水川青話 by Yuko Kato

時事ネタやエンタテインメントなどの話題を。タイトルは勝海舟の「氷川清話」のもじりです。

・「シャーロック」はできるだけ続けたいとベネディクトが改めて言ったことなど

2013-03-16 08:31:11 | BBC「SHERLOCK」&Benedict Cumberbatch

(3月14日初掲載)

12日でしたか、South Bank Sky Arts Awardsというテレビや映画に贈られる賞の授賞式にParade's Endで出席したベネディクトが、「シャーロックは第4シリーズもある」と発言したと、Radio TimesとRed Carpet News TVが速報ツイートをして、世界のシャーロック・ファンダムが大騒ぎになったのは(15日追記ありです)。

Radio Timesはただちにそれをこちらの記事にして、それを各社が伝聞報道。アメリカではシカゴ・トリビューンやワシントン・ポストなどの一般紙も、配信記事を掲載していて、微笑んでしまった。

Radio Timesの記事では、ベネディクトはこのように(最初に見たときから補足されてるw。twoが何を指してthree が何を指すか、誤解する人が(プロにも)多かったので)。

"We've agreed to two more [series] but I could get into trouble for saying that. All I know at the moment is we're doing these three [episodes of the upcoming series] and another three. I just don't know what there is beyond that."

"It just depends on Martin and I's availability, how long we can keep it going. It depends on Steven's ability. I'd love to keep it going."

「あと2つ(シリーズを)やると合意してるんだけど、それを言ってしまうと怒られるかもしれないな。今の時点で分かってるのは、(第3シリーズの)3話をやって、それからもう3話やるってことだけ。その先どうなるのかは、本当に分からないです」

「ひたすら、マーティンと僕の予定次第なんです。いつまで続けられるかは。スティーブンができるかどうか次第だし。ずっと続けられたらいいなと思いますよ」

……この、「Martin and I's 」という表現がベネディクトが言ったそのままなら、可愛くてw ふつうならこういう言い方しないので。「Martin's availability and mine」とか「Martin's and my availability」が文法的には正しいのかと思いますが、ここでは「Martin & I」をひとまとめにくくって、そこに「's」をつけてるという。「Martin and I」がセットでひとつの名詞みたいなw

そして「Steven's ability」が訳しにくくてですね。「能力」じゃなんか変だ、「力量」?「手腕」?といろいろ考えた挙句、「できるかどうか」にしてみました。なぜかというと、別の囲み取材では「Steven's availability」と言ってるので、単にいい間違いかもしれないと思えてきたので。

 

別の囲み取材の映像が、Red Carpet News TVがYouTubeにアップしてくれたこちらです。なぜ「別の囲み取材」というかというと、Radio Times記事にあった「Martin and I's」と「ability」がないから。言ってることも微妙に違うし。シャーロック関連のところだけ抜き出します。

We'd love to keep it going. It depends on Steven's availability as well, you know. I'd love to keep it going for as long as possible. I think we all would.

(ずっと続けたいと思ってますよ。スティーヴンの予定があくかどうかにもよるけど。できるだけ長いこと続けられたらいいなと思います。みんなそうだと思う)

記者:You've agreed to one more and then see what happens? (もう1シリーズをやると合意して、その先は様子見ってことですか)

Uhh...I think we've agreed to two more, but I could get into trouble for saying that in front of the national press. I don't, I genuinely don't know. All I know is that we've agreed to do these three, that is the honest truth.

(えーと……もう2つやるって合意したと思うんだけど、でもそれを全国メディアの前で言っちゃうと怒られるかもしれない。本当に、知らないんですよ。僕が知ってるのは、今回の(第3シリーズの)3話をやると合意したっていうことだけで、それが正直言って本当のところです)

 

…………ごまかしたなwwww 

そして第3シリーズの放送予定については、「冬の放送ということで話してるみたいです。クリスマスごろ。確かじゃないけど」と。これはRadio Timesにも"I think they're talking about the winter [to show it]. Around Christmas but I'm not quite sure when"と、同じことを言ってました

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15日追記。関連ニュースのチェックを一日ほどしていなかったら、あらら。ベネディクトが翌日には、「I never said that we'd agreed to do anything (何かをやるって合意したなんて全然言ってない)」と前言を撤回してる。あらら。言ってたのに↑。カメラの前で。でも「これを言ったら怒られるかも」と言ってたように、怒られたんですかね。あらら。

以下、ふだんに輪をかけて早口で、かつぶっきらぼうで、いささか不機嫌そう。

「ジュリアン・アサンジをやり終わって帰国したばかりのところに、相変わらずレコーダーを何本もつきつけられて、お約束の、ありきたりなやりとりをしたんだ。(記者たちは)いつも僕から何かを引き出そうと、何かを言わせようとする。たとえば僕はもう外国に移住するつもりだとか、出演作のネタバレをさせようとか。要するに、どれも大事なことじゃないんですよ(It's all irrelevant)。僕は確かに気が緩んでて、言うべきでないことを言っちゃったんだけど。みんな知らないんです。本当に、第4シリーズがあるか、みんな知らないんです。(S4やるよ発言が)報道されてすぐにマークから『It's news to me, dear (知らなかったよ)』ってメールがきたんですよ」。

あらら。まあ確かに、S3の撮影も始まっていない内からS4があると情報を出してしまうのは早いなあとは思ったので。情報リリースのしかるべきタイミングを、ベネディクトがフライングしてしまったっていうのはあり得るなあと思います。だからといってS4がないとは思わないですけどね。「ない」と言ってないので。「よくわからない」って言ってるのは、確答を避けるための常套手段だから。

だって、S3についてだってずーっとずっっと「あるかは分からない」と関係者が言い続けてじらし続けてたのに、The Reichenbach FallのUK放送が終わった直後にスティーヴン・モファットが「S3もちろんあるよ。ほんとにないって思ってたの?」とかtweetしたのを、忘れてません。モファット&ゲイティスがじらしの名人だと言うのも忘れてません。

(あとこれはなんていうか、元事件記者としての「勘」ですが(苦笑)、ベネディクトの最初の「S4やるって合意した」発言の方が、おそらく真実じゃないかなあ。主演俳優からあれだけのコメントがとれたら、そりゃ特ダネ記事大急ぎで書きますって。それで書いた内容と実際の展開が食い違ったとしても、それは「書いた時点では正しかったが、記事になったことでその後の展開を変えてしまった」っていう量子力学的な結果論かも)

いずれにしろ、ベネディクトがいささか前言を撤回しているにしても、「できるだけやり続けたい」と言ってることに、なんら変わりはありませんし。


 

以下、ちょっとまじめな話です。ツイッターでもしつこく書きましたが、「シャーロック」はなるべく長く続けたいというのは、キャストも製作陣もずっと言ってきたことです。スティーヴンは「2人が一緒に年をとっていく様子を描いていきたい」とまで、複数のインタビューで言ってきてます。DVDの特典にも入ってると思う。

なので、去年の夏か秋ごろでしたか、UKのゴシップメディアが「2人が忙しすぎるから打ち切りの可能性があると関係者は話している」とかの、てっきとーな記事を出してたとき、私は「ふ~ん」と鼻で笑ったわけです。それを無批判に日本語にして事実であるかのように「ニュースでござい」として流した、一部の日本語エンタメサイトについても同様です。プロなはずなのに、媒体や情報の信頼性の峻別もできないのかと。でもそれを多くのファンが真に受けてしまって動揺したり悲しんでいるのを見て、こりゃ問題だと思うようになりました。

その前に「シャーロック」報道についてだけでなく、もっと大きいそもそもの問題があります。ニュース業界に。特にインターネットのニュース業界に。とりわけ、金稼ぎのための「ニュースもどき」サイトが乱立するネットニュース業界に。

例外はありますが、情報サイトの多くは主に広告収入で成り立っています(私が関わるgooもそうです)。広告収入以外の収入源も色々ありますが、広告収入の割合は未だに大きい。そして民放テレビのCMと同じ理屈で、テレビの視聴率に代わる指標のひとつがページビュー(PV)です。PVが多ければ安定した広告収入が得られるし、PVがなければ収入がなくなっていく。そして単純な理屈で、たくさん読まれてPVがとれるコンテンツ(記事に限らず)をできるだけたくさん、できるだけ安く作って掲載できれば、サイトの運営は安定するし、ひょっとしたら儲かったりするわけです。コスパがいいってやつです。もちろん、それだけでは本当に単に安かろう悪かろうのダークサイドに陥ってしまうので、そうならないようにいかに品質を維持するかが、編集者の踏ん張りどころなのですが、それはまた別の話。

いずれにしてもPVがどうしたこうしたはサイトを運営する側の理屈であって、ひとりのファンとしては、ベネディクトやシャーロックがそういうレベルのネットニュースの「ネタ」として消費されてしまうのは、とても腹立たしい。また、新聞記者を経てなんだかんだとニュース業界のすみっこに生息してきた人間としても、ページビュー(PV)稼ぎのための手抜き記事で読者を無用に悲しませるような記事や媒体は、とても腹立たしい。

加えて3/11を機に、そういうデタラメを拡散する媒体や連中に、自分が強い怒りを抱いたというのもあります。3/11の後、どれほどのデタラメがどんどん拡散してしまい多くの人を混乱に陥れたか。人生を狂わせたか。玉石混淆な「海外メディア」を一括りにして、「海外メディアがこう言ってるから日本はもう終わりだ」的な言説をまき散らして、どういう連中が名前を売ったり一儲けしたりしたか。そういうデタラメに自分なりに微力ながら対抗してきたつもりなだけに、シャーロックやベネディクトを手軽でおもしろおかしい「ネタ」に仕立てて、デタラメを拡散されるのは、本当に腹立たしいのです。

そもそもです。自分がスターになるきっかけになったドラマを「スターになって忙しいからもう出ないよ~ん」なんて言う奴と、「できるだけスケジュールをやりくりして、ずっと続けたい」と言う人とは、まったく別人だと思うんですよ。「シャーロック」以前から出ているラジオドラマに、超多忙なスケジュールの合間を縫って出続ける人とも、別人だと思うのですよ。

そんなこんなで、日本でも注目が高まりつつあるこのタイミングで、ベネディクトがシャーロックを「ずっと続けたい」と公の場ではっきり言ってくれたのは、良かったなあと思います。日本で(日本だけで?)なんか妙なイメージが一部のいい加減な媒体によって作られて固定しまう前に。