MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2588 結婚のインフレ化

2024年05月27日 | 社会・経済

 国内の世帯を構成する平均人数が2033年に初めて2人を割り込み、1.99人にまで減ることが厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計」で分かったと、4月12日の時事通信が伝えています。

 推計によれば、平均世帯人数は2047年には1.92人にまで減少するとされており、一層の未婚化が進むことで、65歳以上の高齢者単独世帯が増加することなどが影響するとされています。高齢者単独世帯の未婚率は、2050年に男性で6割、女性でも3割に上ることが確実視されており、社人研は近親者がいない高齢者が急増すると分析。社会的孤立や孤独の問題が深刻化し、大きな課題になるということです。

 今から約四半世紀のちの2050年。現在40代の単身者たちがいよいよ高齢者の仲間入りを果たす頃には、家族を持たない「おひとり様」が全世帯の約半数を占めることになりそうです。

 そうした折、3月9日の経済情報サイト「東洋経済ONLINE」に、コラムニストの荒川和久氏が『日本の若者が結婚しなくなった「本当の理由」』と題する一文を寄せているので、参考までにその内容の一部を残しておきたいと思います。

 令和の時代に入り、ますます進む日本の非婚化。現代の婚姻数が大幅に減少しているのは個々人の意識の問題ではなく、まず「結婚のハードルがあがった」という構造の問題としてとらえるべきだと荒川氏はこのコラムで指摘しています。

 婚姻減は、「一生結婚しない」という選択的非婚が増えているからだけではなく、「結婚したいのにできない」という不本意未婚が増えているという事実が隠れていると氏は言います。

 SMBCコンシューマーファイナンスによる「20代の金銭感覚についての意識調査」では、「結婚しようと思える世帯年収」について継続的に聞いている。その結果を見ると、2014年の中央値が379万円だったものがその後の10年間でどんどん上昇し、最新の2024年調査では544万円にまで上がっているということです。

 2014年対比で実に1.4倍。一方で、国税庁の民間給与実態調査から、25~29歳男性の平均年収(個人年収)は、2014年は381万円に対し、最新の2022年段階でも420万円と約1.1倍の上昇にとどまっており、結婚必要年収の上昇に、実態としての若者の給料が追い付いていないというのが荒川氏の認識です。

 さらに注目すべきは、2014年時点では、結婚に必要な年収379万円と25~29歳男性の平均年収381万円はほぼ一致していたという点。10年前までは結婚に必要な世帯年収意識と実際の男性の個人年収の乖離は(ほぼ)なかったことだと氏はしています。

 これは即ち、2014年までは夫の一馬力でも(なんとか)「結婚必要年収」をクリアしていたことを意味している。ところが、今では、妻も一緒に稼いでくれないと結婚に必要な年収に達しない。もちろん「夫婦共稼ぎ」をすればいいのだろうが、実際は、(2020年の国勢調査でも末子が0歳の世帯の場合、妻の6割が無業になることからもわかるように)どうしても夫の一馬力に頼らざる時期が生まれるのが現実だということです。

 そうした状況を踏まえると、未婚の若者が「結婚なんて、出産なんて無理だ」と諦めてしまうのも仕方ないことかもしれないと、荒川氏はこのコラムに記しています。

 それは、決して若者の価値観が変わったのではなく、環境構造が諦めざるをえない心を作っているから。「お金がすべて」とは言わないが、どんなにきれいごとを並べても結婚とは経済生活であり、お金がなければ運営できないというのが氏の指摘するところです。

 以前は簡単に買えていたものが、気が付けば値段が上がってとても買えないものになっている。若者には「結婚と出産のインフレ」が起きていると氏は話しています。婚姻減は自動的に出生減につながっていく。現在の日本で起きているのは、「少子化ではなく少母化」でありそれは婚姻の減少に起因するものだということです。

 実際、2000年と2022年の「児童のいる世帯」の年収別世帯数を比較すると、世帯年収900万円以上の世帯はまったく減少していないにもかかわらず、いわゆる所得中間層である世帯年収300万~600万円あたりの世帯だけが激減していると氏はコラムの最後に指摘しています。

 日本の婚姻減、出生減は、この中間層が結婚も出産もできなくなっている問題にある。つまり、婚姻数の減少や少子化は決して価値観の問題などではなく経済環境の問題だということでしょう。中間層の不本意な若者たちを増やさないようにするためにも、これ以上の負担増を現役世代に迫るのは「悪手」でしかないと話す荒川氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。