みのる日記

サッカー観戦記のブログです。国内外で注目となる試合を主に取り扱い、勉強とその記録も兼ねて、試合内容をレポートしています。

アーセナル × マンチェスターU #1

2007年01月27日 | サッカー: プレミア
06/07 プレミアリーグ 第20週: アーセナル 2-1 マンチェスター・ユナイテッド
(2007/1/21)

■ エミレーツの不敗神話
今週は多忙であったために記載が大幅に遅れることになってしまいましたが、記録として残しておきたい対戦カードです。この週のプレミアのもう一つの山場、アーセナル対ユナイテッドの大一番が行われました。

新スタジアムのエミレーツに初めてユナイテッドを迎え入れるアーセナル。若さゆえのムラがあったのか芳しくない結果が相次ぎましたが、昨年末からは急激に輝きを増しているチームです。ブラックバーンを6-2で葬ったのを手始めとして、もともと鋭さと勢いに溢れていた攻撃陣が、ついにコンスタントにゴールを量産するまでになったのです。リーグ戦ではありませんが、カップ戦でアウェーながらリバプールをも3-1、6-3と粉砕してしまいました。そのカップ戦を含め、ここ最近の7試合で獲得した得点数は驚異の23。さらに朗報は続くもので、エースのアンリが離脱前の不評を払拭しつつある働きで復帰しています。先週には数的不利で苦しむ自軍を、自身のスーパーゴールで勝利に導きました。こと攻撃に関しては、今回対戦するユナイテッドにも決してひけをとらないパフォーマンスです。
しかし、改善されないディフェンス面での安定度は課題として残されたままでした。なかなか完治しないギャラスを欠く守備陣は、大崩れこそしないもののサポーターを失望させています。若きセンターバックのセンデロスとジュルーの二人も、残念なことに相変わらず軽率さと不安定感が目立っているそうです。こちらは7試合で8失点。ユナイテッドやチェルシーのような守備力のガタ落ちはありませんが、上位を狙う強豪として物足りなさは募るままといった感じです。
ここで、この緩い土台のチームを支えてきた、ある一人の選手を挙げねばなりません。30歳ながら、フィールドプレイヤーとしては最年長であるMFジウベルト・シルバです。チェルシーと引き分けた試合での凄まじい存在感が引き金となり、彼こそが真のチームリーダーであるという意見が多数寄せられるようになりました。プレミア随一の華麗さを誇るアーセナルの中で、一人だけ泥臭いハードワーキングを絶やさないのです。やはり守備力が物足りない中盤を、ピッチ中央から大きく引き締めてきました。アンリ不在時には臨時のキャプテンを担当したところ、自身の献身ぶりでもってチームの意気を統率することに成功して、その役割を全うしました。精神的に引っ張っていくわけではないアンリよりもよほどキャプテンにふさわしいのではないか、というアンリファンにとっては寂しい見解も少なくありません。おまけにゴールまで量産し始めるようになり、二人のFWに次ぐチーム3位の7得点としています(ちなみに昨シーズンの彼は33試合で2得点)。称賛されるべき貢献の量で、改めて不可欠な人材であることが認識されました。
ですが、その不可欠なジウベルト・シルバがこの大一番で出場できません。先週のブラックバーン戦で彼は退場してしまったのです。確かにあの場面、悪名高いサベージの見るに耐えないダーティなプレーが発端となりましたが、どんな事情であれ暴力で報復しようとする姿勢自体は許されるものではありません。少なくともジウベルト・シルバの退場は妥当です。報復行為に及んだ彼は、このユナイテッド戦を含めて3試合の出場停止処分に。大きな要を失いながら、首位に堂々と君臨するユナイテッドへ挑むことになりました。

ユナイテッドについては先週もレポートしたので省略します。先日に2位のチェルシーがリバプールに敗れたために、勝利すればその勝ち点差を9にまで広げられる大きなチャンスです。

アーセナルは4-4-2。
GKレーマン。DFは左からクリシー、センデロス、コロ・トゥーレ、エブエ。MFは左からロシツキー、フラミニ、セスク・ファブレガス、フレブ。FWはアンリとアデバヨールの2トップです。
件のジウベルト・シルバの穴にはフラミニが入りました。負傷を繰り返す、レギュラーの右サイドバックのエブエは復帰しています。
攻撃陣ではチーム内得点王のファン・ペルシが軽い負傷により、この日は控えに回ったために、アデバヨールがアンリとコンビを組むスタートとなりました。

ユナイテッドの陣容です。
GKファン・デル・サール。DFは左からエブラ、ビディッチ、ファーディナンド、ネビル。MFは後方にスコールズとキャリック、前方にルーニーとギグスとクリスティアーノ・ロナウド。FWはラーションです。
先発メンバー自体は申し分のない顔ぶれが揃います。信頼を勝ち得たラーションはこの日も最前線で起用されました。アーセナルは昨季のチャンピオンズリーグ決勝戦にて、当時バルセロナ所属のこのラーションに2アシストを決められて逆転負けをした苦い経験を持っています。

試合開始後、しばらくしてユナイテッド側に異変のあることが判明します。ルーニーが中央におらず、下がり目の左アウトサイドに位置しているのです。後述もしますが、ユナイテッドはこれまでの基本の4-4-2ではなく、ルーニーをMFに配する4-2-3-1の布陣でこの試合を戦っていました。
そのユナイテッドが序盤はやや優勢でした。アーセナルはユナイテッド陣営まであまり持ち込めず、シュートを撃てない時間帯が続きました。

しかし、徐々に盛り返してきたアーセナルが先手を取ります。前半33分、右サイドのアデバヨールのクロスに対し、ユナイテッドはファーディナンドがアンリを離してしまいました。アンリはフリーでヘッド。決定的でしたが、惜しくもキーパー正面でした。
ユナイテッドも黙ってはいません。前半終了前に畳み掛けました。
前半41分、スコールズのスルーパスからギグスが飛び出しに成功し、キーパーと1対1に。ギグスの弱々しいシュートミスによって、アーセナルはこの難から逃れました。
ロスタイムにはペナルティエリア外からルーニーの強烈なミドルシュートが、コーナーキックからフリーとなったラーションのヘディングがそれぞれアーセナルを襲いましたが、いずれもレーマンのファインセーブが阻止します。
アーセナルはよく凌ぎきりました。

後半に均衡が破られます。開始から相手のミスなどによって一時的に支配していたアーセナルでしたが、先制したのはユナイテッドの方でした。
その立役者はエブラです。ラーションのポストプレーからスコールズ、左のロナウドと渡る間に、彼が突如としてロナウドを追い越すように猛然と駆け上がってきました。ロナウドはそのエブラにパス。アーセナルはロナウドに対応していたエブエの裏を見事に突かれ、右サイドからエブラにクロスを上げられてしまいます。途中のトゥーレのジャンピングクリアもわずかに及ばず、逆サイドでフリーだったルーニーがダイビングヘッドでこれをゴール内に沈めました。
今季の公式戦はいまだホームでは無敗のアーセナル。しかしながらそのホーム戦の内、失点をした7試合は全て先制を許していたという悪癖がまたも繰り返されました。

その後はお互いに決定機がないまま、刻々と時間が過ぎていきます。やはり引き気味のユナイテッドを崩すのは容易なことではありません。ですが、アーセナルは敗北もちらついてきた試合終盤に、切り札としてフラミニと代わっていたファン・ペルシの投入が的中するかたちとなったのです。
後半38分、右サイドでセスクとロシツキーが2対2の局面を何とか突破。ロシツキーの低いクロスが入ります。ボールは中央のアンリの足元を抜けてファーサイドへ。そこへ駆け込んできたファン・ペルシが、角度のないところから豪快に決めてみせました。かなり難易度の高いシュートだったと思います。
アーセナルがお返しとばかりに、敵陣を大きく横断するクロスでもって同点としました。

これまで先に失点をしても必ず追いつき追い越してきたエミレーツのアーセナルの勢いは、ユナイテッドでもってしても制御できるものではありませんでした。俄然盛り上がるアーセナルを前にして防戦を強いられます。
そして後半ロスタイムに、またもアーセナルの右サイドアタックがユナイテッドに襲い掛かりました。エブエとロシツキーがワンツーでここを攻略。エブエがエブラをわずかにかわし、ギリギリのところでクロスを放射します。このハイボールが懸命にクリアしようとしたビディッチの頭上を通り抜け、すぐ後方のアンリにピタリと合わさりました。アンリはこれを迷いなくヘディングでゴールへと突き刺し、勝ち越し点を奪取!終了間際の2得点による劇的な逆転に、スタジアムは興奮の渦に包まれました。

そのまま2-1でこの重要な試合が終了。「一体どこが止められるのか?」といった雰囲気を発散していた無敵のユナイテッドを、見事に止めてみせたのは長年のライバルであるアーセナルでした。アーセナルはユナイテッドに対してシーズンダブルを達成。もうユナイテッドから首位の座を奪える可能性は限りなく低いのですが、そのユナイテッドに土をつけたチームとして記録に刻み込まれることになります。

■ 際立った両チームの司令塔の出来の差
この試合で、何よりもまず一番の感想として私が抱いたのは両チームの司令塔の働きでした。すなわち、セスクとスコールズの活動です。この両者の出来の差が勝敗に大きく影響したと私は思っています。

先週のブラックバーン戦で獅子奮迅の活躍であったセスクは、この日もアーセナルの中心人物でした。彼を経由せねば、アーセナルの攻撃機会は激減していたと断言いたします。
他の選手に目を向けてみると、まずはフレブが大ブレーキ。あれほどボールを託されたにも関わらず、何一つとして役に立つことがなく、挙句の果てに直接敵にパスすること2回。間違いなくチームの足を引っ張っていて、交代は後半開始からさせておくべきでした。
続いてロシツキーは、一度斜めに切れ込んで展開させた以外には組み立てにほとんど関与せず、受けたボールをミドルでゴール枠外へ乱射するばかりの選手でした。サイド突破からのアシストは立派な評価点ですが、これもセスクの際立つキープと粘りからもたらされたことを忘れてはならないと思います。
フラミニはそもそも守備役だったので、攻撃時に目立っていなかったのは仕方がありません。アデバヨールはクロスを一本通したのみで、大部分は消えている存在。アンリもファン・ペルシも一発のゴールだけが多大な貢献となり、ネビルに封じられっぱなしだったのが共通点です。
そこでセスクです。試合開始から終了まで、10代の年齢とは思えないほどにパフォーマンスが安定していました。最もパスを出した選手でありながら、エラーは前半27分の横パスのミスのみ。ショートパスはもちろんのこと、ドリブル、キープ、枠内ミドルシュート、ロングボールと、もうあらゆるプレーを何でもやりました。注文をつけると、そのワンプレーごとのテンポが少し遅いことでしたが、それでも彼のチャンスの始点となる働きがなければ、シュート数でユナイテッドを上回れたかどうかも怪しいものです。表向きの殊勲者は難しいシュートを決めたファン・ペルシやアンリでも一向に構いませんが、私にとってのアーセナルの主役は紛れもなくセスク・ファブレガスでした。

一方のユナイテッドが誇るべきスコールズです。ロナウドに次いでこれまでMVPクラスのこの大選手が、失速しました。
サイドアタックを主軸に爆発的に炸裂している今季のユナイテッドの攻撃力ですが、グラウンド中央で抜群のタメや捌きやフィードを見せるスコールズの燦然たる展開力があるからこそ、相手を左右にぶん回すほどの厚みが生じているのだと私は思っています。システムの影響もあったかも知れませんが、その彼がサッパリ輝きませんでした。試合序盤こそは押し上げていましたが、次第にずるずると後退。その後は決定的なスルーパスを一回出したきり、前線に顔を出すことがありませんでした。後方での試合運びにもあまり参加できず、自身にも安易に奪われるなどの不安定感がありました。これまで攻撃陣を支えてきたスコールズの不在が、両サイドをうまくリンクできないこの日のユナイテッドの単調さと無関係とは言い切れないでしょう。
彼は守備に重点を置いていたという見方もあったにせよ、その守備でも見せ場がありませんでした。アーセナル陣営の後方で構えるセスクに当たりに行くべきか、それとも敵のアタッカーのケアに回るべきかを、あたかも迷っているかのような甘いチェイシングです。正解はフレブなど放っておいて無理してでもセスクを潰すべきでしたが、中途半端なポジショニングでほとんどチームに貢献できませんでした。
もう、とにかく全ての動作に冴えがない感じです。大車輪の活躍だった、つい先週のヴィラ戦の出来と見比べてしまうと雲泥の差があります。最終ラインとうまく連係して守備面で効いていたキャリックの方が、よほど存在価値がありました。明確にキャリックにも劣るという、珍しい試合を観てしまいました。

そして見逃せないのがアーセナルの2得点の、ゴールに至るまでのシーンです。特に同点となった場面ではセスクとスコールズとの直接対決がありました。ロシツキーがクロスのチャンスを得るまでの過程を詳細に振り返ります。
発端はやや右サイド寄りを疾走するセスクのドリブルでした。この一人でも打開しようとする動きに、対峙するスコールズの足取りは重く、まるでついていけません。仕方なしにエブラが正面からセスクを阻むわけですが、そのこぼれ球を争ってスコールズがセスクともつれ合いになるも、ここでもスコールズは勝てません。そして拾ったセスクがロシツキーへとパスを出したところ、エブラが咄嗟にこれをカット。再びこぼれ球となりましたが、またもセスクがスコールズに粘り勝ちをして拾いました。ついに今度こそはロシツキーにパスが通り、パスカットで体勢を崩していたエブラが裏を取られたのです。前回の記事でユナイテッドは左サイドバックがウィークポイント云々と記述したばかりですが、この失点の場面ではエブラはやるだけのことはやりました。左サイドを突破されたのは、3回も接触の機会があったスコールズとセスクの優劣によるものという認識が正しいでしょう。
アーセナルが逆転としたときのスコールズはお粗末でした。味方がクリアしたボールの到達点にいたスコールズは、どうしたことか勝手にバランスを崩してコケてしまい、触ることすらままなりません。さらにあろうことか、前方にいた最重要人物のセスクに直接渡っていってしまうかたちとなります。難なく収めたセスクは、的確に状況を見定め右サイドへ展開。そこからアンリのゴールへと結びつきました。

この直接的な両者の勝敗はもちろんのこと、自陣から前線をつなぐコンダクターの有無が非常に大きかったと感じられました。正直に申し上げてユナイテッドの方が攻撃技能力自体は上です。しかし前線の4人とその他がはっきりと分断されていたユナイテッドに対し、アーセナルははね返されてもはね返されても次々とあらゆる選手にまんべんなくボールが行き渡りました。それが最後まで衰えずに攻撃回数では上回ることになり、最終的にはそちら側に軍配が上がりました。アーセナルの後衛、中盤、前衛の3ブロックがうまくつながっていた結果だと思うのです。この試合は私にとってはやや難しく、これだけをアーセナルの勝因と定めるのは軽率な感がありますが、少なくとも無視はできない要素だと思いました。

最強の相手に先制されても決して下を向かず(この展開に慣れている?)、鮮やかな逆転へ向けた勢いを保って見ごたえのある試合にしてくれたアーセナル。その彼らに足止めを食うことなったユナイテッドは勝ち点1すら獲得できずに、チェルシーを突っぱねる絶好の機会を逃してしまいました。両者の勝ち点差は依然として6。プレミアはアーセナルのおかげで、かろうじて優勝争いの火が灯されたままとなっています。
この上位陣の直接対決の2試合は、結局いずれも優勝に近い側のチームが敗退という結末になりましたが、それを指して波乱という表現が用いられるのには少々ひっかかるところがあります。アーセナルとリバプールが今冬に見せたパフォーマンスの急上昇を考慮すると、そこまで驚くことではないと思われるのです。いつの間にかアーセナルとリバプールは、2位のチェルシーとの勝ち点差が6以内となっています。このまま彼らの目覚しい躍進が途切れないのであれば、「2強」から「4強」へ移り変わるという楽しみな展開へなることにも期待ができそうです。

以上で主要なレポートを終了します。この先からは、個人的に両チームに注目していた点について記載したいと思います。


※「アーセナル × マンチェスターU #2」に続きます。


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2 コメント

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コメントありがとうございました。 (sky)
2007-01-25 22:05:39
みのるさん、パク・チソンに関する情報ありがとうございました。
そうなんです。謎なんです。パク・チソンをベンチに置かない理由がないと思うのですが。今までも46分とか65分とか早い時間で交代させられることもあったので、ファーガソンのなかでパク・チソンの選手起用における優先順位は高くないのかなと思うこともあります。東洋人だからかなと考えてさびしく思うこともありますが、それはきっと僕の考えすぎですね。
みのるさんがこの試合をどうみるか興味深いので、また訪問させていただきます。
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Re: コメントありがとうございました。 (sky) (みのる)
2007-01-27 05:09:26
どうも、こんにちは~!
ねぇ、謎ですよねー。いまだにパクを控えにも置かなかった理由が伝わってきません。
パクへの信頼に関しては、ファーガソン監督も純粋にパクの能力を重要視している発言を繰り返しているので、その点は大丈夫だと思いますよ。今回はもしかすると何らかの事情があったのかも知れません。むしろ信頼を大幅に失ってヤバイ立場なのはリチャードソンの方でしょうね・・・。

今週は平日がまるまる多忙だったため、お返事が遅れてしまって申し訳ありませんでした。
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