走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

決意

2014年10月02日 | 仕事
ケンを診察するのは3度目。今までのどの医師より良く診てくれて安心すると言っていた彼。痛み止めのための麻薬と依存性の高い抗不安薬を処方して欲しかったのがそもそもの目的だったらしいがそんなことは言わず(彼には必要ないと私は判断したので)、治療計画に納得していた彼。

今日は治療センターの申し込み用紙の記入を頼まれた。過去に2度治療を受け薬物乱用から抜け出した彼。最近また使用するようになったがこの1カ月は使っていない、治療センターでもう一度トレーニングを受けたいと。

はいはいと10ページもある申し込み用紙に必要な事項を記入する。もう終わりに近い時に、あ!一度も尿検査をしていないわ(薬物反応が出ないか)と思い出しそれを伝えると怒り出す彼。
そんなことは一度もしたことがない!いつからそんなルールが出来たのかと。挙げ句の果てには私のナースプラクティショナーとしての能力を罵倒し出す。

あーさては1カ月前からしてないと言うのは嘘なのね。見え見え。

結局言いたいことを言いまくり、あんたには頼まないと出て行ったのだ。

治療センターと聞くと薬や注射で退薬症状をコントロールしてくれる場所と勘違いする人が多い。そういう急性期の症状がある場合は病院で管理される。誘惑に負けてしまい、薬に手が出てしまいそうな人が行くセンターはそれこそ外出もできない鍵付きのところ。ほとんどの治療センターはカウンセリングやグループセラピーを通して薬に頼らないコーピングスキルを学ぶところ。住み込みのところもあれば通いのところもある。なので薬を絶って、もう薬は絶対使わない!と強い意思がなければ成功の見込みはないのだ。そう言う意味で現在使用中の人は受け入れてもらえない。ケンが行きたかったセンターは鍵なしの12週間プログラム。

歴史のある素晴らしいプログラムを提供するところだが、ルールを破って(薬物使用)強制退去になる人が多いところでもある。なので入所のスクリーニングがどんどん厳しくなっている。特に何度も治療センターを使用している人は厳しく審査される。限られた運用資金を成功率が高そうな人に投資するのは必然なことだ。紹介する医療者側としては本当に入所できる心構えが出来ていることを証明しなければならない。抜き打ち尿検査はそのためにも必要なのだ。

一見???となるかもしれない。申し込もうと言う意思は尊重されないのかと。それは確かに辞めたいの気持ちの第一歩だとしてサポートしたい。しかしそれだけではもっと先に進むことはできないから。あそこに行けばなんとかしてくれると言うような甘ったるい考えが通るほど薬物依存からの脱出は簡単ではないのだ。人任せではなく自分から断固とした決意でまず薬から離れること。これが本当の第一歩なのだ。

そうでなければセンターに行っても、行かなくても必ず薬物の誘惑に負けてしまうのだから。

ケン、本当に準備が出来たら戻っておいで。

治療センターのカウンセラーのドアに貼ってあった。




誰もが何かと戦っている。あなたはそれについて何も知らないのだから、いつも他人に優しくしなさい (ごめんなさい私は日本語訳がトーっても下手なんです!)
私があなたの立場だったら、、、なーんて言うアドバイスは決してするものではありませんよー本当に悩んでいる人にとってこの言葉ほどムカつく言葉はありませんから。



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