みのる日記

サッカー観戦記のブログです。国内外で注目となる試合を主に取り扱い、勉強とその記録も兼ねて、試合内容をレポートしています。

アーセナル × マンチェスターU #1

2007年01月27日 | サッカー: プレミア
06/07 プレミアリーグ 第20週: アーセナル 2-1 マンチェスター・ユナイテッド
(2007/1/21)

■ エミレーツの不敗神話
今週は多忙であったために記載が大幅に遅れることになってしまいましたが、記録として残しておきたい対戦カードです。この週のプレミアのもう一つの山場、アーセナル対ユナイテッドの大一番が行われました。

新スタジアムのエミレーツに初めてユナイテッドを迎え入れるアーセナル。若さゆえのムラがあったのか芳しくない結果が相次ぎましたが、昨年末からは急激に輝きを増しているチームです。ブラックバーンを6-2で葬ったのを手始めとして、もともと鋭さと勢いに溢れていた攻撃陣が、ついにコンスタントにゴールを量産するまでになったのです。リーグ戦ではありませんが、カップ戦でアウェーながらリバプールをも3-1、6-3と粉砕してしまいました。そのカップ戦を含め、ここ最近の7試合で獲得した得点数は驚異の23。さらに朗報は続くもので、エースのアンリが離脱前の不評を払拭しつつある働きで復帰しています。先週には数的不利で苦しむ自軍を、自身のスーパーゴールで勝利に導きました。こと攻撃に関しては、今回対戦するユナイテッドにも決してひけをとらないパフォーマンスです。
しかし、改善されないディフェンス面での安定度は課題として残されたままでした。なかなか完治しないギャラスを欠く守備陣は、大崩れこそしないもののサポーターを失望させています。若きセンターバックのセンデロスとジュルーの二人も、残念なことに相変わらず軽率さと不安定感が目立っているそうです。こちらは7試合で8失点。ユナイテッドやチェルシーのような守備力のガタ落ちはありませんが、上位を狙う強豪として物足りなさは募るままといった感じです。
ここで、この緩い土台のチームを支えてきた、ある一人の選手を挙げねばなりません。30歳ながら、フィールドプレイヤーとしては最年長であるMFジウベルト・シルバです。チェルシーと引き分けた試合での凄まじい存在感が引き金となり、彼こそが真のチームリーダーであるという意見が多数寄せられるようになりました。プレミア随一の華麗さを誇るアーセナルの中で、一人だけ泥臭いハードワーキングを絶やさないのです。やはり守備力が物足りない中盤を、ピッチ中央から大きく引き締めてきました。アンリ不在時には臨時のキャプテンを担当したところ、自身の献身ぶりでもってチームの意気を統率することに成功して、その役割を全うしました。精神的に引っ張っていくわけではないアンリよりもよほどキャプテンにふさわしいのではないか、というアンリファンにとっては寂しい見解も少なくありません。おまけにゴールまで量産し始めるようになり、二人のFWに次ぐチーム3位の7得点としています(ちなみに昨シーズンの彼は33試合で2得点)。称賛されるべき貢献の量で、改めて不可欠な人材であることが認識されました。
ですが、その不可欠なジウベルト・シルバがこの大一番で出場できません。先週のブラックバーン戦で彼は退場してしまったのです。確かにあの場面、悪名高いサベージの見るに耐えないダーティなプレーが発端となりましたが、どんな事情であれ暴力で報復しようとする姿勢自体は許されるものではありません。少なくともジウベルト・シルバの退場は妥当です。報復行為に及んだ彼は、このユナイテッド戦を含めて3試合の出場停止処分に。大きな要を失いながら、首位に堂々と君臨するユナイテッドへ挑むことになりました。

ユナイテッドについては先週もレポートしたので省略します。先日に2位のチェルシーがリバプールに敗れたために、勝利すればその勝ち点差を9にまで広げられる大きなチャンスです。

アーセナルは4-4-2。
GKレーマン。DFは左からクリシー、センデロス、コロ・トゥーレ、エブエ。MFは左からロシツキー、フラミニ、セスク・ファブレガス、フレブ。FWはアンリとアデバヨールの2トップです。
件のジウベルト・シルバの穴にはフラミニが入りました。負傷を繰り返す、レギュラーの右サイドバックのエブエは復帰しています。
攻撃陣ではチーム内得点王のファン・ペルシが軽い負傷により、この日は控えに回ったために、アデバヨールがアンリとコンビを組むスタートとなりました。

ユナイテッドの陣容です。
GKファン・デル・サール。DFは左からエブラ、ビディッチ、ファーディナンド、ネビル。MFは後方にスコールズとキャリック、前方にルーニーとギグスとクリスティアーノ・ロナウド。FWはラーションです。
先発メンバー自体は申し分のない顔ぶれが揃います。信頼を勝ち得たラーションはこの日も最前線で起用されました。アーセナルは昨季のチャンピオンズリーグ決勝戦にて、当時バルセロナ所属のこのラーションに2アシストを決められて逆転負けをした苦い経験を持っています。

試合開始後、しばらくしてユナイテッド側に異変のあることが判明します。ルーニーが中央におらず、下がり目の左アウトサイドに位置しているのです。後述もしますが、ユナイテッドはこれまでの基本の4-4-2ではなく、ルーニーをMFに配する4-2-3-1の布陣でこの試合を戦っていました。
そのユナイテッドが序盤はやや優勢でした。アーセナルはユナイテッド陣営まであまり持ち込めず、シュートを撃てない時間帯が続きました。

しかし、徐々に盛り返してきたアーセナルが先手を取ります。前半33分、右サイドのアデバヨールのクロスに対し、ユナイテッドはファーディナンドがアンリを離してしまいました。アンリはフリーでヘッド。決定的でしたが、惜しくもキーパー正面でした。
ユナイテッドも黙ってはいません。前半終了前に畳み掛けました。
前半41分、スコールズのスルーパスからギグスが飛び出しに成功し、キーパーと1対1に。ギグスの弱々しいシュートミスによって、アーセナルはこの難から逃れました。
ロスタイムにはペナルティエリア外からルーニーの強烈なミドルシュートが、コーナーキックからフリーとなったラーションのヘディングがそれぞれアーセナルを襲いましたが、いずれもレーマンのファインセーブが阻止します。
アーセナルはよく凌ぎきりました。

後半に均衡が破られます。開始から相手のミスなどによって一時的に支配していたアーセナルでしたが、先制したのはユナイテッドの方でした。
その立役者はエブラです。ラーションのポストプレーからスコールズ、左のロナウドと渡る間に、彼が突如としてロナウドを追い越すように猛然と駆け上がってきました。ロナウドはそのエブラにパス。アーセナルはロナウドに対応していたエブエの裏を見事に突かれ、右サイドからエブラにクロスを上げられてしまいます。途中のトゥーレのジャンピングクリアもわずかに及ばず、逆サイドでフリーだったルーニーがダイビングヘッドでこれをゴール内に沈めました。
今季の公式戦はいまだホームでは無敗のアーセナル。しかしながらそのホーム戦の内、失点をした7試合は全て先制を許していたという悪癖がまたも繰り返されました。

その後はお互いに決定機がないまま、刻々と時間が過ぎていきます。やはり引き気味のユナイテッドを崩すのは容易なことではありません。ですが、アーセナルは敗北もちらついてきた試合終盤に、切り札としてフラミニと代わっていたファン・ペルシの投入が的中するかたちとなったのです。
後半38分、右サイドでセスクとロシツキーが2対2の局面を何とか突破。ロシツキーの低いクロスが入ります。ボールは中央のアンリの足元を抜けてファーサイドへ。そこへ駆け込んできたファン・ペルシが、角度のないところから豪快に決めてみせました。かなり難易度の高いシュートだったと思います。
アーセナルがお返しとばかりに、敵陣を大きく横断するクロスでもって同点としました。

これまで先に失点をしても必ず追いつき追い越してきたエミレーツのアーセナルの勢いは、ユナイテッドでもってしても制御できるものではありませんでした。俄然盛り上がるアーセナルを前にして防戦を強いられます。
そして後半ロスタイムに、またもアーセナルの右サイドアタックがユナイテッドに襲い掛かりました。エブエとロシツキーがワンツーでここを攻略。エブエがエブラをわずかにかわし、ギリギリのところでクロスを放射します。このハイボールが懸命にクリアしようとしたビディッチの頭上を通り抜け、すぐ後方のアンリにピタリと合わさりました。アンリはこれを迷いなくヘディングでゴールへと突き刺し、勝ち越し点を奪取!終了間際の2得点による劇的な逆転に、スタジアムは興奮の渦に包まれました。

そのまま2-1でこの重要な試合が終了。「一体どこが止められるのか?」といった雰囲気を発散していた無敵のユナイテッドを、見事に止めてみせたのは長年のライバルであるアーセナルでした。アーセナルはユナイテッドに対してシーズンダブルを達成。もうユナイテッドから首位の座を奪える可能性は限りなく低いのですが、そのユナイテッドに土をつけたチームとして記録に刻み込まれることになります。

■ 際立った両チームの司令塔の出来の差
この試合で、何よりもまず一番の感想として私が抱いたのは両チームの司令塔の働きでした。すなわち、セスクとスコールズの活動です。この両者の出来の差が勝敗に大きく影響したと私は思っています。

先週のブラックバーン戦で獅子奮迅の活躍であったセスクは、この日もアーセナルの中心人物でした。彼を経由せねば、アーセナルの攻撃機会は激減していたと断言いたします。
他の選手に目を向けてみると、まずはフレブが大ブレーキ。あれほどボールを託されたにも関わらず、何一つとして役に立つことがなく、挙句の果てに直接敵にパスすること2回。間違いなくチームの足を引っ張っていて、交代は後半開始からさせておくべきでした。
続いてロシツキーは、一度斜めに切れ込んで展開させた以外には組み立てにほとんど関与せず、受けたボールをミドルでゴール枠外へ乱射するばかりの選手でした。サイド突破からのアシストは立派な評価点ですが、これもセスクの際立つキープと粘りからもたらされたことを忘れてはならないと思います。
フラミニはそもそも守備役だったので、攻撃時に目立っていなかったのは仕方がありません。アデバヨールはクロスを一本通したのみで、大部分は消えている存在。アンリもファン・ペルシも一発のゴールだけが多大な貢献となり、ネビルに封じられっぱなしだったのが共通点です。
そこでセスクです。試合開始から終了まで、10代の年齢とは思えないほどにパフォーマンスが安定していました。最もパスを出した選手でありながら、エラーは前半27分の横パスのミスのみ。ショートパスはもちろんのこと、ドリブル、キープ、枠内ミドルシュート、ロングボールと、もうあらゆるプレーを何でもやりました。注文をつけると、そのワンプレーごとのテンポが少し遅いことでしたが、それでも彼のチャンスの始点となる働きがなければ、シュート数でユナイテッドを上回れたかどうかも怪しいものです。表向きの殊勲者は難しいシュートを決めたファン・ペルシやアンリでも一向に構いませんが、私にとってのアーセナルの主役は紛れもなくセスク・ファブレガスでした。

一方のユナイテッドが誇るべきスコールズです。ロナウドに次いでこれまでMVPクラスのこの大選手が、失速しました。
サイドアタックを主軸に爆発的に炸裂している今季のユナイテッドの攻撃力ですが、グラウンド中央で抜群のタメや捌きやフィードを見せるスコールズの燦然たる展開力があるからこそ、相手を左右にぶん回すほどの厚みが生じているのだと私は思っています。システムの影響もあったかも知れませんが、その彼がサッパリ輝きませんでした。試合序盤こそは押し上げていましたが、次第にずるずると後退。その後は決定的なスルーパスを一回出したきり、前線に顔を出すことがありませんでした。後方での試合運びにもあまり参加できず、自身にも安易に奪われるなどの不安定感がありました。これまで攻撃陣を支えてきたスコールズの不在が、両サイドをうまくリンクできないこの日のユナイテッドの単調さと無関係とは言い切れないでしょう。
彼は守備に重点を置いていたという見方もあったにせよ、その守備でも見せ場がありませんでした。アーセナル陣営の後方で構えるセスクに当たりに行くべきか、それとも敵のアタッカーのケアに回るべきかを、あたかも迷っているかのような甘いチェイシングです。正解はフレブなど放っておいて無理してでもセスクを潰すべきでしたが、中途半端なポジショニングでほとんどチームに貢献できませんでした。
もう、とにかく全ての動作に冴えがない感じです。大車輪の活躍だった、つい先週のヴィラ戦の出来と見比べてしまうと雲泥の差があります。最終ラインとうまく連係して守備面で効いていたキャリックの方が、よほど存在価値がありました。明確にキャリックにも劣るという、珍しい試合を観てしまいました。

そして見逃せないのがアーセナルの2得点の、ゴールに至るまでのシーンです。特に同点となった場面ではセスクとスコールズとの直接対決がありました。ロシツキーがクロスのチャンスを得るまでの過程を詳細に振り返ります。
発端はやや右サイド寄りを疾走するセスクのドリブルでした。この一人でも打開しようとする動きに、対峙するスコールズの足取りは重く、まるでついていけません。仕方なしにエブラが正面からセスクを阻むわけですが、そのこぼれ球を争ってスコールズがセスクともつれ合いになるも、ここでもスコールズは勝てません。そして拾ったセスクがロシツキーへとパスを出したところ、エブラが咄嗟にこれをカット。再びこぼれ球となりましたが、またもセスクがスコールズに粘り勝ちをして拾いました。ついに今度こそはロシツキーにパスが通り、パスカットで体勢を崩していたエブラが裏を取られたのです。前回の記事でユナイテッドは左サイドバックがウィークポイント云々と記述したばかりですが、この失点の場面ではエブラはやるだけのことはやりました。左サイドを突破されたのは、3回も接触の機会があったスコールズとセスクの優劣によるものという認識が正しいでしょう。
アーセナルが逆転としたときのスコールズはお粗末でした。味方がクリアしたボールの到達点にいたスコールズは、どうしたことか勝手にバランスを崩してコケてしまい、触ることすらままなりません。さらにあろうことか、前方にいた最重要人物のセスクに直接渡っていってしまうかたちとなります。難なく収めたセスクは、的確に状況を見定め右サイドへ展開。そこからアンリのゴールへと結びつきました。

この直接的な両者の勝敗はもちろんのこと、自陣から前線をつなぐコンダクターの有無が非常に大きかったと感じられました。正直に申し上げてユナイテッドの方が攻撃技能力自体は上です。しかし前線の4人とその他がはっきりと分断されていたユナイテッドに対し、アーセナルははね返されてもはね返されても次々とあらゆる選手にまんべんなくボールが行き渡りました。それが最後まで衰えずに攻撃回数では上回ることになり、最終的にはそちら側に軍配が上がりました。アーセナルの後衛、中盤、前衛の3ブロックがうまくつながっていた結果だと思うのです。この試合は私にとってはやや難しく、これだけをアーセナルの勝因と定めるのは軽率な感がありますが、少なくとも無視はできない要素だと思いました。

最強の相手に先制されても決して下を向かず(この展開に慣れている?)、鮮やかな逆転へ向けた勢いを保って見ごたえのある試合にしてくれたアーセナル。その彼らに足止めを食うことなったユナイテッドは勝ち点1すら獲得できずに、チェルシーを突っぱねる絶好の機会を逃してしまいました。両者の勝ち点差は依然として6。プレミアはアーセナルのおかげで、かろうじて優勝争いの火が灯されたままとなっています。
この上位陣の直接対決の2試合は、結局いずれも優勝に近い側のチームが敗退という結末になりましたが、それを指して波乱という表現が用いられるのには少々ひっかかるところがあります。アーセナルとリバプールが今冬に見せたパフォーマンスの急上昇を考慮すると、そこまで驚くことではないと思われるのです。いつの間にかアーセナルとリバプールは、2位のチェルシーとの勝ち点差が6以内となっています。このまま彼らの目覚しい躍進が途切れないのであれば、「2強」から「4強」へ移り変わるという楽しみな展開へなることにも期待ができそうです。

以上で主要なレポートを終了します。この先からは、個人的に両チームに注目していた点について記載したいと思います。


※「アーセナル × マンチェスターU #2」に続きます。

リバプール × チェルシー

2007年01月22日 | サッカー: プレミア
06/07 プレミアリーグ 第20週: リバプール 2-0 チェルシー
(2007/1/20)

■ 山場を迎えたプレミア上位陣
プレミアの上位陣がリーグ後半戦で最初の重要な山場を迎えました。3位のリバプールが2位のチェルシーと、4位のアーセナルが首位のユナイテッドとそれぞれ激突。この4強が各々の現実的な目標に向かう上で、今後を大きく左右させる週となりました。

まずはこの日、リバプールがアンフィールドでチェルシーを待ち構えます。
リバプールは相変わらず内容に出来不出来があるとされながらも結果だけは確実に残してきました。取りこぼしをほとんどせずに勝ち星を積み上げていき、3位のボルトンまでをも3-0の快勝で直接叩き落し、その座を奪って今に至ります。
そして特筆すべきなのが失点の少なさです。アーセナル戦での3失点以降、チームは見事に立ち直りました。毎試合のように重ねられる無失点のオンパレード。リバプールが先週までのリーグ戦の11試合で喫した失点は、何とわずかに1でした。そうです、驚いたことに10試合も完封しているのですね。実際には冷や冷やさせられる場面が続出する内情だったらしいのですが、それでも絶賛されることではあると思います。
ただし、年始にこの自信が揺らがされることになります。その元凶はまたもアーセナルでした。FAカップ、カーリングカップと立て続けにアーセナルと戦うことになったリバプールは、レギュラーを何人か落としたとはいえ、どうしたことか2戦合計で9失点も食らうという苦い大敗をしてしまいます。そして追い討ちをかけるような衝撃がリバプールを襲いました。この試合で左MFマルク・ゴンサレスが約1ヶ月の負傷、さらにはサイドハーフの中心人物たるMFルイス・ガルシアが十字靭帯断裂で今シーズン絶望の重症。すでに戦線離脱中であるMFシッソコ、MFゼンデンに加え、レギュラー格の二人を中盤から失うことになったのです。もはやローテーションなどは言っていられないリバプールの今季後半戦が始まっています。

対するは、驀進中のユナイテッドに唯一食い下がる存在のチェルシー。ですが、チェルシーはスペインのレアルと同様に「どうしてしまったの?」と思わされる年末年始を過ごしていました。とにかくこのチームも結果が出せません。安定した勝負強さが最大の売りであるはずなのですが、徐々に不安定になっていき、最終的には3戦連続ドローと勝ちきれなくなってしまったのです。その最大の要因として、主将のDFテリーの不在が意外なほど多大に影響を及ぼしたとの見方が強まっています。腰を痛めて手術まで行うことになったテリーの欠場後、確かに守備陣にドタバタした感じがあるのは否めません。代役のブラルーズやパウロ・フェレイラの出来も、残念なことに十分に穴を埋めるまでには至りませんでした。守備の要としても精神的支柱としても君臨するこの偉大な選手を欠いて以降、あれほどの鉄壁さを誇ったチェルシーが4戦連続2失点と非常に苦しんでいます。DFギャラスやフートを放出した非難と、新たなセンターバックの補強への要望がクラブ側へ声高に叫ばれている現状です。

リバプールのこの試合のフォーメーションは4-4-2。
GKレイナ。DFは左からファビオ・アウレリオ、アッゲル、キャラガー、フィナン。MFは左からリーセ、ジェラード、シャビ・アロンソ、ペナント。FWはクラウチとカイトの2トップです。
前述した2枚いっぺんに脱落した中盤の左サイドにはリーセが入り、アウレリオが代わりにサイドバックを担当します。最前線で不動の定位置を獲得したカイトの相棒は、この日はクラウチとなりました。ベラミーはベンチスタートです。

チェルシーは4-4-2ではなく、4-3-3からのスタートです。この冬場にモウリーニョ監督はついに低迷に悩むシェフチェンコを下げさせ、待望論もあった4-3-3での先発布陣を試みるなどの変化を見せています。
GKチェフ。DFは左からアシュリー・コール、エッシェン、パウロ・フェレイラ、ジェレミ。MFは左からランパード、ミケル、バラック。FWは左からロッベン、ドログバ、カルーです。
最大の話題は、ついに守護神のチェフが頭蓋骨骨折から復帰を果たしたことです。まだヘッドギアを装着する痛々しい姿ではありますが、驚異の回復力でもってこの大一番に間に合わせてきてくれました。
一方でカルバーリョが発熱で急遽離脱との発表がありました。テリーはこの日も出場を見送っており、看板センターバックの二人が不在となる緊急事態です。エッシェンがウィガン戦に続き代役を務め、フェレイラとともに守ることになりました。さらにマケレレが出場停止処分で欠場です。守備面で多大な不安を抱えます。

試合は突然に動き出しました。フィナンからの単純な放り込みをクラウチがヘッドで空振り。これに動揺したか、その後方のフェレイラがやや慌てふためいてしまいます。そんな彼を、抜群の機動力を持つカイトが攻略するのは困難なことではありませんでした。カイトはこぼれ球をワントラップしてから、軽い対応のフェレイラを事も無げに一瞬で振り切ると、フリーな体勢から低く抑えたシュートを鮮やかに決めてみせます。一見すると何でもないような攻撃でしたが、カイトのプレーによってあっさりと得点に結びつきました。リバプールが先制です。

その後もリバプールが圧倒します。今度は中央のジェラードの放り込みから簡単にリーセがフリーに。またアウレリオのアーリークロスも、エッシェンのカバーがなければカイトが得点するところでした。
前半18分です。リバプールは左サイドのスローインからまたもクロスの放り込み。エッシェンがクリアしたボールを拾ったペナントが、チェフのセーブも及ばない見事な豪快ミドルシュート!ゴール枠内上いっぱいに飛び込んでいき、リバプールの追加点となりました。解説の粕谷さんが「詰めが甘い」とペナントをフリーにさせていたコールに苦言を呈していましたが、私もその通りだとは思います。ですが、この素晴らしいシュートを沈めたペナントを純粋に褒めたいところです。「大失敗の補強」とのレッテルを貼られ続けてきたペナントの、意地の今季初ゴールでした。よかったですね。

さらにチェルシーには暗雲が立ち込めます。2失点後に、足をひねっていたロッベンが負傷退場を余儀なくされました。ライト・フィリップスと交代です。追いつきたいところで攻撃の最大のキーマンを欠く痛手となりました。そのままチェルシーは見せ場を作ることなくハーフタイムを迎えます。

攻勢に出たチェルシーが後半のほとんどの主導権を握りましたが、決定機が続出するのはリバプールの方です。
後半16分にはペナントのカットから、リーセがゴールバーを直撃する強烈なロングシュート。エッシェンの後方からの妨害で脆くもバランスを崩したクラウチは、このはね返りを押し込むことができませんでした。
2分後には、左サイドからのクロスにカイトが勢いよく突進してダイレクトボレー。外れはしましたが、気迫あるプレーです。
後半31分、ジェレミの弱々しいクリアミスがフリーのクラウチへ。後半43分、ダイレクトではたいたジェラードの前方へのラストパスが体勢十分のカイトへ。しかし、両者ともシュートはゴール上にふかしてしまい、決めきることができませんでした。

チェルシーは低調のまま何も出来ずに試合は終了。リバプールの文句ない完封勝利で幕を閉じました。

■ 大きな起点となっていたリバプールの左サイド
普段の彼らからすればあり得ないかたちで早々に失点してしまったチェルシー。ユナイテッド戦まで12試合も先制点を許さなかったあの勇姿が遠い過去のように感じられます。
この先制後もリバプールが次々と得点機を作り上げていたのですが、これもチェルシー側に非があったと見受けられました。
この日のチェルシーの4-3-3は整然とされたものではなく、いびつな形状でした。右MFバラックが中央に絞って司令塔気味に構えているのです。ランパードが左サイドハーフ、ミケルとバラックがセンターハーフという、4枚の中盤から右サイドハーフを抜かしたかのようなまま戦っていました。
このポッカリ空いたサイドでアウレリオ、リーセ、ジェラードに対処する選手が誰もいないのです。ジェレミとカルーの及ばないところで彼らは自由に活動しました。そしてこれがそのまま、サイドバックが本職ではないジェレミ一人に振りかかっていました。孤立したジェレミが二人に囲まれ、あえなく自陣で奪われる場面も出現。リバプールにとっては左サイドこそが大きな起点となりました。
リバプールの2点目などはその集大成のようなものです。ジェレミが簡単に1対1の局面を作られ、かわされ、フェレイラがかろうじてクリアしてスローインに。続いてこのサイドでスローインを受けたジェラードを前にして、バラックはただの傍観者に過ぎず、やすやすとジェラードにクロスを上げられて失点に結びつきました。コールがペナントのシュート前に詰めなかったのが罪ならば、バラックもまた同罪になるべきだと思います。
ちなみにジェレミ自身のクリアミスでもって締めた後半31分まで、チェルシーの右サイドはチェルシーの大きなピンチに7割近くも関与していました。

チェルシーは2失点後からは次第に攻撃へ移れることになりましたが、これは単純にシャビ・アロンソの出血による長い一時退場が原因だったと思います。リバプールはカイトをMFに下げ、数的不利のために守勢に回らねばなりませんでした。しかしながらチェルシーは一度もいいかたちを作れません。
この日センターハーフに起用されたミケルが、まるで物足りない攻守の動きで大ブレーキに。バラックも上記通り、司令塔として存在するばかりです。よって中盤の守備を一身に引き受けたランパードは、飛び出していくこともままなりませんでした。
前方ではドログバがキャラガーの徹底マークを振り切れません。カルーもライト・フィリップスもたやすくボールを渡してしまいます。バラックのピンポイントのロングボールを中心にパスはよくつなぎましたが、前半は手詰まりでした。

後半になるとより一層チェルシーは詰まってしまいました。リバプールが逃げ切りを図ってきたためです。リーセとアウレリオは大幅に攻撃を自重。ジェラードとシャビ・アロンソもDFラインの前から離れません。カイトをやや下がり目に配し、4-4-1-1のような布陣でリバプールはカウンター狙いに転向しました。
もちろんチェルシーが支配していきます。ただし相変わらずドログバが封じられている上に、活発さの見られない中盤がどん詰まりの渋滞と化せば、もはやできることは左右へのロングボールしかありませんでした。
チェルシーにとって唯一の光明だったのは、後半に突如として際立ったライト・フィリップスの勢いです。力強く抜き去ってサイドを深くえぐるシーンも作り出してくれました。でも、彼一人では到底後が続きません。
終盤にはミケルに代えてシェフチェンコを投入し、攻撃的な4-4-2にもしてみました。しかし実に残念なことに、今のシェフチェンコが切り札にもなり得ないのは周知の事実です。この試合でも彼は中盤の位置でさまよってはリバプールの脅威とならず、結局一度もプレーに関わることがありません。リバプールはそんな彼など一切放っておいて、やはりドログバこそを抹殺して消すのが効果的でした。
こうして最後の最後まで、チェルシーの攻めは停滞しっぱなしとなっていました。

■ 一番の殊勲者としてあげたいキャラガー
リバプールについては調子の乗ってきたベラミーをぜひ見たかったのですが、クラウチが先発となりました。クラウチはさすがの空中戦の優劣から、ポストプレー役となっていた場面が何度かありました。ただし注文をつけさせていただくと、軽いコントロールや軽いバランス感を克服し、どっしりと安定したプレーを心がけてほしいところです。さらに欲を申し上げればやはり運動量がほしいです。守備に駆けずり回れとまでは言いませんが、この試合でどうにか起点になろうと奔走していたドログバを見習ってほしいとは感じました。結果として、存在感を見せるべきカウンタースタイルへの移行後は、ほとんどその始点になることは叶いませんでした。

もう一人のFWカイトの方はと言えば、こちらは素晴らしい出来でした。あれだけ守備に攻撃にと精力的に活動してチェルシーを振り回した姿には、明確な高評価が与えられたのでしょう。評判通りの内容の躍動で、間違いなく勝利の立役者になったと思います。

あと一人、出色の出来だった選手として挙げなければならないのがDFキャラガーです。時として二人のマークさえものともしないドログバを、見事なまでに単独でも抑えきりましたね。ドログバへ向けられたハイボールには判断よく体を寄せて入れさせず、ドログバが左右に流れようともしつこく追って自由にさせません。明らかにドログバが絡んだプレーの計8回はいずれも、フィナンが1回、キャラガーが7回と全て阻止しています。つまり、キャラガーはほぼ完璧に自分の仕事を遂行したと言えるでしょう。ドログバという、チェルシーにとっての最後の希望を隔離させた貢献度は計り知れません。カイトは確かに素晴らしかったのですが、度々のコントロールミスなどから起点になりきることはできていませんでした。一方のキャラガーは、90分間全く不安定さを見せないパフォーマンスで完封に直接関わりました。こうした面から、個人的には一番の殊勲者として賞賛したいのはキャラガーなのです。

■ 戦闘意欲が欠如していたチェルシー
今季の冬のチェルシーは誤算が続いたように感じられました。畳み掛けるような攻撃を目指し、これまで試合途中のジョーカー的な役割であった4-3-3を満を持してメインにも用いましたが、攻めの物足りなさがさして改善されたわけではありませんでした。やはり連動性に乏しくて単発になりがちなのは変わらず、ロッベンが水を得た魚のように蘇っただけです。結局得点は、秋頃に引き続いて驚愕の個人技やセットプレーによるものばかりが中心でした。
さらにそうした得点に頼らなければ、引き分けはおろか敗北になってしまう試合が続きました。冒頭でも紹介したとおり、自慢の守備力の輝きが失われたのです。どんなかたちであれ奪った得点を守りきるという、これまでの確固たるスタイルが崩されました。確かにテリーは替えの利かない大黒柱ではあります。それでも彼一人がいなくなっただけで、これほどまでに後方の土台が大きく揺らいだのは予想以上のことだったのでしょう。

そんなチェルシーも先週のウィガン戦では4-0の圧勝。現地の報道でも「久々の完全勝利」といった類の活字が躍り、文句をつけさせない内容だと言わんばかりにチェルシーの復活の予感をほのめかしていました。
ですが果たして、本当にそのような内容だったでしょうか。実際には一人でチームを牽引していた神出鬼没のロッベンに頼りきり、それにランパードが効果的に絡むだけといった攻撃が大部分を占めていた、というのが私の感想です。ウィガンが守備でも低調なのに、一体どれだけ崩しきれた場面があったでしょう。4得点中、3得点はウィガンのとんでもないミスによって奪えたものです。純粋に自身でもたらした得点とは、ようやく試合終了間際での放り込みからのものというのでは、あれほど支配したにしては力不足の感が否めません。
肝心の焦点である最終ラインにしても、センターバックのエッシェンがヘスキーにパワーで競り負けなかったことだけが評価点だと思いました。あの試合のマケレレとバラックの中盤における守備力には凄まじいものがあって、ウィガンがサッパリな出来の攻めに終始していたことも合わさって、そもそも最後尾への危険は少なく出番がさほどなかったためです。完封したとはいえ、一概に最終ライン自体の評価を定めるのは困難で、実態は不明瞭のままだと感じられました。
よって、私は依然としてチェルシーの先行きにいささか不安感のある見方を変えることができませんでした。

それでも私はここ最近、密かにチェルシーの挽回を祈るようになっています。最低でもユナイテッドに追いついてはほしい、そんな気持ちが日増しに強まっていました。それにはチェルシーに対して少し不憫に思うところがあるからです。
ご存知の通り、低迷を機に、チェルシーに関するピッチ外での報道が実に多く見かけられるようになりました。具体的に記載するつもりはありませんが、マイナスイメージ的な要素を含むものが大半です。明らかに表面化してしまって認めざるを得ないレアルの内部分裂とは異なり、チェルシーのそれは、信頼性に乏しいものだと日が経つにつれて知り得ます。その他にも勝手な憶測や批判めいた記事が溢れ、日本でも度々目にするようになり、チェルシーファンではない私でさえ少々嫌気がさしています。これまで最強の座にいたチームへのやっかみでしょうか、生意気な発言をするモウリーニョ監督への当てつけなのでしょうか、ここぞとばかりに一方的に否定するように叩く姿勢もいかがなものかと思うのです。
こうなったら逆に、俄然としてチェルシーを応援したくなるというのが私の本音です。何はともあれ勝利をものにし続けることで、一斉に雑音をふさぎ込んでしまえとチェルシーに願うようになりました。このリバプール戦も、実はチェルシー側にかなり比重を置いて観ていました。

その思いもむなしく通じず、この惨憺たる内容による完敗です。多大にショックを受けました。根っからのチェルシーファンの方にとっては「戦力が整わなかったから仕方がないよ」では到底済まされなかったであろう、かなりひどい試合をチェルシーはしてしまいました。
確かに個々の能力は、本来のピーク時に比しては大分劣っていました。ですが、それを指して「惨憺たる」などと表現しているのではありません。私だってカルバーリョまでもが欠場と判明した時点で、引き分けすら容易でないことがわかります。カルーもミケルもライト・フィリップスもフェレイラも、これまで代役としては少し不十分であったことも重々承知しています。それでリバプールという難敵相手に懸命に戦って負けたのであれば、ここまでの問題視には至りません。それこそ今回ばかりは仕方がないよ、です。能力的な部分を咎めているわけではないのです。この状況下における選手たちの危機意識のなさ、覇気のなさを指摘したいのです。
ジェレミ、フェレイラ、エッシェン、バラック、ミケル、ランパード、カルーと、よくこれほどまでに攻守で軽率なエラーを繰り返しました。「よくやった」とは決して言えない、意識面での気後れがほとんどの選手に序盤から感じ取れる、活発性と集中力のなさでした。引っ張っていくべきランパードの表情も、わずか一週間でまるで別人になったかのように冴えていません。試合全体を通して、何とかしなければならないという使命感だけ前面に押し出してくれていたのはドログバだけです。2点リードしていてなお、味方に痛烈に叱咤激励するジェラードの存在がうらやましくも思えました。キーパー二人を一度に失った危機的状況の中、バルセロナを破るほどに一致団結する気迫さを見せたあの姿はどこに行ってしまったのでしょうか。それもこれも、テリーという精神的リーダーの不在だけで済まされるものなのでしょうか。
この内容がモウリーニョ監督の責任となり、彼が批判されてしまう要因となるのであれば非常に酷なことです。モウリーニョ監督はバラック依存がやや失敗気味だったのを除けば、手渡された手駒、残された手駒を何とか有効活用し、どうにか工夫を凝らしてうまく用いているというのが私の感想です。中傷や雑音にも耐え、采配面でも精神面でも実によく戦っていると思います。この指揮官を裏切るような選手たちの集中力、ならびに戦闘意欲の欠如からは悔しさを与えられます。

こう反省点を挙げるばかりでは何ら建設的でもないので、今後のチェルシーに希望することも、浅はかな考え方ながら少しだけ記載したいと思います。
もう、4-4-2でも4-3-3でも崩しきるまでの攻撃は望めない現状です。熟成を待っていられるだけの猶予も、もはやないはずです。今チェルシーにあるのは個人技ばかりでしょう。ならば一層のこと、この日の反省点となった個人意識の強弱が重要視されそうです。
そしてこの個人技を見せられるのはドログバ、ロッベン、ランパード、エッシェンです。彼ら4人の力を100%発揮させられるよう、チーム全体でフォローしてあげてほしいのです。システムも、サイドでこそ輝くロッベン一人のためだけに4-3-3を選んでしまって構わないとさえ思っています。
他の選手も、黒子に徹してでも彼らを活かすための働きに終始してほしいところです。例えば攻撃でいい所を見せられないバラックも、ウィガン戦では左サイドにまで出向く抜群の守備力を随所に披露し、ロッベンの真下のランパードが存分に押し上げられる影の立役者となっていました。バラックの攻撃の潜在能力は確かに捨てがたいのも事実ですが、彼の覚醒を待つだけの猶予もまた、もはやないはずだと思います。今後もランパードを活かしきる存在になってほしいのです。間違ってもこの日のように、ファンタジスタのような振る舞いでランパードに多大な負担をかけるべきではないと思われます。
またカルーにしても、レディング戦では3トップのウイングの一角ながら、自身が中央に切れ込んで囮となってワイドに開くドログバをうまく活かしていたのが印象的でした。実際にそこが始点となってドログバの2点が生まれています。しかし続くフルハム戦では逆に、2トップから自身がワイドに開いてフリーでもらいたがり、結果として1度きりしかチャンスメイクを出来ませんでした。現時点では自分から打開する能力は乏しいことを認め、潰れ役や撹乱役を引き受けて少しでもドログバのマークを手薄にしていってもらいたいのです。
課題の守備面においても、そろそろテリーが戻ってくるのでしょう。しかし、テリー不在ながらもようやく安定したヴィラ戦も忘れてほしくはありません。あの日のヴィラは結構引き気味でしたが、それを差し引いても、中盤から最終ラインまで呼応するようにバランスのよかった守備がさすがでした。それまでが嘘であるかのように落ち着きを取り戻していたのです。あの集中力と連動性の高さは、ぜひ継続されていくべきだと感じられました。

この日の結果、仮に好調のユナイテッドがアーセナルに勝ってしまえば、その勝ち点差は9となります。その場合、もはや奇跡へ向かって逆転に挑まざるを得ない状況になってくるかも知れません。それでも次戦から、どうかこの試合の分まで奮発して意識だけでも盛り返してくれることを強く願っています。自信と覇気さえ失わなければ、何が飛び出すかわからないチームであるはずですから。
この日を戒めとして忘れずに悔い改め、怒涛の逆襲を見せる終盤戦へつながることに期待しています。

Rマドリード × サラゴサ

2007年01月17日 | サッカー: リーガ
06/07 リーガ・エスパニョーラ 第18節: レアル・マドリード 1-0 レアル・サラゴサ
(2007/1/14)

■ 大激震の冬を迎えたレアルの復活勝利
現在スペインだけでなく、日本からも一番に注目を浴びてしまっているチームがレアル・マドリードです。ベッカムの米国移籍が決まってしまいましたね。
カペッロ新体制のレアルは今季、規律正しい守備偏重へガラリとそのスタイルを変貌させ、攻撃も魅惑的ではなくともカウンター重視の戦術が効果的で、「クラシコ」にも勝利するなどそれなりに結果だけは残してきました。
しかしこの年末年始に激震が走ります。先週までのリーガの4試合の結果は、攻守でふがいない惨敗を含む1勝3敗。内容も結果も満足なものとならず、評判は一気にがた落ちとなってしまいました。それに伴うように、くすぶり続けていた内部の不満も続々と表面化します。カペッロ監督の反対勢力の筆頭と言われてきたFWカッサーノは、もうすでに年末の時点でクラブとの関係が決壊。控えの立場では自身のブランド力が低下してしまうMFベッカムは、来季からの米国移籍をこの冬に電撃的に決定。ベンチ入りすら許されなくなったFWロナウドは、その冷遇に憤怒して練習をすっぽかす日々。厳格なカペッロ監督は、この三名の大物選手を今後絶対に起用しない姿勢を強調しました。加えて不振が原因でチームの秩序も全体的に乱れており、もはや全選手の意思はバラバラになっている現状です。限りなく暗く寒い冬を迎えたレアルは、粛々とした人事と起用でもってこれをどうにか整え、再建への第一歩を踏み出そうとしています。

そのレアルの対戦相手はサラゴサです。今季のサラゴサは得点力が好調。攻撃と守備の役割分担が明確な好チームで、前節には首位のセビージャをも撃破してみせました。3位のレアルの真下につく4位にまで浮上しており、間違いなく今節の最大の注目カードです。低迷中のレアルにとっては、厳しい相手との試合になりました。

レアルのフォーメーションです。
GKカシージャス。DFは左からラウール・ブラボ、カンナバーロ、エルゲラ、ミゲル・トーレス。MFは後方にディアラとガゴ、左にラウール、右にレジェス。ややトップ下の位置にイグアインを配し、最前線にファン・ニステルローイを置く4-2-3-1としました。
最大の注目点は、獲得したばかりの新鋭イグアインのリーガ初登場です。同時期に獲得した、同じく若き才能あるガゴと揃って先発を任されました。
DF陣が少し気がかりです。ロベルト・カルロスとマルセロが負傷してしまい、セルヒオ・ラモスとサルガドは出場停止と、欠場者が相次ぎました。右サイドバックにはメヒアではなく、下部組織出身の若いミゲル・トーレスが選ばれました。

サラゴサはいつもの4-2-2-2。
GKセサール・サンチェス。DFは左からファンフラン、ガブリエル・ミリート、セルヒオ、ジェラール・ピケ。守備的MFはサパテルとセラデス。攻撃的MFはアイマールとダレッサンドロのアルゼンチンコンビ。FWはディエゴ・ミリートとエベルトンです。
ほぼ不動のメンバーですが、ただ一人、古巣対決となるはずであったディオゴが前節の稚拙な退場劇によって出場停止。好調であっただけに惜しまれます。この右サイドバックは、ピケが代役を務めることになりました。

開始から間もなく、レアルのラウールが前線で物凄いチャージを見せてボールを強奪。主将として何とかチームの現状を変えていこうとする気持ちの強さを見せてくれましたが、前半10分もしないうちに右太ももの裂傷でダウン。あえなくロビーニョとの交代になってしまいました。

サパテル、アイマール、エベルトンと中央をぶった切るようにつないで最初に大きなチャンスをつかんだのはサラゴサでしたが、実際には支配権はずっとレアル側にありました。サラゴサはシュートにまでなかなかもっていけません。
しかしながらレアルの方も堅いサラゴサの守備陣を前に四苦八苦し、ミドルシュートとセットプレーばかりが目立っている厚みのない攻撃内容です。

ただ、そのセットプレーのうちの一つが成功しました。レアルは前半41分のコーナーキックでショートコーナーを選択し、左サイドのロビーニョがファーへクロス。カンナバーロに向けられたこのボールをガブリエル・ミリートが競り勝ってヘッドで後ろに逸らしますが、その後方にいたイグアインがフリーでした。拾ったイグアインはすぐさま中央へ速いグラウンダーの折り返し。これをファン・ニステルローイが押し込んで、ついにレアルは国王杯を含めて350分にもわたった連続無得点時間に終止符を打ちました。レアルが先制します。

後半のレアルは守ってからのカウンターがよく冴えていました。そこから1点ものの決定機もいくつか作りましたが、いずれも決めきれません。レジェスがキーパーと1対1になるも、ボールがうまく足につかずに失敗。そのレジェスと交代したデ・ラ・レッドもまたキーパーと1対1になりますが、シュートがキーパーの正面に向かっていって弾かれます。ファン・ニステルローイの独走も、サパテルの懸命なカバーリングで見事にブロックされてしまいました。

しかし、引き続きサラゴサの方の攻撃は封じられっぱなしの状態です。サラゴサは後半40分のコーナーキックから、ニアサイドのピケのボワンとしたバックヘッドのすらしがゴールバーを直撃する、あわやというシーンを作っただけでした。
このままサラゴサは完封に抑え込まれ、復権を目指すレアルの嬉しい勝利となりました。

■ 良い意味で拍子抜けだったレアル
レアルはラウールが退いた後、レジェスがよく頑張ったと思います。得点してしかるべきフリーの場面を台無しにしたのは残念なことですが、流動的に走りながらキープ、パス、シュートと、レアルの攻撃を一人で牽引する存在でした。
サラゴサの方はやはりアイマールでしょうか。彼も左サイドと中央の間を自由に行き来し、受け手が攻めやすい効果的なパスを繰り出していきました。

攻撃に関してはそれくらいですかね。むしろこの試合の見どころは守備でしょう。双方の攻めに組み立てや崩しきる局面がまるでなく、退屈だった視聴者の方も少なくなかったのかも知れませんが、私はその守備合戦こそが楽しめました。

まずはレアルです。実は私は、例の惨敗と評されたレクレアティーボ戦とデポルティーボ戦をそれぞれ観ておりませんで、「一体レアルはどのようにひどくなってしまったのだろう?」というのが一つの個人的な試合の注目点でした。
ですが、この日のレアルは良い意味で拍子抜けといった感じの普通さだったのです。いたって普通です。取り乱すわけでも集中を切らすわけでもなく、サラゴサを90分間淡々とはね返し続けていました。
確かにこの試合のサラゴサのツートップは低いパフォーマンスではありました。ディエゴ・ミリートは決まって自身からボールコントロールをミスし、エベルトンにも動きに活発性が見られません。それでもサラゴサの両ボランチのエラーが何一つないボール捌き、ダレッサンドロの勢い、そして絶大な司令塔のアイマールといった攻撃の中核は健在です。しかしレジェス、イグアイン、ファン・ニステルローイの前線以外の全選手が高い守備意識でもって、ここを個別に潰しまくっていたのがさすがでした。とりわけ以下の中盤の3選手がその立役者です。

筆頭はロビーニョです。「守備貢献をしない選手」という批評をどうしてすることができましょうか。この試合で両チームを通じて最もボール奪取数が多かったのはロビーニョです。特にダレッサンドロの前に立ちはだかって彼を苦しめ続けました。対峙する左サイドバックのラウール・ブラボへのフォローには大抵駆けつけており、時にはガゴとともに三人でもって囲んだりもして、次々と彼を抑え込んで奪ってしまいます。この日のサラゴサはダレッサンドロに一番ボールを託していたのですが、その彼をとうとう不発のままにさせることができたのは間違いなくロビーニョがいたからこそです。さらにロビーニョは右サイドにも顔を出して、アイマールから奪い返してレアルの決定的なカウンターへ移行させること2回。チームへの直接的な貢献度はNo.1でした。

ディアラもそつなく守備をこなしました。こちらは主にアイマールとディエゴ・ミリートへの対処が担当です。ディフェンスラインの前にどっしりと構え、一人でも彼らを阻止してしいきます。レジェスの裏までサポートし、終始サラゴサの左サイドを分断させる障害となっていました。

そしてガゴです。素晴らしい守備意識でした。中盤ならどこでも幅広くケアし、体を寄せていってサラゴサを自由にはさせません。直接カットをしたのは2、3度ほどでしたが、怠りなく続けていたチェイシングは、守備面でロビーニョやディアラにも劣らない高い評価を与えることができると思います。自軍の後方に出向いていっては安全なつなぎ役としても活躍し、チームに安定感をもたらしていました。

この3人が中心となって、レアルはことごとくサラゴサを中盤から封じ込めてしまいました。脆さを見せていたカンナバーロの1対1の処理能力も確かめてみたかったのですが、それはかなうことがありませんでした。なぜならば、サラゴサは最前線へ供給することすらままならなかったためです。何度も同じように繰り返される、ペナルティエリア前までのレアルの厳しい守備による封殺。これが一定のペースで保たれたまま、そもそも最終ラインへの負担がほとんどなかったのが、レアルが危なげのない鉄壁さを誇っていた要因だと思われます。
全く低迷さを感じさせない、見事な守備力でした。

対するサラゴサは、この日もセンターバックの二人が非常に優秀でした。二人とも判断力がよく、セルヒオなどは持ち場を飛び出してでも右サイドへのフォローを欠かしません。また、ガブリエル・ミリートが圧巻でした。中盤まで突っ込んでいってプレスにインターセプトと大暴れ。さらに1対1が強く、ガゴ、イグアイン、ファン・ニステルローイらの突破を容易には許しませんでした。力ずくで、能力の高いレアルの個人技を最後まで制御していました。

さらにボランチのセラデスとサパテルですね。組織的な連動のないレアルにとっては、中盤の底に居座り続けて献身的に走り回る、この両者の関門をくぐり抜けるのが一苦労といった感じでした。二人とも巧みに回りこんで他と連係して囲む動きがとても秀逸です。そして最後まで攻守に安定していたサパテルなのですが、彼は本当にいい選手ですね。前回のセビージャ戦では「絶賛にまでは至らない」などと生意気に評したのが申し訳ないと思わされるほどです(笑)。一度もエラーすることなく、カバーにプレスにボール中継にと、冷静で堅実なプレーを90分間披露していました。

セラデスが交代から退場して前がかりとなった後は、度々致命的なカウンターを浴びてしまいます。ただし、その他のレアルの単調な通常攻撃に対しては容赦なく頼もしくバシバシと弾き返していき、一度も穴を見せることがありませんでした。こちらも見事だったと思います。それだけに、失点の場面でイグアインを見失ったのだけは実に悔やまれることでした。

■ 若きタレントの躍動の陰で・・・
もう一つこの試合で大きな興味を持たされたのが、レアルの若く有能な選手たちの登場です。クラブの首脳陣も非常に期待している三人が先発に名を連ねました。果たしてレアルというビッグクラブの中心人物へなっていくことができるでしょうか。やっつけ程度の紹介も兼ねて、個人的な感想を記載したいと思います。

まずはリーガデビューとなったFWゴンサロ・イグアインです。アルゼンチン出身の19歳。速さと巧さを兼ね備え、得点感覚にも非凡なものがあるそうです。レアルが欲してやまなかったトップ下タイプの選手。フランスとの二重国籍を所有し、フランス代表からも声がかかるほどの逸材であり、レアルはリーベルプレートから20億円以上とも言われる移籍金でもって彼を獲得しました。
そしてこの立て直しのための重要な一戦において前線を任されます。誰よりも注意深く一つ一つのプレーを見守り続けましたが、結論としては私は評価の難しいデビュー戦だったと思います。とにかく良い印象を次々に悪く塗り替えてしまったのが、軽率なミスのオンパレードでした。続発されるトラップミスやとんでもないパスミス、空振りも2度ほどあったでしょうか。ピッチ上の全22選手の中で、ダントツにミスの多い選手だったのです。
致命的なのが対面するパスへの対処でした。前を向いて受ける分には全く問題はないのですが、まずいのは相手陣営に背を向けて縦パスを正面から受ける場面です。何と4回中、4回とも全てうまく処理を出来ずに無条件にボールを渡してしまっていました。まず前線で納まりどころとなる起点にはなり得ないことが判明します。
ただ、こうしたミスについては、サラゴサという相手の厳しいプレッシャー、慣れない舞台、若さゆえの経験不足などがあったことをもちろん考慮せねばならないと思います。
そしてイグアインがこの日に見せた凄さは、フリーな体勢からの抜群のドリブルでした。ガブリエル・ミリートを2度も抜き去りかけたのは彼だけですし、カウンターの場面ではしっかりと溜めて溜めてレジェスの得点機をお膳立てしました。当然、先制点のアシストという結果も賞賛されるべきでしょう。一人でも打開していってチャンスメイクをするその能力は、もはや現段階でも通用しそうな雰囲気が存分に感じられます。グティとはまるで異なるタイプであり、場合によっては使い分けといった面でも楽しみが広がりそうです。カペッロ監督のサッカーが望むものは何よりも堅実さと完璧度。不安定な要素をいち早く克服して、堂々たるレギュラーにまでなってほしいですね。

続いてはイグアインの移籍直後に獲得した守備的MFフェルナンド・ガゴです。同じくアルゼンチンの選手で、20歳。若くしてボカ・ジュニアーズの主力となったばかりか、同チームのタイトル獲得に大きく貢献するまでになりました。「レドンド2世」との呼び声も高く、レアルは30億円近くを費やして彼を加入させました。手荒さのない華麗な守備活動を身上としており、ビルドアップの能力にも長けているそうです。
ガゴは前節のデポルティーボ戦ですでにデビューを果たしておりますが、私自身としては初めて観ることになりました。そしてこのガゴなのですが、イグアインとは異なり最低でも文句をつけることはできないといったプレーぶりでした。
守備では決してディアラのように直接的に体で阻む回数は多くはありませんでしたが、巧みに割って入って確実にサラゴサの勢いを遮断していました。そしてその守備エリアが相当に広範囲なのです。
また、中央の後方から前方までを自在に駆け巡りながら、左右前後にボールを散らすコンダクターとしても優秀でした。FWに預ける一直線の縦パス、左のロビーニョに展開させる横パス、一発のカウンターを成立させるダイレクトのロングパスなど、とうとうそのキックにはコントロールにも判断にも誤りが一度も出ません。
もっと得点に絡むような決定的なラストパスやシュート、終盤でも消えない運動量など、備えてほしいスキルの欲を言えばきりがありませんが、とりあえずこれだけ出来るのならば素晴らしいものだとただただ感服するばかりでした。この評判どおりのビルドアップ力が継続されるのならば、後方に閉じこもりがちで輝きを失いつつあるエメルソンの地位は相当心配されることになると思ってしまいます。

最後に、今季1部へ昇格していたDFミゲル・トーレスです。下部組織出身で、今月18日に21歳。逞しいフィジカルが売りで、屈強さを見せるとのことです。器用さも併せ持つユーティリティプレイヤーで、チャンピオンズリーグではサイドバックでなく、センターバックとして起用されていました。
ディアラのアイマール封じが大きな助けとなってはいましたが、右サイドバックのトーレスの守備は実に安定感あるものでした。その内容はインターセプト2回に、右サイドの突破阻止が5回です。特筆すべきはこの1対1での阻止率が100%であったことでしょう。一度もサイドを割らせませんでした。ディエゴ・ミリート、アイマール、ファンフランを相手に、弾き飛ばしてでもサイドからの攻略を許さず、その頑強さに嘘偽りのないことを証明してくれました。
課題は攻撃面でしょうか。攻め上がりの際の連係力不足はまだ仕方ないとしても、2度のクロスがいずれも可能性に乏しいものであったのは残念でした。サイドバックとして定着を狙うのであれば、ぜひ磨いていってほしい部分です。

結論を申し上げると、三人とももはや普通に用いても問題のない、計算できる選手たちばかりという感じを受けました。たった一試合で断定してしまうのは早計なのかも知れませんが、三人ともがこの試合の完封と勝利に直に関わっていたことは事実です。この年齢で、トップチームの試合に出場したばかりで、すでにこれほどのパフォーマンスを見せる力を所有していたことは、レアルにとっては低迷からの脱出と同じくらい大きな朗報だったと思います。

下部組織の代表格であるデ・ラ・レッドやハビ・ガルシアを筆頭として、自身の保有する若きタレントたちが数多く順調に育っている最中なのに、イグアインとガゴの補強に踏み切るという今回の行為には賛否両論もあったレアル・マドリード。しかしそれも、レアルが一大転機を図るための布石なのかも知れません。不平不満や怠慢なプレーを絶対に許さないカペッロ体制は現在、すでに切り捨てた冒頭の三名に加え、ラウール、サルガド、グティ、ロビーニョ、ロベルト・カルロス、さらにはユベントスから連れてきたカンナバーロやエメルソンまでもを売却候補に挙げているとされています。このそうそうたる顔ぶれが、近い将来に去って行く可能性は少なくないのだそうです。実績あるスター選手を限度一杯にかき集めて、華やかさこそを最大の魅力としてきたレアルの一時代が終焉を迎えようとしています。軍隊さながらの統制で選手たちを厳しく従事させ、結果こそが最重視されるプロフェッショナルに徹する新生レアルへの改革が始まりつつあります。

今節の結果、レアルの3位は変わらないものの、上位のセビージャとバルセロナがそろって敗北。レアルが今冬の遅れを取り戻すかたちとなり、再び優勝争いは混戦模様となりました。

マンチェスターU × アストン・ヴィラ

2007年01月15日 | サッカー: プレミア
06/07 プレミアリーグ 第19週: マンチェスター・ユナイテッド 3-1 アストン・ヴィラ
(2007/1/13)

■ 前半で勝敗を決してしまったユナイテッド
先週のFAカップ、そしてこの日のプレミアリーグ再開と、イングランドは年末の殺人的なスケジュールから間もなく2007年度を始動させています。
そのイングランドで現在、堂々の頂点に立っているのがご存知マンチェスター・ユナイテッドです。いやあ、圧巻でしたね。あれほど主力をローテーションさせ、あれほど得点チャンスをふいにしながらも、それらに全く影響を受けずに築き上げられていく決定機の山・山・山。さらに誰も止められないといった感じのロナウドの3戦連続2ゴールが飛び出せば、スコールズも巧みなミドルを1試合に2発です(この人は本当に尊敬できるMFですね・・・)。結局年末はウェストハムに完封負けをした試合を除けば、5試合14ゴールと順調に勝ち星を積み上げて首位を不動のものとしていました。
そのユナイテッドのリーグ後半戦最初の相手は、去年末のプレミアとつい先週のFAカップにおいて、それぞれ戦ったばかりであるアストン・ヴィラです。3週間の間で3度目の対戦となりました。これまで2戦ともユナイテッドが勝利しており、ユナイテッドとしては取りこぼしとならないよう今回も確実に仕留めたいところです。

ユナイテッドはもちろん4-4-2。
GKファン・デル・サール。DFは左からエブラ、ビディッチ、ファーディナンド、ネビル。MFは左からクリスティアーノ・ロナウド、キャリック、スコールズ、パク・チソン。FWはルーニーとラーションのツートップです。
注目は何と言っても期限付き移籍で加入中のラーションの先発です。先日のFAカップではすでにチームデビューを果たしており、そのヴィラ戦にていきなりゴールを決めています。
また、復帰明けからブランクを感じさせない高評価の動きであったパクが、ギグスに代わって出場しました。

負け知らずで突き進んで一時は4位にまで順位を上げ、予想以上の好発進であったオニール新体制のアストン・ヴィラ。しかしウィガン戦以降は、今度は約2ヶ月間も勝ち知らずで突き進んでしまい、ずるずると13位にまで後退している現状です。
GKにセーレンセン。DFは左からボウマ、リッジウェル、カーヒル、メルベリ。MFはバリー、オズボーン、マッキャン、ヒューズ。FWはアグボンラホールとバロシュの4-4-2です。
試合中に膝を負傷したセーレンセンが、1ヶ月半ぶりにようやく復帰してきました。代役として急遽レンタルで獲得したキラーイは、先週のユナイテッド戦では痛恨のミスを犯すなどの不安要素であったために、正守護神の復活は頼もしいニュースとなります。
ただ一方で、これまで中盤での守備の要であり続けたペトロフが肉離れを起こしてしまいました。この日は欠場します。
一人でヴィラを牽引してきたと言っても過言ではないバリーはMFとして出場。不調の続くストライカー陣の中では、バロシュが先発のチャンスを与えられました。

開幕から両サイドを制圧したのはユナイテッドでした。左のロナウド、中央のスコールズ、右のネビルと渡り、ネビルの絶妙なクロスからプレミアデビューのラーションが挨拶代わりのヘディング。セーレンセンがファインセーブで何とか難を逃れます。
ただ、続々と襲い掛かるユナイテッドを前に、ヴィラは序盤から早々にこらえきれません。
またもネビルのクロスが発端となり、ペナルティエリア内のパクとのもつれ合いとなりますが、ここでカーヒルが弱々しいクリアミスをしてしまいます。このこぼれ球をパクがダイレクトにゴールへ流し込んでユナイテッドが先制。さらにそのパクが右サイドでボウマをフェイントでかわしてグラウンダーのパスを通し、駆け込んだキャリックがワントラップシュートで追加点を奪います。前半11分と13分のことでした。

前半35分にはユナイテッドがショートコーナーをミスするも、ヴィラはここでマッキャンの対処がもたついてすぐさま再び奪取されてしまいます。そこから最終的にキャリックがアーリークロスを放ち、ロナウドがヘディングゴールを突き刺さしました。
3-0と、あっさりユナイテッドが勝敗を決してしまいます。

ヴィラは後半から2人の選手を投入して反撃態勢を整えます。
すると後半7分、バロシュが右サイドでビディッチの密着マークに遭いながらも、この1対1を股抜きのドリブルでもって振り切り、深くえぐることに成功します。そしてバロシュのグラウンダーのクロスをアグボンラホールが詰め、ヴィラは1点を奪い返しました。

これで勢いに乗りたいヴィラですが、ユナイテッドがそれを許してはくれませんでした。ヴィラは壊滅的だった前半から比べては幾分支配権を取り戻したものの、やはり決定機を作り上げていくのはユナイテッドの方です。
バロシュのお返しとばかりにネビルが右サイドを深く切れ込んでグラウンダーを蹴り入れると、これを途中出場のサハがキーパーの横を抜けて行く枠内シュート。かろうじてゴール直前のカーヒルが上半身でブロックしました。
後半28分のルーニーの強力なミドルがゴールバーを弾けば、ラーションやロナウドのフィニッシュもセーレンセンを襲っていきます。
結局、シュートチャンス数で終始ヴィラを圧倒したユナイテッドの危なげない完勝劇となりました。

■ ベテランを見習ってほしいキャリックとエブラ
確かに純然たる自身からの得点は1点だけにとどまりましたが、この試合のユナイテッドは開始からハイペースでもって相手を飲み込んでしまう内容としました。ロナウドとパクの重圧がヴィラを守勢に立たせて押し込めたために、両サイドバックがプレッシャーなく何度も上がって行き、サイドを分厚く攻め立てることが出来ていました。中央でスコールズ、キャリック、ルーニーのいずれかを経由して、左から右に、右から左にと、ワンタッチ・ツータッチの速いテンポによる連動で振り回すように崩していきます。そしてロナウドやルーニーの個人技、続発されるネビルの好クロスなどが主な決め手となり、ヴィラの守備陣を大いに苦しめました。

その中で、この日はパクの日となりましたね。彼が前半だけでヴィラを片付けてしまいました。混戦から相手のエラーを見逃さず、抜け目なく先制点を強奪。サイドでの1対1にも勝利してしまってユナイテッドの2点目をアシスト。3点目となるコーナーキックもまた、彼のサイドでの1対1の勝負から得られたものです。さらに付け加えると、このコーナー直後に渡してしまったボールを素早く取り返し、点に結び付けさせたのもパクでした。迷いなく彼が殊勲者であったと言えます。
紛れもなく復帰後のパクは高いパフォーマンスだったと私は支持したいのですが、前のニューカッスル戦において決定機をモノに出来なかったなどで、直接的なプレーでは不完全燃焼という印象を少なからず与えてしまっていました。しかし、この試合でそのような一部の主観的な不評は完全に吹き飛ばしたと思います。見事でした。これでユナイテッドは確実に計算できる攻撃の駒を、また1枚加えることになりました。

続いて高い評価を受けているのがキャリックです。1ゴール1アシストという結果が、これまでの物足りなさを一気に払拭したとされているのでしょう。ですが、それでも私が個人的に推したいのはスコールズの方なのです。
もちろん、瞬間的な活躍でもゴールにつなげた結果こそは最大限に尊重されるべきです。しかしこの試合でもキャリックはトラップミス、パスミス、ショートコーナーのミスなど、相変わらず「軽さ」ばかりが目立つ選手でした。流れるような攻撃もキャリックの関与によって止まることが2、3度あるほか、彼はチェイスやボール運びにも積極的な姿勢を見せてくれません。
それとは対照的に、この日もスコールズの存在感は際立っていました。非常に「重い」存在です。90分ユナイテッドの攻撃を根底から支えていたのは彼だったと思います。中央の後方から前方までを幅広くカバーし、徹底してボールの中継役となっていました。そしてそこから的確な長短のパスで左右に捌いていくこのスコールズの展開力がなければ、ユナイテッドはあれほどのサイドアタックを成立させることはできなかったと主張します。右のネビルへ再三ボールを通せば、左のエブラにもチップキックで供給。中央でもラーションやルーニーへ決定打となり得るラストパスを送ります。これだけ組み立てに関与していながら、ミスらしいミスと言えばボールを見失ったコントロールミスが一度きりあっただけでした。そして3得点の全ての始点にもなっているのです。絶大な司令塔として輝きを放ち続けていたように私には見えました。
自分の分まで黙々と仕事をこなしてくれているスコールズの傍らで、キャリックは、彼が輝きを維持している今のうちにもっともっと貪欲に学ぶべきところを吸収していくべきです。これだけ共にプレーをしていても、まだまだスコールズに近づいてすらいないという印象が正直なところあります。彼を懸命に見習って、ぜひ精悍さを備える大選手へ成長してほしいと私は願っています。

ネビルにも凄みがありました。タイミングのよい攻撃参加から繰り出されるクロスに誤差はなく、ピンポイントに何度も決定的なシュートをうながしていました。ラーションのヘッド、パクの先制点、スコールズのフリーのヘッド、サハのカーヒルに阻まれたフィニッシュ。いずれもアシストとして記録されてもおかしくはない得点機の演出をしてみせました。
このネビルとパクによってユナイテッドはやや右サイドの比重が大きかった一方、ヴィラ側の方も後半からは右サイドを重要な拠点とすることができていました。ユナイテッドから見れば左側のサイドですね。そしてユナイテッドは右サイドから全3得点を挙げ、ヴィラも右サイドから得点しています。
ここでちょっとプレミアにおけるユナイテッドの全失点の内訳を調べてみることにしました。今季のユナイテッドは総失点が少なく、さほど苦労する作業でもなさそうでしたしね。その少ない16という失点のうち、個人的なミスやセットプレーなどを除き、純粋に崩されてからゴールを奪われたのはわずかに5回でした(この少なさも特筆すべき賞賛点ではありますが・・・)。
ただこの5回中、4回もがユナイテッドの左サイドの奥をあっさり突かれたことが発端となっているのですね。すなわち他のエリアと比べて、エブラとエインセは確実にここを守りきることができていません。正確には試算していませんが、最近は直接失点には至らないまでも、左サイドからピンチやセットプレーを招いている傾向が徐々に増しているような感じを受けていたからこそ言及してみたのです。裏を取られてビディッチが左サイドに引っ張り出され、彼とお互いに良きパートナーであるファーディナンドのカバーリングが追いつかなくなってしまっています。この試合の失点もまさにそうでした。この左サイドが現在のユナイテッドの唯一の付け入る隙として、狙われていく可能性もないとは言い切れない心配を勝手にしてしまっています。私などの単純な考え方からでは、目処のたった守備でも貢献できるパクを左で重宝してもいいのではないかとの思いも生じさせますが、それがかなわないならば左サイドバックの一層の奮起を期待したいところです。
エブラはその積極性から、一躍このポジションに定着してみせました。しかしまだ、攻撃だけでなく守備でも多大な安定感を見せる右のネビルには及びません。スコールズと同様にベテランの味を存分に発揮させている今のうちに、エブラもまた彼を見習って多くを学んでほしいと強く望みます。

最後にこの日のツートップです。
プレミアで初お披露目のラーションですが、個人的にはよかったと思いましたよ。闘志を前面に押し出してゴールへ向かう姿勢は実に個性的で印象深いものでした。この純然たるゴールハンターは、同じく純然たるセカンドトップのルーニーとは非常に相性がいいのではないでしょうか。彼の移籍期間終了後にまたどうなるのかは知りませんが、とりあえず今はサハやスールシャールを差し置いてでも、このコンビで突き進んでいってしまっていいような気もします。
そのコンビを組むルーニーなのですがね・・・。ここ最近、下がり気味からの自身による攻守のプレーは決して悪くはないのですが、その他の場面での動きはどこか弱気で消極的で勢いに精彩を欠いています。また個人技の方も、この試合でも度々見せてはくれましたが、肝心のラストプレーになると途端に冴えなくなってしまうケースがほとんどでした。得点まで含めて何でも一人でやってのけるような、他を寄せ付けないほどの迫力さがルーニーの魅力であり、本来の特徴のはずです。これはもう移り変わる周囲との連係がどうのこうのよりも、ルーニー個人の波のある意識が問題であるような気がします。ロナウドの爆発によってこのルーニーの推進力の下降模様は薄れがちな現状ですが、このままアシストだけが役目の単なるトップ下に成り下がってほしくはないですね。文句を言わせないほどの発奮を、また見せてくれることに期待しています。

■ 完敗もやむなし・・・アストン・ヴィラ
敗れたヴィラですが、集中力と粘りでもってことごとく攻撃を遮ったあのチェルシー戦での守備は一体どこへ行ってしまったの?という感想でした。左サイドバックのボウマはコテンパンにやられてしまい、リッジウェル、カーヒル、マッキャンらが、実に軽率であった失態を繰り返します。3失点中、2失点は明らかな自陣でのミスからです。セーレンセンの奮闘がなければ、もう2、3点入れられてもおかしくはありませんでした。
守備時だけではなく、攻撃時でも先発の中盤の全選手の足取りは重いものでした。バリーとマッキャンが持ち過ぎで、まるでかたちになりません。前半22分に一度アグボンラホールが起点となり得ることを発見すると、今度は彼一人だけに託すように、彼を目掛けたロングボールばかりという単発ぶりです。序盤の2失点でもう意欲が途絶えてしまったのでしょうか、前半はサッパリの出来でした。

ただし、後半からは随分と立ち直りました。その立役者はバロシュと、後半開始から投入された右MFデイビスです。
バロシュは後半から中盤での活動機会を増やし、そこで抜群のキープ力を見せ始めて単独でも自軍を牽引するようになっていきました。これまでプレミアではストライカーとしては振るいませんでしたが、このままMFに転向してしまっても構わないのではないかとも思わされる躍動でした。
それを後方からサポートしたのがデイビスです。デイビスはチェイシング、カット、こぼれ球の拾い上げなどでチームに大きく貢献し、さらには着実にボールを散らしてリズムを整えてくれる存在でした。特にバロシュとの連係がよく、バロシュのその躍動の支えとなっていました。
この2人に引っ張られるようにメルベリも前線に顔を出すようになってきます。そしてバロシュ、デイビス、メルベリによる右サイドが、ヴィラにとっては相当効果的な起点へと進化しました。実際に1得点は右サイドから生まれています。

それでも全体的にはどこか散発で、得点後も今ひとつ盛り上がらなかったのは、相変わらず左サイド側が冷えきっていたことが要因です。ボウマをサミュエルに交代させたのも、さして意味はありませんでした。バリーやオズボーンもボールウォッチャー気味。ユナイテッドのネビル、パク、ロナウドらをこのサイドにてまるで制御できていませんでした。時折攻めることが出来ても前半に引き続き球離れが遅くてテンポを失いがちで、右側の足を引っ張っていたような感じです。

つらつらと厳しいことばかりを書いてしまいましたが、完敗もやむなしという内容だったためです。この日も残念な結果で勝ち星から見放される日々の継続となってしまいましたが、その中にあったチェルシーを完封するというあの気迫さをどうか思い出して、一日も早くこの長く暗いトンネルから光明を見出してほしいですね。

ユナイテッドはこの勝利でチェルシーとの勝ち点差6をキープしました。次週には、ホームで敗戦を喫したあのアーセナルとの試合が待っています。アウェーでリベンジを果たすことができるのでしょうか、非常に楽しみな一戦です。

メガマック登場!

2007年01月12日 | 雑記・その他
本日はマクドナルドで新商品が発売されました。その名も「メガマック」です。

「ビーフがビッグマックの2倍の4枚。ビーフ本来の美味しさを、思う存分満喫できる、まさにビーフ天国なハンバーガーです」
に、肉が4枚!?熱量は驚くなかれ754Kcal(ごはん茶碗1杯は約200Kcal)。
メタボリック症候群が国民的流行語となり、アメリカだけでなく日本でも子どものファーストフードによる肥満化が指摘されつつあり、ごく最近ではトランス脂肪酸がどうのこうので健康に対するマイナスイメージは増長される一方というこの現状の中で、あえてこのようなものを出してくるマクドナルドの勇気ある積極的な姿勢に私は応えてあげたくなりました。
午前と午後にそれぞれ出かけなければならなかったため、昼食にはこのメガマックをテイクアウトして食することに決定したのです。

混雑した店内を見渡してみると、大々的に店の内外で宣伝されているためか、これほどの重量級なのに意外とよく売れていましたね。2~3割の方が購入されていました。ただし、購入者は全員男性です。やはり女性にとっては買うのがためらわれる物体なのでしょうね。
単品なので価格は350円。ビッグマックが280円なのでお得感がありそうな気もしますが、冷静に考えるとハンバーガーを4つ買った方が安価であるのが現実です。

帰宅して早速開封してみました。



んー・・・。見た目の迫力さは思ったほどではありませんでしたね。
しかし、実際の内容はそれ相応のものです!かなりヘビーでした。これ一つで確実にお腹が一杯になり、他のものには手をつける意欲もなくなることでしょう。ポテトSだけならまだしも、「メガマックスペシャルセット」(チキンナゲット、ポテト、ドリンク付)は食後が大変なことになりかねないと思われます。

味の方は「そのまんまビッグマック」でした。ごま付きバンズ、レタス、チーズ、サウザンアイランド・ドレッシングなどに変更はありません。本当、ビッグマックにそのまんまビーフパティを2枚加えただけです。肉の量を単純に2倍にした、吉野家の牛丼の大盛と特盛との関係に非常に相似していると言っていいでしょう。

全体的な感想としては、個人的には十分「あり」という商品です。もともと私もビッグマックはそれほど嫌いではありませんし。このマクドナルドのビーフパティの、何とも言えないような独特の味わいをこよなく愛される方にとってはたまらないのだろうとも思います。
開き直っているとさえ感じさせるこの単純さも逆に好印象ではあります。これでライト級(ハンバーガー)、ミドル級(ダブルバーガー)、ヘビー級(ビッグマック)、超ヘビー級(メガマック)と、看板商品のボリュームの幅はより拡大されることになりました。

ただ、2つほど苦言を呈させていただきます。
まず1つは、食べづらい!ビッグマックでさえ上手に食べられない不器用な私にとってはあらかじめ予想されたことですが、それでも特筆すべき項目ではあります。とにかく上から下まで一度にかぶりつくことが相当に困難です。さらには握力が4枚ものパティを制御しきれません。食べるほどに肉がズリ動き、バンズからはみ出し、見た目にもとんでもないことになってきます。食後には手にソースがベットリ。ティッシュかナプキンは必須です。環境論者を押し切ってでも、包み紙の導入を強く提言いたします。
もう1つは、ソースがビッグマックとほぼ同量であることです。ダブルバーガーだってケチャップは増量されます。味はビーフパティの塩味が圧倒的な存在感を放っていて単調になりがちでした。最初はおいしくいただけていましたが、後半になるにつれて段々とまどろこしさばかりが募ります。いつになるのかはわかりませんが、次回にこれを注文するときにはソースの増量はできないものか掛け合ってみたいところです。

今回のメガマックは試験的な販売で、2月4日までの1ヶ月にも満たない限定商品です。おそらくほとんどの消費者は物珍しさや話題性などから1度きり買ってみるにとどまり、ましてや常食までには絶対に至ることがないのでしょう。それでも今年一発目の企画として、良くも悪くも強烈な印象を広く与えたと思います。15日には、パンケーキとたまごとソーセージのそれぞれの間に甘いシロップを挟み込む「マックグリドル」なる代物を、朝食メニューに出すというチャレンジもしてきます(これもカロリーが凄そうですね・・・)。
昨年は24時間営業の展開など、なりふり構わない迷走気味であったマクドナルド。今後も意欲作をどんどん投入していって成功を模索し、最終的には見事に復活を遂げてくれることに期待しています。

盛岡商 × 作陽 #2

2007年01月09日 | サッカー: 国内その他
※この記事は「盛岡商 × 作陽 #1」からの続きです。


■ 主導権が移り変わる我慢比べの前半戦
さあ、試合を振り返っていきましょう。まずは前半戦です。ここでは両者の緊迫した守備合戦を観ることが出来ました。

試合開始から約15分間、盛岡商が作陽に対して先制攻撃をすることができていました。これのきっかけを作ったのが左MFの林です。前方へゴリゴリと激しく突っ込む彼に託す、左サイドアタックが盛岡商にとっては効果的でした。さらに盛岡商の、この試合でも見せてくれた前線からのチェイシングです。作陽の後方での保持を自由にさせないばかりか、成田や東館が敵陣で奪ってしまって得点に直結しそうな場面を2回も作りました(彼らは後にももう2回、同じことを成功させています)。これで面を食らったかのように、作陽は守勢に立たされることを余儀なくされてしまいました。盛岡商としては、ぜひこの時間帯で1点欲しかったところでしょう。ですが、作陽にとって幸いだったのは盛岡商の攻撃が単発であったことです。ドリブルが主体でした。作陽は盛岡商の個の突破を、冷静にサイドバックとMFの連係でもって数的優位を作り、一つずつ潰し続けていったのです。この辺りはさすがでした。

作陽が凌ぎ続けて落ち着きを取り戻すと、次第にダブルボランチの存在が目立つようになります。特に酒井でした。酒井は中央においてカバーリングやカットなどで次々と盛岡商の攻撃を寸断させ、正確性あるロングフィードも放って、リズムを盛岡商から奪い返し始めます。さらにこの2人のボランチが中央で盛岡商のプレスを引き付けたために、作陽の最終ラインは脅威なくボールを回すことも出来てきました。作陽はようやく安定感を獲得します。この頃から目に見えて主導権が交代していきました。

ロングボールでのパス供給が中心で走りまわされていた作陽の前線ですが、ボランチが機能してきて近距離での緊密な連絡を取ることができるようになると、いよいよ真価を発揮していきました。ショートパスを受けた左MF濱中、右MF小室、FW櫻内が目まぐるしく動きます。中でも小室は流動的に撹乱し、左の濱中の攻撃を支援していました。彼らを軸とした2、3人の素早い連係により、カウンターではなくしっかりとした攻めをかたち作れてきたのです。シュートも連発されるようになり、今度は盛岡商が自陣に釘付けとなりました。

ただし盛岡商も、決定機までは持ち込ませずに防ぎきりました。作陽は左サイドアタックが中心でしたが、まずはそれに対峙する右MF松本の守備意識が旺盛でした。松本は懸命に追いかけてサイドで阻むこと3回。後方の選手も集中力を切らしません。自陣の右サイド奥を侵入してくる作陽の濱中や小室に対し、すかさず平、藤村、松本らがトライアングルを形成して囲むように封殺。自分の担当エリアを飛び出してでも複数人による守備活動を心がけ、ボランチの千葉や諸橋などもその空いたスペースのケアを忘れません。数的優位で潰し、組織的に守備する能力は作陽にも劣らないものでした。

そして前半戦の全体の感想として、一番に印象的だったのは両チームともがコンパクトなサッカーを展開していたことです。互いに最終ラインを高く保ち、FWとの距離が非常に近くなっていました。当然接近戦は避けることができず、絶えず中盤での攻防戦が緊迫していた要因です。それでもくぐり抜けてくる作陽は大したものでしたが、その自信を持った両者の積極的な守備姿勢は見ごたえがありました。

■ 激動の後半戦で輝いた千葉
試合が動くことになった後半戦、先制したのは確かに作陽でしたが、突如としてこの45分間は盛岡商の一方的なペースになり続けてしまいました。なぜなのでしょう。後半開始の時点で、はっきりとした変更点とは作陽のワントップである村井の投入くらいなものです。ただ、私はこの村井投入の采配がそれを誘発させたのだと思っています。
私はてっきり村井は最前線におけるポストプレイヤーとしての活動をするのだろうとばかり思っていました。しかし、村井は違いました。彼は、時にはボランチの目の前にまで下がってくる、ピッチ中央でのコンダクターとして存在していたのです。どっしりとした彼を起点として左右前方への散らしを狙ったのでしょうが、トップが不在のような状況になってしまっていました。必然的に、シャドーアタッカーである濱中や小室はポジションの位置取りを上げていきます。前半戦で攻撃の組み立ての中心となっていたのは、間違いなく濱中と小室でした。その彼らとせっかく緊密なやり取りができていたのに、また後方からの距離が間延びになった挙句、濱中や小室は盛岡商の最終ラインに吸収されるように埋没していきました。
村井はけがの影響もあったのかも知れませんが、彼らと比較しては活発に動くことがありません。存在感は絶大でしたが、盛岡商の中盤でのマーク自体は容易なものとなっていた雰囲気でした。あれほどあった作陽のスピード溢れる攻撃組織は影を潜め、カウンター、ロングボール、小室の突破など、一発で完結する攻めが多くなったのです。

さらにこの影響がまともに盛岡商のプラスとして還元される結果となったのが、盛岡商のボランチ・千葉の躍動でした。前半は作陽の速い攻めの火消しに奔走するばかりの千葉でしたが、さほど中盤で振り回されることがなくなってくると、見る見るうちに存在感が輝き始めました。千葉は真ん中で自在に暴れだします。ワイドに開く林や両FWによるサイドアタックを主体としていた盛岡商にとって、この千葉の中央での攻撃参加は大きな援護射撃となりました。作陽が前半戦とはうって変わって盛岡商に崩されだしたのは、彼が大きく関わっていたと見ています。
象徴的なのが盛岡商の同点のシーンでした。左サイドの大山が突破に成功してアシストしたのですが、その直前に中央で東館とワンツーで揺さぶって、最終的に大山へパスを出したのは千葉です。この揺さぶりのために中央へ守備意識を集中させられた作陽は、とうとうサイドにおいて守備側が不利となる1対1の局面を作られ、そして突破されてしまいました。サイドでとことん数的優位を保っていた前半戦には見られなかったケースでした。
それ以前にも千葉は中央からのダイレクトパスでもって右サイドのチャンスを演出するなど、作陽がサイドでうまく対応しきれない要因となる存在でした。単に千葉が突然攻撃意識に目覚めただけなのかも知れません。しかし明らかに千葉が守備をする必要性が少なくなっていたのも事実です。作陽としては結果的に自分たちの攻撃が単発となってしまい、千葉に存分にやられるかたちとなってしまったのは大きな誤算だったでしょう。
そして千葉は、自身の突破からPKを盛岡商にもたらし、1点目となる大山の左サイドアタックを成立させ、さらに逆転弾をも奪っています。もう、何でもありでした。ズバリと采配が的中したかに見えた作陽の村井でも盛岡商の大山でもなく、紛れもなく後半の主役は千葉であったことに異存はないと思います。

■ 組織的な堅守による盛岡商の優勝
その大車輪の活躍の千葉が殊勲者かも知れませんが、私はもう一人存在感が際立っていた選手を挙げたいと思います。それは盛岡商のセンターバック・藤村です。この試合の藤村の状況判断力は大変素晴らしいものがありました。作陽の長短のボール運びを何度阻んだことでしょうか。櫻内の前方に突っ込んでダイビングヘッドのクリア、ロングボールにも果敢に出て行ってヘッドでクリア、味方のクリアミスにも即座に反応してクリア、仕舞いにはスルーパスまでインターセプトと、目の前で展開されそうになる作陽のプレーをことごとく出足の早い守備でカットしていました。
そして何と言っても、作陽の中心的な攻撃であった左サイドアタックへの応対です。毎回のようにフォローに出向いていって、ここを固めきりました。前半は濱中に、後半は小室の前にサイドバックとともに立ちはだかり、数えてみるとセンターバックである彼が直接的にサイドを封鎖した回数は5回を下りません。前半の作陽の猛攻を完封させた大きな立役者だったでしょう。
後半の失点は仕方がありません。あれは村井のスーパープレーを褒めるべきであり、その村井に藤村は怠りなくマークについていました。また、逆転に成功した後の残り5分間でも、引き下がることなく最後まで守備ラインの高い位置取りを維持させていた統率も実に立派だったと思います。
今大会の盛岡商は組織的な堅守こそが代名詞となりました。観てはいませんが、きっとこれまでも藤村はその堅守に多大に貢献していた選手だったのでしょう。この優秀な主将に率いられた守備陣が、盛岡商を優勝に導いた一番の原動力であるような気がします。

高校サッカーという場において、高校生である選手の個人的なミスについては本来ならばネチネチと指摘したくはないのですが、例外となってしまったので記載してしまいましょう。
同点への絶好機となったPKの場面で、痛恨のシュートミスで失敗をしたのが盛岡商の林です。盛岡商の士気をがた落ちにさせかねないものでした。
また、作陽に先制点を許す場面の直前、痛恨のバックパスミスで作陽のカウンターの始点となったのが盛岡商の千葉です。逆転できなければ悔やんでも悔やみきれない軽率なプレーでした。
ただ、その林が、その千葉が、同点ゴールと逆転ゴールをそれぞれ決めて、見事に自分たちの失策を帳消しにして勝利を引き寄せたのが何とも印象的でありました。
激動するドラマがあった後半戦でしたが、落ち着いて顧みるとこの2人ばかりが試合の盛り上がりを生み出していたのだと言えるのかも知れませんね・・・。

最後に敗者・作陽側の直接的な敗因や反省点などについてですが、もうさすがにこれまでは言及する気になれません。高校サッカーはプロではなく、あくまで高校の部活動ですからね。それを私たちのような他人が公にああだこうだと責めるように追及するのはいかがなものかと思われます。
作陽もよく戦い抜きました。攻守にわたる組織性も存分に見せてもらいました。栄えある準優勝だと思います。

■ 見方を変えていくべき高校選手権
評論家のセルジオ越後さんはこの選手権を振り返って、「選手の質が確実に落ちている。将来世界に通用する素材はいたのか?寂しい年代であり将来の日本が非常に心配である」との言葉で今大会を締めくくりました。
私としては高校選手権だけを見て将来の日本を危惧されても困るというのが正直な感想です。G大阪や去年サハラカップで優勝した広島などが代表格ですが、日本の各クラブが懸命な努力と必死さでもって、充実した下部組織の強化と環境整備を実現させてきた現況をご存知ないのでしょうか。柿谷や水沼や岡本らを筆頭に、これからのこの世代を牽引していく有能な人材は今、クラブのユースで溢れんばかりに多数存在しているのです。高校選手権にはそのような選手が少なかっただけで、それほど人材不足の心配はありません。そのような表現によるこの大会の統括は、いささか的外れである気がします。

また、今回の大会はいわゆる強豪校が続々と敗れ去っていったために、「本命なき大会」だったとの報道や呼び方がされています。このような表現もどうだろうかと思いました。盛岡商だって徹底的に運動量を鍛え上げて、昨年はインターハイでベスト8など、その潜在能力は十分にありました。作陽も自身としては例年にない高い戦力を揃え、非常に根気と努力が必要であっただろう、ハイレベルな組織と適応力を身につけていました。「番狂わせ」と言われ続けてきた八千代や武南なども、それぞれに勝つべくして勝った理由があったと思います。私は本命がないのではなく、「本命だらけの大会」だったと申し上げたいところです。

どれもこれも、「タレント」と呼ばれる強力な若者たちが現在、こぞって高校ではなくクラブのユースを目指し、そしてそちらに在籍していることに起因しているのでしょう。高校選手権で本命不在だの実力者不在だのといった声を出したい気持ちもわかります。ただ、私はもう高校選手権に対する見方は変えなければならないと思っています。今までが少し異質でした。明確にプロを志すほどの者はれっきとしたプロである国内クラブの門を叩き、そうではない者が高校生活の集団活動の一環として高校サッカーに励む。こうした本来あるべきだった姿に、ようやくなり始めているのではないでしょうか。その現状の中で、過去の高校選手権と単純に見比べて、一方的に劣る劣るなどと評するのは少しナンセンスであるような気もします。

例え高校選手権から日本を代表し得る選手の台頭が激減したとしても、指導者の方々による秀逸なチーム作り、ならびに各都道府県の代表への郷土からの温かい応援は不変です。これからも選手個人個人がチームのために徹しきることで機能していき、脇役も主役もない「高校生のサッカー」を続々と見せることで人気を博していくのでしょう。そしてそれを決勝戦という場でも高いレベルで体現してくれた盛岡商と作陽は、岩手と岡山が誇るべき立派なチームだったと思います。

盛岡商 × 作陽 #1

2007年01月09日 | サッカー: 国内その他
第85回 全国高校サッカー選手権大会 決勝: 盛岡商業高等学校 2-1 作陽高等学校
(2007/1/8)

■ 岩手の猛進力対岡山の組織力
今回でもう85回目ともなる高校サッカー選手権。天皇杯並の歴史と伝統を持ち、数多くの名勝負と名選手を生み出してきて、年始のサッカー大会としてはもうおなじみです。
年始の忙しさや録り溜めしていた欧州サッカーの観戦などで、今年はとうとう決勝戦しか観ませんでしたが、私も本当は好きですよ。高校サッカー。ただの一つも試合を落とせない高校生たちの真剣さは、やはり心を打たれるものがあります。

波乱とPK戦に満ち溢れたと言われる今大会で見事にファイナルまで勝ちあがってきたのは、お互いに初の決勝進出となる盛岡商業高校と作陽高校です。どのようなチームなのかは全然知りません。よって予習だけは欠かしませんでした。だって最初で最後のせっかくの観戦ですからね。
付け焼き刃の知識ですが、両チームの特徴とこれまでの戦績です。

昨年の地区予選決勝で惜敗を喫した相手である遠野を、今度は辛勝ながらも破って雪辱を果たし、全国行きを決めて岩手県代表となったのが盛岡商です。前回大会ではその遠野がベスト4という大躍進を見せていて、彼らに追いつき追い越すべくベスト4以上を目標にして今大会に臨みました。
本来はFW成田とFW東館の2人のスピードスターをトップに擁し、電撃的に奪うことの出来る得点力こそが武器の攻撃的なチームです。
しかし強豪のひしめく全国大会ともなると、さすがにその攻撃力を100%出し切れるものではありませんでした。初戦の大分鶴崎こそ打ち合いで制しましたが、続く武南戦です。優勝候補大本命の滝川第二を下した武南の実力は本物で、速いパスのつなぎから圧倒的に試合を支配されました。カウンターから同点とし、何とかその後は守りきって、ようやくPK戦でもって勝利することができたのです。準々決勝の広島皆実戦では攻め込めたものの1点どまり。準決勝の八千代戦でも試合終了間際での相手のまさかのオウンゴールにより、どうにか1点を得ることができました。
苦戦を続けながらも決勝まで駒を進めることができたのは、看板の攻撃力ではなく奮闘に次ぐ奮闘を見せた守備陣の力があってこそに他なりません。体を張り、連動的に動いて守備網を広げ、最後まで耐え凌いできました。FWまでもがチェイシングを絶やさない全員の高い守備意識でもって堅く守り、ワンチャンスをモノにしてきたのです。武南と八千代を完封に抑えたのは胸を張れる結果だったでしょう。課題であった守備面が一気に開花し、勝負強さも備えて逞しくなったのが今大会の盛岡商です。
率いるのは喉頭がんに冒され、昨年末には心臓病のために大手術を受けた満身創痍の齋藤監督。それでも執念で指揮する彼を慕う盛岡商イレブンは、何としてでもこの優勝を勝ち取って来年度に引退するこの齋藤監督に花道を飾らせるべく、全力でもって初の決勝の舞台に挑みます。

対するのは岡山県代表の作陽です。
このチームはシステムからして特質です。今大会全48チーム中、作陽を含めてわずかに2校しか採用していない4-5-1を基本形として採用しています。長身のストライカー村井を頂点に置き、その下から3人のシャドーストライカーが襲い掛かる、相手としてはつかみづらい攻撃が特徴的です。武器は何と言っても、作陽の代名詞でもある組織力。ピッチ全面にバランスよく敷かれる守備網からボールを奪っていき、攻撃への切り替えも実にスムーズです。穴のない、つけ入る隙の少ない好チームだと言えるでしょう。
もう一つ作陽が得意とするのが試合の中での適応力です。様々な選手と様々なフォーメーションが実戦で試されてきて、誰が出場しようともどのような流れの展開になろうとも取り乱すことなく的確に対処ができます。また野村監督の、対戦相手の研究への力の入れ方が尋常ではありません。何でも相手の試合のビデオを事前に3回もチェックするそうなのです。徹底的に相手の攻撃パターンを頭に叩き込み、それに沿った対応策を事前に練り上げる準備を欠かしません。象徴的なのが準決勝での神村学園戦でした。同点に追いつくべく神村学園は五領、中村と投入して反撃のためのシステム変更を行いましたが、前の試合でもこのシステム変更によって飛躍的にサイドアタックが向上していたことを知っていた野村監督は、すぐさま自チームにも変化をほどこしました。ボランチは中央に1枚として、左右にMFを2人ずつ並べる守備的な布陣へ組み替えます。果たして神村学園の右サイドの中村はことごとく不発となり、作陽が秀逸に全体を完璧に封じきる、1-0の逃げ切りを成功させたのです。
相手を読む監督の思い通りに選手たちも動くことができ、理解力と状況判断は抜群のチームです。タレント軍団で個人技が主体の静岡学園に対しては確かに大苦戦しました。しかしながら、培ってきたゲームコントロール力によって、組織を主体とするチームには試合運びにおいては競り負けることがありません。このような玄人好みのサッカーを伝統的に毎回見せてきた作陽ですが、その中でも今年のチームは作陽史上最強に仕上がっているとの評判です。そしてその期待を裏切らず、岡山県勢としては初となる決勝進出という快挙を成し遂げました。あとはもう一試合だけ勝利して、全国にその名を轟かせるだけです。

猪突猛進型な勢いを有して突貫していく盛岡商。冷静沈着な組織を繰り広げて迎えうつ作陽。好対照な、興味深いカードの決勝戦となりました。

盛岡商はチームの顔とも言える、攻撃的な4-2-2-2。快速ツートップの下に2人のアタッカーを配します。
GK石森。DFは左から土屋、中村、藤村、平。守備的MFは千葉と諸橋。攻撃的MFは左に林、右に松本。FWは成田と東館です。
準決勝では出場停止だった東館が戻ってきて、盛岡商の象徴であるFWコンビが復活しました。この2人に劣らぬ速さで攻撃力を披露している2年の林、効果的な攻撃参加が顕著であった千葉にも注目です。

作陽の方もベースである4-2-3-1を変えてきませんでした。
GK安井。DFは左から長谷川、石崎、堀谷、桑元。守備的MFは酒井と立川。1.5列目は左から濱中、宮澤、小室と入ります。FWは櫻内のワントップです。
不動のワントップとして君臨していた村井は、今大会は負傷のために万全な状態ではなく、試合途中からの出場が目立っています。
代役の櫻内は何と数週間前まではDFの選手。突然のコンバートで全国大会がFWでのデビュー戦となりましたが、いきなり得点を挙げるなど及第点の出来を見せています。
MFでは宮澤のチャンスメイクにも注目ですが、現在注目を一身に浴びているのが小室です。今大会の作陽の中で最も光り輝いていた選手で、俊足を武器に4得点と、大会得点ランクの首位に立っています。絶好調で乗りに乗っている、作陽の最終兵器です。

■ 運命の決勝戦
決勝戦のオープニングとなったのは盛岡商の平のミドルシュート。盛岡商が持ち前のスピードアタックで猛然と詰め掛け、作陽へシュートを浴びせるスタートダッシュに成功しました。これを前にして作陽はロングボールとスルーパスで前線を走らせることしかできません。圧倒的に盛岡商のペースでした。
しかし、ここを凌いだ作陽は流れを徐々につかんでいったかのように、ゆっくりとじわじわ自分たちのサッカーへと持ち込んでいきます。序盤にはなかった前線でのパスワークも復活。後方からの攻撃参加も見られるようになり、立川のスルーパスからサイドバックの長谷川がクロスを入れ、櫻内がヘッドに至るという崩しきる場面も出てきたのです。最終的に前半でシュートが多かったのは作陽の方であり、ロングボールばかりを狙わざるを得ないのは盛岡商側になっていました。
次第に次第にですが、主導権が盛岡商から作陽へと移って行く前半戦でした。0-0で折り返します。

決め手に欠いていた作陽は、後半の頭から櫻内に代えて真打ちのエース・村井を登場させます。彼のポストプレーに期待がかかります。
ただし、またも開始からペースをつかんだのは盛岡商。作陽は前半戦の終盤が嘘であったかのように防戦一方で、カウンターしか道がありませんでした。ただ、そのカウンターの一つが炸裂します。

後半11分、ボールが渡ってきてそのまま右サイドを駆け上がったサイドバックの桑元は、一度村井に預けます。そこで我々は驚愕のプレーを目にしました。村井は囲んでくる3人の盛岡商のDFをあざ笑うかのように180度ターンしてかわし、振り向きざまに渾身の強烈ミドルシュート!ゴールバーに嫌われて豪快に弾かれましたが、そのこぼれ球を詰めていた桑元がヘディングで押し込み、作陽が待望の先制点です。詰められた場面で、盛岡商のDFはあまりの出来事に一瞬呆然と立ち尽くしてしまいました。それほどの目覚しい個人技によって、押されていた作陽がリードします。

もちろん盛岡商はさらに攻撃に比重をかけていきます。ようやく崩すこともできてきました。そして後半18分です。このシーン、直前に日本テレビが試合と全然関係ないところを映し続けていて、何が始点となったのかもまるでわからずに多大に彼らの放送中継能力に不満を抱いたのですが、とにかく千葉がペナルティエリア内で倒されて盛岡商がPKを獲得しました。
この千載一遇のチャンスにてキッカーを託されたのが、八千代戦でも劇的なオウンゴールを呼び込んだ林。盛岡商を牽引してきたこの2年生が重責を担います。しかし!林の左足から繰り出されたシュートは、わずかにゴール左枠外へ・・・。ムードが沈みかねない大きな失敗でしたが、幸いにも他の3年生たちが全く下を向くことがありませんでした。すぐさま林に駆け寄り激励し、何事もなかったように反撃を再開したのです。

これに盛岡商のベンチからも援護がありました。松本に代えて、突破力に優れる切り札的な存在である大山を左MFとして投入。林は右MFに転向します。そしてこれが直後に大当たりとなりました。
後半26分、その大山が左サイドでパスを受けて相手DFと1対1の勝負を挑みます。そこから大山は惑わすような動きで、かつ鋭い突破によって見事に抜き去り、左サイドを深くえぐることに成功します。大山は即座にマイナスの速いグラウンダークロス。ボールは一直線に3人、4人と選手たちの間をすり抜けていって、最後にこれをフリーで待ち構えてゴールに結びつけたのが林!!!!一度シュートミスをしてしまったのですが、すかさずもう一度押し込んでゴール内へと突き刺しました。貴重な同点弾でもって、林が見事にPK失敗の汚名を返上します。
作陽が村井なら、盛岡商は大山。途中出場の起用に応える両者の活躍がチームを得点へと導き、前半とは一転して試合があわただしくなりました。

イーブンとされた作陽は一度巧みなパスワークからチャンスを作り上げ、度々効果的なカウンターも築き上げていきましたが、盛岡商の勢いを止めることができませんでした。自陣の裏に飛び出てくる盛岡商の選手たちへの放り込みに四苦八苦します。
そしてとうとう、試合終了5分前にしてこらえきれなくなってしまいました。運動量がまるで落ちない盛岡商の成田が左サイドを鮮やかに突破。成田はDFを振り抜き、グラウンダーのラストパスを中央へ送り込みます。これを東館がDFを引き連れてスルーし、オーバーラップしてきたフリーの千葉が着実にゴール右へと決めて、盛岡商がついに逆転!後半戦の流れは変えることがかなわなかった作陽の、盛岡商の怒涛の推進力に屈した瞬間でした。

ラスト5分で作陽は村井のポストプレーから小室がシュートを放つも、反撃はそれまで。試合終了の笛と同時に作陽の選手たちは一斉にかがみ込み、盛岡商の選手たちは歓喜を一杯に表現して駆け回りました。
盛岡商は自身初、そして岩手県勢として初となる全国一の栄冠に輝きました。


「盛岡商 × 作陽 #2」に続きます。

サラゴサ × セビージャ

2007年01月08日 | サッカー: リーガ
06/07 リーガ・エスパニョーラ 第17節: レアル・サラゴサ 2-1 セビージャFC
(2007/1/6)

■ 抜群の攻撃力を誇るチーム同士の対戦
国内サッカーがひとまず一段落し、欧州に集中できる日々がやってきましたね。他国に先駆けて、スペインがリーグを再開させています。
現在、個人的に虜にされてしまっているチームがセビージャです。勢いに溢れる豪快さと迫力さで、見ていて面白いです。面白いだけでなく、強いのです。レアルをも粉砕しました。その後の年内の残り2試合でも、決定力を見せ付ける計7得点の連勝で2006年度を締めました。暫定ながらも首位に立って休暇に入り、昨年は最後までセビージャとしては最高の一年となったわけです。
組織的なせめぎ合いにも負けない中で、個人技が躍動し、勝負強さまで備わってくるという、上位チームとしての風格が漂い始めています。そんなセビージャのにわかウォッチャーの私としては、5位のサラゴサとのこの一戦は見逃せません。サラゴサは、新指揮官のビクトル・フェルナンデス監督が掲げる超攻撃的サッカーがリーグ開幕からいきなり炸裂。MFアイマール、MFダレッサンドロ、FWディエゴ・ミリートのアルゼンチン・トライアングルが形成する前線が猛威を振るっています。昨年末の最後の2試合は無得点と息切れしてしまいましたが、それまでは勝っても負けても全試合で得点を奪い続けてきたのです。攻撃の安定度ではセビージャにも全く引けを取りません。壮絶な打ち合いも期待される、興味深いカードです。

サラゴサはこの試合も基本形の4-2-2-2です。
GKセサール・サンチェス。DFは4バックで左からファンフラン、ガブリエル・ミリート、セルヒオ、ディオゴ。MFの後方にはサパテルとジェラール・ピケ、前方では左にアイマールと右にダレッサンドロが位置します。ツートップはディエゴ・ミリートとエベルトンです。
2枚のFWの下にアイマールとダレッサンドロという2人のアタッカーを置く積極的な姿勢に変化はありません。年末のビルバオ戦で軽傷を負ったセラデスは結局間に合わず、この日は若きセンターバックのピケが代役としてボランチを務めました。

一方のセビージャも確固たるものとして築き上げている4-4-2。
GKにパロップ。DFは左からダビド・カステード、エスキュデ、ハビ・ナバーロ、ダニエウ・アウヴェス。MFは左からアドリアーノ、レナト、ポウルセン、ヘスス・ナバス。FWはカヌーテとルイス・ファビアーノです。
昨年からのほぼ不動となったメンバーをこの日も揃えてきました。絶好調のツートップはもちろんのこと、大爆発中のアウヴェスからも目が離せません。

■ サラゴサの2得点の後に押し寄せたセビージャの大波
前半戦で目立ったのがセビージャのアドリアーノのキープ、ならびに中央のレナトの活躍です。特にレナトは開始直後からワンタッチでのスルーパスに、タイミングよいボールのカットなど、セビージャに効果的にリズムをもたらす選手でした。彼らを主軸として主導権を握るセビージャの前に、サラゴサは一度だけディエゴ・ミリートへの放り込みを成功させた以外は、ホームながら一方的に攻め寄せられていました。

しかしながら前半14分に転機が訪れました。サラゴサがセットプレーからの一発を沈めたのです。ダレッサンドロのコーナーキックからのクロスを、ディオゴがバックヘッドで合わせます。これがキーパーのセービングも一歩及ばない左ギリギリの枠内へと飛んでいき、ゴールになりました。ややフリーであったことは事実ですが、難易度の高いシュートを決めてみせたディオゴを褒めるべきでしょう。サラゴサが先制です。

この1点はサラゴサにとっては大きなものとなりました。これによって俄然としてサラゴサが勢いを取り戻してきたからです。両ボランチの発揮する展開力から、アイマールの変幻自在で魅惑的なプレーが飛び出します。中盤の活発さはサラゴサ側が上回ることになり、効率よくパスをつないでいってセビージャと白熱する攻め合いを繰り広げました。
そしてとうとう前半の終盤にはセビージャがサラゴサの勢いに屈してしまいます。最後まで抵抗を続けていたのは上下運動の豊富なアドリアーノ、なおもキープにパスにシュートにと中央で輝きを失わないレナト、この例の2人だけでした。これではとても攻めきれたものではなく、セビージャの決定機といえばカヌーテの強烈ミドルという外側からのアタックだけにとどまってしまったのです。
セビージャは逆転に向けて、後半から立て直しが必須となります。

セビージャは後半の頭に、その立て直しに成功しました。アウヴェスの攻守にわたる積極性ある寄せ、およびサラゴサ側のミスなどで、前半と同じく開幕から圧倒していきました。
ですが、またもサラゴサがこの状況下においてたった一つのチャンスを手に入れて、セビージャの出端を折ってしまいます。
後半6分、駆け上がったディオゴにダレッサンドロとディエゴ・ミリートが加わり3人で右サイドを組み立てて、最後にはディオゴのクロスがディエゴ・ミリートの頭に合わさるカウンターが成立しました。そこからディエゴ・ミリートが弾かれても弾かれてもシュート。ようやく3本目で決まり、サラゴサに大きな追加点が入ります。

もう後のなくなったセビージャは、DFを一枚落としてMFマレスカとFWチェンバントンを一挙に投入し、3-4-3と打って出る賭けに出ます。守備面で多大に不安はありましたが、アドリアーノとアウヴェスの両サイドが攻撃専門となってついに得意のサイドアタックを見せることができたために、この賭けは成功したのです。これを前にしてサラゴサ側が4-5-1と守りを固める消極的な布陣としたためです。サラゴサはアイマールただ一人が脅威的となるに成り下がりました。しかも代わって入ったオスカルは攻撃的MFなのです。当然彼は守備で役に立っていたように見受けられず、サラゴサは何とも中途半端な体制となってしまいます。このサラゴサ陣営内で、セビージャが存分に暴れました。

早速まともに影響が出たのは後半25分です。右サイドのマレスカとアウヴェスによるワンツーの崩しにサラゴサはまるでついていけず、アウヴェスにクロスを上げられてルイス・ファビアーノの得点へとつなげられてしまいました。2-1と、1点差に詰め寄られます。
なおもセビージャの猛攻が止まりません。カヌーテ、ルイス・ファビアーノ、チェバントンと中央に集まるフィニッシャーたちへ左右からどんどんボールが供給されていきます。中でもアウヴェスが際立ちました。右から中央に切れ込んでチャンスメイクをすれば、スルーパス、さらには抜群のアーリークロスなどで決定機を次々と演出していったのです。

ただし、これらをサラゴサの守備陣は耐えてみせました。キーパーのセサール・サンチェスとセンターバックの2人が最後の一線を割らせず、彼らを中心にサラゴサはどうにか食らいついていったのです。セビージャは自身のワンサイドゲームを30分も展開したのですが、結局ゴールは1つのみに抑えられてしまいました。

試合終了直前には、ディオゴとルイス・ファビアーノが言い合いを発端としてお互いに殴り合う大乱闘を開始。両者へのレッドカードでもって、この壮絶な試合に終止符が打たれました。サラゴサの辛勝です。

■ 大絶賛にまでは至らないサラゴサのボランチ
流れをガラリと変える先制点を挙げ、追加点の場面でも主役となって右サイドアタックを成立させた、サイドバックのディオゴが勝利の殊勲者でしょう。ただ、最後の乱闘劇による退場は余計でした。高いパフォーマンスを維持している彼の出場停止は、サラゴサにとっては大きな損失だと思われます。

アイマールの存在感も大きなものでしたね。この日はアドリアーノに攻めでも守りでも全く歯が立たなかったダレッサンドロの分まで、一人で攻撃の指揮者としての役割を果たしてチームを牽引しました。左に右に中央にとどこにでも現れ、自由な動きで創造性豊かなプレーを連発していきます。後半にサラゴサがガタガタになってしまっても、唯一彼だけはセビージャを脅かす存在でした。
彼を含めたダブル司令塔のシステムがサラゴサの守備力低下を招いているとの指摘がされています。ただ私はこの試合を観た限りですが、アイマールは守備能力がそれほど高くはなくとも、守備意識だけは高そうに感じられましたよ。ヘスス・ナバスを始めとして自分のエリアへ侵入する選手にはすかさず立ちはだかり、チェックを怠ってはいませんでした。セビージャの思わぬサイドアタックの停滞に、彼は一役買っていたと思います。

また、サラゴサの保持時において攻撃をスムーズにさせる、エベルトンの貢献的な動きにも言及したいところです。彼は再三中盤へと下がってきては起点となり、うまく左右に散らして中央で組み立ての潤滑油のような働きをしていました。2点目のカウンターもエベルトンのポストプレーが始点となったものであり、サラゴサに縦への深みをもたらしていたのです。

忘れてはならないのがサラゴサの最終ラインでしょう。センターバックの2人はセビージャのツートップを徹底マークして、なかなか攻撃に関与させませんでした。FWも満遍なく絡んだサラゴサとは対照的に、セビージャは彼らの奮闘によって両FWとも孤立しがちだったのが、やや劣勢気味とされた要因の一つだと思います。そして最後のセビージャの猛攻時にもよく踏ん張っていましたね。サイドバックの両者もサラゴサのシステムがあやふやになる以前までは着実に固めていて、ほとんどセビージャのサイドアタックを許していませんでした。

そしてサパテルとピケの両ボランチです。サラゴサの反撃時では的確な長短のパスで前線の活性化をうながしました。運動量も高く、マークを欠かさず、時にはサイドにも顔を見せて、セビージャのプレーに制限をかけ続けます。さらにはサパテルは巧みな奪取と巧みなキープという玄人ぶりで、ピケは相手の変遷へ臨機応変に対処してチェバントンへのカバーリング。解説者の岡田さんも大絶賛した2人です。
ですが、私の個人的な感想を申し上げると、彼らは大絶賛にまで至るかどうかは微妙といった雰囲気でした。確かにプレスを絶やすことはなく、セビージャの攻めを衰弱させていた功労者です。しかしながら、ここ一番という場面での守備は冴えていませんでした。例えば、ピケがアドリアーノとの1対1の場面で簡単にかわされてクロスを放り込まれれば、サパテルも確実に処置してほしいところで失点につながりかねないクリアミスをしてしまいます。いずれも致命的なものでした。また、前半はレナトを、後半はマレスカを中央で自由にやらせていた責任は紛れもなく重いものでしょう。こうした軽薄さを見せない安定感を出し切ってこそ、絶賛という評価にふさわしいのだと思うのです。せっかく献身的に立ち回っていて賞賛したいところなのに、最終的にはどこか心に引っかかる物足りなさを感じました。

■ 試合展開を急変させた双方の采配
最初は押されていたサラゴサでしたが、先制点を取ってから息を吹き返したように復活させたパスサッカーは実に見ごたえのあるものでした。ボランチ2人のミスのない後方のフィードから、時折勢いのよさを見せるダレッサンドロ、神出鬼没のアイマール、アシストに徹するエベルトンらがよくつなぎます。ディエゴ・ミリートを最前線に置いて牽制し、残る5人による連動が十分に機能していました。対するセビージャは、調子の波の大きいヘスス・ナバスがこの日は沈黙、ポウルセンは守備に振り回されっぱなし、ツートップは封殺されていると、ところどころでボール運びがつかえていた感じです。これらが両者の実力差を埋め、サラゴサの躍進ぶりが光ったのでしょう。

ところが、このサラゴサの出来を根底からぶち壊しにしたのが双方の采配でした。
まずはセビージャが動きました。ボランチのポウルセンの位置取りを下げさせて、守備は彼とセンターバックの3人だけに。そして後は全員が攻撃という捨て身の作戦をとったのです。この采配の中で活きたのがマレスカの投入でした。マレスカはうまく中央でタメを作り、何度も左に右にと効果的にボールを送っていきます。一見するとアドリアーノとアウヴェスの両翼が守備を一切捨てたために強引に突破できたとの感じも受けますが、間違いなくセビージャのサイドアタックを蘇らせたのはマレスカの活躍によるものだったと私は思います。
この急変する状況に拍車をかけたのが、サラゴサのシステム変更です。代わって入ったオスカルは、アイマール以上に守備をしない選手でした。しかも退けたのがエベルトンというのも大きかったように思います。彼は前述したとおり、中央でチームのリズムを整えてはカウンターのきっかけにもなり得る存在でした。さらにスピードがあってウイングもできるエベルトンは、相手陣内の両サイドが広大に空いたあの時間帯でこそいよいよ輝く選手ではなかったでしょうか。もし代えるのならば、アドリアーノにコテンパンにやられていたダレッサンドロの方こそを真っ先に代えるべきだとも思ったものです。こうしてコンダクターを失ったディエゴ・ミリートは完全に孤立。ついにサラゴサはパスワークを続行させるどころか、守備固めもカウンターもままならない、何が狙いなのかもよくわからないまま一方的にセビージャの集中砲火を浴びることになってしまいました。よくぞ守備陣は凌ぎ抜いたものです。

ホームとアウェーでは試合内容の差が大きいセビージャ。この日もアウェーで不完全燃焼に終わるセビージャを観るという、残念なことになってしまいました。ですが、サラゴサの序盤での健闘、終盤での死闘はそれぞれ心に残るものがあり、この試合の観戦価値自体は十分にありました。これだけ色々書いておいて何なのですが、実は今期のサラゴサを観るのはバルセロナ戦に続いてまだ2度目のことです(笑)。それだけに、私はまた新たな好印象のチームを発見したような気持ちで満たされました。今後も快活なサッカーを続けていってほしいと思うサラゴサは、Aマドリードを勝ち点で上回り、再びチャンピオンズリーグ出場圏内へと歩を進めました。

女子日本 × 女子北朝鮮 #7

2007年01月06日 | サッカー: 日本代表
※この記事は「女子日本 × 女子北朝鮮 #6」からの続きです。


■ メキシコのサッカーの概要
そして肝心のプレーオフでの対戦国とは、北中米カリブ海で3位となったメキシコです。そのメキシコですが、日本は2003年に全く同じシチュエーションで、前回大会の予選のプレーオフにて対戦している相手なのです。4年越しの再戦となりました。あのときは日本が1勝1分けとして本大会進出を決めただけに、雪辱を果たすべくメキシコは並々ならぬ意気で臨んでくることも予想されるでしょう。
このメキシコについて調べ上げてみました。日本と同様に、あと3ヶ月の間でまた強化のために変貌を遂げてくるかも知れませんが、とりあえず現段階でのメキシコ代表というチームのまとめと、自分なりに考えてみた対策を記載したいと思います。

まずはメキシコの力量です。12月22日に発表されたFIFA女子ランキングにて22位までその地位を上げて、順調に成長していることが認められてはいますが、同10位の日本から見れば格下の相手であることに違いはありません。年々日本との実力差が着実に広がって遅れをとっている韓国よりも、もしかすると劣るかもわかりません。ただ、もちろんのこと油断は絶対に禁物です。敵は自分たちの内にこそあると心掛けるべきです。本来の力を発揮できなかった、アジアカップでの悔しさと反省点を必ずや忘れないようにしてもらいたいのです。もう二度とあのようなことは目にしたくありません。年末に逞しさを増した精神面をどうにか維持し、この最重要な大一番という重圧を見事にはねのけてみせてほしいと思っています。自分たちのサッカーを出せば、確実に勝つことができます。

メキシコは男子と同じく技巧派ぞろいで、俊敏性あるサッカーを持ち味としています。ショートカウンターからの素早い突破で、一瞬にしてシュートまで持ち込むことが得意です。通常の攻撃時には南米のような独特のリズムで迫ってきて、前線の選手たちの技術力と創造性で、数人による即興的な組み立ても行ってきます。アジアにはこのようなチームがなく、日本にとっては不慣れな、こうした攻撃への対処能力が未知数であることは一つの懸念材料です。
またそれだけでなく、メキシコの選手はほぼ全員が足元のボール捌きに秀逸であるという、個々の能力でもって主導権をたぐり寄せることができます。おそらく日本は、これには苦戦を強いられるでしょう。1対1の場面ではバランス感覚のよいキープ、さらには一瞬で抜き去られてしまう危険性などに悩まされることと思われます。
しかしながらメキシコは、日本の誇る組織力だけにはまるで歯が立たないことでしょう。即興的と言えば聞こえはいいのですが、核となるパターンを確立しておらず、個々の選手が自由奔放にバラバラに動いて攻め立てているのが実際のところです。守備面においてもカバーリングやプレッシングには積極的でなく、どうやら最終ラインにも規律だった動きはないとのことです。極端に分かれる、個人対組織の試合展開となりそうです。
その中で日本の目指す試合運びは明確に定めることができます。これまでどおりに、各局面で効率的に数的優位を作りながら個を潰していき、撹乱する活動に惑わされることのないよう集中力を高く保って、マークやカバーを完遂させることです。大体からそれ以前に、即興的な攻撃やショートカウンターを恐れるならば、着実にミスすることのないよう自分たちでつないでいって相手へ容易にボールを渡さないことです。両者の力関係を比較すれば、日本の培ってきたパスサッカーは存分に発揮できるはずだと言い切れます。圧倒的に中盤を支配して、そもそも相手に保持させないことで封殺できればベストです。

■ メキシコの具体的な攻撃と守備の内容
続いてはメキシコの具体的な陣容です。

まず一番に挙げなくてはならない選手が、メキシコ女子サッカーの英雄的ストライカーである、エースのFWマリベル・ドミンゲスです。素晴らしい得点感覚を持つ彼女のゴールは、国内では「マリ・ゴール」との愛称で呼ばれています。人気と実力と勇敢さを兼ね備える、メキシコの絶対的な主将です。FIFAの横やりがあって出場は実現しませんでしたが、「男子の」メキシコ2部リーグのクラブと契約を結ぶという前代未聞の話題を提供するほどに高い能力を有します。現在はスペインのFCバルセロナの女子部門に所属(デビュー戦でハットトリック)。アテネ五輪でも自身のゴールでチームをベスト8に導いていて、何よりも前回のプレーオフで日本は彼女に失点を喫しています。紛れもなく最も注意すべき選手です。
このドミンゲスをサポートし、長く彼女のパートナーとメキシコの背番号10を任されているのが、FWイリス・モラです。メキシコの中では身長157cmと小柄な体格ですが(日本の平均身長は161cm)、卓越したスキルでフィニッシュを演出してくる、あなどれないテクニシャンタイプの選手です。前への勢いのあるドミンゲスとは非常に相性が良く、こちらも十分に警戒せねばならない存在です。彼女も前回の日本とのプレーオフに出場していて、第1戦で1ゴール。日本に敗れた悔しさも味わっていて、大きな闘争心を静かに胸に秘めています。
他で特筆すべきなのは、主に左のアウトサイドの前方に配される、期待の新星MFモニカ・オカンポでしょう。永里や阪口と同年代の19歳で、若手ながら代表で台頭してきました。武器は左足から繰り出される正確なキック。さらにはスピードの速い突破力も持っていて、メキシコの重要なチャンスメイカーとしてその才能を発揮しています。19歳ながらすでにPKのキッカーを担当するなど、将来のメキシコの支柱として期待されている人材です。年内最後の試合となった北中米カリブ海3位決定戦では2ゴールを挙げていて、チームの勝利に大きく貢献しています。

彼女たちが主軸として前線に据えられることになります。ドミンゲスを最前列のトップに置き、彼女を中心としてそのやや後方から3人の攻撃的選手が襲いかかる、4-4-2とも4-2-3-1ともとれる布陣が最新のメキシコです。ただ、この基本形は実にあやふやで、特に中盤と前線は前述したとおりに皆が奔放に動くものだから、試合中でも相当流動的に変化していきます。この流動的に動いていく6人全員がスキルフルで素晴らしいドリブル突破力を持っており、それを駆使したかなり速い攻めを先のゴールドカップ(北中米カリブ海予選)では見せています。グループリーグでは2試合で17得点。得点力こそが脅威です。同じような積極性ある北朝鮮を見事に完封した日本ですが、北朝鮮は整然とされた陣形を保っていたわけで、まるでそのタイプは異なることに注意せねばなりません。マーキングの難度は必然的に高くなります。マークの確認や受け渡しはしっかりしてほしいところです。
DFの4人も北朝鮮とは異なり、サイドバックが上がってくるようなことはありません。全員が守備担当でガッチリと構えてふさぎます。攻守の役割分担ははっきりと分かれていると言っていいでしょう。

そのメキシコの攻撃への守備対策なのですが、最近のゴールドカップでの準決勝で、メキシコが完封負けをした試合からヒントを得ることができるでしょう。相手は歴然とした実力の差があるアメリカではありましたが、アメリカがこのメキシコのシュート数をわずか5本に抑えた要因を探ります。
この試合のメキシコの攻撃時に目立ったのが、多数のサイドアタックの失敗です。1対1からの突破力に優れるメキシコは、その状況を作りやすい手薄なサイドを狙うことが多いのですが、アメリカはここをサイドバックとMFで数的優位を築いてとことん潰していきました。またメキシコは、パスではなくドリブルが攻撃の割合のほとんどを占めていたために、アメリカは自陣のペナルティエリア内以外の選手などは放っておいて、ボールの保持者への徹底的なプレッシャーが効果的でした。複数の選手で囲んで次々に阻止、あるいは奪取してしまっていたのです。
メキシコがもしこのような展開をプレーオフでも見せてくるのならば、日本としては有利です。サイドを含めた各エリアごとでの個人へのプレスの敢行、ならびに即座に数的優位を作る守備は日本の得意としているところです。相手の流動的な攻撃の中で恐いのが、動きながら巧みにパスをつながれてしまうことです。守備時にマークやプレスがつききれずに、1対1、あるいは数的不利までに持ってこられたら、身体能力で劣る日本としては防ぎきることができません。ですがドリブル主体の流動性ならば問題はないでしょう。自分たちの担当エリアで対応相手が毎回変わろうとも、目の前の一個人だけを確実に囲んで潰していけばいいだけのことだからです。
加えてメキシコは日本と同様、ミドルシュートが弱いのです。ドリブルやキープにはプレスで制限をかけ続けて危険なエリアへと突破させず、最前線への供給を許さなければ、外側からの攻撃力と打開力に乏しいメキシコは決め手に欠いてどん詰まりになっていくことと思われます。

一方のメキシコの守備の方はどうなのでしょうか。メキシコのMF陣はボランチまで含めて、さほど守備意識や守備能力に長けるわけではありません。4人のDF陣が最後方で持ち場を離れずに自陣を固めるのが特徴的なのです。ただしこの4バックは純粋なラインディフェンスを敷いていたわけではありません。3人のセンターバックの後方に1人スイーパーを余らせるという、一風変わった中央を頑強に堅くするという守り方を通してきました。
これにも変化がないならば、日本にとっては非常に好都合なことです。現在の日本の攻撃における最大の武器はサイドアタックであるためです。ポッカリと空いた敵陣のサイドで、フリーな体勢から秀逸なクロスを上げ続けることができるのならば、いくら中央に密集しているとは言え、いつかはメキシコのDF陣は揺さぶられるはずです。日本は左右にMFを置くダイヤモンド型の中盤にして、アジア大会でも炸裂させた強力なサイドアタックを立て続けに狙っていくべきだと思います。

■ 対メキシコに期待する戦い方
ここからは以上のことを全てふまえて、お互いが現時点での陣容や戦術を踏襲して対戦する場合の、私が日本に期待する戦い方を勝手に意見させていただきます。

まずは今回もいつもどおりに、積極的にディフェンスラインを上げていくことです。メキシコはスピードはありますが、放り込みからの裏への飛び出しはあまり狙いません。プレスをより効果的にするためにも、コンパクトさは保ってほしいところです。
センターバックの岩清水(あるいは下小鶴)は徹底的なマンマークで、メキシコのエースのドミンゲスを抑えきってほしいと思います。パートナーの磯崎もカバーを心掛けて、物理的にも精神的にもメキシコを牽引するこの主将だけは躍動させないことです。
イリス・モラにも目を離してはいけません。ボランチの酒井が中心となって、彼女の自由も奪っていくべきです。これに成功して彼女とドミンゲスとの間の連係をぶった切れば、メキシコの中央攻撃の7割方は沈黙させることができるでしょう。
そしてオカンポが左サイドに位置するのであれば、それに対峙する右サイドバックの安藤の出来は、試合を左右する重大な要素となり得るでしょう。両者ともが攻撃の切り札的なスペシャリストであるために、ここの攻防戦が直接的に試合の流れに影響してくる可能性が高いからです。ぜひ安藤は急成長した巧い寄せ方での守備でオカンポを制し、それだけでなく機を見てサイドアタックにも参加して、このゾーンを征服してもらいたいと強く願います。
攻撃時における最重要のキープレイヤーは、左MF柳田になると予想されます。サイドからの攻撃をどんどん狙っていきたい日本としては、彼女の正確無比なクロスは欠かせません。両サイドから攻め立てるのがベストではありますが、仮にオカンポなどを封じきれずに右サイドが停滞するならば、この重要なサイドアタックは左の柳田の双肩にかかることになります。ぜひ柳田には前向きな姿勢を絶やさないでほしいと申し上げたいのです。
FW荒川も欠かせないと思います。中央で2人も3人も集まるメキシコの守備陣の中で、彼女たちの圧力に負けることなく耐え切れるのは荒川だけです。キープやポストプレーなどで最前線の起点となり、敵を引き寄せてサイドをがら空きにさせる存在となることに期待します。
ツートップで荒川のパートナーとなるのは、果たして永里か大野か。永里の一瞬の得点力は確かに魅力的ではありますが、やはり私は大野の方を推します。彼女の活発な動きによって相手を乱すことが荒川をより活かしていきますし、だんご状態のメキシコ守備網を拡散させてラストパスやクロスが通しやすくなることにもつながっていくからです。
最後に今一度申し上げますが、日本は全体のパスワークでもってメキシコに容易に渡さないことです。試合を支配し続けることこそが最大の防御となっていきます。そして日本は、プレスがさほど厳しくはないメキシコが相手ならば必ずやこれができるはずです。ぜひ組織でもってメキシコの個人個人を翻弄していってもらいたいと思っています。

■ ぜひ今回も大観衆で後押ししたいホーム戦
その他で試合の展開に関わってきそうな要素も挙げてみましょう。

もう一つメキシコというチームの中で特徴的なのが、平均年齢が22歳前後と実に「若い」ことです。メキシコ国民という気質も関係があるのかどうかはわかりませんが、とにかく彼女たちは若さゆえに非常に感情的なのです。高揚すると止まらない勢いを見せますが、いざ悪い方向へ意識が流れてしまうと感情を爆発させてしまったり、意気消沈してしまったり、集中力が途端に切れたりします。精神的な波が大変に荒いのです。よって、日本側としては落ち着いて粘り強さと支配力を淡々と見せていけば、メキシコは次第に焦れていって精神力が持続せずにプレーが雑になっていくことと思われます。
ただ、ここで気がかりなのが、前回でも記載したように日本が「スロースターター」であることです。どうしたことか最近の日本は前半戦が調子よくありません。アメリカは試合の前半からメキシコに対してシュートを連発して、メキシコの精神を早々にくじいたのが反撃を衰えさせる要因になったとの指摘もされています。そこまでは行かなくとも、日本は序盤からまたもうまくいかずにメキシコを調子付かせるのだけは避けたいところです。ましてや点を取られて、さらに火をつけるなどは最悪のケースです。終始安定したパフォーマンスを発揮することが、いよいよ求められる試合となるでしょう。

プレーオフはホームアンドアウェーで2試合行われます。4年前も同じメキシコと2試合のプレーオフを戦いました。その時の経験はぜひ今回にも活かしたいところです。
第1戦は日本のホームで、3月10日に国立競技場で開催されることになりました。前回もこの国立でホーム戦が行われたのですが、そこでは当時の女子サッカー界としては極めて異例となる12,000人以上もの大観衆が詰め掛けたのです。この試合で完勝した日本の選手たちは、口々に「あの大声援に応えたかった」と、多数の観客が発奮材料となって勝利の大きな原動力の一つになっていたことを言い表していました。ぜひ今回も応援してくださる方々が、大勢スタジアムへと駆けつけてほしいと私は心から願っているのです。声援は、確実に彼女たちを後押しします。都内に住む私も当然、時間さえ都合がつけば足を運んで大声の一つでも上げてきたいと思っています。
運命の第2戦は3月17日。日本はメキシコに乗り込みます。メキシコは前回ホーム戦で、わざわざ標高の高いスタジアムを選び、入場料を無料にして7万人もの観客を動員させるという作戦に出ました。この異様な雰囲気の中で戦わされたのもさることながら、日本の選手たちは慣れない高地という環境下で、試合前に体調不良者が続発して苦戦する原因となったのです。今回もまた過酷な旅を強いられるであろうこのアウェーの試合で、日本はコンディションの維持が何よりも最優先となってくるでしょう。各選手が入念に体調管理へ気を配るのはもちろんのこと、移動や食事、調整などが滞ることなく適宜に行われ、選手たちへの負担を少しでも減らすことにスタッフの方々が尽力されることを願うばかりです。

■ 笑顔で帰国してきてほしい「なでしこジャパン」
日本は2月に、東地中海の島国であるキプロスへの遠征を行うことが決まりました。その合宿中では、FIFAランク3位のノルウェー、同4位のスウェーデンという、強豪との対戦も行われる予定です。試合中では厳しい重圧感にさらされることは間違いなく、これまでの課題がどれほど克服できたのかを試すのには絶好の機会となるでしょう。
そしてこの遠征が、おそらくプレーオフ前の最後の強化合宿になります。これまで築き上げてきたものをベースとして、必要に応じて細部にまで修正をほどこし、ぜひ満足のいく最終準備期間にしてほしいと思っています。

女子サッカーでは皆が純真な懸命さを見せてくれます。残念ながら最近の男子サッカーからはなかなか見受けられないことで、ある意味新鮮さを感じさせてくれます。女子日本代表に至っては特に懸命にならざるを得ないことは前述してきたとおりです。日本の女子選手の身体能力は確かに乏しく、迫力にも欠けてはいるでしょう。しかし彼女たちの全員が、一途にひたむきに自身の役割を全うし、苦しくとも音をあげることなく取り組んでいる様は、十分に観る価値があると思います。例えばごく最近では、表題のアジア大会決勝・日本対北朝鮮戦です。私のブログの記事からでも何でもいいですから事情や背景をよく理解した上で、機会があればあの試合はぜひ一度120分通して観てほしいのです。きっと印象深く残るものが伝わってくると思います。そのような彼女たちの姿勢を目にして、私を含めて心を動かされてしまう人が少なくないのでしょう。だからこそ一般の方々からは、「よく知らないけれども何だか応援をしたくなってしまう」存在として温かい声援を送られる、爽やかな人気を博しているのだと思います。
私はこの懸命さを見せ続けてくれる限り、これからも日本女子サッカー界の行く末は大いに応援していきたいと思っています。まずはその未来を大きく動かすことになる、目の前に迫る大一番のこのプレーオフです。新生女子日本代表の集大成を存分にぶつけてほしいですね。そうすれば、勝てます。笑顔でメキシコから帰ってきてくれることを、今から心の底から祈っています。

がんばれ!「なでしこジャパン」

浦和 × G大阪

2007年01月03日 | サッカー: 国内その他
第86回 天皇杯 全日本サッカー選手権大会 決勝: 浦和レッズ 1-0 ガンバ大阪
(2007/1/1)

■ リーグ最終節とは立場の違う両雄
改めまして、明けましておめでとうございます。今年最初の記事はもちろんこれです。国内サッカーファンにとって元日と言えば、天皇杯決勝戦の日に他なりませんよね。晴れ渡る青空の下、今シーズンラストの一戦が国立競技場で行われました。

ここまで勝ち上がってきたのは浦和とG大阪です。もう語り尽くしてきましたし、Jリーグを観てきた方々にとっては今さら説明の必要もないであろう、紛れもなく今期の主役であった2チームです。昨年12月2日の優勝決定戦からちょうど1ヶ月、再びこの両雄がタイトルを賭けて激突することになりました。
このまま無冠では終われないG大阪。そのG大阪にまたも立ちはだかる王者浦和。最も興味が引かれる対戦カードの実現となりました。

ただし、あのリーグ最終戦のときとは両者の立場が違います。播戸と遠藤が病み上がりというコンディションの上、試合前から3点差のビハインドと、G大阪は奇跡に向かって挑まざるを得ない「ハンデ」を背負っていました。ですが、今回「ハンデ」を抱えているのは浦和の方なのです。
リーグ初制覇に全てを尽くした浦和は、その達成の代償として故障者、負傷者、体調不良者が続発し、ガタガタの状態になってしまいました。それでも、苦しみながらも決勝まで駒を進めたその総合力には見事と言うほかはありません。ただ、もう今期のあの圧倒感はさすがに薄れてしまっている現状です。さらにG大阪の方は全体が完全に復調していて、万全の態勢でもって今期の集大成をぶつけようと待ち構えているのです。表向きは王者に挑むG大阪といった謳い文句でしたが、実際には浦和の方こそが挑戦者であったのかも知れません。
そしてこの「ハンデ」が、やはり如実に試合の中で表れてしまいました。

浦和は懸念されていた山田と鈴木が、不完全ながらも何とか出場してこれるまでに治りました。もう限界ギリギリといった状況の陣容です。
GKは引き続き都築。DFは坪井が間に合わず、今日も左からネネ、内舘、細貝という3バックです。中盤では、2試合で3得点の小野がこの日も前線で起用されました。長谷部は控えに入ります。ボランチに山田と鈴木、左に相馬、右に平川、ツーシャドーに小野とポンテ。FWは永井一人と、準決勝と変わりのない3-6-1です。

G大阪も、出場停止だった播戸が復帰したこと以外には前回と変わりがありません。
GKに松代。DFは山口、宮本、實好の3バック。MFは後方に明神、左に家長、右に加地、前方に二川、そして中央で遠藤が自由に組み立てるという布陣。ツートップにはおなじみのマグノ・アウベスと播戸が君臨する、3-5-2の陣形です。

■ 悲壮感漂う浦和にもたらされた奇跡
リーグ最終節同様、G大阪が自身のパスリズムで支配するサッカーで、試合開始から浦和を圧倒していきました。しかしながら、その圧倒さの性質はその日とは全く異なります。始めに申し上げてしまうと、この日の浦和は試合運びにおいては惨敗でした。過言ではないと思います。まるでG大阪に太刀打ちできないチームとなってしまっていました。
しかしこれは仕方のないことだと強く主張したいと思います。前述した「ハンデ」が、両者の差を歴然とさせていました。単純にあのリーグ最終節と比較して、各ブロックにどのような変化があったのかを振り返ります。

まずはG大阪の守備陣のエリアです。
対戦相手となるこの日の浦和の前線は小野、ポンテ、永井の3人に変わっていました。浦和にとっては残念なことですが、この3人には前線での守備能力や労を厭わぬチェイシングなどは現在ありません。G大阪のDF陣は、ボール保持時にはほとんど脅威がないことになります。
加えて、ポストプレーや味方を活かすハードワーキングなど、常にポジショニングにおいて守備陣の神経をすり減らさせていた要素も浦和は欠いていました。最終節での同点弾の演出を筆頭に、最前線で相手を振り切ってでも力強く組み立てたワシントン。神出鬼没の動きで撹乱し、自身も決定的なプレーができるという危険人物だった山田。彼らは今回の攻撃時には不在でした。このどちらか一方でもいれば、さらに輝きを増せるはずのポンテも準決勝に続いて孤立中です。
こうしてG大阪の3バックは自由を与えられ続けました。この試合で一番強く印象に残ったのは、G大阪の支配時における最終ラインの落ち着きと安定性でした。とにかくG大阪は、後方こそが攻めの起点や始点となることが多かったですよね。山口や宮本が実にゆったりと、確実な前方へのフィードを繰り返していました。最終節にはなかった、G大阪の大きなボールの納まりどころでした。

それでも浦和は、小野の卓越した単発個人技と、永井のスピードに乗った動きへと託すことができれば芽がないわけでもありません。しかし、彼らへごく普通のパスを通すことさえも一大作業であり、ボールの配送自体が相当困難なものとなっていました。後方のMF陣がそれどころではなかったのです。続いては中盤のエリアです。
浦和はハーフラインから手前の中盤では、それほど攻守に衰えているわけではありません。鈴木と山田のコンディションが心配なだけです。むしろこのエリアで変化していたのはG大阪の方でしょう。最終節の前半戦で不在だった遠藤、そして封殺されていた二川。この両者の参加です。あのときは家長と加地の両翼と、ロングボールばかりが攻めの中心となっていました。ここに、緩急と異なるタイプの強大な2人のキープレイヤーが加わってきます。相変わらず両サイドがバランスよく絡んでいるところに、二川と遠藤が織り成す中央攻撃も存分に機能していたのです。JリーグでNo.1と呼ばれてもいい中盤の組織が復活していて、全方位から迫ることができていました。
確かに浦和は、遠藤が途中投入された最終節の後半戦に、このG大阪の組織的攻撃を完封して潰すことができていましたよね。ただしそれは、リードを守りきるためにワシントンまでもが下がってきた全員守備によるものであったことを忘れてはならないと思います。前線の支援に全く恵まれなかった相馬、山田、鈴木、平川の4人はほとんど防戦一方で、かつ崩されまくっていたという状況でした。
また、G大阪側は明神のタフな粘りある守備も健在です。浦和の攻撃をリードし得る、G大阪にとっては唯一ケアをせねばならないポンテも、周りとの連係なくしてはこの明神を前にして何も仕事が出来ませんでした。
そして浦和はとうとう90分間まともな攻めへのきっかけさえつかめない、機能不全に陥るままとなってしまっていたのです。

最後に、播戸とマグノ・アウベスが頻繁に動き回るG大阪の前線のエリアです。
ここでは、前回の対決時とまるで同じ光景であるかのように、浦和のネネが播戸につききれていませんでした。一度だけ播戸の得点を阻止したクリアのシーン以外では、ネネは振り回されっ放しです。最終節では、この穴を埋めて代わりに播戸と競り合っていたのが闘莉王でした。あの試合では陰のMVPと言ってもよかった、守備での大奮闘を見せていた闘莉王は、ご存知の通り今期はもう離脱中です。播戸の障害はほぼなかったと言ってよかったでしょう。
さらに厳しそうだったのが、今回先発を託されていた浦和の細貝でした。細貝はG大阪の家長、遠藤、二川といった選手たちのいずれかに寄せられると、途端に混乱をきたしてしまうのです。例えば、きちんと鈴木がカバーに回ってきてくれているのに、まごついて自身が担当すべきマグノ・アウベスをフリーにさせてしまうといった感じです。周りの味方との距離感や1対1の応対への反応も中途半端なため、危機的状況では右往左往するばかりでなかなかついていけませんでした。細貝にとっては実に悔しいことでしょうが、G大阪側から見れば狙うべき「穴」といった存在でありました。マグノ・アウベスを躍動させた大きな要因だったと思います。

これらの全てが併合された優劣から生じたのが、最終節よりも大幅に多発されたG大阪の決定機の嵐でした。
ネネを振り切った播戸のシュート、二川に奪われたネネの致命的なエラー、浦和守備陣のクリアミスからフリーな播戸へ渡ったシーン、コーナーキックからの家長のワントラップシュート、マグノの切り返しでかわしてからのフィニッシュ、かろうじてオフサイドに救われた山口の攻撃参加による得点シーン、二川の右サイドをぶっこ抜くスルーパス、フリーキックに合わせた山口のヘディング、右サイドで播戸とマグノの2人だけで作り上げた決定的場面、空振りで得点しそこなった宮本のヘッド、左サイドでフリーだったマグノのヘッド、中央で全くのフリーとなった二川のファインミドル、スルーパスから飛び出すことに成功した播戸のキーパーとの1対1・・・。
どれもが得点となっておかしくはないものでした。

この状況下で浦和は一体何が出来たのかと言うと、数回の放り込みと数回のミドルレンジからの強引なシュートだけです。この試合の浦和のシュート数は6(今期ワースト2位)、被シュート数は何と21(今期ワースト)。準決勝の鹿島戦をもはるかに下回る、紛れもなく今期最悪となった試合展開でした。もう、浦和には戦える力が残っていなかったのです。悲壮感さえ漂う、王者の痛々しい姿が延々と映し出されていました。

しかしながら、サッカーというものは時としてどう転ぶか全くわかりません。アトランタ五輪での「マイアミの奇跡」(サンドバッグ状態の日本がブラジルに1-0で勝利)を引き合いに出すのは大げさでしょうか。満身創痍ながらも必死さは絶対に失わない浦和を、勝利の女神は見捨てませんでした。
あれほどの集中砲火を浴びて、奇跡的にも失点をしませんでした。
そして一本のカウンターから、奇跡的にも得点を挙げたのです。

ボロボロとなってでも浦和は、今シーズンの最後の最後まで覇者としての意地だけは見事に貫き通しました。栄えある、浦和の国内二冠および天皇杯連覇の達成です。

■ 最大殊勲選手は都築、そして最大の立役者は・・・
浦和が耐え凌ぐことのできた理由は、誰でも明確に理解できた2点に絞られると思われます。浦和のGK都築の孤軍奮闘と、G大阪の決定力不足です。
この試合の最大の殊勲選手に、都築を選ばないわけにはいかないと思います。ファインセーブを連発させただけでなく、決定的なG大阪のシュートシーンを未然に防ぐ、判断力抜群のゴールキーピングが度々ありました。彼なくして無失点は絶対にあり得ません。この天皇杯では、闘莉王、坪井、堀之内、山岸とチームの顔であった「堅守」の選手が全員抜けて、ガタガタとなってしまった守備陣の中で、ただ一人最後まで気を吐いていたのが都築でした。インタビューの際には感極まって号泣しながらの応答をしていた都築でしたが、苦しいチーム事情を最後尾から支え続けることのできた充足感が大きかったのだと思われます。よく頑張り抜きました。
その都築の大活躍に遭ってでも、4~5点は取れたであろう与えられたチャンスの数々を一つも結実させられなかった、G大阪のフィニッシャーたちの責任は非常に重かったことでしょう。ことごとくシュートが枠外やキーパー正面へと飛んでいき、何本かは力なく不発気味に放たれていました。遠藤のフリーキックまでもが、まるで冴えていませんでしたね。いくらゲームを征服したと言っても、この粗悪な精度のシュートばかりでは自分たちから勝利を逃してしまったと言って差し支えがありません。どうも昨年のナビスコといい、G大阪は、決勝という舞台では途端に決めるべきところで決めることができなくなってしまいますね。とにかく、多大に無念さと失意を抱かせたサポーターたちへ、謝罪せねばならない大反省点です。

そして、この試合で唯一の得点となったのは、浦和の永井のゴールでした。これを生み出したのが、G大阪の裏を爆走して持ち込み、2人のディフェンダーに阻まれながらも通した岡野のアシストでした。さらにこの岡野へ放り込んだのが、自身の守備による奪取から即座にカウンターへ移行させた長谷部でした。
この3人の一瞬の活躍が、浦和を勝利へ導いた直接的な原動力であったことに間違いはありません。ただ、それほど優れないであろうG大阪のDF陣のスピードという部分を狙って、岡野と永井という快速の2トップに変更し、長谷部の途中投入もズバリと的中させて、この一連のカウンターを根本的に築き上げた人物がいます。すなわちブッフバルト監督こそが、結果的に一番の勝利の立役者となったのではないでしょうか。
最後となる浦和での試合で優勝をチームに捧げ、3年間の就任で実に4つものタイトルを置き土産として日本を去って行く、このブッフバルト監督について言及したいと思います。

■ 浦和の英雄ギド・ブッフバルト
浦和での指揮が監督としてのキャリアスタートであったことも考慮せねばなりませんが、ブッフバルト監督の戦術指導力や構築力などは、お世辞にも誉められたものではありませんでした。
今期のJリーグの上位陣を顧ると、2位川崎の関塚監督は全員に守備意識を持たせる全員攻撃、3位G大阪の西野監督はパスを主体とする重厚な中盤の組織、4位清水の長谷川監督は堅守速攻と、それぞれの戦術を1~2年でチームに浸透させた上で、それを確固たるスタイルとして実際に試合中でも反映させ続けています。
その中で、優勝した浦和の戦法とは一体何だったのでしょうか。攻撃面で浦和が安定して見せることができたのは、ワシントンの決定力だけです。そこに序盤戦は三都主、中盤戦では田中達也、終盤戦では山田、出来不出来の波が大きいポンテなど、毎試合のように誰かが日替わりのヒーローとして登場する、行き当たりばったりな攻め方であった感は否めません。チームの代名詞であった守備でも組織的な連動というものはなく、最終ラインが最後尾にガッチリと構えて、個々のプレスと力だけでごり押し的にはね返していくものでした。核となる戦い方は最後まで判明されず、あえて無理やり言うならば「強力な個人技頼み」で、選手に丸投げ状態であったとは言い過ぎでしょうか。
就任当初の2004年は、今とはかけ離れた「守備を犠牲にしてでも全選手で点を取りに行く」超積極的なサッカーを掲げ、翌2005年には、エメルソンと田中達也の離脱から支配率重視へと変更してチームを大混乱にさせたブッフバルト監督。3年間で確立させたものは3バックだけで、浦和レッズというチームの「色」をとうとう定めることがありませんでした。

では、ブッフバルト監督は果たして何を浦和にもたらしたのでしょうか。それは「結果」だったと思います。もはや優勝が絶対の使命になりつつあった、「結果」こそを最優先に求めていた近年の浦和へ、ブッフバルト監督は最大限に応じてみせたのです。
選手時代のプレーの豪快さとは裏腹な緻密かつ厳正という性格で、かつ自身がカリスマの塊であるブッフバルト監督は、選手の掌握能力に非常に長ける人物でした。徹底的な理由説明でもって、誰であろうと有無を言わさず不満を募らせることなく配置、あるいは控えにまでさせることができる力を持っていました。そしてそれを発揮しての選手起用法。これこそがブッフバルト監督の最も評価されるべき点であり、チームを勝利へ結びつけてきた一番の要素だったと思います。ブッフバルト監督は選手個人個人の前歴や戦績にとらわれることなく、現時点での調子や能力を見定めて、ベストな先発起用をすることに関しては優秀でした。
例えば、本来はトップ下である長谷部という選手がいます。本人も今なお「自分は攻撃的な選手」と公言してその主張を止めませんが、ブッフバルト監督は頑なに彼をボランチとして用い続けました。長谷部の視野の広さと長短のパスセンスを目の当たりにし、オフト前監督に精神面とフィジカルを鍛え上げられてボランチとしての才能が開花されつつあった芽を潰さなかったのです。そして従い続けた長谷部はそこでチェイシングからの奪取を見せ始め、正確なフィード力も合わさってカウンターの始点ともなっていきました。長谷部自身のキープ、ドリブル、シュートも中盤の底から炸裂し出して、後方からの攻撃の切り札として直接的に勝利に貢献するまでの存在へなっていったのです。
また何よりも、大型補強から実に2チームも作れるほどの有力選手を抱えることとなった、今シーズンのチームの操縦こそを特筆すべきでしょう。都築、相馬、酒井、永井、田中達也、黒部などといった一線級の選手たちを、ポジションの競合する先発選手の方が好調であるうちは勝利のために徹底的に起用せず、かつ彼らのモチベーションを腐らせることもありませんでした。主将の山田でさえも、ふがいなければ容赦なくスタメンから切り捨てます。負傷以外では初となる控えの中で猛省し、奮発し、そして復活してきた山田を認めた終盤戦には、今度は前線の中心たる主軸として彼を重宝し続けました。そして今期最大の目玉補強であった小野です。小野は秋ごろから著しくパフォーマンスを落としてしまいました。代表での不振という精神面からではなく、左足首の骨に再び亀裂が入ってしまったためなのだそうです。それでも優勝のためにピッチへ立つことを諦めなかった小野でしたが、ブッフバルト監督はそれ以降、完治が見込まれる天皇杯まで先発を許すことはありませんでした。高い人気と実力を備える看板とも言うべきスターを、ポンテが出場停止という試合においても用いなかったのです。チーム力が低下する危険性を回避した、苦渋の決断でした。
こうして毎回のように、浦和の先発陣はコンディションと調子の高い選手ばかりが勢揃いしていました。しかもその選手たちが皆、強大な能力を持っているのです。だからこそ、必ずといって言いほどに試合中のどこかで誰かしらがその個人技を炸裂させていて、どんな対戦相手でも苦しめていたのでしょう。この結果として、浦和は白星を重ね続けることができたのだと思います。

そして2006年度にこのブッフバルト監督の下、ついに浦和は念願のリーグ制覇を成し遂げたのです。ところが、選手たちが披露した驚異的な個人技の数々の陰で、ブッフバルト監督の存在感とはそれらに比して大幅に薄れていたものでした。素晴らしい能力を誇る選手たちの個人技の躍動と、その有力な選手たちを分厚く揃えた選手層こそに、誰もが強烈な印象を残したのです。確かにそれらが一番に褒め称えられるべきなのかも知れません。ただ、ベストな起用でもって選手の躍動の発生をうながし、分厚い選手層を束ねきった監督の功績は決して小さなものではないと思います。
さらにブッフバルト監督はこの年、試合ごとに大胆な布陣変更などをすることがなく、流れを変えさせるような選手交代もさほど見せず、試合開始の前後においてもあまり目立たない存在でした。私はそれもそのはずだと思うのです。ブッフバルト監督は多数在籍する強力な選手の中から、活躍が期待できる者だけを的確に揃えて、そこから高い個人技能が爆発されることを狙いとしていました。こうして常に、チームの個々の能力とパフォーマンスの総合値は高いままに保たれて、毎回毎回相手を圧倒できたのです。よって自分たちから変貌していく必要性は少なく、流れも何もあったものではないケースが大半でありました。山田のトップ下へのコンバートが大当たりだったくらいのものでしょうか。他では致命的な采配も絶賛される采配もなく、采配能力は不明瞭のシーズンとなってしまっていました。

しかし、退任を決断していたブッフバルト監督は、浦和での最後の指揮となる天皇杯で突如、監督としての真価を問われることになりました。チームはリーグ優勝と引き替えに、レギュラー選手の不調および離脱の続出を招いていて、もうあの圧倒できる力を失っていたからなのです。実際に戦いに入ってみても、J2に降格した福岡に何とか延長で勝利するという有様でした。
ところがこの惨憺たる状況のチームを率いたブッフバルト監督は、年末がチームの最大ピークとなっていた磐田、鹿島、G大阪という難敵を全て苦しみながらも制して、またも浦和を優勝に導いてみせたのです。
豊富な選手層がチームの総合力の衰えを何とか抑えていたために、勝ち得たのだとも考えられるでしょう。磐田も鹿島もG大阪もそろって自滅の内容としてしまったからこそ、頂点を拾えたのだとも言えるでしょう。
ただ、最後の3試合になってブッフバルト監督の采配が、特大の輝きを放っていたのも決して見逃してはならないことだと思います。
磐田戦では、後半の開始から小野を前線に配置して山田を右に転向させ、右サイドをズタズタに切り裂いて2点差をひっくり返す結果としました。鹿島戦では、山田をボランチに下げさせてまで小野をトップ下に起用した布陣変更が、結果的にピタリと当たる2得点で勝利しました。そしてこの決勝のG大阪戦、岡野と長谷部を投入して、それが鮮やか過ぎるほどに的中するカウンターで奇跡を呼び込んだのです。
様々な要素があったこの浦和の優勝劇でしたが、選手をどうにかやり繰りして最終的に得点をたぐり寄せてきた、ブッフバルト監督こそが今回の紛れもない主役だったのではないでしょうか。
浦和で語り継がれていく英雄となるギド・ブッフバルトさんは、自身の手腕でもって有終の美を飾ったのだと私は思います。