走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

インシデントリポートの意義

2020年10月04日 | 仕事
日本の医療界のインシデントリポートについて書きたいと思っていたところ、とても良いビデオを見つけました!このビデオは航空業界の事故について作られたビデオです。事故だけではなく、それに至ったいきさつ、事故後の調査、それを受けてルールやマニュアルがどう変更されたか、などを過剰表現を抜きに淡々と語っています。コンピューターによって作られた音声は好きではありませんが内容はとても良いと私は高評価しています。

さて、こちらは全日空が2011年に起こした事故について

副操縦士がスイッチを目視で確認せず作動させた事により起こった事故です。事故調査の中で、個人の不注意として処理するのではなく、形状と動作が似たようなスイッチが近くにあること、同系統の2種の飛行機間でスイッチが違う場所に設置されていたのは良い設計ではない。トレーニングの点では2種機種の間でスイッチがが違う場所に設置されている事を説明と訓練に入れていなかったことの2点に改善の余地があると調査報告はしています。そして事故というのは不注意だけで起こるのではなく複合的な要因が重なって起こることへの認識です。

これがインシデントリポートと調査の目的なのです。人間はミスを起こすことが大前提で、ミスを起こす人間のミスをどう防ぐのか?安全ネットを何層にも重ねて合わせたシステム的な改善を狙っているのです。

個人の不注意を指摘して、「もっと注意すれば防げたはず」これでは将来同じ間違いは繰り返されます。だって人間はミスるのですから。日本の医療界のインシデントは本当に上記を目指していますか?システム的に改善の余地がないか多種職の視点で調査されていますか?

例えば点滴の種類を色で識別している看護師がいれば、病院が契約している製剤会社が変更された場合、ミスは必ず起こります。製薬会社間で点滴製剤の色統一なんて規則はありませんから。製剤保管書の置き場所を変えただけでもミスは起こります。塩と砂糖の置き場を変えたために間違えた事はありませんか?人間は習慣性があるのです。同じ行動を繰り返すと色や場所で同じものを手にとっている感覚に陥るのです。北米ではこの為点滴製剤のバッグやキャップ部分に色を入れることが禁止されています。看護師は必ずどんな製剤なのか、内容を読むことで識別することが課されています。ミスは緊迫した急変現場や超過勤務が重なり判断力が鈍った時に起こります。そんな時でも間違いを起こさないようにするのがシステム的な改善でインシデントリポートのプロセスはそれを目的にしているのです。「これからは色や場所に頼らず製剤名を確認するように」と個人を指導するだけでは意味がありません。だって人間は慣れてしまった時、疲労した時に、パニックっている時にミスを起こしてしまう動物ですから。

続く。


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