みのる日記

サッカー観戦記のブログです。国内外で注目となる試合を主に取り扱い、勉強とその記録も兼ねて、試合内容をレポートしています。

ブログ更新休止のお知らせ

2007年02月09日 | お知らせ・ご挨拶
誠に残念なことですが、当面ブログの更新を休止いたします。私の健康上の理由からです。
わざわざ訪れてくださった方、本当に本当に申し訳ありません。

先々週あたりから病院に通い詰めで、だましだましながら記事の掲載も続けてきましたが、もうパソコン自体に時間を割くのも自粛することに決めました。
ですが幸いなことに、今後もじっとしていさえすればサッカーの観戦だけはできますので、せっかく見つけたこの楽しい趣味(このサッカーのブログ)は治り次第すぐにでも再開させたいと思っています。

しばらくの間は寂しいことですが、いつかまたブログの記載の方も元気よくできるようになる日に向けて努力します。それでは!

サンプドリア × インテル

2007年02月03日 | サッカー: セリエA
06/07 セリエA 第21節: サンプドリア 0-2 インテル・ミラノ
(2007/1/28)

■ マテラッツィへの頭突き再び・・・
引き続きインテルの試合です。格下相手との対戦ですが、何と言ってもインテルは次節、今季のセリエAにとってはもう最後の大一番になるかも知れない2位ローマとの直接対決が控えており、その直前予習は欠かせません。連勝記録の行方にも注目です。
対するサンプドリアは、高い充実度の戦力の刷新でもって変貌を遂げ、昨季の低迷からの脱出が大いに期待されていましたが、結局は何とか中位に踏みとどまっているという悲しい現状。イージーな失点が絶えない守備陣に批判が集中しているそうです。唯一の光明は、華麗なプレーとゴールを数多く披露するFWクアリアレッラの輝きだけとなっています。

ちなみにこの試合の前後にコッパ・イタリアの準決勝があり、偶然にもインテル対サンプドリアの組み合わせとなっていました。すなわち、一週間で両者は3回も戦うわけです。準決勝第1戦は、この日と同じくアウェーだったインテルが3-0と快勝しています。

サンプドリアは、ノベッリーノ監督が誰に何と言われようとも頑なまでに通す4-4-2のシステム。
GKはルカ・カステラッツィ。DFは左からバストリーニ、ファルコーネ、サーラ、ゼノーニ。MFは左からフランチェスキーニ、デルベッキオ、バロンボ、マッジョ。FWはフラーキとクアリアレッラのツートップです。
12月頃から重用され続けてきたDFアッカルディが出場停止で出られません。他では、本職はサイドバックのマッジョがサイドハーフとして起用されています。

インテルはもう完成の域に達している4-3-1-2。
GKはジュリオ・セーザル。DFは左からマクスウェル、マテラッツィ、ブルディッソ、マイコン。MFは左にサネッティ、中央にカンビアッソ、右にビエラ、トップ下にスタンコビッチ。FWはアドリアーノとイブラヒモビッチ。
キーパー以外はフィオレンティーナ戦と変わりがありません。ミッドウィークのコッパ・イタリアで途中交代による復帰出場を果たしたFWクルスが、この日も控えに入りました。

開始からわずか5分ほどで、いきなり試合に波乱が生じます。
サンプドリアの血気盛んなデルベッキオが、ジュリオ・セーザルとの接触の直後に蹴りを入れるような乱暴な仕草を見せます。これに対して頭に来たマテラッツィが猛然とデルベッキオに詰め寄り、マテラッツィが何か二言三言叫んだ瞬間、デルベッキオのヘディングがマテラッツィの口元を直撃していました。よもやの暴力行為で倒れ込むマテラッツィ。血の滲むそのマテラッツィの唇。騒然とする会場。そして当然のごとく提示されるデルベッキオへのレッドカード(マテラッツィにはイエロー)。しばらく大きな話題として続いた、ワールドカップでのジダンの「頭突き退場」を彷彿とさせます。
デルベッキオには全く言い訳の余地のない退場処分ですが、よほどマテラッツィの罵声は人を怒り狂わせるほどのものがあるのでしょうね・・・。このお騒がせ男の異質な存在感には陰りが見えません。

結構サンプドリアが押し気味で面白い展開だったのに、これで試合がぶち壊しになったかなと思っていたら、意外にも10人になった後もサンプドリアが引き続き主導権を握っていました。効率的に攻めているのは圧倒的にサンプドリアの方です。序盤のインテルはサンプドリアのカステラッツィのファンブルから、アドリアーノがオフサイドの判定とされたゴールシーンしか見どころがありませんでした。

ようやくインテルがペースを掴んだのは前半30分あたりから。好調なFWにボールが集うようになってきました。以降、サンプドリアは防戦を強いられ続けます。
ビエラのラストパスを受けたアドリアーノが、ペナルティエリア内でDFと競り合いながらも力強いキープから強引にフィニッシュ。直後には勢いの良いシュートも吹っ飛ばしています。
前半38分には、今度はイブラヒモビッチが躍動。左サイドで二人をかわしたサネッティのクロスに、ダイビングボレーで合わせにいきました。これは空振りで流れましたが、こぼれ球を拾った右のマイコンのアーリークロスは確実にヘディングでゴールへと沈めました。インテルが先制。左右に思いっきり大きく振られるかたちとなったサンプドリアはなすすべがありませんでした。イブラヒモビッチは2試合連続のヘッドによる得点です。

後半からインテルはスタンコビッチに代わってフィーゴが出場。スタンコビッチのそれとはまた性質の異なる、抜群のキープ力からのチャンスメイクを度々見せてくれました。
後半23分にはアドリアーノとクレスポが交代。アドリアーノはこの日も献身的で、味方へパスを出すための働きが目立ち、決して悪い出来ではありませんでした。ローマ戦でも間違いなく先発で用いられることでしょう。

クレスポがセンターフォワードとなると、それまでその役割だったイブラヒモビッチが得点の演出係として精力的に奔走し始めました。左右どちらにでもワイドに開き、最前線の起点となります。
その彼の動きの一つが見事にゴールへつながりました。後半30分、マイコンがオーバーラップから中央へ切れ込むようなドリブル走破できっかけを作ります。そこから大きく右に開いていたイブラヒモビッチにボールが預けられ、イブラヒモビッチはバストリーニのタックルを問題なくかわしてフリーに。そして中に折り返した際には、もうサンプドリアの守備陣は総崩れの状態でした。そのまま駆け上がったマイコンが難なく決めて、インテルは追加点を獲得。この時点で勝敗がほぼ決まりました。

サンプドリアに追いすがる余力は残されておらず、2-0でインテルの順当勝ちという結果に終わりました。インテルは驚異の14連勝達成です。

■ 要の中盤がまるで冴えなかったインテル
インテルの方は、この日もFW二人に文句をつけることができません。中でもイブラヒモビッチが光っていました。センターフォワードとしてポストプレーに得点にと要求されることを高いレベルでこなしてみせて、クレスポ登場後は切れることのないスタミナでウイング的に走って攻撃を促します。万能型ストライカーとしての本領を存分に発揮しました。そして1ゴール1アシストという見た目にも明らかな結果で、満点の内容だったと言えることでしょう。

右サイドバックのマイコンも忘れてはならない存在です。この試合、こちらのサイドは彼のものでした。再三攻め上がってはサンプドリアの脅威となり、結果として彼もまた1ゴール1アシストの殊勲者となりました。

さて、このインテルの敵なしといった感じの連勝街道。これには様々な要因が取り上げられていますが、私は個人的に中盤のパフォーマンスこそが最も評価されるべきだと思っています。今のインテルの強さを一言で表現するならば、何よりも良い意味でインテルらしからぬ「安定感」でしょう。マンチェスター・ユナイテッドやバルセロナのようなド迫力もなければ、ローマやアーセナルのようなスペクタクルもありません。しかし地味ながらも淡々とした危険度の少ない内容で、着実に勝利を得る能力はトップクラスです。これを根底から支え、その象徴となっているのがインテルの中盤の選手たちだと申し上げたいのです。
そもそも攻撃を司るトップ下のスタンコビッチからして、ボランチもこなせるという守備力の所有者です。前線にいようが守備で手抜きをすることはありません。サネッティの安定度は今さら言及するまでもないことでしょう。新加入のビエラも一年目から問題なくフィットして攻守で高い身体能力を発揮。ダクールとカンビアッソも巧みな守備やフィードを持ち、絶大な中央でのバランサーとして君臨します。
その彼らのプレーが精密で、実にエラーが少ないのです。保持しては容易に相手に渡さず、保持されては最終ラインへ及ばないように中盤の時点で吸収してしまいます。オーバーラップが顕著なサイドバックにも高い評価が与えられていますが、私はこの鉄壁な中盤の存在があるからこそ思い切った行動を続けられているのだと思うのです。
全員が中盤なら複数のポジションを担当できるほどの攻撃能力と守備能力を併せ持っていて、穴がありません。その上、バランスよく共存しています。誰よりもレアルのカペッロ監督が羨んでいそうな欧州一の堅実さが、インテルの中盤にはあります。そしてそれの積み重ねが、文字通り「負けない」サッカーに大きく影響しているのだと主張したいのです。

ですが、その要の中盤の出来が、どうしたことかこの試合ではサッパリといった感じでした。
終始安定していたのはサネッティただ一人。そのサネッティにしても、自身のサイドをいいようにやられていた責任は間違いなくあったと思います。
カンビアッソも褒められたものではありません。してはいけないポジションながら軽率なパスミスを犯し、好守と呼べた活動も一度もありませんでした。
日によってパフォーマンスの波が一番大きいビエラは、90分の試合の中だけでも波の激しい選手でした。絶妙なパスや守備を繰り返せば、その一方ではとんでもないパスミスやキープミスを連発し、「安定」には程遠いプレーぶりです。
そして特にひどかったのがスタンコビッチです。結構攻撃を任されてはいましたが、そこから何をやっても全然うまくいきませんでした。ミスと言うか集中力が大幅に欠如していた感じで、何度もチームの流れを止めては期待を相当に裏切りました。累積警告や休養のためなどとの解説が入りましたが、あの後半開始からの途中交代は単に全く機能していなかったからだと思います(※追記: 公式サイトによると、実際にはこの交代は当初からの予定通りだったそうです)。
結局、攻撃の切り札となったのはサネッティとマイコンによる何回かのサイドアタックのみ。これでは攻めに厚みがもたらされようもありません。守備時にも中盤でドリブルやパスを、自由に幾度も通させてしまいました。完勝してしかるべき一人少ない格下のサンプドリアを、なかなか決定的に引き離せなかったのは間違いなく中盤の停滞です。スタンコビッチを中心として、次のローマ戦までには奮起して高次元の中盤を蘇らせてくれることを強く願っています。

■ 数的不利が悔やまれるサンプドリアの健闘
サンプドリアの実情はよく知らないのですが、負けたとはいえ印象に残る選手が数多くいました。振り回されてつききれなかった先制の場面だけは悔やまれましたが、ファルコーネはかなり判断のいい守備を見せ続けました。これまで非難されることが少なくなかったそうなのですが、この日はそれに全然至らない貢献量です。若手のバストリーニも10代とは感じさせない落ち着きぶりで、マイコンの侵入を許さずに左サイドの奥底を固めました。右サイドのマッジョとゼノーニも印象的です。両者の活発な躍進がそのまま表面化され、サンプドリアはほとんど右サイドを起点にして攻めていました。

またMFを一枚欠いた後も、FWを削ることなくツートップのまま4-3-2で、攻撃的な姿勢を崩さずに戦い抜いたことも好印象でした。これが出来たのも、わざわざ大きく下がってまで中盤とのリンクを断ち切らなかったフラーキとクアリアレッラの両FWの豊富な活動量があったからこそです。二人とも単なる懸命さだけではなく、質の高いドリブルやキープなどのスキルも披露してくれました。どうにか1点だけでも取らせてあげたいとさえ思わされる活躍でした。

ただし、そんなサンプドリアも後半の半ばからは運動量が激減。まずは、あれほどあった右サイドアタックが復活することなく沈黙し、とうとうツートップが孤立してしまいました。
また、先に挙げた選手たちも直接失点に関わってしまいます。インテルの2点目は、実はオフサイドトラップのミスというサンプドリア自身の致命的なエラーが崩された最大の要因だったのですが、それの元凶は反応悪く一人だけ後方に残っていたゼノーニの存在でした。さらに左サイドへ展開された際に、かなり甘い対応で軽くイブラヒモビッチに振り切られてアシストを許したのはバストリーニでした。それぞれ、それまでが嘘であったかのような集中力の欠如です。
しかしながら、これには同情の余地があります。一人少ない状況の中、たった三人となった中盤の選手たちの負担の大きさは語るまでもありません。両サイドバックも、時として一人で二人を相手にせねばなりませんでした。疲労困憊はやむなしでしょう。全体的に考えれば、インテルという強大なチームを相手に、サンプドリアはよく頑張った方だと私は思いました。
やはりデルベッキオ、あなたの退場がとてつもない痛手として確実にサンプドリアを蝕むことになっていました。この日のサンプドリアが予想以上の健闘だったが故に、余計に悔やまれるところです。大げさでなく、インテルの連勝記録を止める引き分けは十分に可能なことでした。どこかで聞いたようなフレーズですが、それこそ「10人の勇者と1人の愚か者」です。デルベッキオは疲れ果てるまでに戦った全選手に深く詫びるべきだと思います。なお後日、デルベッキオには3試合出場停止の裁定が下されました。

今節、2位のローマはシエナに1-0で勝利し、広がっていたインテルとの勝ち点差を何とか11のままで食い止めました。そして冒頭でも記述したとおり、次節はいよいよインテル対ローマの最終決戦です。好調を維持するインテルが制して優勝を決定づけるのか、あるいはローマが見事にインテルへ初黒星を与えて大逆転の契機とするのか。非常に楽しみな一戦です。


※追記: この試合の後に行われたコッパ・イタリアの準決勝第2戦、インテル対サンプドリアは0-0の引き分けに終わりました。2戦合計の結果でインテルが決勝進出。決勝は3年連続でインテル対ローマとなりました。

※追記2: 2月2日に行われたカターニャ対パレルモ戦で、パレルモサポーターが騒ぎだして暴動に発展。警官1人が死亡、警官1人が重傷、その他にも100人以上の負傷者を出す痛ましい事件にまでなってしまいました。イタリアサッカー協会は事態を重く見て、国内で開催されるサッカーの試合の全面的休止を示唆。まずは今週末のセリエAの中止を発表しました。残念なことにインテル対ローマの大一番もお流れです。

インテル × フィオレンティーナ

2007年02月03日 | サッカー: セリエA
06/07 セリエA 第20節: インテル・ミラノ 3-1 フィオレンティーナ
(2007/1/21)

■ インテル13連勝 簡易レポート
記載は久々となるセリエAです。ご存知の通り、現在のイタリアの主役は何と言ってもインテルです。いやあ、本当に強いですね。このチームこそ「一体どこが止められるの?」という言葉がふさわしい独走気味の状態です。
勝ち点のペナルティがなければ4位の成績だった、好調のこのフィオレンティーナとの一戦は要注目でしたが、私は個人的な事情で観戦が今週にずれ込んでしまいました。よって今更なのですが、簡素にレポートを残しておきます。

インテルの布陣は4-3-1-2。
GKはトルド。DFは左からマクスウェル、マテラッツィ、ブルディッソ、マイコン。MFは左にサネッティ、中央にカンビアッソ、右にビエラ、トップ下にスタンコビッチ。FWはアドリアーノとイブラヒモビッチです。
正キーパーのジュリオ・セーザルが朝方に腰痛発症との公式発表。急遽、元イタリア代表のトルドが開幕戦(フィオレンティーナ戦)以来の先発となりました。何の因果なのか、今季のトルドは古巣のフィオレンティーナとの2試合だけに出場です。

フィオレンティーナは、この日は4-5-1。
GKはフレイ。DFは左からパスカル、ダイネッリ、ガンベリーニ、ポテンツァ。MFは左からヨルゲンセン、ゴッビ、リベラーニ、ドナデル、ブラージ。FWはトーニのワントップです。
この大事な試合で二人の主力選手が出場停止。軽率さの絶えない右サイドバックのウイファルシはまだしも、再びプランデッリ監督の下で輝きを放っているセカンドトップのムトゥの欠場は大きな痛手です。現在のフィオレンティーナの看板である、国内屈指の破壊力を誇るトーニとムトゥのコンビを残念ながら見れません。

その主力抜きのフィオレンティーナがあっさりと前半5分に先制してしまいました。セットプレーからです。左サイドの相手ペナルティエリア付近でフリーキックを獲得すると、これをリベラーニが中央へ放り込み。リベラーニのクロスがかなり高精度だったのは確かですが、マーキングで混乱したインテルにも責任があると思います。マイコンがあわてて対処に行きましたが、マークにつききれずにトーニのヘディングが炸裂。トーニが今季10得点の大台に乗せました。

当たり前のように支配しながらも失点、ミス続きと、いい流れを作れないインテルでしたが、その嫌な雰囲気を一人で吹き飛ばしたのがスタンコビッチでした。
前半19分、スタンコビッチが敵陣で猛然とカットする見事な守備を披露し、拾ったイブラヒモビッチが左のアドリアーノへ。アドリアーノは打開が難しいと見るや、ここで溜めに溜める好判断の末、中央へラストパスを送ります。その先には守備から即座に一転して爽快に駆け込んできたスタンコビッチがいて、フリーの状態から鮮やかに強烈なシュートを突き刺しました。同点となります。

さらに5分後の前半24分、今度はやられたフリーキックでフィオレンティーナにお返しをします。ビエラが深く攻め入るキープからファールをもらいました。このチャンスに三人のキッカーが並んだインテルはちょっとした工夫を見せたのです。
イブラヒモビッチが蹴ると見せかけてフェイントでボールの上を通り過ぎると、すぐさまスタンコビッチがちょこんとボールをずらします。これをフルパワーの左足で、アドリアーノがグラウンダーのシュートをゴール枠内隅に沈めました。壁の選手の横を過ぎる一直線の軌道で、防御側としてはどうしようもない失点でした。
開始直後の被リードなど、まるで意に介さないかのようなインテルの逆転劇です。

その後もインテルの優位は変わらず、お得意の淡々とした試合運びです。ほとんどフィオレンティーナにシュートを打たせませんでした。
そしてインテルは後半26分に、またもフリーキックから得点しました。スタンコビッチの上げたアーリークロスに、イブラヒモビッチがきちんとついていた相手DFのマークをもろともしない高い打点のヘッド。フレイは何とか横っ飛びのファインセーブでこれを防ぎましたが、こぼれ球が再度イブラヒモビッチへ渡ってしまいました。このイブラヒモビッチの押し込みもフレイは弾きましたが、ゴール内でのプレーであり、判定はゴールインです。インテルが駄目押しとなる追加点を挙げました。

このまま試合は終了。結局はインテルの危なげない勝利でした。

インテルは特に攻撃陣が冴え渡りました。
コンスタントに躍進を続けるイブラヒモビッチはもちろんのこと、相方のアドリアーノがこの日の紛れもないMVPです。1ゴール1アシストに、3得点目となるフリーキックも獲得しました。いずれも称賛されるべき質のプレーです。また、ただ直接得点に絡むだけではなく、随所で抜群のキープも見せました。あれほど「ワーストプレイヤー」として叩かれたことを見返しているかのように、力強いアドリアーノが戻ってきています。
チーム一の気分屋ゆえに、ここ最近の自身の好調に気をよくしているのか、驚くほどに守備でも貢献していました。問題児とまで評されたあのアドリアーノが、チームプレーに最後まで徹していたことが一番に印象に残った試合でした。

もう一人、スタンコビッチを殊勲者として選ばねばなりません。こちらは1ゴールに、実質2アシストです。
この試合のインテルは、唯一流れの中で取れた同点弾こそが全てだったと思います。これで相当に落ち着き、バタバタ感が一気に治ったためです。そして、この同点シーンでのスタンコビッチの一連のプレーは返す返すも素晴らしいものでした。

まるでフィオレンティーナに決定機を生じさせず、一見すると磐石だったインテル。フリーキックから2点を奪いましたが、自身も相手のセットプレーなどからのハイボールへの対処には難がありました。序盤の失点は言うに及ばず、後に訪れたフィオレンティーナの二度のフリーキックのいずれの場面でも、守備陣の慌しさは否めず満足にクリアができません。総合的に、クロスには脆さを見せ続けました。
さらに、マテラッツィが最終ラインのリーダーにあるまじき軽率なエラーをまたも連発。その申し分のない身体能力は誰もが認めるところなのですが、国内外で頂点を目指すチームの守備の柱として、これはいただけないものです。
攻守に全く隙が見られないとされるインテルですが、その評と比較すれば信じられないほどの甘さを覗かせる、ここ一番という守備面での最後尾の集中力に弱点が潜んでいる感じがします。

フィオレンティーナは全体的にかなり引き気味でカウンターを狙う、お手本のような4-5-1で挑んでいました。そこからセットプレーでの一発という理想的な展開に持ち込みましたが、不幸なことにそれが早すぎる時間帯での得点で、余裕を持って自力で勝るインテルにむなしくも即座に逆転されてしまいました。以降もしばらくは守備偏重、ロングボール頼みの傾向に変わりがなく、ゲームになっていませんでした。
その中でもただ一人、組み立て役としてヨルゲンセンは結構奮闘していたと思います。左サイドを効果的に攻略し、フィオレンティーナはここが起点となることが多かったものです。ただし、いかんせん核となるトーニとの距離が遠く、トーニの周りで衛星のように活動するムトゥの不在がやはり大きく影響していたのかな、とは思いました。
後半の途中からはようやくショートパスをメインとして、しっかりとした攻撃でもって逆襲を図りましたが、中盤はインテルの方が圧倒的に上手で、ことごとくカットされてはシュートチャンスさえろくに作ることができませんでした。全くもって、インテルの貫録勝ちです。

先週にセリエAで12連勝という新記録を打ち立てたインテルは、この日も勝利して13連勝とその記録を伸ばしました。フィオレンティーナでさえあっけなく一蹴された現在、あと彼らを止められるのはローマなのかパレルモなのか、あるいは復調してきたミランなのか。優勝争い自体よりも、誰がこのインテルに黒星をつけられるかに、より話題が集中されることになりました。

アーセナル × マンチェスターU #1

2007年01月27日 | サッカー: プレミア
06/07 プレミアリーグ 第20週: アーセナル 2-1 マンチェスター・ユナイテッド
(2007/1/21)

■ エミレーツの不敗神話
今週は多忙であったために記載が大幅に遅れることになってしまいましたが、記録として残しておきたい対戦カードです。この週のプレミアのもう一つの山場、アーセナル対ユナイテッドの大一番が行われました。

新スタジアムのエミレーツに初めてユナイテッドを迎え入れるアーセナル。若さゆえのムラがあったのか芳しくない結果が相次ぎましたが、昨年末からは急激に輝きを増しているチームです。ブラックバーンを6-2で葬ったのを手始めとして、もともと鋭さと勢いに溢れていた攻撃陣が、ついにコンスタントにゴールを量産するまでになったのです。リーグ戦ではありませんが、カップ戦でアウェーながらリバプールをも3-1、6-3と粉砕してしまいました。そのカップ戦を含め、ここ最近の7試合で獲得した得点数は驚異の23。さらに朗報は続くもので、エースのアンリが離脱前の不評を払拭しつつある働きで復帰しています。先週には数的不利で苦しむ自軍を、自身のスーパーゴールで勝利に導きました。こと攻撃に関しては、今回対戦するユナイテッドにも決してひけをとらないパフォーマンスです。
しかし、改善されないディフェンス面での安定度は課題として残されたままでした。なかなか完治しないギャラスを欠く守備陣は、大崩れこそしないもののサポーターを失望させています。若きセンターバックのセンデロスとジュルーの二人も、残念なことに相変わらず軽率さと不安定感が目立っているそうです。こちらは7試合で8失点。ユナイテッドやチェルシーのような守備力のガタ落ちはありませんが、上位を狙う強豪として物足りなさは募るままといった感じです。
ここで、この緩い土台のチームを支えてきた、ある一人の選手を挙げねばなりません。30歳ながら、フィールドプレイヤーとしては最年長であるMFジウベルト・シルバです。チェルシーと引き分けた試合での凄まじい存在感が引き金となり、彼こそが真のチームリーダーであるという意見が多数寄せられるようになりました。プレミア随一の華麗さを誇るアーセナルの中で、一人だけ泥臭いハードワーキングを絶やさないのです。やはり守備力が物足りない中盤を、ピッチ中央から大きく引き締めてきました。アンリ不在時には臨時のキャプテンを担当したところ、自身の献身ぶりでもってチームの意気を統率することに成功して、その役割を全うしました。精神的に引っ張っていくわけではないアンリよりもよほどキャプテンにふさわしいのではないか、というアンリファンにとっては寂しい見解も少なくありません。おまけにゴールまで量産し始めるようになり、二人のFWに次ぐチーム3位の7得点としています(ちなみに昨シーズンの彼は33試合で2得点)。称賛されるべき貢献の量で、改めて不可欠な人材であることが認識されました。
ですが、その不可欠なジウベルト・シルバがこの大一番で出場できません。先週のブラックバーン戦で彼は退場してしまったのです。確かにあの場面、悪名高いサベージの見るに耐えないダーティなプレーが発端となりましたが、どんな事情であれ暴力で報復しようとする姿勢自体は許されるものではありません。少なくともジウベルト・シルバの退場は妥当です。報復行為に及んだ彼は、このユナイテッド戦を含めて3試合の出場停止処分に。大きな要を失いながら、首位に堂々と君臨するユナイテッドへ挑むことになりました。

ユナイテッドについては先週もレポートしたので省略します。先日に2位のチェルシーがリバプールに敗れたために、勝利すればその勝ち点差を9にまで広げられる大きなチャンスです。

アーセナルは4-4-2。
GKレーマン。DFは左からクリシー、センデロス、コロ・トゥーレ、エブエ。MFは左からロシツキー、フラミニ、セスク・ファブレガス、フレブ。FWはアンリとアデバヨールの2トップです。
件のジウベルト・シルバの穴にはフラミニが入りました。負傷を繰り返す、レギュラーの右サイドバックのエブエは復帰しています。
攻撃陣ではチーム内得点王のファン・ペルシが軽い負傷により、この日は控えに回ったために、アデバヨールがアンリとコンビを組むスタートとなりました。

ユナイテッドの陣容です。
GKファン・デル・サール。DFは左からエブラ、ビディッチ、ファーディナンド、ネビル。MFは後方にスコールズとキャリック、前方にルーニーとギグスとクリスティアーノ・ロナウド。FWはラーションです。
先発メンバー自体は申し分のない顔ぶれが揃います。信頼を勝ち得たラーションはこの日も最前線で起用されました。アーセナルは昨季のチャンピオンズリーグ決勝戦にて、当時バルセロナ所属のこのラーションに2アシストを決められて逆転負けをした苦い経験を持っています。

試合開始後、しばらくしてユナイテッド側に異変のあることが判明します。ルーニーが中央におらず、下がり目の左アウトサイドに位置しているのです。後述もしますが、ユナイテッドはこれまでの基本の4-4-2ではなく、ルーニーをMFに配する4-2-3-1の布陣でこの試合を戦っていました。
そのユナイテッドが序盤はやや優勢でした。アーセナルはユナイテッド陣営まであまり持ち込めず、シュートを撃てない時間帯が続きました。

しかし、徐々に盛り返してきたアーセナルが先手を取ります。前半33分、右サイドのアデバヨールのクロスに対し、ユナイテッドはファーディナンドがアンリを離してしまいました。アンリはフリーでヘッド。決定的でしたが、惜しくもキーパー正面でした。
ユナイテッドも黙ってはいません。前半終了前に畳み掛けました。
前半41分、スコールズのスルーパスからギグスが飛び出しに成功し、キーパーと1対1に。ギグスの弱々しいシュートミスによって、アーセナルはこの難から逃れました。
ロスタイムにはペナルティエリア外からルーニーの強烈なミドルシュートが、コーナーキックからフリーとなったラーションのヘディングがそれぞれアーセナルを襲いましたが、いずれもレーマンのファインセーブが阻止します。
アーセナルはよく凌ぎきりました。

後半に均衡が破られます。開始から相手のミスなどによって一時的に支配していたアーセナルでしたが、先制したのはユナイテッドの方でした。
その立役者はエブラです。ラーションのポストプレーからスコールズ、左のロナウドと渡る間に、彼が突如としてロナウドを追い越すように猛然と駆け上がってきました。ロナウドはそのエブラにパス。アーセナルはロナウドに対応していたエブエの裏を見事に突かれ、右サイドからエブラにクロスを上げられてしまいます。途中のトゥーレのジャンピングクリアもわずかに及ばず、逆サイドでフリーだったルーニーがダイビングヘッドでこれをゴール内に沈めました。
今季の公式戦はいまだホームでは無敗のアーセナル。しかしながらそのホーム戦の内、失点をした7試合は全て先制を許していたという悪癖がまたも繰り返されました。

その後はお互いに決定機がないまま、刻々と時間が過ぎていきます。やはり引き気味のユナイテッドを崩すのは容易なことではありません。ですが、アーセナルは敗北もちらついてきた試合終盤に、切り札としてフラミニと代わっていたファン・ペルシの投入が的中するかたちとなったのです。
後半38分、右サイドでセスクとロシツキーが2対2の局面を何とか突破。ロシツキーの低いクロスが入ります。ボールは中央のアンリの足元を抜けてファーサイドへ。そこへ駆け込んできたファン・ペルシが、角度のないところから豪快に決めてみせました。かなり難易度の高いシュートだったと思います。
アーセナルがお返しとばかりに、敵陣を大きく横断するクロスでもって同点としました。

これまで先に失点をしても必ず追いつき追い越してきたエミレーツのアーセナルの勢いは、ユナイテッドでもってしても制御できるものではありませんでした。俄然盛り上がるアーセナルを前にして防戦を強いられます。
そして後半ロスタイムに、またもアーセナルの右サイドアタックがユナイテッドに襲い掛かりました。エブエとロシツキーがワンツーでここを攻略。エブエがエブラをわずかにかわし、ギリギリのところでクロスを放射します。このハイボールが懸命にクリアしようとしたビディッチの頭上を通り抜け、すぐ後方のアンリにピタリと合わさりました。アンリはこれを迷いなくヘディングでゴールへと突き刺し、勝ち越し点を奪取!終了間際の2得点による劇的な逆転に、スタジアムは興奮の渦に包まれました。

そのまま2-1でこの重要な試合が終了。「一体どこが止められるのか?」といった雰囲気を発散していた無敵のユナイテッドを、見事に止めてみせたのは長年のライバルであるアーセナルでした。アーセナルはユナイテッドに対してシーズンダブルを達成。もうユナイテッドから首位の座を奪える可能性は限りなく低いのですが、そのユナイテッドに土をつけたチームとして記録に刻み込まれることになります。

■ 際立った両チームの司令塔の出来の差
この試合で、何よりもまず一番の感想として私が抱いたのは両チームの司令塔の働きでした。すなわち、セスクとスコールズの活動です。この両者の出来の差が勝敗に大きく影響したと私は思っています。

先週のブラックバーン戦で獅子奮迅の活躍であったセスクは、この日もアーセナルの中心人物でした。彼を経由せねば、アーセナルの攻撃機会は激減していたと断言いたします。
他の選手に目を向けてみると、まずはフレブが大ブレーキ。あれほどボールを託されたにも関わらず、何一つとして役に立つことがなく、挙句の果てに直接敵にパスすること2回。間違いなくチームの足を引っ張っていて、交代は後半開始からさせておくべきでした。
続いてロシツキーは、一度斜めに切れ込んで展開させた以外には組み立てにほとんど関与せず、受けたボールをミドルでゴール枠外へ乱射するばかりの選手でした。サイド突破からのアシストは立派な評価点ですが、これもセスクの際立つキープと粘りからもたらされたことを忘れてはならないと思います。
フラミニはそもそも守備役だったので、攻撃時に目立っていなかったのは仕方がありません。アデバヨールはクロスを一本通したのみで、大部分は消えている存在。アンリもファン・ペルシも一発のゴールだけが多大な貢献となり、ネビルに封じられっぱなしだったのが共通点です。
そこでセスクです。試合開始から終了まで、10代の年齢とは思えないほどにパフォーマンスが安定していました。最もパスを出した選手でありながら、エラーは前半27分の横パスのミスのみ。ショートパスはもちろんのこと、ドリブル、キープ、枠内ミドルシュート、ロングボールと、もうあらゆるプレーを何でもやりました。注文をつけると、そのワンプレーごとのテンポが少し遅いことでしたが、それでも彼のチャンスの始点となる働きがなければ、シュート数でユナイテッドを上回れたかどうかも怪しいものです。表向きの殊勲者は難しいシュートを決めたファン・ペルシやアンリでも一向に構いませんが、私にとってのアーセナルの主役は紛れもなくセスク・ファブレガスでした。

一方のユナイテッドが誇るべきスコールズです。ロナウドに次いでこれまでMVPクラスのこの大選手が、失速しました。
サイドアタックを主軸に爆発的に炸裂している今季のユナイテッドの攻撃力ですが、グラウンド中央で抜群のタメや捌きやフィードを見せるスコールズの燦然たる展開力があるからこそ、相手を左右にぶん回すほどの厚みが生じているのだと私は思っています。システムの影響もあったかも知れませんが、その彼がサッパリ輝きませんでした。試合序盤こそは押し上げていましたが、次第にずるずると後退。その後は決定的なスルーパスを一回出したきり、前線に顔を出すことがありませんでした。後方での試合運びにもあまり参加できず、自身にも安易に奪われるなどの不安定感がありました。これまで攻撃陣を支えてきたスコールズの不在が、両サイドをうまくリンクできないこの日のユナイテッドの単調さと無関係とは言い切れないでしょう。
彼は守備に重点を置いていたという見方もあったにせよ、その守備でも見せ場がありませんでした。アーセナル陣営の後方で構えるセスクに当たりに行くべきか、それとも敵のアタッカーのケアに回るべきかを、あたかも迷っているかのような甘いチェイシングです。正解はフレブなど放っておいて無理してでもセスクを潰すべきでしたが、中途半端なポジショニングでほとんどチームに貢献できませんでした。
もう、とにかく全ての動作に冴えがない感じです。大車輪の活躍だった、つい先週のヴィラ戦の出来と見比べてしまうと雲泥の差があります。最終ラインとうまく連係して守備面で効いていたキャリックの方が、よほど存在価値がありました。明確にキャリックにも劣るという、珍しい試合を観てしまいました。

そして見逃せないのがアーセナルの2得点の、ゴールに至るまでのシーンです。特に同点となった場面ではセスクとスコールズとの直接対決がありました。ロシツキーがクロスのチャンスを得るまでの過程を詳細に振り返ります。
発端はやや右サイド寄りを疾走するセスクのドリブルでした。この一人でも打開しようとする動きに、対峙するスコールズの足取りは重く、まるでついていけません。仕方なしにエブラが正面からセスクを阻むわけですが、そのこぼれ球を争ってスコールズがセスクともつれ合いになるも、ここでもスコールズは勝てません。そして拾ったセスクがロシツキーへとパスを出したところ、エブラが咄嗟にこれをカット。再びこぼれ球となりましたが、またもセスクがスコールズに粘り勝ちをして拾いました。ついに今度こそはロシツキーにパスが通り、パスカットで体勢を崩していたエブラが裏を取られたのです。前回の記事でユナイテッドは左サイドバックがウィークポイント云々と記述したばかりですが、この失点の場面ではエブラはやるだけのことはやりました。左サイドを突破されたのは、3回も接触の機会があったスコールズとセスクの優劣によるものという認識が正しいでしょう。
アーセナルが逆転としたときのスコールズはお粗末でした。味方がクリアしたボールの到達点にいたスコールズは、どうしたことか勝手にバランスを崩してコケてしまい、触ることすらままなりません。さらにあろうことか、前方にいた最重要人物のセスクに直接渡っていってしまうかたちとなります。難なく収めたセスクは、的確に状況を見定め右サイドへ展開。そこからアンリのゴールへと結びつきました。

この直接的な両者の勝敗はもちろんのこと、自陣から前線をつなぐコンダクターの有無が非常に大きかったと感じられました。正直に申し上げてユナイテッドの方が攻撃技能力自体は上です。しかし前線の4人とその他がはっきりと分断されていたユナイテッドに対し、アーセナルははね返されてもはね返されても次々とあらゆる選手にまんべんなくボールが行き渡りました。それが最後まで衰えずに攻撃回数では上回ることになり、最終的にはそちら側に軍配が上がりました。アーセナルの後衛、中盤、前衛の3ブロックがうまくつながっていた結果だと思うのです。この試合は私にとってはやや難しく、これだけをアーセナルの勝因と定めるのは軽率な感がありますが、少なくとも無視はできない要素だと思いました。

最強の相手に先制されても決して下を向かず(この展開に慣れている?)、鮮やかな逆転へ向けた勢いを保って見ごたえのある試合にしてくれたアーセナル。その彼らに足止めを食うことなったユナイテッドは勝ち点1すら獲得できずに、チェルシーを突っぱねる絶好の機会を逃してしまいました。両者の勝ち点差は依然として6。プレミアはアーセナルのおかげで、かろうじて優勝争いの火が灯されたままとなっています。
この上位陣の直接対決の2試合は、結局いずれも優勝に近い側のチームが敗退という結末になりましたが、それを指して波乱という表現が用いられるのには少々ひっかかるところがあります。アーセナルとリバプールが今冬に見せたパフォーマンスの急上昇を考慮すると、そこまで驚くことではないと思われるのです。いつの間にかアーセナルとリバプールは、2位のチェルシーとの勝ち点差が6以内となっています。このまま彼らの目覚しい躍進が途切れないのであれば、「2強」から「4強」へ移り変わるという楽しみな展開へなることにも期待ができそうです。

以上で主要なレポートを終了します。この先からは、個人的に両チームに注目していた点について記載したいと思います。


※「アーセナル × マンチェスターU #2」に続きます。

リバプール × チェルシー

2007年01月22日 | サッカー: プレミア
06/07 プレミアリーグ 第20週: リバプール 2-0 チェルシー
(2007/1/20)

■ 山場を迎えたプレミア上位陣
プレミアの上位陣がリーグ後半戦で最初の重要な山場を迎えました。3位のリバプールが2位のチェルシーと、4位のアーセナルが首位のユナイテッドとそれぞれ激突。この4強が各々の現実的な目標に向かう上で、今後を大きく左右させる週となりました。

まずはこの日、リバプールがアンフィールドでチェルシーを待ち構えます。
リバプールは相変わらず内容に出来不出来があるとされながらも結果だけは確実に残してきました。取りこぼしをほとんどせずに勝ち星を積み上げていき、3位のボルトンまでをも3-0の快勝で直接叩き落し、その座を奪って今に至ります。
そして特筆すべきなのが失点の少なさです。アーセナル戦での3失点以降、チームは見事に立ち直りました。毎試合のように重ねられる無失点のオンパレード。リバプールが先週までのリーグ戦の11試合で喫した失点は、何とわずかに1でした。そうです、驚いたことに10試合も完封しているのですね。実際には冷や冷やさせられる場面が続出する内情だったらしいのですが、それでも絶賛されることではあると思います。
ただし、年始にこの自信が揺らがされることになります。その元凶はまたもアーセナルでした。FAカップ、カーリングカップと立て続けにアーセナルと戦うことになったリバプールは、レギュラーを何人か落としたとはいえ、どうしたことか2戦合計で9失点も食らうという苦い大敗をしてしまいます。そして追い討ちをかけるような衝撃がリバプールを襲いました。この試合で左MFマルク・ゴンサレスが約1ヶ月の負傷、さらにはサイドハーフの中心人物たるMFルイス・ガルシアが十字靭帯断裂で今シーズン絶望の重症。すでに戦線離脱中であるMFシッソコ、MFゼンデンに加え、レギュラー格の二人を中盤から失うことになったのです。もはやローテーションなどは言っていられないリバプールの今季後半戦が始まっています。

対するは、驀進中のユナイテッドに唯一食い下がる存在のチェルシー。ですが、チェルシーはスペインのレアルと同様に「どうしてしまったの?」と思わされる年末年始を過ごしていました。とにかくこのチームも結果が出せません。安定した勝負強さが最大の売りであるはずなのですが、徐々に不安定になっていき、最終的には3戦連続ドローと勝ちきれなくなってしまったのです。その最大の要因として、主将のDFテリーの不在が意外なほど多大に影響を及ぼしたとの見方が強まっています。腰を痛めて手術まで行うことになったテリーの欠場後、確かに守備陣にドタバタした感じがあるのは否めません。代役のブラルーズやパウロ・フェレイラの出来も、残念なことに十分に穴を埋めるまでには至りませんでした。守備の要としても精神的支柱としても君臨するこの偉大な選手を欠いて以降、あれほどの鉄壁さを誇ったチェルシーが4戦連続2失点と非常に苦しんでいます。DFギャラスやフートを放出した非難と、新たなセンターバックの補強への要望がクラブ側へ声高に叫ばれている現状です。

リバプールのこの試合のフォーメーションは4-4-2。
GKレイナ。DFは左からファビオ・アウレリオ、アッゲル、キャラガー、フィナン。MFは左からリーセ、ジェラード、シャビ・アロンソ、ペナント。FWはクラウチとカイトの2トップです。
前述した2枚いっぺんに脱落した中盤の左サイドにはリーセが入り、アウレリオが代わりにサイドバックを担当します。最前線で不動の定位置を獲得したカイトの相棒は、この日はクラウチとなりました。ベラミーはベンチスタートです。

チェルシーは4-4-2ではなく、4-3-3からのスタートです。この冬場にモウリーニョ監督はついに低迷に悩むシェフチェンコを下げさせ、待望論もあった4-3-3での先発布陣を試みるなどの変化を見せています。
GKチェフ。DFは左からアシュリー・コール、エッシェン、パウロ・フェレイラ、ジェレミ。MFは左からランパード、ミケル、バラック。FWは左からロッベン、ドログバ、カルーです。
最大の話題は、ついに守護神のチェフが頭蓋骨骨折から復帰を果たしたことです。まだヘッドギアを装着する痛々しい姿ではありますが、驚異の回復力でもってこの大一番に間に合わせてきてくれました。
一方でカルバーリョが発熱で急遽離脱との発表がありました。テリーはこの日も出場を見送っており、看板センターバックの二人が不在となる緊急事態です。エッシェンがウィガン戦に続き代役を務め、フェレイラとともに守ることになりました。さらにマケレレが出場停止処分で欠場です。守備面で多大な不安を抱えます。

試合は突然に動き出しました。フィナンからの単純な放り込みをクラウチがヘッドで空振り。これに動揺したか、その後方のフェレイラがやや慌てふためいてしまいます。そんな彼を、抜群の機動力を持つカイトが攻略するのは困難なことではありませんでした。カイトはこぼれ球をワントラップしてから、軽い対応のフェレイラを事も無げに一瞬で振り切ると、フリーな体勢から低く抑えたシュートを鮮やかに決めてみせます。一見すると何でもないような攻撃でしたが、カイトのプレーによってあっさりと得点に結びつきました。リバプールが先制です。

その後もリバプールが圧倒します。今度は中央のジェラードの放り込みから簡単にリーセがフリーに。またアウレリオのアーリークロスも、エッシェンのカバーがなければカイトが得点するところでした。
前半18分です。リバプールは左サイドのスローインからまたもクロスの放り込み。エッシェンがクリアしたボールを拾ったペナントが、チェフのセーブも及ばない見事な豪快ミドルシュート!ゴール枠内上いっぱいに飛び込んでいき、リバプールの追加点となりました。解説の粕谷さんが「詰めが甘い」とペナントをフリーにさせていたコールに苦言を呈していましたが、私もその通りだとは思います。ですが、この素晴らしいシュートを沈めたペナントを純粋に褒めたいところです。「大失敗の補強」とのレッテルを貼られ続けてきたペナントの、意地の今季初ゴールでした。よかったですね。

さらにチェルシーには暗雲が立ち込めます。2失点後に、足をひねっていたロッベンが負傷退場を余儀なくされました。ライト・フィリップスと交代です。追いつきたいところで攻撃の最大のキーマンを欠く痛手となりました。そのままチェルシーは見せ場を作ることなくハーフタイムを迎えます。

攻勢に出たチェルシーが後半のほとんどの主導権を握りましたが、決定機が続出するのはリバプールの方です。
後半16分にはペナントのカットから、リーセがゴールバーを直撃する強烈なロングシュート。エッシェンの後方からの妨害で脆くもバランスを崩したクラウチは、このはね返りを押し込むことができませんでした。
2分後には、左サイドからのクロスにカイトが勢いよく突進してダイレクトボレー。外れはしましたが、気迫あるプレーです。
後半31分、ジェレミの弱々しいクリアミスがフリーのクラウチへ。後半43分、ダイレクトではたいたジェラードの前方へのラストパスが体勢十分のカイトへ。しかし、両者ともシュートはゴール上にふかしてしまい、決めきることができませんでした。

チェルシーは低調のまま何も出来ずに試合は終了。リバプールの文句ない完封勝利で幕を閉じました。

■ 大きな起点となっていたリバプールの左サイド
普段の彼らからすればあり得ないかたちで早々に失点してしまったチェルシー。ユナイテッド戦まで12試合も先制点を許さなかったあの勇姿が遠い過去のように感じられます。
この先制後もリバプールが次々と得点機を作り上げていたのですが、これもチェルシー側に非があったと見受けられました。
この日のチェルシーの4-3-3は整然とされたものではなく、いびつな形状でした。右MFバラックが中央に絞って司令塔気味に構えているのです。ランパードが左サイドハーフ、ミケルとバラックがセンターハーフという、4枚の中盤から右サイドハーフを抜かしたかのようなまま戦っていました。
このポッカリ空いたサイドでアウレリオ、リーセ、ジェラードに対処する選手が誰もいないのです。ジェレミとカルーの及ばないところで彼らは自由に活動しました。そしてこれがそのまま、サイドバックが本職ではないジェレミ一人に振りかかっていました。孤立したジェレミが二人に囲まれ、あえなく自陣で奪われる場面も出現。リバプールにとっては左サイドこそが大きな起点となりました。
リバプールの2点目などはその集大成のようなものです。ジェレミが簡単に1対1の局面を作られ、かわされ、フェレイラがかろうじてクリアしてスローインに。続いてこのサイドでスローインを受けたジェラードを前にして、バラックはただの傍観者に過ぎず、やすやすとジェラードにクロスを上げられて失点に結びつきました。コールがペナントのシュート前に詰めなかったのが罪ならば、バラックもまた同罪になるべきだと思います。
ちなみにジェレミ自身のクリアミスでもって締めた後半31分まで、チェルシーの右サイドはチェルシーの大きなピンチに7割近くも関与していました。

チェルシーは2失点後からは次第に攻撃へ移れることになりましたが、これは単純にシャビ・アロンソの出血による長い一時退場が原因だったと思います。リバプールはカイトをMFに下げ、数的不利のために守勢に回らねばなりませんでした。しかしながらチェルシーは一度もいいかたちを作れません。
この日センターハーフに起用されたミケルが、まるで物足りない攻守の動きで大ブレーキに。バラックも上記通り、司令塔として存在するばかりです。よって中盤の守備を一身に引き受けたランパードは、飛び出していくこともままなりませんでした。
前方ではドログバがキャラガーの徹底マークを振り切れません。カルーもライト・フィリップスもたやすくボールを渡してしまいます。バラックのピンポイントのロングボールを中心にパスはよくつなぎましたが、前半は手詰まりでした。

後半になるとより一層チェルシーは詰まってしまいました。リバプールが逃げ切りを図ってきたためです。リーセとアウレリオは大幅に攻撃を自重。ジェラードとシャビ・アロンソもDFラインの前から離れません。カイトをやや下がり目に配し、4-4-1-1のような布陣でリバプールはカウンター狙いに転向しました。
もちろんチェルシーが支配していきます。ただし相変わらずドログバが封じられている上に、活発さの見られない中盤がどん詰まりの渋滞と化せば、もはやできることは左右へのロングボールしかありませんでした。
チェルシーにとって唯一の光明だったのは、後半に突如として際立ったライト・フィリップスの勢いです。力強く抜き去ってサイドを深くえぐるシーンも作り出してくれました。でも、彼一人では到底後が続きません。
終盤にはミケルに代えてシェフチェンコを投入し、攻撃的な4-4-2にもしてみました。しかし実に残念なことに、今のシェフチェンコが切り札にもなり得ないのは周知の事実です。この試合でも彼は中盤の位置でさまよってはリバプールの脅威とならず、結局一度もプレーに関わることがありません。リバプールはそんな彼など一切放っておいて、やはりドログバこそを抹殺して消すのが効果的でした。
こうして最後の最後まで、チェルシーの攻めは停滞しっぱなしとなっていました。

■ 一番の殊勲者としてあげたいキャラガー
リバプールについては調子の乗ってきたベラミーをぜひ見たかったのですが、クラウチが先発となりました。クラウチはさすがの空中戦の優劣から、ポストプレー役となっていた場面が何度かありました。ただし注文をつけさせていただくと、軽いコントロールや軽いバランス感を克服し、どっしりと安定したプレーを心がけてほしいところです。さらに欲を申し上げればやはり運動量がほしいです。守備に駆けずり回れとまでは言いませんが、この試合でどうにか起点になろうと奔走していたドログバを見習ってほしいとは感じました。結果として、存在感を見せるべきカウンタースタイルへの移行後は、ほとんどその始点になることは叶いませんでした。

もう一人のFWカイトの方はと言えば、こちらは素晴らしい出来でした。あれだけ守備に攻撃にと精力的に活動してチェルシーを振り回した姿には、明確な高評価が与えられたのでしょう。評判通りの内容の躍動で、間違いなく勝利の立役者になったと思います。

あと一人、出色の出来だった選手として挙げなければならないのがDFキャラガーです。時として二人のマークさえものともしないドログバを、見事なまでに単独でも抑えきりましたね。ドログバへ向けられたハイボールには判断よく体を寄せて入れさせず、ドログバが左右に流れようともしつこく追って自由にさせません。明らかにドログバが絡んだプレーの計8回はいずれも、フィナンが1回、キャラガーが7回と全て阻止しています。つまり、キャラガーはほぼ完璧に自分の仕事を遂行したと言えるでしょう。ドログバという、チェルシーにとっての最後の希望を隔離させた貢献度は計り知れません。カイトは確かに素晴らしかったのですが、度々のコントロールミスなどから起点になりきることはできていませんでした。一方のキャラガーは、90分間全く不安定さを見せないパフォーマンスで完封に直接関わりました。こうした面から、個人的には一番の殊勲者として賞賛したいのはキャラガーなのです。

■ 戦闘意欲が欠如していたチェルシー
今季の冬のチェルシーは誤算が続いたように感じられました。畳み掛けるような攻撃を目指し、これまで試合途中のジョーカー的な役割であった4-3-3を満を持してメインにも用いましたが、攻めの物足りなさがさして改善されたわけではありませんでした。やはり連動性に乏しくて単発になりがちなのは変わらず、ロッベンが水を得た魚のように蘇っただけです。結局得点は、秋頃に引き続いて驚愕の個人技やセットプレーによるものばかりが中心でした。
さらにそうした得点に頼らなければ、引き分けはおろか敗北になってしまう試合が続きました。冒頭でも紹介したとおり、自慢の守備力の輝きが失われたのです。どんなかたちであれ奪った得点を守りきるという、これまでの確固たるスタイルが崩されました。確かにテリーは替えの利かない大黒柱ではあります。それでも彼一人がいなくなっただけで、これほどまでに後方の土台が大きく揺らいだのは予想以上のことだったのでしょう。

そんなチェルシーも先週のウィガン戦では4-0の圧勝。現地の報道でも「久々の完全勝利」といった類の活字が躍り、文句をつけさせない内容だと言わんばかりにチェルシーの復活の予感をほのめかしていました。
ですが果たして、本当にそのような内容だったでしょうか。実際には一人でチームを牽引していた神出鬼没のロッベンに頼りきり、それにランパードが効果的に絡むだけといった攻撃が大部分を占めていた、というのが私の感想です。ウィガンが守備でも低調なのに、一体どれだけ崩しきれた場面があったでしょう。4得点中、3得点はウィガンのとんでもないミスによって奪えたものです。純粋に自身でもたらした得点とは、ようやく試合終了間際での放り込みからのものというのでは、あれほど支配したにしては力不足の感が否めません。
肝心の焦点である最終ラインにしても、センターバックのエッシェンがヘスキーにパワーで競り負けなかったことだけが評価点だと思いました。あの試合のマケレレとバラックの中盤における守備力には凄まじいものがあって、ウィガンがサッパリな出来の攻めに終始していたことも合わさって、そもそも最後尾への危険は少なく出番がさほどなかったためです。完封したとはいえ、一概に最終ライン自体の評価を定めるのは困難で、実態は不明瞭のままだと感じられました。
よって、私は依然としてチェルシーの先行きにいささか不安感のある見方を変えることができませんでした。

それでも私はここ最近、密かにチェルシーの挽回を祈るようになっています。最低でもユナイテッドに追いついてはほしい、そんな気持ちが日増しに強まっていました。それにはチェルシーに対して少し不憫に思うところがあるからです。
ご存知の通り、低迷を機に、チェルシーに関するピッチ外での報道が実に多く見かけられるようになりました。具体的に記載するつもりはありませんが、マイナスイメージ的な要素を含むものが大半です。明らかに表面化してしまって認めざるを得ないレアルの内部分裂とは異なり、チェルシーのそれは、信頼性に乏しいものだと日が経つにつれて知り得ます。その他にも勝手な憶測や批判めいた記事が溢れ、日本でも度々目にするようになり、チェルシーファンではない私でさえ少々嫌気がさしています。これまで最強の座にいたチームへのやっかみでしょうか、生意気な発言をするモウリーニョ監督への当てつけなのでしょうか、ここぞとばかりに一方的に否定するように叩く姿勢もいかがなものかと思うのです。
こうなったら逆に、俄然としてチェルシーを応援したくなるというのが私の本音です。何はともあれ勝利をものにし続けることで、一斉に雑音をふさぎ込んでしまえとチェルシーに願うようになりました。このリバプール戦も、実はチェルシー側にかなり比重を置いて観ていました。

その思いもむなしく通じず、この惨憺たる内容による完敗です。多大にショックを受けました。根っからのチェルシーファンの方にとっては「戦力が整わなかったから仕方がないよ」では到底済まされなかったであろう、かなりひどい試合をチェルシーはしてしまいました。
確かに個々の能力は、本来のピーク時に比しては大分劣っていました。ですが、それを指して「惨憺たる」などと表現しているのではありません。私だってカルバーリョまでもが欠場と判明した時点で、引き分けすら容易でないことがわかります。カルーもミケルもライト・フィリップスもフェレイラも、これまで代役としては少し不十分であったことも重々承知しています。それでリバプールという難敵相手に懸命に戦って負けたのであれば、ここまでの問題視には至りません。それこそ今回ばかりは仕方がないよ、です。能力的な部分を咎めているわけではないのです。この状況下における選手たちの危機意識のなさ、覇気のなさを指摘したいのです。
ジェレミ、フェレイラ、エッシェン、バラック、ミケル、ランパード、カルーと、よくこれほどまでに攻守で軽率なエラーを繰り返しました。「よくやった」とは決して言えない、意識面での気後れがほとんどの選手に序盤から感じ取れる、活発性と集中力のなさでした。引っ張っていくべきランパードの表情も、わずか一週間でまるで別人になったかのように冴えていません。試合全体を通して、何とかしなければならないという使命感だけ前面に押し出してくれていたのはドログバだけです。2点リードしていてなお、味方に痛烈に叱咤激励するジェラードの存在がうらやましくも思えました。キーパー二人を一度に失った危機的状況の中、バルセロナを破るほどに一致団結する気迫さを見せたあの姿はどこに行ってしまったのでしょうか。それもこれも、テリーという精神的リーダーの不在だけで済まされるものなのでしょうか。
この内容がモウリーニョ監督の責任となり、彼が批判されてしまう要因となるのであれば非常に酷なことです。モウリーニョ監督はバラック依存がやや失敗気味だったのを除けば、手渡された手駒、残された手駒を何とか有効活用し、どうにか工夫を凝らしてうまく用いているというのが私の感想です。中傷や雑音にも耐え、采配面でも精神面でも実によく戦っていると思います。この指揮官を裏切るような選手たちの集中力、ならびに戦闘意欲の欠如からは悔しさを与えられます。

こう反省点を挙げるばかりでは何ら建設的でもないので、今後のチェルシーに希望することも、浅はかな考え方ながら少しだけ記載したいと思います。
もう、4-4-2でも4-3-3でも崩しきるまでの攻撃は望めない現状です。熟成を待っていられるだけの猶予も、もはやないはずです。今チェルシーにあるのは個人技ばかりでしょう。ならば一層のこと、この日の反省点となった個人意識の強弱が重要視されそうです。
そしてこの個人技を見せられるのはドログバ、ロッベン、ランパード、エッシェンです。彼ら4人の力を100%発揮させられるよう、チーム全体でフォローしてあげてほしいのです。システムも、サイドでこそ輝くロッベン一人のためだけに4-3-3を選んでしまって構わないとさえ思っています。
他の選手も、黒子に徹してでも彼らを活かすための働きに終始してほしいところです。例えば攻撃でいい所を見せられないバラックも、ウィガン戦では左サイドにまで出向く抜群の守備力を随所に披露し、ロッベンの真下のランパードが存分に押し上げられる影の立役者となっていました。バラックの攻撃の潜在能力は確かに捨てがたいのも事実ですが、彼の覚醒を待つだけの猶予もまた、もはやないはずだと思います。今後もランパードを活かしきる存在になってほしいのです。間違ってもこの日のように、ファンタジスタのような振る舞いでランパードに多大な負担をかけるべきではないと思われます。
またカルーにしても、レディング戦では3トップのウイングの一角ながら、自身が中央に切れ込んで囮となってワイドに開くドログバをうまく活かしていたのが印象的でした。実際にそこが始点となってドログバの2点が生まれています。しかし続くフルハム戦では逆に、2トップから自身がワイドに開いてフリーでもらいたがり、結果として1度きりしかチャンスメイクを出来ませんでした。現時点では自分から打開する能力は乏しいことを認め、潰れ役や撹乱役を引き受けて少しでもドログバのマークを手薄にしていってもらいたいのです。
課題の守備面においても、そろそろテリーが戻ってくるのでしょう。しかし、テリー不在ながらもようやく安定したヴィラ戦も忘れてほしくはありません。あの日のヴィラは結構引き気味でしたが、それを差し引いても、中盤から最終ラインまで呼応するようにバランスのよかった守備がさすがでした。それまでが嘘であるかのように落ち着きを取り戻していたのです。あの集中力と連動性の高さは、ぜひ継続されていくべきだと感じられました。

この日の結果、仮に好調のユナイテッドがアーセナルに勝ってしまえば、その勝ち点差は9となります。その場合、もはや奇跡へ向かって逆転に挑まざるを得ない状況になってくるかも知れません。それでも次戦から、どうかこの試合の分まで奮発して意識だけでも盛り返してくれることを強く願っています。自信と覇気さえ失わなければ、何が飛び出すかわからないチームであるはずですから。
この日を戒めとして忘れずに悔い改め、怒涛の逆襲を見せる終盤戦へつながることに期待しています。

Rマドリード × サラゴサ

2007年01月17日 | サッカー: リーガ
06/07 リーガ・エスパニョーラ 第18節: レアル・マドリード 1-0 レアル・サラゴサ
(2007/1/14)

■ 大激震の冬を迎えたレアルの復活勝利
現在スペインだけでなく、日本からも一番に注目を浴びてしまっているチームがレアル・マドリードです。ベッカムの米国移籍が決まってしまいましたね。
カペッロ新体制のレアルは今季、規律正しい守備偏重へガラリとそのスタイルを変貌させ、攻撃も魅惑的ではなくともカウンター重視の戦術が効果的で、「クラシコ」にも勝利するなどそれなりに結果だけは残してきました。
しかしこの年末年始に激震が走ります。先週までのリーガの4試合の結果は、攻守でふがいない惨敗を含む1勝3敗。内容も結果も満足なものとならず、評判は一気にがた落ちとなってしまいました。それに伴うように、くすぶり続けていた内部の不満も続々と表面化します。カペッロ監督の反対勢力の筆頭と言われてきたFWカッサーノは、もうすでに年末の時点でクラブとの関係が決壊。控えの立場では自身のブランド力が低下してしまうMFベッカムは、来季からの米国移籍をこの冬に電撃的に決定。ベンチ入りすら許されなくなったFWロナウドは、その冷遇に憤怒して練習をすっぽかす日々。厳格なカペッロ監督は、この三名の大物選手を今後絶対に起用しない姿勢を強調しました。加えて不振が原因でチームの秩序も全体的に乱れており、もはや全選手の意思はバラバラになっている現状です。限りなく暗く寒い冬を迎えたレアルは、粛々とした人事と起用でもってこれをどうにか整え、再建への第一歩を踏み出そうとしています。

そのレアルの対戦相手はサラゴサです。今季のサラゴサは得点力が好調。攻撃と守備の役割分担が明確な好チームで、前節には首位のセビージャをも撃破してみせました。3位のレアルの真下につく4位にまで浮上しており、間違いなく今節の最大の注目カードです。低迷中のレアルにとっては、厳しい相手との試合になりました。

レアルのフォーメーションです。
GKカシージャス。DFは左からラウール・ブラボ、カンナバーロ、エルゲラ、ミゲル・トーレス。MFは後方にディアラとガゴ、左にラウール、右にレジェス。ややトップ下の位置にイグアインを配し、最前線にファン・ニステルローイを置く4-2-3-1としました。
最大の注目点は、獲得したばかりの新鋭イグアインのリーガ初登場です。同時期に獲得した、同じく若き才能あるガゴと揃って先発を任されました。
DF陣が少し気がかりです。ロベルト・カルロスとマルセロが負傷してしまい、セルヒオ・ラモスとサルガドは出場停止と、欠場者が相次ぎました。右サイドバックにはメヒアではなく、下部組織出身の若いミゲル・トーレスが選ばれました。

サラゴサはいつもの4-2-2-2。
GKセサール・サンチェス。DFは左からファンフラン、ガブリエル・ミリート、セルヒオ、ジェラール・ピケ。守備的MFはサパテルとセラデス。攻撃的MFはアイマールとダレッサンドロのアルゼンチンコンビ。FWはディエゴ・ミリートとエベルトンです。
ほぼ不動のメンバーですが、ただ一人、古巣対決となるはずであったディオゴが前節の稚拙な退場劇によって出場停止。好調であっただけに惜しまれます。この右サイドバックは、ピケが代役を務めることになりました。

開始から間もなく、レアルのラウールが前線で物凄いチャージを見せてボールを強奪。主将として何とかチームの現状を変えていこうとする気持ちの強さを見せてくれましたが、前半10分もしないうちに右太ももの裂傷でダウン。あえなくロビーニョとの交代になってしまいました。

サパテル、アイマール、エベルトンと中央をぶった切るようにつないで最初に大きなチャンスをつかんだのはサラゴサでしたが、実際には支配権はずっとレアル側にありました。サラゴサはシュートにまでなかなかもっていけません。
しかしながらレアルの方も堅いサラゴサの守備陣を前に四苦八苦し、ミドルシュートとセットプレーばかりが目立っている厚みのない攻撃内容です。

ただ、そのセットプレーのうちの一つが成功しました。レアルは前半41分のコーナーキックでショートコーナーを選択し、左サイドのロビーニョがファーへクロス。カンナバーロに向けられたこのボールをガブリエル・ミリートが競り勝ってヘッドで後ろに逸らしますが、その後方にいたイグアインがフリーでした。拾ったイグアインはすぐさま中央へ速いグラウンダーの折り返し。これをファン・ニステルローイが押し込んで、ついにレアルは国王杯を含めて350分にもわたった連続無得点時間に終止符を打ちました。レアルが先制します。

後半のレアルは守ってからのカウンターがよく冴えていました。そこから1点ものの決定機もいくつか作りましたが、いずれも決めきれません。レジェスがキーパーと1対1になるも、ボールがうまく足につかずに失敗。そのレジェスと交代したデ・ラ・レッドもまたキーパーと1対1になりますが、シュートがキーパーの正面に向かっていって弾かれます。ファン・ニステルローイの独走も、サパテルの懸命なカバーリングで見事にブロックされてしまいました。

しかし、引き続きサラゴサの方の攻撃は封じられっぱなしの状態です。サラゴサは後半40分のコーナーキックから、ニアサイドのピケのボワンとしたバックヘッドのすらしがゴールバーを直撃する、あわやというシーンを作っただけでした。
このままサラゴサは完封に抑え込まれ、復権を目指すレアルの嬉しい勝利となりました。

■ 良い意味で拍子抜けだったレアル
レアルはラウールが退いた後、レジェスがよく頑張ったと思います。得点してしかるべきフリーの場面を台無しにしたのは残念なことですが、流動的に走りながらキープ、パス、シュートと、レアルの攻撃を一人で牽引する存在でした。
サラゴサの方はやはりアイマールでしょうか。彼も左サイドと中央の間を自由に行き来し、受け手が攻めやすい効果的なパスを繰り出していきました。

攻撃に関してはそれくらいですかね。むしろこの試合の見どころは守備でしょう。双方の攻めに組み立てや崩しきる局面がまるでなく、退屈だった視聴者の方も少なくなかったのかも知れませんが、私はその守備合戦こそが楽しめました。

まずはレアルです。実は私は、例の惨敗と評されたレクレアティーボ戦とデポルティーボ戦をそれぞれ観ておりませんで、「一体レアルはどのようにひどくなってしまったのだろう?」というのが一つの個人的な試合の注目点でした。
ですが、この日のレアルは良い意味で拍子抜けといった感じの普通さだったのです。いたって普通です。取り乱すわけでも集中を切らすわけでもなく、サラゴサを90分間淡々とはね返し続けていました。
確かにこの試合のサラゴサのツートップは低いパフォーマンスではありました。ディエゴ・ミリートは決まって自身からボールコントロールをミスし、エベルトンにも動きに活発性が見られません。それでもサラゴサの両ボランチのエラーが何一つないボール捌き、ダレッサンドロの勢い、そして絶大な司令塔のアイマールといった攻撃の中核は健在です。しかしレジェス、イグアイン、ファン・ニステルローイの前線以外の全選手が高い守備意識でもって、ここを個別に潰しまくっていたのがさすがでした。とりわけ以下の中盤の3選手がその立役者です。

筆頭はロビーニョです。「守備貢献をしない選手」という批評をどうしてすることができましょうか。この試合で両チームを通じて最もボール奪取数が多かったのはロビーニョです。特にダレッサンドロの前に立ちはだかって彼を苦しめ続けました。対峙する左サイドバックのラウール・ブラボへのフォローには大抵駆けつけており、時にはガゴとともに三人でもって囲んだりもして、次々と彼を抑え込んで奪ってしまいます。この日のサラゴサはダレッサンドロに一番ボールを託していたのですが、その彼をとうとう不発のままにさせることができたのは間違いなくロビーニョがいたからこそです。さらにロビーニョは右サイドにも顔を出して、アイマールから奪い返してレアルの決定的なカウンターへ移行させること2回。チームへの直接的な貢献度はNo.1でした。

ディアラもそつなく守備をこなしました。こちらは主にアイマールとディエゴ・ミリートへの対処が担当です。ディフェンスラインの前にどっしりと構え、一人でも彼らを阻止してしいきます。レジェスの裏までサポートし、終始サラゴサの左サイドを分断させる障害となっていました。

そしてガゴです。素晴らしい守備意識でした。中盤ならどこでも幅広くケアし、体を寄せていってサラゴサを自由にはさせません。直接カットをしたのは2、3度ほどでしたが、怠りなく続けていたチェイシングは、守備面でロビーニョやディアラにも劣らない高い評価を与えることができると思います。自軍の後方に出向いていっては安全なつなぎ役としても活躍し、チームに安定感をもたらしていました。

この3人が中心となって、レアルはことごとくサラゴサを中盤から封じ込めてしまいました。脆さを見せていたカンナバーロの1対1の処理能力も確かめてみたかったのですが、それはかなうことがありませんでした。なぜならば、サラゴサは最前線へ供給することすらままならなかったためです。何度も同じように繰り返される、ペナルティエリア前までのレアルの厳しい守備による封殺。これが一定のペースで保たれたまま、そもそも最終ラインへの負担がほとんどなかったのが、レアルが危なげのない鉄壁さを誇っていた要因だと思われます。
全く低迷さを感じさせない、見事な守備力でした。

対するサラゴサは、この日もセンターバックの二人が非常に優秀でした。二人とも判断力がよく、セルヒオなどは持ち場を飛び出してでも右サイドへのフォローを欠かしません。また、ガブリエル・ミリートが圧巻でした。中盤まで突っ込んでいってプレスにインターセプトと大暴れ。さらに1対1が強く、ガゴ、イグアイン、ファン・ニステルローイらの突破を容易には許しませんでした。力ずくで、能力の高いレアルの個人技を最後まで制御していました。

さらにボランチのセラデスとサパテルですね。組織的な連動のないレアルにとっては、中盤の底に居座り続けて献身的に走り回る、この両者の関門をくぐり抜けるのが一苦労といった感じでした。二人とも巧みに回りこんで他と連係して囲む動きがとても秀逸です。そして最後まで攻守に安定していたサパテルなのですが、彼は本当にいい選手ですね。前回のセビージャ戦では「絶賛にまでは至らない」などと生意気に評したのが申し訳ないと思わされるほどです(笑)。一度もエラーすることなく、カバーにプレスにボール中継にと、冷静で堅実なプレーを90分間披露していました。

セラデスが交代から退場して前がかりとなった後は、度々致命的なカウンターを浴びてしまいます。ただし、その他のレアルの単調な通常攻撃に対しては容赦なく頼もしくバシバシと弾き返していき、一度も穴を見せることがありませんでした。こちらも見事だったと思います。それだけに、失点の場面でイグアインを見失ったのだけは実に悔やまれることでした。

■ 若きタレントの躍動の陰で・・・
もう一つこの試合で大きな興味を持たされたのが、レアルの若く有能な選手たちの登場です。クラブの首脳陣も非常に期待している三人が先発に名を連ねました。果たしてレアルというビッグクラブの中心人物へなっていくことができるでしょうか。やっつけ程度の紹介も兼ねて、個人的な感想を記載したいと思います。

まずはリーガデビューとなったFWゴンサロ・イグアインです。アルゼンチン出身の19歳。速さと巧さを兼ね備え、得点感覚にも非凡なものがあるそうです。レアルが欲してやまなかったトップ下タイプの選手。フランスとの二重国籍を所有し、フランス代表からも声がかかるほどの逸材であり、レアルはリーベルプレートから20億円以上とも言われる移籍金でもって彼を獲得しました。
そしてこの立て直しのための重要な一戦において前線を任されます。誰よりも注意深く一つ一つのプレーを見守り続けましたが、結論としては私は評価の難しいデビュー戦だったと思います。とにかく良い印象を次々に悪く塗り替えてしまったのが、軽率なミスのオンパレードでした。続発されるトラップミスやとんでもないパスミス、空振りも2度ほどあったでしょうか。ピッチ上の全22選手の中で、ダントツにミスの多い選手だったのです。
致命的なのが対面するパスへの対処でした。前を向いて受ける分には全く問題はないのですが、まずいのは相手陣営に背を向けて縦パスを正面から受ける場面です。何と4回中、4回とも全てうまく処理を出来ずに無条件にボールを渡してしまっていました。まず前線で納まりどころとなる起点にはなり得ないことが判明します。
ただ、こうしたミスについては、サラゴサという相手の厳しいプレッシャー、慣れない舞台、若さゆえの経験不足などがあったことをもちろん考慮せねばならないと思います。
そしてイグアインがこの日に見せた凄さは、フリーな体勢からの抜群のドリブルでした。ガブリエル・ミリートを2度も抜き去りかけたのは彼だけですし、カウンターの場面ではしっかりと溜めて溜めてレジェスの得点機をお膳立てしました。当然、先制点のアシストという結果も賞賛されるべきでしょう。一人でも打開していってチャンスメイクをするその能力は、もはや現段階でも通用しそうな雰囲気が存分に感じられます。グティとはまるで異なるタイプであり、場合によっては使い分けといった面でも楽しみが広がりそうです。カペッロ監督のサッカーが望むものは何よりも堅実さと完璧度。不安定な要素をいち早く克服して、堂々たるレギュラーにまでなってほしいですね。

続いてはイグアインの移籍直後に獲得した守備的MFフェルナンド・ガゴです。同じくアルゼンチンの選手で、20歳。若くしてボカ・ジュニアーズの主力となったばかりか、同チームのタイトル獲得に大きく貢献するまでになりました。「レドンド2世」との呼び声も高く、レアルは30億円近くを費やして彼を加入させました。手荒さのない華麗な守備活動を身上としており、ビルドアップの能力にも長けているそうです。
ガゴは前節のデポルティーボ戦ですでにデビューを果たしておりますが、私自身としては初めて観ることになりました。そしてこのガゴなのですが、イグアインとは異なり最低でも文句をつけることはできないといったプレーぶりでした。
守備では決してディアラのように直接的に体で阻む回数は多くはありませんでしたが、巧みに割って入って確実にサラゴサの勢いを遮断していました。そしてその守備エリアが相当に広範囲なのです。
また、中央の後方から前方までを自在に駆け巡りながら、左右前後にボールを散らすコンダクターとしても優秀でした。FWに預ける一直線の縦パス、左のロビーニョに展開させる横パス、一発のカウンターを成立させるダイレクトのロングパスなど、とうとうそのキックにはコントロールにも判断にも誤りが一度も出ません。
もっと得点に絡むような決定的なラストパスやシュート、終盤でも消えない運動量など、備えてほしいスキルの欲を言えばきりがありませんが、とりあえずこれだけ出来るのならば素晴らしいものだとただただ感服するばかりでした。この評判どおりのビルドアップ力が継続されるのならば、後方に閉じこもりがちで輝きを失いつつあるエメルソンの地位は相当心配されることになると思ってしまいます。

最後に、今季1部へ昇格していたDFミゲル・トーレスです。下部組織出身で、今月18日に21歳。逞しいフィジカルが売りで、屈強さを見せるとのことです。器用さも併せ持つユーティリティプレイヤーで、チャンピオンズリーグではサイドバックでなく、センターバックとして起用されていました。
ディアラのアイマール封じが大きな助けとなってはいましたが、右サイドバックのトーレスの守備は実に安定感あるものでした。その内容はインターセプト2回に、右サイドの突破阻止が5回です。特筆すべきはこの1対1での阻止率が100%であったことでしょう。一度もサイドを割らせませんでした。ディエゴ・ミリート、アイマール、ファンフランを相手に、弾き飛ばしてでもサイドからの攻略を許さず、その頑強さに嘘偽りのないことを証明してくれました。
課題は攻撃面でしょうか。攻め上がりの際の連係力不足はまだ仕方ないとしても、2度のクロスがいずれも可能性に乏しいものであったのは残念でした。サイドバックとして定着を狙うのであれば、ぜひ磨いていってほしい部分です。

結論を申し上げると、三人とももはや普通に用いても問題のない、計算できる選手たちばかりという感じを受けました。たった一試合で断定してしまうのは早計なのかも知れませんが、三人ともがこの試合の完封と勝利に直に関わっていたことは事実です。この年齢で、トップチームの試合に出場したばかりで、すでにこれほどのパフォーマンスを見せる力を所有していたことは、レアルにとっては低迷からの脱出と同じくらい大きな朗報だったと思います。

下部組織の代表格であるデ・ラ・レッドやハビ・ガルシアを筆頭として、自身の保有する若きタレントたちが数多く順調に育っている最中なのに、イグアインとガゴの補強に踏み切るという今回の行為には賛否両論もあったレアル・マドリード。しかしそれも、レアルが一大転機を図るための布石なのかも知れません。不平不満や怠慢なプレーを絶対に許さないカペッロ体制は現在、すでに切り捨てた冒頭の三名に加え、ラウール、サルガド、グティ、ロビーニョ、ロベルト・カルロス、さらにはユベントスから連れてきたカンナバーロやエメルソンまでもを売却候補に挙げているとされています。このそうそうたる顔ぶれが、近い将来に去って行く可能性は少なくないのだそうです。実績あるスター選手を限度一杯にかき集めて、華やかさこそを最大の魅力としてきたレアルの一時代が終焉を迎えようとしています。軍隊さながらの統制で選手たちを厳しく従事させ、結果こそが最重視されるプロフェッショナルに徹する新生レアルへの改革が始まりつつあります。

今節の結果、レアルの3位は変わらないものの、上位のセビージャとバルセロナがそろって敗北。レアルが今冬の遅れを取り戻すかたちとなり、再び優勝争いは混戦模様となりました。

マンチェスターU × アストン・ヴィラ

2007年01月15日 | サッカー: プレミア
06/07 プレミアリーグ 第19週: マンチェスター・ユナイテッド 3-1 アストン・ヴィラ
(2007/1/13)

■ 前半で勝敗を決してしまったユナイテッド
先週のFAカップ、そしてこの日のプレミアリーグ再開と、イングランドは年末の殺人的なスケジュールから間もなく2007年度を始動させています。
そのイングランドで現在、堂々の頂点に立っているのがご存知マンチェスター・ユナイテッドです。いやあ、圧巻でしたね。あれほど主力をローテーションさせ、あれほど得点チャンスをふいにしながらも、それらに全く影響を受けずに築き上げられていく決定機の山・山・山。さらに誰も止められないといった感じのロナウドの3戦連続2ゴールが飛び出せば、スコールズも巧みなミドルを1試合に2発です(この人は本当に尊敬できるMFですね・・・)。結局年末はウェストハムに完封負けをした試合を除けば、5試合14ゴールと順調に勝ち星を積み上げて首位を不動のものとしていました。
そのユナイテッドのリーグ後半戦最初の相手は、去年末のプレミアとつい先週のFAカップにおいて、それぞれ戦ったばかりであるアストン・ヴィラです。3週間の間で3度目の対戦となりました。これまで2戦ともユナイテッドが勝利しており、ユナイテッドとしては取りこぼしとならないよう今回も確実に仕留めたいところです。

ユナイテッドはもちろん4-4-2。
GKファン・デル・サール。DFは左からエブラ、ビディッチ、ファーディナンド、ネビル。MFは左からクリスティアーノ・ロナウド、キャリック、スコールズ、パク・チソン。FWはルーニーとラーションのツートップです。
注目は何と言っても期限付き移籍で加入中のラーションの先発です。先日のFAカップではすでにチームデビューを果たしており、そのヴィラ戦にていきなりゴールを決めています。
また、復帰明けからブランクを感じさせない高評価の動きであったパクが、ギグスに代わって出場しました。

負け知らずで突き進んで一時は4位にまで順位を上げ、予想以上の好発進であったオニール新体制のアストン・ヴィラ。しかしウィガン戦以降は、今度は約2ヶ月間も勝ち知らずで突き進んでしまい、ずるずると13位にまで後退している現状です。
GKにセーレンセン。DFは左からボウマ、リッジウェル、カーヒル、メルベリ。MFはバリー、オズボーン、マッキャン、ヒューズ。FWはアグボンラホールとバロシュの4-4-2です。
試合中に膝を負傷したセーレンセンが、1ヶ月半ぶりにようやく復帰してきました。代役として急遽レンタルで獲得したキラーイは、先週のユナイテッド戦では痛恨のミスを犯すなどの不安要素であったために、正守護神の復活は頼もしいニュースとなります。
ただ一方で、これまで中盤での守備の要であり続けたペトロフが肉離れを起こしてしまいました。この日は欠場します。
一人でヴィラを牽引してきたと言っても過言ではないバリーはMFとして出場。不調の続くストライカー陣の中では、バロシュが先発のチャンスを与えられました。

開幕から両サイドを制圧したのはユナイテッドでした。左のロナウド、中央のスコールズ、右のネビルと渡り、ネビルの絶妙なクロスからプレミアデビューのラーションが挨拶代わりのヘディング。セーレンセンがファインセーブで何とか難を逃れます。
ただ、続々と襲い掛かるユナイテッドを前に、ヴィラは序盤から早々にこらえきれません。
またもネビルのクロスが発端となり、ペナルティエリア内のパクとのもつれ合いとなりますが、ここでカーヒルが弱々しいクリアミスをしてしまいます。このこぼれ球をパクがダイレクトにゴールへ流し込んでユナイテッドが先制。さらにそのパクが右サイドでボウマをフェイントでかわしてグラウンダーのパスを通し、駆け込んだキャリックがワントラップシュートで追加点を奪います。前半11分と13分のことでした。

前半35分にはユナイテッドがショートコーナーをミスするも、ヴィラはここでマッキャンの対処がもたついてすぐさま再び奪取されてしまいます。そこから最終的にキャリックがアーリークロスを放ち、ロナウドがヘディングゴールを突き刺さしました。
3-0と、あっさりユナイテッドが勝敗を決してしまいます。

ヴィラは後半から2人の選手を投入して反撃態勢を整えます。
すると後半7分、バロシュが右サイドでビディッチの密着マークに遭いながらも、この1対1を股抜きのドリブルでもって振り切り、深くえぐることに成功します。そしてバロシュのグラウンダーのクロスをアグボンラホールが詰め、ヴィラは1点を奪い返しました。

これで勢いに乗りたいヴィラですが、ユナイテッドがそれを許してはくれませんでした。ヴィラは壊滅的だった前半から比べては幾分支配権を取り戻したものの、やはり決定機を作り上げていくのはユナイテッドの方です。
バロシュのお返しとばかりにネビルが右サイドを深く切れ込んでグラウンダーを蹴り入れると、これを途中出場のサハがキーパーの横を抜けて行く枠内シュート。かろうじてゴール直前のカーヒルが上半身でブロックしました。
後半28分のルーニーの強力なミドルがゴールバーを弾けば、ラーションやロナウドのフィニッシュもセーレンセンを襲っていきます。
結局、シュートチャンス数で終始ヴィラを圧倒したユナイテッドの危なげない完勝劇となりました。

■ ベテランを見習ってほしいキャリックとエブラ
確かに純然たる自身からの得点は1点だけにとどまりましたが、この試合のユナイテッドは開始からハイペースでもって相手を飲み込んでしまう内容としました。ロナウドとパクの重圧がヴィラを守勢に立たせて押し込めたために、両サイドバックがプレッシャーなく何度も上がって行き、サイドを分厚く攻め立てることが出来ていました。中央でスコールズ、キャリック、ルーニーのいずれかを経由して、左から右に、右から左にと、ワンタッチ・ツータッチの速いテンポによる連動で振り回すように崩していきます。そしてロナウドやルーニーの個人技、続発されるネビルの好クロスなどが主な決め手となり、ヴィラの守備陣を大いに苦しめました。

その中で、この日はパクの日となりましたね。彼が前半だけでヴィラを片付けてしまいました。混戦から相手のエラーを見逃さず、抜け目なく先制点を強奪。サイドでの1対1にも勝利してしまってユナイテッドの2点目をアシスト。3点目となるコーナーキックもまた、彼のサイドでの1対1の勝負から得られたものです。さらに付け加えると、このコーナー直後に渡してしまったボールを素早く取り返し、点に結び付けさせたのもパクでした。迷いなく彼が殊勲者であったと言えます。
紛れもなく復帰後のパクは高いパフォーマンスだったと私は支持したいのですが、前のニューカッスル戦において決定機をモノに出来なかったなどで、直接的なプレーでは不完全燃焼という印象を少なからず与えてしまっていました。しかし、この試合でそのような一部の主観的な不評は完全に吹き飛ばしたと思います。見事でした。これでユナイテッドは確実に計算できる攻撃の駒を、また1枚加えることになりました。

続いて高い評価を受けているのがキャリックです。1ゴール1アシストという結果が、これまでの物足りなさを一気に払拭したとされているのでしょう。ですが、それでも私が個人的に推したいのはスコールズの方なのです。
もちろん、瞬間的な活躍でもゴールにつなげた結果こそは最大限に尊重されるべきです。しかしこの試合でもキャリックはトラップミス、パスミス、ショートコーナーのミスなど、相変わらず「軽さ」ばかりが目立つ選手でした。流れるような攻撃もキャリックの関与によって止まることが2、3度あるほか、彼はチェイスやボール運びにも積極的な姿勢を見せてくれません。
それとは対照的に、この日もスコールズの存在感は際立っていました。非常に「重い」存在です。90分ユナイテッドの攻撃を根底から支えていたのは彼だったと思います。中央の後方から前方までを幅広くカバーし、徹底してボールの中継役となっていました。そしてそこから的確な長短のパスで左右に捌いていくこのスコールズの展開力がなければ、ユナイテッドはあれほどのサイドアタックを成立させることはできなかったと主張します。右のネビルへ再三ボールを通せば、左のエブラにもチップキックで供給。中央でもラーションやルーニーへ決定打となり得るラストパスを送ります。これだけ組み立てに関与していながら、ミスらしいミスと言えばボールを見失ったコントロールミスが一度きりあっただけでした。そして3得点の全ての始点にもなっているのです。絶大な司令塔として輝きを放ち続けていたように私には見えました。
自分の分まで黙々と仕事をこなしてくれているスコールズの傍らで、キャリックは、彼が輝きを維持している今のうちにもっともっと貪欲に学ぶべきところを吸収していくべきです。これだけ共にプレーをしていても、まだまだスコールズに近づいてすらいないという印象が正直なところあります。彼を懸命に見習って、ぜひ精悍さを備える大選手へ成長してほしいと私は願っています。

ネビルにも凄みがありました。タイミングのよい攻撃参加から繰り出されるクロスに誤差はなく、ピンポイントに何度も決定的なシュートをうながしていました。ラーションのヘッド、パクの先制点、スコールズのフリーのヘッド、サハのカーヒルに阻まれたフィニッシュ。いずれもアシストとして記録されてもおかしくはない得点機の演出をしてみせました。
このネビルとパクによってユナイテッドはやや右サイドの比重が大きかった一方、ヴィラ側の方も後半からは右サイドを重要な拠点とすることができていました。ユナイテッドから見れば左側のサイドですね。そしてユナイテッドは右サイドから全3得点を挙げ、ヴィラも右サイドから得点しています。
ここでちょっとプレミアにおけるユナイテッドの全失点の内訳を調べてみることにしました。今季のユナイテッドは総失点が少なく、さほど苦労する作業でもなさそうでしたしね。その少ない16という失点のうち、個人的なミスやセットプレーなどを除き、純粋に崩されてからゴールを奪われたのはわずかに5回でした(この少なさも特筆すべき賞賛点ではありますが・・・)。
ただこの5回中、4回もがユナイテッドの左サイドの奥をあっさり突かれたことが発端となっているのですね。すなわち他のエリアと比べて、エブラとエインセは確実にここを守りきることができていません。正確には試算していませんが、最近は直接失点には至らないまでも、左サイドからピンチやセットプレーを招いている傾向が徐々に増しているような感じを受けていたからこそ言及してみたのです。裏を取られてビディッチが左サイドに引っ張り出され、彼とお互いに良きパートナーであるファーディナンドのカバーリングが追いつかなくなってしまっています。この試合の失点もまさにそうでした。この左サイドが現在のユナイテッドの唯一の付け入る隙として、狙われていく可能性もないとは言い切れない心配を勝手にしてしまっています。私などの単純な考え方からでは、目処のたった守備でも貢献できるパクを左で重宝してもいいのではないかとの思いも生じさせますが、それがかなわないならば左サイドバックの一層の奮起を期待したいところです。
エブラはその積極性から、一躍このポジションに定着してみせました。しかしまだ、攻撃だけでなく守備でも多大な安定感を見せる右のネビルには及びません。スコールズと同様にベテランの味を存分に発揮させている今のうちに、エブラもまた彼を見習って多くを学んでほしいと強く望みます。

最後にこの日のツートップです。
プレミアで初お披露目のラーションですが、個人的にはよかったと思いましたよ。闘志を前面に押し出してゴールへ向かう姿勢は実に個性的で印象深いものでした。この純然たるゴールハンターは、同じく純然たるセカンドトップのルーニーとは非常に相性がいいのではないでしょうか。彼の移籍期間終了後にまたどうなるのかは知りませんが、とりあえず今はサハやスールシャールを差し置いてでも、このコンビで突き進んでいってしまっていいような気もします。
そのコンビを組むルーニーなのですがね・・・。ここ最近、下がり気味からの自身による攻守のプレーは決して悪くはないのですが、その他の場面での動きはどこか弱気で消極的で勢いに精彩を欠いています。また個人技の方も、この試合でも度々見せてはくれましたが、肝心のラストプレーになると途端に冴えなくなってしまうケースがほとんどでした。得点まで含めて何でも一人でやってのけるような、他を寄せ付けないほどの迫力さがルーニーの魅力であり、本来の特徴のはずです。これはもう移り変わる周囲との連係がどうのこうのよりも、ルーニー個人の波のある意識が問題であるような気がします。ロナウドの爆発によってこのルーニーの推進力の下降模様は薄れがちな現状ですが、このままアシストだけが役目の単なるトップ下に成り下がってほしくはないですね。文句を言わせないほどの発奮を、また見せてくれることに期待しています。

■ 完敗もやむなし・・・アストン・ヴィラ
敗れたヴィラですが、集中力と粘りでもってことごとく攻撃を遮ったあのチェルシー戦での守備は一体どこへ行ってしまったの?という感想でした。左サイドバックのボウマはコテンパンにやられてしまい、リッジウェル、カーヒル、マッキャンらが、実に軽率であった失態を繰り返します。3失点中、2失点は明らかな自陣でのミスからです。セーレンセンの奮闘がなければ、もう2、3点入れられてもおかしくはありませんでした。
守備時だけではなく、攻撃時でも先発の中盤の全選手の足取りは重いものでした。バリーとマッキャンが持ち過ぎで、まるでかたちになりません。前半22分に一度アグボンラホールが起点となり得ることを発見すると、今度は彼一人だけに託すように、彼を目掛けたロングボールばかりという単発ぶりです。序盤の2失点でもう意欲が途絶えてしまったのでしょうか、前半はサッパリの出来でした。

ただし、後半からは随分と立ち直りました。その立役者はバロシュと、後半開始から投入された右MFデイビスです。
バロシュは後半から中盤での活動機会を増やし、そこで抜群のキープ力を見せ始めて単独でも自軍を牽引するようになっていきました。これまでプレミアではストライカーとしては振るいませんでしたが、このままMFに転向してしまっても構わないのではないかとも思わされる躍動でした。
それを後方からサポートしたのがデイビスです。デイビスはチェイシング、カット、こぼれ球の拾い上げなどでチームに大きく貢献し、さらには着実にボールを散らしてリズムを整えてくれる存在でした。特にバロシュとの連係がよく、バロシュのその躍動の支えとなっていました。
この2人に引っ張られるようにメルベリも前線に顔を出すようになってきます。そしてバロシュ、デイビス、メルベリによる右サイドが、ヴィラにとっては相当効果的な起点へと進化しました。実際に1得点は右サイドから生まれています。

それでも全体的にはどこか散発で、得点後も今ひとつ盛り上がらなかったのは、相変わらず左サイド側が冷えきっていたことが要因です。ボウマをサミュエルに交代させたのも、さして意味はありませんでした。バリーやオズボーンもボールウォッチャー気味。ユナイテッドのネビル、パク、ロナウドらをこのサイドにてまるで制御できていませんでした。時折攻めることが出来ても前半に引き続き球離れが遅くてテンポを失いがちで、右側の足を引っ張っていたような感じです。

つらつらと厳しいことばかりを書いてしまいましたが、完敗もやむなしという内容だったためです。この日も残念な結果で勝ち星から見放される日々の継続となってしまいましたが、その中にあったチェルシーを完封するというあの気迫さをどうか思い出して、一日も早くこの長く暗いトンネルから光明を見出してほしいですね。

ユナイテッドはこの勝利でチェルシーとの勝ち点差6をキープしました。次週には、ホームで敗戦を喫したあのアーセナルとの試合が待っています。アウェーでリベンジを果たすことができるのでしょうか、非常に楽しみな一戦です。

メガマック登場!

2007年01月12日 | 雑記・その他
本日はマクドナルドで新商品が発売されました。その名も「メガマック」です。

「ビーフがビッグマックの2倍の4枚。ビーフ本来の美味しさを、思う存分満喫できる、まさにビーフ天国なハンバーガーです」
に、肉が4枚!?熱量は驚くなかれ754Kcal(ごはん茶碗1杯は約200Kcal)。
メタボリック症候群が国民的流行語となり、アメリカだけでなく日本でも子どものファーストフードによる肥満化が指摘されつつあり、ごく最近ではトランス脂肪酸がどうのこうので健康に対するマイナスイメージは増長される一方というこの現状の中で、あえてこのようなものを出してくるマクドナルドの勇気ある積極的な姿勢に私は応えてあげたくなりました。
午前と午後にそれぞれ出かけなければならなかったため、昼食にはこのメガマックをテイクアウトして食することに決定したのです。

混雑した店内を見渡してみると、大々的に店の内外で宣伝されているためか、これほどの重量級なのに意外とよく売れていましたね。2~3割の方が購入されていました。ただし、購入者は全員男性です。やはり女性にとっては買うのがためらわれる物体なのでしょうね。
単品なので価格は350円。ビッグマックが280円なのでお得感がありそうな気もしますが、冷静に考えるとハンバーガーを4つ買った方が安価であるのが現実です。

帰宅して早速開封してみました。



んー・・・。見た目の迫力さは思ったほどではありませんでしたね。
しかし、実際の内容はそれ相応のものです!かなりヘビーでした。これ一つで確実にお腹が一杯になり、他のものには手をつける意欲もなくなることでしょう。ポテトSだけならまだしも、「メガマックスペシャルセット」(チキンナゲット、ポテト、ドリンク付)は食後が大変なことになりかねないと思われます。

味の方は「そのまんまビッグマック」でした。ごま付きバンズ、レタス、チーズ、サウザンアイランド・ドレッシングなどに変更はありません。本当、ビッグマックにそのまんまビーフパティを2枚加えただけです。肉の量を単純に2倍にした、吉野家の牛丼の大盛と特盛との関係に非常に相似していると言っていいでしょう。

全体的な感想としては、個人的には十分「あり」という商品です。もともと私もビッグマックはそれほど嫌いではありませんし。このマクドナルドのビーフパティの、何とも言えないような独特の味わいをこよなく愛される方にとってはたまらないのだろうとも思います。
開き直っているとさえ感じさせるこの単純さも逆に好印象ではあります。これでライト級(ハンバーガー)、ミドル級(ダブルバーガー)、ヘビー級(ビッグマック)、超ヘビー級(メガマック)と、看板商品のボリュームの幅はより拡大されることになりました。

ただ、2つほど苦言を呈させていただきます。
まず1つは、食べづらい!ビッグマックでさえ上手に食べられない不器用な私にとってはあらかじめ予想されたことですが、それでも特筆すべき項目ではあります。とにかく上から下まで一度にかぶりつくことが相当に困難です。さらには握力が4枚ものパティを制御しきれません。食べるほどに肉がズリ動き、バンズからはみ出し、見た目にもとんでもないことになってきます。食後には手にソースがベットリ。ティッシュかナプキンは必須です。環境論者を押し切ってでも、包み紙の導入を強く提言いたします。
もう1つは、ソースがビッグマックとほぼ同量であることです。ダブルバーガーだってケチャップは増量されます。味はビーフパティの塩味が圧倒的な存在感を放っていて単調になりがちでした。最初はおいしくいただけていましたが、後半になるにつれて段々とまどろこしさばかりが募ります。いつになるのかはわかりませんが、次回にこれを注文するときにはソースの増量はできないものか掛け合ってみたいところです。

今回のメガマックは試験的な販売で、2月4日までの1ヶ月にも満たない限定商品です。おそらくほとんどの消費者は物珍しさや話題性などから1度きり買ってみるにとどまり、ましてや常食までには絶対に至ることがないのでしょう。それでも今年一発目の企画として、良くも悪くも強烈な印象を広く与えたと思います。15日には、パンケーキとたまごとソーセージのそれぞれの間に甘いシロップを挟み込む「マックグリドル」なる代物を、朝食メニューに出すというチャレンジもしてきます(これもカロリーが凄そうですね・・・)。
昨年は24時間営業の展開など、なりふり構わない迷走気味であったマクドナルド。今後も意欲作をどんどん投入していって成功を模索し、最終的には見事に復活を遂げてくれることに期待しています。

盛岡商 × 作陽 #2

2007年01月09日 | サッカー: 国内その他
※この記事は「盛岡商 × 作陽 #1」からの続きです。


■ 主導権が移り変わる我慢比べの前半戦
さあ、試合を振り返っていきましょう。まずは前半戦です。ここでは両者の緊迫した守備合戦を観ることが出来ました。

試合開始から約15分間、盛岡商が作陽に対して先制攻撃をすることができていました。これのきっかけを作ったのが左MFの林です。前方へゴリゴリと激しく突っ込む彼に託す、左サイドアタックが盛岡商にとっては効果的でした。さらに盛岡商の、この試合でも見せてくれた前線からのチェイシングです。作陽の後方での保持を自由にさせないばかりか、成田や東館が敵陣で奪ってしまって得点に直結しそうな場面を2回も作りました(彼らは後にももう2回、同じことを成功させています)。これで面を食らったかのように、作陽は守勢に立たされることを余儀なくされてしまいました。盛岡商としては、ぜひこの時間帯で1点欲しかったところでしょう。ですが、作陽にとって幸いだったのは盛岡商の攻撃が単発であったことです。ドリブルが主体でした。作陽は盛岡商の個の突破を、冷静にサイドバックとMFの連係でもって数的優位を作り、一つずつ潰し続けていったのです。この辺りはさすがでした。

作陽が凌ぎ続けて落ち着きを取り戻すと、次第にダブルボランチの存在が目立つようになります。特に酒井でした。酒井は中央においてカバーリングやカットなどで次々と盛岡商の攻撃を寸断させ、正確性あるロングフィードも放って、リズムを盛岡商から奪い返し始めます。さらにこの2人のボランチが中央で盛岡商のプレスを引き付けたために、作陽の最終ラインは脅威なくボールを回すことも出来てきました。作陽はようやく安定感を獲得します。この頃から目に見えて主導権が交代していきました。

ロングボールでのパス供給が中心で走りまわされていた作陽の前線ですが、ボランチが機能してきて近距離での緊密な連絡を取ることができるようになると、いよいよ真価を発揮していきました。ショートパスを受けた左MF濱中、右MF小室、FW櫻内が目まぐるしく動きます。中でも小室は流動的に撹乱し、左の濱中の攻撃を支援していました。彼らを軸とした2、3人の素早い連係により、カウンターではなくしっかりとした攻めをかたち作れてきたのです。シュートも連発されるようになり、今度は盛岡商が自陣に釘付けとなりました。

ただし盛岡商も、決定機までは持ち込ませずに防ぎきりました。作陽は左サイドアタックが中心でしたが、まずはそれに対峙する右MF松本の守備意識が旺盛でした。松本は懸命に追いかけてサイドで阻むこと3回。後方の選手も集中力を切らしません。自陣の右サイド奥を侵入してくる作陽の濱中や小室に対し、すかさず平、藤村、松本らがトライアングルを形成して囲むように封殺。自分の担当エリアを飛び出してでも複数人による守備活動を心がけ、ボランチの千葉や諸橋などもその空いたスペースのケアを忘れません。数的優位で潰し、組織的に守備する能力は作陽にも劣らないものでした。

そして前半戦の全体の感想として、一番に印象的だったのは両チームともがコンパクトなサッカーを展開していたことです。互いに最終ラインを高く保ち、FWとの距離が非常に近くなっていました。当然接近戦は避けることができず、絶えず中盤での攻防戦が緊迫していた要因です。それでもくぐり抜けてくる作陽は大したものでしたが、その自信を持った両者の積極的な守備姿勢は見ごたえがありました。

■ 激動の後半戦で輝いた千葉
試合が動くことになった後半戦、先制したのは確かに作陽でしたが、突如としてこの45分間は盛岡商の一方的なペースになり続けてしまいました。なぜなのでしょう。後半開始の時点で、はっきりとした変更点とは作陽のワントップである村井の投入くらいなものです。ただ、私はこの村井投入の采配がそれを誘発させたのだと思っています。
私はてっきり村井は最前線におけるポストプレイヤーとしての活動をするのだろうとばかり思っていました。しかし、村井は違いました。彼は、時にはボランチの目の前にまで下がってくる、ピッチ中央でのコンダクターとして存在していたのです。どっしりとした彼を起点として左右前方への散らしを狙ったのでしょうが、トップが不在のような状況になってしまっていました。必然的に、シャドーアタッカーである濱中や小室はポジションの位置取りを上げていきます。前半戦で攻撃の組み立ての中心となっていたのは、間違いなく濱中と小室でした。その彼らとせっかく緊密なやり取りができていたのに、また後方からの距離が間延びになった挙句、濱中や小室は盛岡商の最終ラインに吸収されるように埋没していきました。
村井はけがの影響もあったのかも知れませんが、彼らと比較しては活発に動くことがありません。存在感は絶大でしたが、盛岡商の中盤でのマーク自体は容易なものとなっていた雰囲気でした。あれほどあった作陽のスピード溢れる攻撃組織は影を潜め、カウンター、ロングボール、小室の突破など、一発で完結する攻めが多くなったのです。

さらにこの影響がまともに盛岡商のプラスとして還元される結果となったのが、盛岡商のボランチ・千葉の躍動でした。前半は作陽の速い攻めの火消しに奔走するばかりの千葉でしたが、さほど中盤で振り回されることがなくなってくると、見る見るうちに存在感が輝き始めました。千葉は真ん中で自在に暴れだします。ワイドに開く林や両FWによるサイドアタックを主体としていた盛岡商にとって、この千葉の中央での攻撃参加は大きな援護射撃となりました。作陽が前半戦とはうって変わって盛岡商に崩されだしたのは、彼が大きく関わっていたと見ています。
象徴的なのが盛岡商の同点のシーンでした。左サイドの大山が突破に成功してアシストしたのですが、その直前に中央で東館とワンツーで揺さぶって、最終的に大山へパスを出したのは千葉です。この揺さぶりのために中央へ守備意識を集中させられた作陽は、とうとうサイドにおいて守備側が不利となる1対1の局面を作られ、そして突破されてしまいました。サイドでとことん数的優位を保っていた前半戦には見られなかったケースでした。
それ以前にも千葉は中央からのダイレクトパスでもって右サイドのチャンスを演出するなど、作陽がサイドでうまく対応しきれない要因となる存在でした。単に千葉が突然攻撃意識に目覚めただけなのかも知れません。しかし明らかに千葉が守備をする必要性が少なくなっていたのも事実です。作陽としては結果的に自分たちの攻撃が単発となってしまい、千葉に存分にやられるかたちとなってしまったのは大きな誤算だったでしょう。
そして千葉は、自身の突破からPKを盛岡商にもたらし、1点目となる大山の左サイドアタックを成立させ、さらに逆転弾をも奪っています。もう、何でもありでした。ズバリと采配が的中したかに見えた作陽の村井でも盛岡商の大山でもなく、紛れもなく後半の主役は千葉であったことに異存はないと思います。

■ 組織的な堅守による盛岡商の優勝
その大車輪の活躍の千葉が殊勲者かも知れませんが、私はもう一人存在感が際立っていた選手を挙げたいと思います。それは盛岡商のセンターバック・藤村です。この試合の藤村の状況判断力は大変素晴らしいものがありました。作陽の長短のボール運びを何度阻んだことでしょうか。櫻内の前方に突っ込んでダイビングヘッドのクリア、ロングボールにも果敢に出て行ってヘッドでクリア、味方のクリアミスにも即座に反応してクリア、仕舞いにはスルーパスまでインターセプトと、目の前で展開されそうになる作陽のプレーをことごとく出足の早い守備でカットしていました。
そして何と言っても、作陽の中心的な攻撃であった左サイドアタックへの応対です。毎回のようにフォローに出向いていって、ここを固めきりました。前半は濱中に、後半は小室の前にサイドバックとともに立ちはだかり、数えてみるとセンターバックである彼が直接的にサイドを封鎖した回数は5回を下りません。前半の作陽の猛攻を完封させた大きな立役者だったでしょう。
後半の失点は仕方がありません。あれは村井のスーパープレーを褒めるべきであり、その村井に藤村は怠りなくマークについていました。また、逆転に成功した後の残り5分間でも、引き下がることなく最後まで守備ラインの高い位置取りを維持させていた統率も実に立派だったと思います。
今大会の盛岡商は組織的な堅守こそが代名詞となりました。観てはいませんが、きっとこれまでも藤村はその堅守に多大に貢献していた選手だったのでしょう。この優秀な主将に率いられた守備陣が、盛岡商を優勝に導いた一番の原動力であるような気がします。

高校サッカーという場において、高校生である選手の個人的なミスについては本来ならばネチネチと指摘したくはないのですが、例外となってしまったので記載してしまいましょう。
同点への絶好機となったPKの場面で、痛恨のシュートミスで失敗をしたのが盛岡商の林です。盛岡商の士気をがた落ちにさせかねないものでした。
また、作陽に先制点を許す場面の直前、痛恨のバックパスミスで作陽のカウンターの始点となったのが盛岡商の千葉です。逆転できなければ悔やんでも悔やみきれない軽率なプレーでした。
ただ、その林が、その千葉が、同点ゴールと逆転ゴールをそれぞれ決めて、見事に自分たちの失策を帳消しにして勝利を引き寄せたのが何とも印象的でありました。
激動するドラマがあった後半戦でしたが、落ち着いて顧みるとこの2人ばかりが試合の盛り上がりを生み出していたのだと言えるのかも知れませんね・・・。

最後に敗者・作陽側の直接的な敗因や反省点などについてですが、もうさすがにこれまでは言及する気になれません。高校サッカーはプロではなく、あくまで高校の部活動ですからね。それを私たちのような他人が公にああだこうだと責めるように追及するのはいかがなものかと思われます。
作陽もよく戦い抜きました。攻守にわたる組織性も存分に見せてもらいました。栄えある準優勝だと思います。

■ 見方を変えていくべき高校選手権
評論家のセルジオ越後さんはこの選手権を振り返って、「選手の質が確実に落ちている。将来世界に通用する素材はいたのか?寂しい年代であり将来の日本が非常に心配である」との言葉で今大会を締めくくりました。
私としては高校選手権だけを見て将来の日本を危惧されても困るというのが正直な感想です。G大阪や去年サハラカップで優勝した広島などが代表格ですが、日本の各クラブが懸命な努力と必死さでもって、充実した下部組織の強化と環境整備を実現させてきた現況をご存知ないのでしょうか。柿谷や水沼や岡本らを筆頭に、これからのこの世代を牽引していく有能な人材は今、クラブのユースで溢れんばかりに多数存在しているのです。高校選手権にはそのような選手が少なかっただけで、それほど人材不足の心配はありません。そのような表現によるこの大会の統括は、いささか的外れである気がします。

また、今回の大会はいわゆる強豪校が続々と敗れ去っていったために、「本命なき大会」だったとの報道や呼び方がされています。このような表現もどうだろうかと思いました。盛岡商だって徹底的に運動量を鍛え上げて、昨年はインターハイでベスト8など、その潜在能力は十分にありました。作陽も自身としては例年にない高い戦力を揃え、非常に根気と努力が必要であっただろう、ハイレベルな組織と適応力を身につけていました。「番狂わせ」と言われ続けてきた八千代や武南なども、それぞれに勝つべくして勝った理由があったと思います。私は本命がないのではなく、「本命だらけの大会」だったと申し上げたいところです。

どれもこれも、「タレント」と呼ばれる強力な若者たちが現在、こぞって高校ではなくクラブのユースを目指し、そしてそちらに在籍していることに起因しているのでしょう。高校選手権で本命不在だの実力者不在だのといった声を出したい気持ちもわかります。ただ、私はもう高校選手権に対する見方は変えなければならないと思っています。今までが少し異質でした。明確にプロを志すほどの者はれっきとしたプロである国内クラブの門を叩き、そうではない者が高校生活の集団活動の一環として高校サッカーに励む。こうした本来あるべきだった姿に、ようやくなり始めているのではないでしょうか。その現状の中で、過去の高校選手権と単純に見比べて、一方的に劣る劣るなどと評するのは少しナンセンスであるような気もします。

例え高校選手権から日本を代表し得る選手の台頭が激減したとしても、指導者の方々による秀逸なチーム作り、ならびに各都道府県の代表への郷土からの温かい応援は不変です。これからも選手個人個人がチームのために徹しきることで機能していき、脇役も主役もない「高校生のサッカー」を続々と見せることで人気を博していくのでしょう。そしてそれを決勝戦という場でも高いレベルで体現してくれた盛岡商と作陽は、岩手と岡山が誇るべき立派なチームだったと思います。

盛岡商 × 作陽 #1

2007年01月09日 | サッカー: 国内その他
第85回 全国高校サッカー選手権大会 決勝: 盛岡商業高等学校 2-1 作陽高等学校
(2007/1/8)

■ 岩手の猛進力対岡山の組織力
今回でもう85回目ともなる高校サッカー選手権。天皇杯並の歴史と伝統を持ち、数多くの名勝負と名選手を生み出してきて、年始のサッカー大会としてはもうおなじみです。
年始の忙しさや録り溜めしていた欧州サッカーの観戦などで、今年はとうとう決勝戦しか観ませんでしたが、私も本当は好きですよ。高校サッカー。ただの一つも試合を落とせない高校生たちの真剣さは、やはり心を打たれるものがあります。

波乱とPK戦に満ち溢れたと言われる今大会で見事にファイナルまで勝ちあがってきたのは、お互いに初の決勝進出となる盛岡商業高校と作陽高校です。どのようなチームなのかは全然知りません。よって予習だけは欠かしませんでした。だって最初で最後のせっかくの観戦ですからね。
付け焼き刃の知識ですが、両チームの特徴とこれまでの戦績です。

昨年の地区予選決勝で惜敗を喫した相手である遠野を、今度は辛勝ながらも破って雪辱を果たし、全国行きを決めて岩手県代表となったのが盛岡商です。前回大会ではその遠野がベスト4という大躍進を見せていて、彼らに追いつき追い越すべくベスト4以上を目標にして今大会に臨みました。
本来はFW成田とFW東館の2人のスピードスターをトップに擁し、電撃的に奪うことの出来る得点力こそが武器の攻撃的なチームです。
しかし強豪のひしめく全国大会ともなると、さすがにその攻撃力を100%出し切れるものではありませんでした。初戦の大分鶴崎こそ打ち合いで制しましたが、続く武南戦です。優勝候補大本命の滝川第二を下した武南の実力は本物で、速いパスのつなぎから圧倒的に試合を支配されました。カウンターから同点とし、何とかその後は守りきって、ようやくPK戦でもって勝利することができたのです。準々決勝の広島皆実戦では攻め込めたものの1点どまり。準決勝の八千代戦でも試合終了間際での相手のまさかのオウンゴールにより、どうにか1点を得ることができました。
苦戦を続けながらも決勝まで駒を進めることができたのは、看板の攻撃力ではなく奮闘に次ぐ奮闘を見せた守備陣の力があってこそに他なりません。体を張り、連動的に動いて守備網を広げ、最後まで耐え凌いできました。FWまでもがチェイシングを絶やさない全員の高い守備意識でもって堅く守り、ワンチャンスをモノにしてきたのです。武南と八千代を完封に抑えたのは胸を張れる結果だったでしょう。課題であった守備面が一気に開花し、勝負強さも備えて逞しくなったのが今大会の盛岡商です。
率いるのは喉頭がんに冒され、昨年末には心臓病のために大手術を受けた満身創痍の齋藤監督。それでも執念で指揮する彼を慕う盛岡商イレブンは、何としてでもこの優勝を勝ち取って来年度に引退するこの齋藤監督に花道を飾らせるべく、全力でもって初の決勝の舞台に挑みます。

対するのは岡山県代表の作陽です。
このチームはシステムからして特質です。今大会全48チーム中、作陽を含めてわずかに2校しか採用していない4-5-1を基本形として採用しています。長身のストライカー村井を頂点に置き、その下から3人のシャドーストライカーが襲い掛かる、相手としてはつかみづらい攻撃が特徴的です。武器は何と言っても、作陽の代名詞でもある組織力。ピッチ全面にバランスよく敷かれる守備網からボールを奪っていき、攻撃への切り替えも実にスムーズです。穴のない、つけ入る隙の少ない好チームだと言えるでしょう。
もう一つ作陽が得意とするのが試合の中での適応力です。様々な選手と様々なフォーメーションが実戦で試されてきて、誰が出場しようともどのような流れの展開になろうとも取り乱すことなく的確に対処ができます。また野村監督の、対戦相手の研究への力の入れ方が尋常ではありません。何でも相手の試合のビデオを事前に3回もチェックするそうなのです。徹底的に相手の攻撃パターンを頭に叩き込み、それに沿った対応策を事前に練り上げる準備を欠かしません。象徴的なのが準決勝での神村学園戦でした。同点に追いつくべく神村学園は五領、中村と投入して反撃のためのシステム変更を行いましたが、前の試合でもこのシステム変更によって飛躍的にサイドアタックが向上していたことを知っていた野村監督は、すぐさま自チームにも変化をほどこしました。ボランチは中央に1枚として、左右にMFを2人ずつ並べる守備的な布陣へ組み替えます。果たして神村学園の右サイドの中村はことごとく不発となり、作陽が秀逸に全体を完璧に封じきる、1-0の逃げ切りを成功させたのです。
相手を読む監督の思い通りに選手たちも動くことができ、理解力と状況判断は抜群のチームです。タレント軍団で個人技が主体の静岡学園に対しては確かに大苦戦しました。しかしながら、培ってきたゲームコントロール力によって、組織を主体とするチームには試合運びにおいては競り負けることがありません。このような玄人好みのサッカーを伝統的に毎回見せてきた作陽ですが、その中でも今年のチームは作陽史上最強に仕上がっているとの評判です。そしてその期待を裏切らず、岡山県勢としては初となる決勝進出という快挙を成し遂げました。あとはもう一試合だけ勝利して、全国にその名を轟かせるだけです。

猪突猛進型な勢いを有して突貫していく盛岡商。冷静沈着な組織を繰り広げて迎えうつ作陽。好対照な、興味深いカードの決勝戦となりました。

盛岡商はチームの顔とも言える、攻撃的な4-2-2-2。快速ツートップの下に2人のアタッカーを配します。
GK石森。DFは左から土屋、中村、藤村、平。守備的MFは千葉と諸橋。攻撃的MFは左に林、右に松本。FWは成田と東館です。
準決勝では出場停止だった東館が戻ってきて、盛岡商の象徴であるFWコンビが復活しました。この2人に劣らぬ速さで攻撃力を披露している2年の林、効果的な攻撃参加が顕著であった千葉にも注目です。

作陽の方もベースである4-2-3-1を変えてきませんでした。
GK安井。DFは左から長谷川、石崎、堀谷、桑元。守備的MFは酒井と立川。1.5列目は左から濱中、宮澤、小室と入ります。FWは櫻内のワントップです。
不動のワントップとして君臨していた村井は、今大会は負傷のために万全な状態ではなく、試合途中からの出場が目立っています。
代役の櫻内は何と数週間前まではDFの選手。突然のコンバートで全国大会がFWでのデビュー戦となりましたが、いきなり得点を挙げるなど及第点の出来を見せています。
MFでは宮澤のチャンスメイクにも注目ですが、現在注目を一身に浴びているのが小室です。今大会の作陽の中で最も光り輝いていた選手で、俊足を武器に4得点と、大会得点ランクの首位に立っています。絶好調で乗りに乗っている、作陽の最終兵器です。

■ 運命の決勝戦
決勝戦のオープニングとなったのは盛岡商の平のミドルシュート。盛岡商が持ち前のスピードアタックで猛然と詰め掛け、作陽へシュートを浴びせるスタートダッシュに成功しました。これを前にして作陽はロングボールとスルーパスで前線を走らせることしかできません。圧倒的に盛岡商のペースでした。
しかし、ここを凌いだ作陽は流れを徐々につかんでいったかのように、ゆっくりとじわじわ自分たちのサッカーへと持ち込んでいきます。序盤にはなかった前線でのパスワークも復活。後方からの攻撃参加も見られるようになり、立川のスルーパスからサイドバックの長谷川がクロスを入れ、櫻内がヘッドに至るという崩しきる場面も出てきたのです。最終的に前半でシュートが多かったのは作陽の方であり、ロングボールばかりを狙わざるを得ないのは盛岡商側になっていました。
次第に次第にですが、主導権が盛岡商から作陽へと移って行く前半戦でした。0-0で折り返します。

決め手に欠いていた作陽は、後半の頭から櫻内に代えて真打ちのエース・村井を登場させます。彼のポストプレーに期待がかかります。
ただし、またも開始からペースをつかんだのは盛岡商。作陽は前半戦の終盤が嘘であったかのように防戦一方で、カウンターしか道がありませんでした。ただ、そのカウンターの一つが炸裂します。

後半11分、ボールが渡ってきてそのまま右サイドを駆け上がったサイドバックの桑元は、一度村井に預けます。そこで我々は驚愕のプレーを目にしました。村井は囲んでくる3人の盛岡商のDFをあざ笑うかのように180度ターンしてかわし、振り向きざまに渾身の強烈ミドルシュート!ゴールバーに嫌われて豪快に弾かれましたが、そのこぼれ球を詰めていた桑元がヘディングで押し込み、作陽が待望の先制点です。詰められた場面で、盛岡商のDFはあまりの出来事に一瞬呆然と立ち尽くしてしまいました。それほどの目覚しい個人技によって、押されていた作陽がリードします。

もちろん盛岡商はさらに攻撃に比重をかけていきます。ようやく崩すこともできてきました。そして後半18分です。このシーン、直前に日本テレビが試合と全然関係ないところを映し続けていて、何が始点となったのかもまるでわからずに多大に彼らの放送中継能力に不満を抱いたのですが、とにかく千葉がペナルティエリア内で倒されて盛岡商がPKを獲得しました。
この千載一遇のチャンスにてキッカーを託されたのが、八千代戦でも劇的なオウンゴールを呼び込んだ林。盛岡商を牽引してきたこの2年生が重責を担います。しかし!林の左足から繰り出されたシュートは、わずかにゴール左枠外へ・・・。ムードが沈みかねない大きな失敗でしたが、幸いにも他の3年生たちが全く下を向くことがありませんでした。すぐさま林に駆け寄り激励し、何事もなかったように反撃を再開したのです。

これに盛岡商のベンチからも援護がありました。松本に代えて、突破力に優れる切り札的な存在である大山を左MFとして投入。林は右MFに転向します。そしてこれが直後に大当たりとなりました。
後半26分、その大山が左サイドでパスを受けて相手DFと1対1の勝負を挑みます。そこから大山は惑わすような動きで、かつ鋭い突破によって見事に抜き去り、左サイドを深くえぐることに成功します。大山は即座にマイナスの速いグラウンダークロス。ボールは一直線に3人、4人と選手たちの間をすり抜けていって、最後にこれをフリーで待ち構えてゴールに結びつけたのが林!!!!一度シュートミスをしてしまったのですが、すかさずもう一度押し込んでゴール内へと突き刺しました。貴重な同点弾でもって、林が見事にPK失敗の汚名を返上します。
作陽が村井なら、盛岡商は大山。途中出場の起用に応える両者の活躍がチームを得点へと導き、前半とは一転して試合があわただしくなりました。

イーブンとされた作陽は一度巧みなパスワークからチャンスを作り上げ、度々効果的なカウンターも築き上げていきましたが、盛岡商の勢いを止めることができませんでした。自陣の裏に飛び出てくる盛岡商の選手たちへの放り込みに四苦八苦します。
そしてとうとう、試合終了5分前にしてこらえきれなくなってしまいました。運動量がまるで落ちない盛岡商の成田が左サイドを鮮やかに突破。成田はDFを振り抜き、グラウンダーのラストパスを中央へ送り込みます。これを東館がDFを引き連れてスルーし、オーバーラップしてきたフリーの千葉が着実にゴール右へと決めて、盛岡商がついに逆転!後半戦の流れは変えることがかなわなかった作陽の、盛岡商の怒涛の推進力に屈した瞬間でした。

ラスト5分で作陽は村井のポストプレーから小室がシュートを放つも、反撃はそれまで。試合終了の笛と同時に作陽の選手たちは一斉にかがみ込み、盛岡商の選手たちは歓喜を一杯に表現して駆け回りました。
盛岡商は自身初、そして岩手県勢として初となる全国一の栄冠に輝きました。


「盛岡商 × 作陽 #2」に続きます。