走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

大進歩

2014年10月04日 | 仕事
ホームレスのオフィスにジェシカが来てるよと連絡を受けて診察カバンを車に積み込んですぐに出かけた。

ジェシカの前編はこちら。
追いかけっこ
溝を埋める


1週間に1度は街の何処かで見かけていた。大きくなったお腹を抱えのっしのっしと歩く姿。出産日が近いのか?不明なだけに心配だった。相変わらず私に近づいてくれない彼女。

なんでも、シェルターを見つけて欲しいと約束の時間にちゃんと現れたとか。んー??もしや出産に向けて前向きになったか?!診察させてくれるかも?!と期待が高まる。車の中で何を優先させるか、きっと長くは一緒にいてくれないだろうからと自分なりに作戦を練る。

彼女の開口一番はF爆撃の謝罪だった。

診察室も移動診療車もないのでスタッフの休憩室で胎児の心音と子宮の高さの計測、血圧も測れた。もっと診察をしたくてもそれ以上はダメ。問診もままならず。この時点で妊娠27週あたりと推測した。欲の出る私。アウトリーチワーカーに血液検査と超音波に行かせたいと相談する。

さすがベテランのホームレスのアウトリーチワーカーのデニー。ジェシカを誘導するのがうまい!食べ物、タバコ、彼女が欲しがっていたマスカラや髪染めを購入して私の目標を達成させてくれた。

超音波で出産日は12月23日と決定。ただいま妊娠28週。妊娠中に必要な検査がほとんど終了。これでMCFDも全病院に情報を提供し準備ができる。

精神的にとても不安定な彼女。協力的かと思えば意味不明の独り言が始まったり、怒鳴り出す。超音波検査中がひどかった。若い検査技師は検査をやめようとする。言葉は悪いが暴力を振るわないので検査を続けてとジェスチャーを送った私。

検査の他にも向精神薬の処方も出来たし、隣町だけど女性専用のシェルターに泊まれることが決まった。そこまで連れて行って、スタッフと話してオフィスに戻ったのが5時。朝の9時半から7時間半もみっちりジェシカとデニーの3人で過ごした一日だった。ラッキーだった。この日は論文の書き直しに一日を費やすつもりで患者を入れなかったからこういう行動が取れたのだ。

薬物依存症と妊娠、メンタルヘルスと妊娠。両方ともそう言う人専用の医療機関、入院施設がある。しかしジェシカは絶対行かないと言う。そこで息子を取り上げられたからと。取り上げられたのは場所ではなくてあなたの行動と態度で判定されたからだがそう言う理屈が通用する彼女ではない。しっかりケアしてくれる施設だ。もし彼女が更生することができれば、チャンスはあるかもしれない、、、しかし今の彼女からそこまで変われるとは私にも想像できない。


もしジェシカが今日のシェルターに留まれば月曜日の午後、私がシェルターで診察をして今後の計画を立てなければならない。
もしいなかったら、、、、その時はその時さ!

これはジェシカが行った女性専用シェルターのキッチンの壁に貼ってあったコラージュ。






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