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水川青話 by Yuko Kato

時事ネタやエンタテインメントなどの話題を。タイトルは勝海舟の「氷川清話」のもじりです。

・「イギリス人」らしく Stiff Upper Lip indeed

2005-07-08 22:24:59 | ニュースあれこれ
先程、ロンドン警視庁のブレア警視総監の会見が流れた。死者数は少なくとも50人以上。「3ケタになってもおかしくない」とのこと…………。

イギリス人の特徴というか精神風土みたいなものを表わす言葉で、「stiff upper lip」というものがある。直訳すれば「こわばった上唇」だけど、意訳すると「唇をきりりと閉ざした様子」てな感じ。口元をきりりと噛みしめ、騒がず臆さず動ぜず、静か決然と前を見つめる。日本人が抱く「武士」の理想型にちょっと近いかもしれないと、かねてから思っていた、そんな佇まい。

ネットやBBCを通じた情報だけなのがもどかしいが、ロンドンでは今たくさんの人が、この「stiff upper lip」をものの見事に体現しているようだ(ちなみに友人たちは無事でした)。

「stiff upper lip」は平時では、なんていうか「礼儀正しく勤勉な日本人」「四季の移ろいを愛する日本人」みたいに、よくて一種のステレオタイプ。悪くてカリカチュアとして扱われて、(自嘲の心に満ちたまともな)イギリス人自身が使うとしたら、ちょっと照れたような皮肉な薄笑いと共に使う表現だ。

平時では、何かにつけてたらたらと文句を言い合う(政治のこと天気のこと経済のこと家族のこと天気のこと仕事のこと天気のこと)のも、これもまたイギリス人らしさではあるのだけど、こうやって外部からの攻撃を受けると、見事なまでに整然と落ち着いて団結するのも、これもまたイギリス人らしさなんだろう。

第二次世界大戦のロンドン大空襲のとき、いかに市民が冷静で果敢で笑いを忘れなかったかが色々な形で語り継がれていて、それをたたき込まれている今の世代が、同じように行動しているんだろうなと思う。そういう、行動規範みたいなものが、確かにあの国にはある。

そしてなんだかんだ言いつつも大したものだと思うのは、「イギリス人」とここでざっくりルーズに使ってるこの表現が、民族としてのEnglishではなく、あの島国を生活の場としている人たち(英語でいうところの「British」)全てにあてはまること。私が「イギリス人らしい」と思うこうした特性が、民族はなんであれ、あの島に住むおおかたの人にあてはまるようになるということだ。それはもしかして、あの土地・社会の風土による、風土病みたいなものなのか。あそこに住めばほとんどの人は多かれ少なかれ、Britishらしく行動するようになるという、その規範力はなんと強くてしぶといのか(大阪に住むとほとんどの人が大阪に染まるのと一緒か。違うか)。

ただし哀しいかな。ロンドンが実に雑多で多様な多民族社会だというその素晴らしさ(2012年五輪候補地のプレゼンテーションで英国代表団がまさにこの点を強調していた)があればこそ、テロ行為がやりやすいというのは、どうしてもあると思う。

言われているようにもし仮にこれがアルカイダの犯行だったとする。ロンドンにムスリム系の市民がいかに多いかを思えば、バスや地下鉄をねらった今回のような犯行は実に防ぎようがない。日本ではムスリム系は少ないから、行動を監視しやすいとか、そういうことを言いたいのではない。そんなことはすべきじゃない。でも、多民族社会だからこそ、「イギリス人」であることを受け入れない外国人も活動しやすい。それはどうしようもない現実だ。

それにしても。BBCが掲載している読者からの電子メールを見て思った。みんな冷静だ。冷静に怒っている。めったなことでは一致団結しないだけに、一致団結した「イギリス人」の怒りに、ちょっと感動してしまっている。