MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1963 大切なのはシニアの意欲を生かすこと

2021年09月12日 | 社会・経済


 総務省の「労働力調査」によれば、2019年の60~64歳の就業率は70.3%と8年連続で上昇しており、これまでの最高水準を記録しています。企業に、定年の廃止若しくは65歳までの雇用を義務付けた「改正高年齢者雇用安定法」が施行された2006年以降、(リーマンショックで就業率が低下した一時期を除き)上昇傾向にあるということです。

 一方、これは政府が設定した「2020年における60~64歳の就業率を67.0%まで引き上げる」という目標を上回るスピードであり、年金支給開始年齢の段階的引き上げを見据え、国民の方が着々と準備を進めている(進めざるを得ない)ということの表れと言えるかもしれません。

 さらに、65~69歳の就業率も同様に8年連続で順調に上昇しており、2019年現在で約半数(48.4%)が何らかの形で就業していることがわかります。(これは女性も含めた数字ですので)働けるうちは働きたいと考える日本人の勤勉さを象徴しているような数字です。

 そこで、主要国における高齢者の就業率(パートタイムを除く)をG7各国と比較すると、(少し古い数字になりますが)2017年の比較で日本は23.0%と最も高く、2位の米国は18.6%、カナダが13.5%、以下英国の10.0%、ドイツの7.0%、イタリアの4.3%と続き、最も低いフランスはわずか3.0%に過ぎません。

 平均寿命の上昇に合わせ、ここ10年で(各国ともに)上昇している高齢者就業率ですが、各国の文化や労働観の違いもあって、その差は依然かなり大きいと言えそうです。

 少なくともこの日本では、生活を支えるためには定年後も一定の収入が必要で、そのためには働き続けざるを得ないという事情があるのでしょう。一方の企業も、経験豊富な即戦力の人材を、(いつまでも)遊ばせている余裕はないということかもしれません。

 今後、コロナ禍が収束に向かうことで、消費の拡大と業績回復による人手不足が懸念される中、高齢者の雇用制度をどのようにすれば、シニアの労働意欲を生かし生産性の向上に結び付けていくことができるのか。

 こうした問いに応え、立正大学教授の戎野淑子(えびすの・すみこ)氏が8月5日の日本経済新聞(経済コラム「やさしい経済学」)に、「高年齢者の就業と課題 高い意欲に応えられない企業」と題する論考を寄せています。

 日本の高年齢者は、諸外国に比べ相対的に高い就業意欲を持っているとされる。60歳以上の有業者を対象とした「何歳まで働きたいか」という意識調査では、「働けるうちはいつまでも」が約37%と最も多く、70歳以上まで働きたい人は9割近くに達していると氏は言います。

 一方、高年齢者の就業を推進するためいくら制度を変更し様々な支援を進めても、当人の仕事へのモチベーションが低ければ実現は難しいものになる。そう考えれば、日本の高齢者の高い就業意欲はまさに「追い風」だというのが氏の認識です。

 高年齢者の体力や運動能力も向上しており、70歳代前半の人は20年前に比べおよそ5歳若返り、健康寿命も男性72歳、女性75歳に延びている。実際、高齢者の就業率も上昇しており、今日では既に60~64歳でおよそ7割、65~69歳で半数弱に上っていると氏は指摘しています。

 さらに言えば、就業を希望する理由では「生活費を得たい」などの経済的理由が(もちろん)多いものの、「仕事の面白さ」「友達や仲間を得ること」「生きがい」「健康のため」などの(積極的な)理由をあげる人も少なからずいるということです。

 一方、(そのようなシニアの声に応える)企業サイドがどのような制度で60歳以上の高年齢者を受け入れているかを見てみると、「定年無し」という企業はわずか数%で、「定年の引き上げ」による雇用がおよそ2割。最も多いのは「継続雇用制度の導入」で、8割弱を占めていると氏は説明しています。

 定年後は、再雇用制度によって雇用形態が非正規従業員に変わり、身体的負担や責任が軽減される。しかしその一方で、定年前と近い仕事に就きながら、賃金は定年時の5~6割程度になる人が多いのが現状だということです。

 このような状況に、同じ職場であまり仕事内容も変わらないのに「賃金だけが下がった」と感じる人も多いというのが氏の指摘するところです。

 企業としても、雇用延長によるコスト増や対象者と仕事とのマッチングに苦労する一方で、高年齢者の働きぶりに不満を抱くこともあると氏は言います。

 国はこれまで、様々な制度により高年齢者の就業を推進し、企業もそれに対応して人事制度を変更するなどして雇用を図ってきた。その結果、高い就業意欲を持つ高年齢者の就業は進んだが、その中身については、企業も労働者も決して満足しているものばかりではないというのがこの論考における氏の見解です。

 さて、定年制の見直しや再雇用制度の導入が始まるずっと以前から、日本の主だった企業では「役職定年」の制度などが広く採用されていました。50~55歳の若さで(いわゆる)役職定年を迎え、主要な役職から外れる友人の姿を私もたくさん見てきました。

 この場合、大学生の子供を抱える働き盛りが、子会社に出向したりスタッフ職に配置換えになったりで、給料は2割から3割ダウンするのが普通です。お金だけの問題ではなく、「まだ働けるのに」「まだまだこれから」というところで第一線を去なければならないサラリーマンの寂しさを思えば、モチベーションを持って働くのがいかに難しいかはよくわかります。

 定年後の彼らが「現役」として受け入れられ、やりがいを持って働ける環境をいかに作るか。改善すべきところはまだ多く残されているとこの論考を結ぶ戎野氏の指摘を、私も同世代の一人として大変重く受け止めたところです。


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