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ことば咀嚼日記

日々読んだ活字を自分の頭でムシャクシャ、時にはゴックン、時には、サクサク咀嚼する日記

イワン・イリイチさん

2010-11-11 | 日記
『イワン・イリイチの死』を光文社から出ている新しい訳で読んだ。

主人公の裁判官イワン・イリイチは何でもそつなくこなせる人である。
好きな言葉は、「気楽・快適・上品」

彼の人生のコツについて、訳者でもある望月哲男氏の解説を読むと、以下の三つである。

・裁判官としての仕事は自己を介せず、事件を客体として扱うこと
・趣味のカードゲームのコツは、計算と距離感
・うまくいかぬ家庭生活への対応法は自己の周囲に仕事の壁を張り巡らせて閉じこもる

こうやって、人生を一見スイスイと渡ってきた男であるが、ある些細な、鈍くさいともいえるミスで体を壊し、だんだん寝たきりになっていき、数ヶ月で死んでしまうという話である。

本当はスイスイなんて渡っていないのである。それがだんだん分かってくるように書いてある。
結婚前はあれほど快活で美しかった妻が、妊娠した頃から「一切何の理由もなく彼に嫉妬し、自分の機嫌をとることを要求し、何にでも難癖をつけて彼の前で不快で下品なシーンを演じてみせるようになったのだ」
それを見たイワンは、自分の身を守るため、ますます仕事に精を出すことによって、問題から避け、妻はますます愚痴攻撃に磨きをかけるという悪循環に陥っていく。


この本は、イワンの立場からも、妻の立場からも、イワンの上司や同僚の立場からも、イワンの娘や息子、そして下男の立場からも、「そうそう、まさしくその通り」と読むことができる。すべての人物に自分を投影して読むことができるのに驚いた。

さすがはトルストイ。この人は一体どこから世の中を見つめていたのだろうか。