MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2401 やっぱ男は顔だわ…という話

2023年04月25日 | 社会・経済

 『ルッキズム』とは、一言で言ってしまえば「人を外見で評価・差別する」思想のこと。looks(見た目)とism(主義)を合わせた造語として一般化しつつあり、「外見至上主義」という言葉が充てられる場合もあるようです。

 ルッキズムは(もともと)1970年代からアメリカで行われた肥満差別の廃絶を訴える「ファット・アクセプタンス運動」の中で生まれた言葉とされています。若者によるベトナム反戦の動きや黒人問題などから人権運動が激しさを増していったこの時代、体形などの外見から始まる差別への反対運動もその一つだったということでしょう。

 例えば、様々な人種が入り乱れるアメリカでは、姿かたちや肌の色による差別はあってはならないこと。人権問題にもつながるルッキズムへの抵抗感は、日本と比較にならないほど強いことは想像に難くありません。

 一方、それからかなり遅れはしましたが、ようやくこの日本でも「デブ」とか「チビ」とか「ブス」とかいった(耳障りな)言葉は、コンプライアンス上の問題から使用が控えられるようになっています。勿論それ自体、結構なことと言えるのでしょうが、「人は見た目が9割」などとも言われる日本では、「人を外見で判断して何が悪い」と言う向きもまだまだ多いかもしれません。      

 実際、「見た目」を気にする若者は、以前よりも随分と増えているような気もします。近年ではインスタの写真は「盛る」のが当たり前。ネット上に男性用化粧品や女子高校生向けの美容整形手術のCMがあふれるような状況に、「日本のルッキズムもここまで来たか」と感じないわけではありません。

 そうした中、昨年10月16日の経済情報サイト『東洋経済ONLINE』にコラムニストの荒川和久氏が「結婚相手に『容姿』を求める女性が過去最高の現実」と題する一文を掲載していたので、参考までにその一部を紹介しておきたいと思います。

 国立社会保障・人口問題研究所が行った「出生動向基本調査(2022)」によれば、結婚相手に求める条件として「重視する」「考慮する」を合わせた項目として、相手の「容姿」を挙げた人が1992年の調査以降の過去最高記録の81.3%を占めたと氏はこの論考に記しています。

 そう聞くと、「未婚男性はそんなことばっかり言っているから結婚できないのだ」と思うかもしれないが、実はこれは女性側が男性に求める条件とのこと。もともと「人柄」「家事育児能力や姿勢」「仕事への理解と協力」の3項目については、常に男女とも高い割合を示していたものが、今回はじめて、この「容姿」の条件が女性が男性を上回ったということです。

 もちろん、女性側の条件としては「男性の経済力」が最も高く91.6%もあるが、令和の男性にはそこに「容姿」までもが求められるようになった。調査が始まった1997年以降、女性が示す条件としての「男性の容姿」は、全項目中もっとも増加幅が大きく、およそ14ポイントも増えていると氏はしています。

 一方、男性の条件としてこの間もっとも増えているのが「女性の経済力」の項目で、その増加幅は実に17ポイント。つまり、女性は男性の容姿を求めるようになり、男性は女性の経済力を求めるようになったわけで、まるで今までの男女の条件が逆転したかのようだというのが氏の指摘するところです。

 しかし、そもそも論として、恋愛において「容姿」を求められるのは女性という前提そのものが間違っていたとしたらどうか。荒川氏はここで、米テキサス大学のダニエル・S・ハマーメッシュ教授の研究成果を紹介しています。

 ハマーメッシュ教授の著書『美貌格差』によれば、容姿を5段階評価で区分した場合に(5が最高、3が平均)、男性の場合、「5と4」に当たる「容姿が良い」人の年収は、「2と1」の「容姿が劣る」人と比べ17%高いことが判明したと氏はしています。

 女性でも同様に、(容姿の優れた人の方が)12%高いという結果となったが、不思議なことに(女性よりも)男性のほうがより容姿の影響が大きい。17%と言うとあまり違わないように聞こえるかもしれないが、容姿の良し悪しで大卒と高卒ほどの年収格差が生まれているのが現実だということです。

 これが何を意味しているかと言えば、男の容姿と経済力との間には密接な関係があるということ。残酷な言い方をすれば、容姿に無頓着な男は、恋愛や結婚機会がないだけではなく、金も稼げないというのが氏の認識です。

 さて、本当に顔がイケメンならば収入が高くなり、女性にもモテるのか。「顔が良ければ全てが上手くいく」というのは、つまり「顔が悪いとみんなうまくいかない」という残念な話にも聞こえます。しかし、この調査のポイントは、「容姿の良しあしはあくまで自己採点による」…というところにあると氏は話しています。

 (もしかしたら)客観的に「イケメン」であるかどうかは関係ない。主観的に「俺は容姿に自信がある」という認識そのものが重要なのかもしれないというのが、この論考における氏の見解です。

 自信を持つべきは「容姿」という表面的なことではなく、自分自身そのものへの自信の存在なのではないか。大事なのは「ああでもない、こうでもない」と考えて何も行動しなくなることではなく、何事もまずやってみて、失敗も含めて経験値をあげ、その結果ついた自信こそが「自分が自信を持てる容姿」を形成していくのかもしれないとこの論考を結ぶ荒川氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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