の採るべき道は、GAFAの商売の実像と戦略の意図を見据え、これをしたたかに利用しつつ、独自のポジションを見極めることだと楠木氏はこの論評をまとめています。
全体のプラットフォームの構築は彼らに任せつつ、これを土台に他者がやらないこと、できないことをする。日本の企業家たちは、今こそこうした戦略の原点に立ち戻るべき時だする氏の(現実的な)アドバイスを、私もこの論評から興味深く読み取ったところです。
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