MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2141 日本人の6割は働いていないという話

2022年04月25日 | 社会・経済

 昨年発表された国勢調査(2020年)にはこの10年間における日本の総人口の減少が明確に表れており、労働力の低下による経済成長の停滞が一層懸念される状況を迎えていることが判ります。日本の総人口は2010年の国勢調査でピークを打った後、2015年の国勢調査において(前回調査から)初の減少を記録。それに歩調を合わせるように、経済の実力を示す「潜在成長率」(日本銀行調べ)も2014年度前半の0.98%を境に低下傾向が顕著となり、コロナ禍に見舞われた令和2020年度後半は0.04%まで落ち込んでいます。

 そうした中、政府はこれまで、(アベノミクスの一環として「一億総活躍社会」の看板を掲げ)女性や高齢者の就業を後押しすることで労働力を補おうとしてきたものの、産業のIT化の遅れなどから生産性は上向かず低成長から抜け出せないのが実態です。これから先、少子高齢化が進む中でさらに人口が減少すれば、消費の低迷・需要の抑制・原料高などが相まって、構造的な経済の停滞やスタグフレーションの発生なども懸念されるところです。

 一方、政府が発表する労働力調査などを見ると、35~39歳女性の労働力率は既に75%を超え、過去最高水準を更新中です。1999年時点の女性の労働力率は30~34歳で56.7%、35~39歳で61.5%でしたので、(数字だけ見れば)確かにこの10年で女性の労働参加は大きく進み、(いわゆる)「M字カーブは解消された」との声が上がるのも判るような気がします。

 折しも、この4月1日には改正女性活躍推進法が施行され、各事業者には従業員に占める女性の割合などを記した「行動計画」の策定と公表が義務付けられることになりました。働く女性を支援するため、家庭と仕事との両立に向けた雇用環境の整備、採用、長時間労働の是正なども義務付けられたところです。

 果たして日本経済は、人口構成の急激な高齢化とさらに進む労働人口の減少を乗り越えることができるのか。そうした折、3月31日の)総合経済サイト「DIAMOND ONLINE」に、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏が「日本人の6割は働いていない!? 女性の潜在力を活用しない国情」と題する論考を寄せているのが目に留まりました。

 一国の人口のうちどれだけの人が労働力になっているかを示すために、通常、使われるのが「労働力率」という指標。これは、15歳以上人口に対する労働力人口(働く意思のある人)の比率だと野口氏は言います。労働力調査によれば、日本の労働力率は男性は全体として低下気味なのに対して、女性は2013年頃からかなり顕著に上昇している。2020年時点の労働力率は、男女計で62.0%。内訳は男性が71.4%、女性が53.2%だということです。

 男性の数字が徐々に低下してきているのは、高齢者の比率が上昇しているため。これが人手不足を引き起こしており、経済成長の足を引っ張っていると氏はしています。しかし、問題はそれだけではない。この数字は今の日本が抱える問題を的確に表すものではない。それはこの数字が、女性の就業者にパートタイマーが多いことを反映していないからだというのが氏の見解です。

 OECDのデータによると、パートタイマーが全雇用者に占める比率はOECD全体では男性が9.9%、女性が25.1%。アメリカは男性5.0%・女性15.7%、韓国は男性10.4%・女性22.1%、スウェーデンでは男性11.4%・女性15.7%であるのに対し、日本は男性15.0%・女性39.5%と、日本の女性のパートタイム率が国際的に見ても著しく高いとこの論考で氏は指摘しています。

 それでは、こうした状況をきちんと反映させるにはどうしたらよいか。野口氏によれば、例えば労働時間が一般労働者の半分の人は「1人」とカウントするのでなく、「0.5人」とカウントする「フルタイム当量」(FTE)という指標があるそうです。実際、OECDは、FTE労働力率のデータも併せて公表している。OECD平均では、男性が76.4%、女性が54.7%。アメリカでは男性77.4%・女性60.8%、韓国では男性82.6%・女性55.2%、スウェーデンでは男性74.7%・女性65.6%だと氏は紹介しています。

 では、私たちの日本はどうなのか。(OECDの取りまとめにはなぜか日本の数字が入っていないが)氏の計算では、日本の女性の労働力比率は直近の2020年でも39.4%にとどまり、2013年以降の女性の労働力率の顕著な上昇は見られないということです。全体の労働力人口も、FTEベースでは、2020年は男性3376万人、女性2255万人、計5632万人で諸外国の値と比べて極めて低い。労働力調査による労働力人口6868万人より約1236万人も少なく、総人口1.258億人に対する比率は44.8%。つまり、FTEで見れば、日本人の6割近くは働いていないことになるというのが野口氏の指摘するところです。

 こうした状況に野口氏は、アベノミクスの成果とされる「雇用者数増加」は実は「水増し」で、社会的地位向上に適切な統計を用いなければ政策の効果は測定できないと話しています。日本は労働力不足が深刻であるにもかかわらず、FTEベースで見た労働力率は諸外国に比べて著しく低い。そして、その主な原因は、女性の労働力の3割(労働力調査)をパートタイムという形でしか使っていないことによるというのが氏の認識です。

 女性の労働力率向上は、経済ばかりでなく女性の社会参加の観点からも望ましいもの。女性の社会的地位向上を実現する第一歩として、まずは適切な指標を作り現実を適切に把握することが必要だと説くこの論考における野口氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。

 



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