MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1921 ワクチンを嫌う若者たち

2021年07月31日 | 社会・経済


 新型コロナウイルスのワクチン接種に関し、国際医療福祉大学が東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県の20~60代の3129人にアンケート(7/13~15)を実施したところ、回答者の4割が「接種したくない」「あまりしたいと思わない」「様子を見たい」と答えたということです。
 接種をためらう理由として約7割が副作用への懸念を挙げており、ワクチンは政府が期待するほどには国民の理解を得られていないようです。

 特に、接種に慎重な姿勢を示す傾向は若い世代ほど顕著に現れており、年代別の回答を見ると、20代では男性の約半数50.1%、女性の58.7%が「接種したくない」「様子を見たい」などと答えているということです。
 一方、60歳代で接種に対し同様な姿勢をとっているのは、男性では15.1%、女性では25.3%に過ぎないということなので、若年層ほど接種に消極的であることは明らかです。

 どうして、情報へのアクセスが容易で科学技術にも信頼を置くはずの若い世代ほど、新型コロナワクチンへの拒否感が強いのか。
 7月7日のPRESIDENT Onlineに国際医療福祉大学大学院教授で精神科医の和田秀樹氏が、「『ワクチン打ちたくねぇ』」感染しても軽症か無症状の20代が接種後の副反応を嫌うのは当たり前」と題する興味深い一文を寄せています。

 海外では、「普通の生活を取り戻すため」にワクチン接種が行われている。国民に向け各国の指導者たちはその目的を明確に示していると氏は言います。
 一方、日本では、いったい「何のために」ワクチンを接種しようとしているのか、ワクチンを接種すればどんな良いことがあるのかを、政治家も、専門家も誰も語りたがらないということです。

 日本では、(海外のように)「ワクチンを接種したら自由に出歩いて会食をしてもいいですよ」などといったアナウンスも一切なされていない。アメリカやイギリスでは、ワクチン接種が進んだ段階でマスクなしでのコミュニケーションがすぐに許されたが、ワクチン接種が進んでも日本だけは自粛生活が続くことになるのではないかと氏は言います。

 このままでは、ワクチンを接種しても(個人としては)「新型コロナに感染しにくくなる」「感染しても重症化しにくい」というメリットしかないので、ワクチンの副反応が報道されればされるほどワクチン接種を行わない人は増えていく。万一、ワクチン接種率が5割程度でストップするようなことになれば、(いつまでたっても)コロナ前の市民生活を取り戻すことはできないというのが氏の懸念するところです。

 「何のために何をするのか」を明確にして説明し、その結果、「こうしたことが実現できる」というメリットまで提示することが、政策を決め、新型コロナ対策を決め、ワクチン接種を主導する政治家には求められると氏は話しています。

 しかし現状では、目的と手段が不明確なまま、緊急事態宣言が発令、延長され、ワクチン接種がその混乱の中で進んでいる。感染者が増えたら緊急事態宣言を発令し、減ったら解消し、また増えたら発令し、減ったら解消する。こんなことをいつまでも繰り返すつもりはないのだろうが、抑制と解放を繰り返すだけでは、根本的な打開策にはつながらないことは、誰の目にも明らかだというのがしての指摘するところです。

 若い人たちは新型コロナをあまり恐れていないと氏は言います。それは当然で、ほとんどの人が感染しても無症状や軽症で終わっている。20代までの死者数は、まだ一桁にすぎないということです
 一方、コロナワクチン接種の副反応は、(特に2回目)若い人の方が38度以上の発熱や頭痛が起こりやすいことがわかっていて、若い女性に関しては2割程度にのぼるというデータもあるようです。

 実際、20代女性で接種後の発熱を訴えた人は(実に)5割を超えると厚労省も発表しており、インターネットが情報源である若い世代は既にこのことをよく知っている。そうした中、新型コロナに感染しても軽症や無症状なのに、なぜ高熱や頭痛が起きる可能性があるワクチン接種を行わなければいけないのかと若い人が考えても、何ら批難されることではないというのが氏の見解です。

 「ワクチン接種によって新型コロナに感染や重症化しにくくなる」というメリットしか示せなければ、若い人たちがワクチン接種を嫌がるのも極めて論理的だと氏は考えています。
 では、どうすれば、若い人たちが(すぐにでも)ワクチンを打ちたくなるようなインセンティブに繋がるのか。

 若い人たちは現在、自由に出歩けないことや、仲間同士で集まったり、会食したりできないことに非常に大きなストレスを感じていると氏は言います。
 そこで、イスラエルのように、ワクチン接種を終えた人に「ワクチンパスポート」を渡し、そのパスポートを見せれば、自由に出歩くことも、数人が集まって外食することもできるようにする。そして、こうしたワクチン接種のメリットを政府がアピールすればよいというのが、この論考で氏が示す解決策です。

 日本は、良い情報に比べて、悪い情報ほど早く大量に出回る国。なので、ワクチン接種の副反応などの悪い情報だけでなく、自由に出歩いて会食もできるようになるといった、ワクチン接種のメリットを積極的に喧伝していくのが効果的だということです。

 政府は現在、自発的非接種者が差別されることを「人権問題」だとするメディアなどの指摘を踏まえ、市町村が発行するワクチンパスポートの国内での利用を制限しています。
 しかし、これだけのコストをかけて行っているワクチン接種において最も優先すべきものが「接種の拡大」(による集団免疫の確保)だとすれば、人権問題は人権問題としてケアしつつも、社会機能の回復を目指し出来得る限りの手を尽くすことが今行うべきことだとも思えます。

 若い人たちが、新型コロナ感染症への罹患や蔓延が及ぼす社会への影響よりも、自身のワクチンへの副反応に恐怖感を覚えるのは確かに仕方のないことかもしれません。だとすれば、その「想像力の欠如」や「公共意識の希薄さ」を嘆く前に、確かに政府にはもっとできることがあるような気がします。

 「メッセージが足りない」…コロナ対策を進める日本の指導者に対し、そうした指摘がなされるようになってすでに久しいものがあります。

 政府がこれまで進めてきた新型コロナ対策は、あまりに場当たり的で、計画性も戦略もなく、何が起きそうかの想定もなく、長期的な展望もないものと言わざるを得ない。日本がそういう国であることを改めて目の前に突きつけているのが、現在の新型コロナ禍だとこの論考を結ぶ和田氏の厳しい視点を、私も重く受け止めたところです。



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