FIFA クラブワールドカップ 2006 決勝: インテルナシオナル 1-0 FCバルセロナ
(2006/12/17)
■ 欧州王者対南米王者、世界一をめぐる決勝戦
バルセロナ、悲願の世界初制覇なるか。クラブワールドカップもいよいよ決勝戦です。
対戦相手は南米王者のインテルナシオナル。開幕前からの予想通りのカードが実現しました。
インテルナシオナルは今年8月に、南米一を決めるリベルタドーレス杯の決勝まで進出。そこで、同じブラジルのチームで国内リーグ優勝を果たしているサンパウロを撃破し、見事にその座を獲得して今大会に出場してきました。
過去にはドゥンガ、ファルカンといった世界的名選手が所属していましたが、南米王者となったのは今回初めてのことでもあり、私も含めて日本での知名度はそれほど高くはありません。南米チームというイメージからは少し外れて、北欧系のパワーと熱いファイトに溢れるしぶといスタイルを基本としており、そうしたサッカーでもって勝ち上がってきて、この大舞台への挑戦権を手にしました。日本に、そして世界に自分たちの名を知らしめるこの絶好の機会に、チームの意欲は並大抵のものではありません。
長身で頑強ながら技術も優れる、大黒柱のFWフェルナンドンが中心選手ですが、総じてはスターと呼ばれる人材に恵まれているわけではありません。しかしながら、選手たちの結束は固く、与えられた任務は着実にこなします。ここ最近は若手育成にも力を入れていて、実際に今回も17歳のアレシャンドレと19歳のルイス・アドリアーノが主力のFWとして控えているなど、真摯な姿勢でもって作り上げてきたチームと言えるでしょう。
初戦となった準決勝では、いきなりそのアレシャンドレとルイス・アドリアーノの10代コンビが揃って得点。ただ、同じ準決勝で大勝という滑り出しを見せたバルセロナとは対照的に、どうも全体的に、動きに固さの見られた辛勝であったことは事実です。それでも、バルセロナにとっては前回よりも格段に難しい相手であることに違いはありません。初の「世界一」の称号を目指すバルセロナに、最後で最大の難関が待ち受けます。
バルセロナは前の試合と変化なしの、いつもの4-3-3。インテルは要となるFWフェルナンドンを前線からやや下がり目の中央へ配し、4-4-2とも4-3-3ともとれるフォーメーションです。17歳の新星エース、FWアレシャンドレも前回に引き続き先発しています。
■ 支配するバルセロナに放たれた一発のカウンター
序盤は意外にもインテルが制圧していました。ショートパスをよくつなぎ、リズムを作っていきます。スルーパスを連発させたり、ワンタッチでの崩しもあり、いくら力と堅さが売りとは言え、そこは南米らしい技術も見せてきます。
ただ、さすがに総合力で上回るのはバルセロナ。この日も攻守に貢献する中盤のデコとイニエスタを中心として、徐々にペースを奪い返していきます。以降は、支配するバルセロナとカウンターを狙うインテルという、それぞれの特色の出る予期された展開となっていきました。
しかしながら、バルセロナは攻めきることができません。前半に決定機といえば、虚をつく素早いリスタートからグジョンセンがトラップミスをして逸したものだけでした。いつものように敵陣深くで軽快につないでいって崩しにかかる動きが見られず、単発の個人技やミドルシュートばかりに終始します。
中でも明らかに攻めに絡めない、と言うか絡ませてくれてなかったのが、左ウイングのロナウジーニョでした。インテルの右サイドバックのセアラがどこまでも徹底的にマークし、同サイドMFウェリントンとともに彼の存在を潰していたのです。ロナウジーニョはこれから逃れるために中央へと移ったりしていましたが、解決にはならず、本来発揮できるプレーにかなり制限をかけられ続けました。
後半にインテルは、本調子でなかったアレシャンドレに代えて、こちらも若いFWルイス・アドリアーノを投入します。彼と、いよいよトップギアに入ってきたFWイアルレイが主軸となり始めると、インテルはさらにカウンターの切れ味を鋭くさせてきました。選手たちがよく動き、ポストプレーなども駆使して最終的にシュートにまで至る、可能性を感じさせる速攻へと強化されだしたのです。
ただしタレント軍団のバルセロナは、最後の関門も強力なものです。センターバックのプジョルとマルケスは、前半からもそうでしたが、このような事態となっても最後の局面においてラストプレーを許しません。マルケスは体を張ってシュートをブロックし、プジョルは相手の突破に即座の反応で身を投げ出して阻止し、2人とも闘志をむき出しにする守備で何度もこれらを防いでいました。
これに応えたいバルセロナの攻撃陣。相変わらずキープするものの「らしい」サッカーが出来ずじまいでありましたが、途中出場のシャビがアクセントになると、得点機までこぎつけられるようになってきます。
しかし!運動量の落ちなかったインテルはこれを耐えしのぎ、そして例の2人のFWの続けてきたカウンターがついに実を結ぶことになったのです。後半37分、インテルの自陣最奥からのロングボールが事の始まりでした。空中で長い距離を伝わってきたボールに対し、中央のルイス・ファビアーノが競り合いながらもヘッドで前方へパス。これを託されたイアルレイは、単騎で突っ込んでいきます。怠りなく激しくマークへついてきたDFプジョルに屈することなく彼を振り切り、前線でフリーの体勢を自ら作ると、そこから左方へ絶妙のスルーパスを通したのです。これに飛び込んできたのは、エースのフェルナンドンの負傷退場による代役で投入されていた、カルロス・アドリアーノ!彼はペナルティエリア内に進入し、そして確実にゴールへ押し込んだのです。何とインテルナシオナルが先制!この得点を決めた、ラッキーボーイに群がるインテルの選手たち。電撃的な速攻でした。
とうとうカウンターの一発を浴び、よもやのリードを奪われたバルセロナに残された時間は多くはありません。怒涛の反撃を見せたいところですが、やはり外側からしかチャンスを作れませんでした。デコの強烈なミドルシュート、唯一自由にプレーができることになるロナウジーニョの直接フリーキック、放り込みからのイニエスタの突撃・・・。いずれもさすがと言うべき質の高いプレーでしたが、決め手に欠きます。
後方ではなおもインテルのイアルレイが暴れており、効率的に時間をどんどん奪われていました。
ロスタイムには、もうほぼ全員が総立ちとなっていたインテル側のベンチサイド。そして試合終了となった瞬間、その彼らが一斉にグラウンド内に入り乱れて歓喜を爆発させました。
インテルナシオナルがバルセロナを退けて、栄えあるクラブ世界一へ輝いたのです。
■ バルセロナの攻撃不全の理由とは
この試合における最大の疑問は、「なぜ支配していたバルセロナは攻め崩すことができなかったの?」という一点に絞られると思います。今季のバルセロナが完封された相手とは、チェルシーとレアルという堅守かつ世界的なクラブのこの2チームだけで、無得点に終わったということは極めて異例な事態です。いくら守備的なインテルの最終ラインが屈強だとしても、それだけで片付けられる問題ではないでしょう。
真っ先に思い浮かぶのが、試合前の宣言どおりにインテルがロナウジーニョを完全に封殺させようとしてきたことです。実際に、いざ始まってみるとサイドバックのセアラがしつこいほどに密着してきて、結局、ロナウジーニョは準決勝のときのような華やかさをかけらも発揮することができていませんでした。
しかしバルセロナにとって、彼が徹底マークに遭うことなど決して珍しいものではありません。これまでも、残された他の選手だけで崩して得点機をつかめましたし、ロナウジーニョ自身もマークを外すスキルを備えています。何が問題となったのでしょうか。
私はインテルの、ハーフラインやや後方における2人の守備的MF、ウェリントンとエジーニョの働きが、これの最大の功労者だと考えています。
この日のバルセロナの布陣で言えば、攻守の心臓部となるのは間違いなくデコとイニエスタでした。そのデコには主にウェリントンが、イニエスタには主にエジーニョが、それぞれ相互にカバーもし合いながら、攻め寄られたら大抵は即座にマークを仕掛けていっていたのです。自らプレスに行って奪おうとする行為はしません。ただし、持ち場に来られたら絶対に自由にはさせまいとする、確実性を重視する構えです。これを、試合を通じて集中力を切らさずに続けた成果が生まれてきたのだと思います。
デコとイニエスタの、守備時における活動と能力は相変わらずでしたが、いざボール保持時にはこれらの厳しいチェックを前にして、段々と目に見えてその位置取りは下がっていました。下がり目ならばプレスは襲い掛かってきません。よってこのハーフライン近辺から組み立てるのですが、さほど脅威にはなり得ませんでした。バルセロナの対戦相手にとって、最も抑えるのが困難な攻撃の一つは、自陣のペナルティエリア前でやられてしまう波状的なパスワークでしょう。ここでバルセロナの複数の選手がワンタッチ、スルーパス、あるいはサイドチェンジと、左右や前方へ流れるようにつないでくるのが危機的状況へとさせるのです。その連動あるパスに絡むべきデコ、イニエスタの両者が、自分たちにとっての得意なエリアへと入って行けません。
ウェリントンとエジーニョが息を切らさずに、最後まで彼らと対抗しているのを何度も見ました。そして彼らをペナルティエリア前から追い払い、受け手となるグジョンセンやジュリとの距離を間延びさせたのは、相当に効果があったと感じられたのです。
特にウェリントンはこれをこなしながら、ロナウジーニョのマークのフォローにも度々入っています。もう、いかんともしがたくなったロナウジーニョは、最前線の中央へとポジションチェンジもしていましたが、そこで埋没してしまいました。とうとうデコ、イニエスタ、ロナウジーニョといったチャンスメイカーたちの関係はバラバラになりっ放しで、それぞれが単独での技術で打開しようと試みるにとどまってしまったのです。
さらにザンブロッタの損失も大きな痛手ではなかったでしょうか。右サイドバックで先発した彼は、前半の45分間、守備も完璧にこなしながら再三オーバーラップをしていました。同サイドのインテルのMFアレックス、ならびにサイドバックのカルドーゾは攻撃的な選手であったため、彼を抑えきれていない雰囲気ではありました。ジュリとの連係も良く、この右サイドアタックは結構可能性を感じさせたものです。
しかしながら前半終了間際にザンブロッタは負傷が判明。ベレッチとの交代を余儀なくされます。インテルもこのサイドのMFをより堅実なバルガスへと代えた影響があったかもわかりませんが、ベレッチの攻め上がりは残念ながら、ザンブロッタのそれとは比して迫力に欠けます。しかも、中央寄りに進んでいって単独で完結する攻撃が多く、中盤前方が機能不全だったことも合わさって、右ウイングのジュリが孤立していくことになりました。後半のジュリはほとんど存在が消えていて、バルセロナの攻撃力低下に影響していたでしょう。
さらにベレッチを追い詰めるようなことを追記させていただくと、失点シーンにおいて最後にシュートをされたカルロス・アドリアーノへ、軽いマークでついてバランスを失って倒れてしまったのはベレッチです。ザンブロッタの強靭な1対1の阻止能力なら、あるいはこれをブロックできていたかも知れません。
■ 個人的には健闘を称えたいウェリントン
こうして、粘る守備からカウンターを通す、自らのスタイルでもってバルセロナをも倒すという、会心の試合としたインテルの選手たち。
中でも、そのカウンター時におけるFWイアルレイの活発な動きは派手で目立ちましたね。序盤からスペースへ流れる勢いを見せていて、後半の途中からはより存在感が際立っていました。後半の反撃時にはほとんど関与しており、自身でも反応よくシュートを放っています。体力的に厳しい時間帯であろう終盤ながら、プジョルを巧みにかわしてアシストとなるスルーパスを送る、一連のプレーは見事と言うほかないですね。パスなどのミスが多かったのなどはご愛嬌です。
データを見るともう32歳。そんな年齢も感じさせない、試合終了直前まで衰えなかった躍動感でした。トヨタカップの経験もあり、その蓄積された勝負勘によって、勝利の立役者となったベテラン選手です。
もう一人、個人的にはこの試合で見過ごしてはならないと思う活躍であった選手がいます。それは、主に右サイドでMFを担当したウェリントンです。
前述したとおり、デコに立ちふさがり、ロナウジーニョへのケアも行い、時折イニエスタをも阻んだ、守備での貢献が多大だった選手です。それだけでもかなり存在価値が高かったのですが、彼は、チームのカウンターアタック以外でのキープ時や遅攻といった場面で、司令塔という役割も果たしていました。よくフリーのスペースに顔を出しては起点となり、ボールを受ければ離すことなく保持し続けます。時にはスルーパスを出してシュートまで導いたり、大きなサイドチェンジで局面を変えるなどの好機ももたらしていました。何より冷静な判断で捌いて組み立て役となり、チームに落ち着きを与えていたことを評価したいのです。
確かに、ここぞという決定的な仕事をした印象はありません。それでも地味に、上記までの完封につながる守備、および拠点となる働きを90分ずっと続けていました。私はそんな彼を、この決勝戦での最大の殊勲の選手とさせてあげたいと思っているのです。
■ 執念が見事に実ったインテルナシオナル
バルセロナは決して調子が悪かったり、ましてや油断などをしたわけではありませんでした。また、今回の世界初制覇に向けて、クラブ側も一丸となって本気で狙っていたことも存じています。
ただし、インテルもまた、その思いは大変に強いものだったのです。インテルは南米らしからぬ、あえて受け身となって守備重視からのカウンターという、欧州のような手堅く「負けない」サッカーで戦っていることについて、国内外から批判され続けてきました。インテルが「南米代表」となるのに快く思っていない人たちもいます。ですが、彼らは長きに渡るこのスタイルに信念と誇りを持っていて、ブラジル人主体の編成でもこの戦い方が通用し、結果を出せるのだと強く主張したいのです。自分たちを応援するサポーターからさえも戦術転換を迫られてしまう圧力の中、くじけることはなく、より一層この戦法を磨き上げてきました。そして、クラブ創設から約100年にして、初の世界一へと挑むという、またとない今回のビッグチャンスです。どうしても彼らはこれをつかみ、自分たちを認めさせたかったのでしょう。初戦で格下相手に勝利したときから、激しく喜びを表現させていたことからも、その熱意が見受けられます。
優勝するためには必ずや避けられないであろうバルセロナとの対戦にも、相当な準備でもって臨みました。徹底的にバルセロナの攻撃パターンを研究し、その対策のためだけの練習も繰り返し行ってきました。守備位置の試行錯誤、マーク役の確認、カバーリングの対処・・・。全てはこの一戦のためだけに行われてきたことでした。あの世界最強クラスのバルセロナを破って王者となれば、世界中に名を轟かせることができるだけでなく、進んできた道が間違っていなかったことを文句なく証明できるからこそです。そして、その執念とも言える取り組みが、見事に実るかたちとなったのです。
確かに、主要国の代表選手を勢揃いさせるバルセロナに勝利したこと自体は番狂わせかも知れません。ただ、タイトル獲得に真剣であったバルセロナをさらに上回る意気込みで、ひたむきにこの日のために努力してきた彼らに、勝利の女神が微笑んでもおかしくはなかったと思います。
魅力的な攻撃でいつも私たちを楽しませてくれるバルセロナの優勝する姿を見れずに、バルセロニスタはもちろんのこと、残念な気持ちであるサッカーファンの方も大勢いるのだと思います。つまらないサッカーをするチームが勝ったものだと、UEFAの面々もきっと愚痴をたれているのでしょう。でも私は、好きか嫌いかは別として、面白味のないとされる「堅守速攻」というスタイルも、勝つための戦術であるならば支持します。それで結果を出せたのならなおのことです。勝利でも引き分けでも結果を出すために、考え抜いた末に編み出した正当な戦い方で、失敗しているのならともかくそれで成功したのならば、どのような内容でもそれは非難されるべきではないと思うのです。
とにかく、インテルの選手たちは自分たちの能力の範囲内で何が出来るのかを見出し、それをもとに着々と準備し、そして精一杯に実行した上で頂点に立ちました。実に立派な優勝だったと思います。おめでとうと申し上げたいです。
大の親日家でいてくれているフェルナンドンも、好きなこの日本でビッグタイトルを獲れて、喜びの声を上げているのだとか。よかったですね。
試合終了後にインテルの若い選手たちが、彼らにとって英雄であるロナウジーニョにこぞって握手などを求めたところ、ロナウジーニョは敗戦の落胆のそぶりも見せずに気丈に全員に応じたという記事を目にしました。こちらも立派なことですよね。
この悔しさをばねに、まずは来年2月にリバプールを制し、勝ち上がり、そして欧州連覇を成し遂げ、再びこれに挑戦してきてほしいと思っています。
(2006/12/17)
■ 欧州王者対南米王者、世界一をめぐる決勝戦
バルセロナ、悲願の世界初制覇なるか。クラブワールドカップもいよいよ決勝戦です。
対戦相手は南米王者のインテルナシオナル。開幕前からの予想通りのカードが実現しました。
インテルナシオナルは今年8月に、南米一を決めるリベルタドーレス杯の決勝まで進出。そこで、同じブラジルのチームで国内リーグ優勝を果たしているサンパウロを撃破し、見事にその座を獲得して今大会に出場してきました。
過去にはドゥンガ、ファルカンといった世界的名選手が所属していましたが、南米王者となったのは今回初めてのことでもあり、私も含めて日本での知名度はそれほど高くはありません。南米チームというイメージからは少し外れて、北欧系のパワーと熱いファイトに溢れるしぶといスタイルを基本としており、そうしたサッカーでもって勝ち上がってきて、この大舞台への挑戦権を手にしました。日本に、そして世界に自分たちの名を知らしめるこの絶好の機会に、チームの意欲は並大抵のものではありません。
長身で頑強ながら技術も優れる、大黒柱のFWフェルナンドンが中心選手ですが、総じてはスターと呼ばれる人材に恵まれているわけではありません。しかしながら、選手たちの結束は固く、与えられた任務は着実にこなします。ここ最近は若手育成にも力を入れていて、実際に今回も17歳のアレシャンドレと19歳のルイス・アドリアーノが主力のFWとして控えているなど、真摯な姿勢でもって作り上げてきたチームと言えるでしょう。
初戦となった準決勝では、いきなりそのアレシャンドレとルイス・アドリアーノの10代コンビが揃って得点。ただ、同じ準決勝で大勝という滑り出しを見せたバルセロナとは対照的に、どうも全体的に、動きに固さの見られた辛勝であったことは事実です。それでも、バルセロナにとっては前回よりも格段に難しい相手であることに違いはありません。初の「世界一」の称号を目指すバルセロナに、最後で最大の難関が待ち受けます。
バルセロナは前の試合と変化なしの、いつもの4-3-3。インテルは要となるFWフェルナンドンを前線からやや下がり目の中央へ配し、4-4-2とも4-3-3ともとれるフォーメーションです。17歳の新星エース、FWアレシャンドレも前回に引き続き先発しています。
■ 支配するバルセロナに放たれた一発のカウンター
序盤は意外にもインテルが制圧していました。ショートパスをよくつなぎ、リズムを作っていきます。スルーパスを連発させたり、ワンタッチでの崩しもあり、いくら力と堅さが売りとは言え、そこは南米らしい技術も見せてきます。
ただ、さすがに総合力で上回るのはバルセロナ。この日も攻守に貢献する中盤のデコとイニエスタを中心として、徐々にペースを奪い返していきます。以降は、支配するバルセロナとカウンターを狙うインテルという、それぞれの特色の出る予期された展開となっていきました。
しかしながら、バルセロナは攻めきることができません。前半に決定機といえば、虚をつく素早いリスタートからグジョンセンがトラップミスをして逸したものだけでした。いつものように敵陣深くで軽快につないでいって崩しにかかる動きが見られず、単発の個人技やミドルシュートばかりに終始します。
中でも明らかに攻めに絡めない、と言うか絡ませてくれてなかったのが、左ウイングのロナウジーニョでした。インテルの右サイドバックのセアラがどこまでも徹底的にマークし、同サイドMFウェリントンとともに彼の存在を潰していたのです。ロナウジーニョはこれから逃れるために中央へと移ったりしていましたが、解決にはならず、本来発揮できるプレーにかなり制限をかけられ続けました。
後半にインテルは、本調子でなかったアレシャンドレに代えて、こちらも若いFWルイス・アドリアーノを投入します。彼と、いよいよトップギアに入ってきたFWイアルレイが主軸となり始めると、インテルはさらにカウンターの切れ味を鋭くさせてきました。選手たちがよく動き、ポストプレーなども駆使して最終的にシュートにまで至る、可能性を感じさせる速攻へと強化されだしたのです。
ただしタレント軍団のバルセロナは、最後の関門も強力なものです。センターバックのプジョルとマルケスは、前半からもそうでしたが、このような事態となっても最後の局面においてラストプレーを許しません。マルケスは体を張ってシュートをブロックし、プジョルは相手の突破に即座の反応で身を投げ出して阻止し、2人とも闘志をむき出しにする守備で何度もこれらを防いでいました。
これに応えたいバルセロナの攻撃陣。相変わらずキープするものの「らしい」サッカーが出来ずじまいでありましたが、途中出場のシャビがアクセントになると、得点機までこぎつけられるようになってきます。
しかし!運動量の落ちなかったインテルはこれを耐えしのぎ、そして例の2人のFWの続けてきたカウンターがついに実を結ぶことになったのです。後半37分、インテルの自陣最奥からのロングボールが事の始まりでした。空中で長い距離を伝わってきたボールに対し、中央のルイス・ファビアーノが競り合いながらもヘッドで前方へパス。これを託されたイアルレイは、単騎で突っ込んでいきます。怠りなく激しくマークへついてきたDFプジョルに屈することなく彼を振り切り、前線でフリーの体勢を自ら作ると、そこから左方へ絶妙のスルーパスを通したのです。これに飛び込んできたのは、エースのフェルナンドンの負傷退場による代役で投入されていた、カルロス・アドリアーノ!彼はペナルティエリア内に進入し、そして確実にゴールへ押し込んだのです。何とインテルナシオナルが先制!この得点を決めた、ラッキーボーイに群がるインテルの選手たち。電撃的な速攻でした。
とうとうカウンターの一発を浴び、よもやのリードを奪われたバルセロナに残された時間は多くはありません。怒涛の反撃を見せたいところですが、やはり外側からしかチャンスを作れませんでした。デコの強烈なミドルシュート、唯一自由にプレーができることになるロナウジーニョの直接フリーキック、放り込みからのイニエスタの突撃・・・。いずれもさすがと言うべき質の高いプレーでしたが、決め手に欠きます。
後方ではなおもインテルのイアルレイが暴れており、効率的に時間をどんどん奪われていました。
ロスタイムには、もうほぼ全員が総立ちとなっていたインテル側のベンチサイド。そして試合終了となった瞬間、その彼らが一斉にグラウンド内に入り乱れて歓喜を爆発させました。
インテルナシオナルがバルセロナを退けて、栄えあるクラブ世界一へ輝いたのです。
■ バルセロナの攻撃不全の理由とは
この試合における最大の疑問は、「なぜ支配していたバルセロナは攻め崩すことができなかったの?」という一点に絞られると思います。今季のバルセロナが完封された相手とは、チェルシーとレアルという堅守かつ世界的なクラブのこの2チームだけで、無得点に終わったということは極めて異例な事態です。いくら守備的なインテルの最終ラインが屈強だとしても、それだけで片付けられる問題ではないでしょう。
真っ先に思い浮かぶのが、試合前の宣言どおりにインテルがロナウジーニョを完全に封殺させようとしてきたことです。実際に、いざ始まってみるとサイドバックのセアラがしつこいほどに密着してきて、結局、ロナウジーニョは準決勝のときのような華やかさをかけらも発揮することができていませんでした。
しかしバルセロナにとって、彼が徹底マークに遭うことなど決して珍しいものではありません。これまでも、残された他の選手だけで崩して得点機をつかめましたし、ロナウジーニョ自身もマークを外すスキルを備えています。何が問題となったのでしょうか。
私はインテルの、ハーフラインやや後方における2人の守備的MF、ウェリントンとエジーニョの働きが、これの最大の功労者だと考えています。
この日のバルセロナの布陣で言えば、攻守の心臓部となるのは間違いなくデコとイニエスタでした。そのデコには主にウェリントンが、イニエスタには主にエジーニョが、それぞれ相互にカバーもし合いながら、攻め寄られたら大抵は即座にマークを仕掛けていっていたのです。自らプレスに行って奪おうとする行為はしません。ただし、持ち場に来られたら絶対に自由にはさせまいとする、確実性を重視する構えです。これを、試合を通じて集中力を切らさずに続けた成果が生まれてきたのだと思います。
デコとイニエスタの、守備時における活動と能力は相変わらずでしたが、いざボール保持時にはこれらの厳しいチェックを前にして、段々と目に見えてその位置取りは下がっていました。下がり目ならばプレスは襲い掛かってきません。よってこのハーフライン近辺から組み立てるのですが、さほど脅威にはなり得ませんでした。バルセロナの対戦相手にとって、最も抑えるのが困難な攻撃の一つは、自陣のペナルティエリア前でやられてしまう波状的なパスワークでしょう。ここでバルセロナの複数の選手がワンタッチ、スルーパス、あるいはサイドチェンジと、左右や前方へ流れるようにつないでくるのが危機的状況へとさせるのです。その連動あるパスに絡むべきデコ、イニエスタの両者が、自分たちにとっての得意なエリアへと入って行けません。
ウェリントンとエジーニョが息を切らさずに、最後まで彼らと対抗しているのを何度も見ました。そして彼らをペナルティエリア前から追い払い、受け手となるグジョンセンやジュリとの距離を間延びさせたのは、相当に効果があったと感じられたのです。
特にウェリントンはこれをこなしながら、ロナウジーニョのマークのフォローにも度々入っています。もう、いかんともしがたくなったロナウジーニョは、最前線の中央へとポジションチェンジもしていましたが、そこで埋没してしまいました。とうとうデコ、イニエスタ、ロナウジーニョといったチャンスメイカーたちの関係はバラバラになりっ放しで、それぞれが単独での技術で打開しようと試みるにとどまってしまったのです。
さらにザンブロッタの損失も大きな痛手ではなかったでしょうか。右サイドバックで先発した彼は、前半の45分間、守備も完璧にこなしながら再三オーバーラップをしていました。同サイドのインテルのMFアレックス、ならびにサイドバックのカルドーゾは攻撃的な選手であったため、彼を抑えきれていない雰囲気ではありました。ジュリとの連係も良く、この右サイドアタックは結構可能性を感じさせたものです。
しかしながら前半終了間際にザンブロッタは負傷が判明。ベレッチとの交代を余儀なくされます。インテルもこのサイドのMFをより堅実なバルガスへと代えた影響があったかもわかりませんが、ベレッチの攻め上がりは残念ながら、ザンブロッタのそれとは比して迫力に欠けます。しかも、中央寄りに進んでいって単独で完結する攻撃が多く、中盤前方が機能不全だったことも合わさって、右ウイングのジュリが孤立していくことになりました。後半のジュリはほとんど存在が消えていて、バルセロナの攻撃力低下に影響していたでしょう。
さらにベレッチを追い詰めるようなことを追記させていただくと、失点シーンにおいて最後にシュートをされたカルロス・アドリアーノへ、軽いマークでついてバランスを失って倒れてしまったのはベレッチです。ザンブロッタの強靭な1対1の阻止能力なら、あるいはこれをブロックできていたかも知れません。
■ 個人的には健闘を称えたいウェリントン
こうして、粘る守備からカウンターを通す、自らのスタイルでもってバルセロナをも倒すという、会心の試合としたインテルの選手たち。
中でも、そのカウンター時におけるFWイアルレイの活発な動きは派手で目立ちましたね。序盤からスペースへ流れる勢いを見せていて、後半の途中からはより存在感が際立っていました。後半の反撃時にはほとんど関与しており、自身でも反応よくシュートを放っています。体力的に厳しい時間帯であろう終盤ながら、プジョルを巧みにかわしてアシストとなるスルーパスを送る、一連のプレーは見事と言うほかないですね。パスなどのミスが多かったのなどはご愛嬌です。
データを見るともう32歳。そんな年齢も感じさせない、試合終了直前まで衰えなかった躍動感でした。トヨタカップの経験もあり、その蓄積された勝負勘によって、勝利の立役者となったベテラン選手です。
もう一人、個人的にはこの試合で見過ごしてはならないと思う活躍であった選手がいます。それは、主に右サイドでMFを担当したウェリントンです。
前述したとおり、デコに立ちふさがり、ロナウジーニョへのケアも行い、時折イニエスタをも阻んだ、守備での貢献が多大だった選手です。それだけでもかなり存在価値が高かったのですが、彼は、チームのカウンターアタック以外でのキープ時や遅攻といった場面で、司令塔という役割も果たしていました。よくフリーのスペースに顔を出しては起点となり、ボールを受ければ離すことなく保持し続けます。時にはスルーパスを出してシュートまで導いたり、大きなサイドチェンジで局面を変えるなどの好機ももたらしていました。何より冷静な判断で捌いて組み立て役となり、チームに落ち着きを与えていたことを評価したいのです。
確かに、ここぞという決定的な仕事をした印象はありません。それでも地味に、上記までの完封につながる守備、および拠点となる働きを90分ずっと続けていました。私はそんな彼を、この決勝戦での最大の殊勲の選手とさせてあげたいと思っているのです。
■ 執念が見事に実ったインテルナシオナル
バルセロナは決して調子が悪かったり、ましてや油断などをしたわけではありませんでした。また、今回の世界初制覇に向けて、クラブ側も一丸となって本気で狙っていたことも存じています。
ただし、インテルもまた、その思いは大変に強いものだったのです。インテルは南米らしからぬ、あえて受け身となって守備重視からのカウンターという、欧州のような手堅く「負けない」サッカーで戦っていることについて、国内外から批判され続けてきました。インテルが「南米代表」となるのに快く思っていない人たちもいます。ですが、彼らは長きに渡るこのスタイルに信念と誇りを持っていて、ブラジル人主体の編成でもこの戦い方が通用し、結果を出せるのだと強く主張したいのです。自分たちを応援するサポーターからさえも戦術転換を迫られてしまう圧力の中、くじけることはなく、より一層この戦法を磨き上げてきました。そして、クラブ創設から約100年にして、初の世界一へと挑むという、またとない今回のビッグチャンスです。どうしても彼らはこれをつかみ、自分たちを認めさせたかったのでしょう。初戦で格下相手に勝利したときから、激しく喜びを表現させていたことからも、その熱意が見受けられます。
優勝するためには必ずや避けられないであろうバルセロナとの対戦にも、相当な準備でもって臨みました。徹底的にバルセロナの攻撃パターンを研究し、その対策のためだけの練習も繰り返し行ってきました。守備位置の試行錯誤、マーク役の確認、カバーリングの対処・・・。全てはこの一戦のためだけに行われてきたことでした。あの世界最強クラスのバルセロナを破って王者となれば、世界中に名を轟かせることができるだけでなく、進んできた道が間違っていなかったことを文句なく証明できるからこそです。そして、その執念とも言える取り組みが、見事に実るかたちとなったのです。
確かに、主要国の代表選手を勢揃いさせるバルセロナに勝利したこと自体は番狂わせかも知れません。ただ、タイトル獲得に真剣であったバルセロナをさらに上回る意気込みで、ひたむきにこの日のために努力してきた彼らに、勝利の女神が微笑んでもおかしくはなかったと思います。
魅力的な攻撃でいつも私たちを楽しませてくれるバルセロナの優勝する姿を見れずに、バルセロニスタはもちろんのこと、残念な気持ちであるサッカーファンの方も大勢いるのだと思います。つまらないサッカーをするチームが勝ったものだと、UEFAの面々もきっと愚痴をたれているのでしょう。でも私は、好きか嫌いかは別として、面白味のないとされる「堅守速攻」というスタイルも、勝つための戦術であるならば支持します。それで結果を出せたのならなおのことです。勝利でも引き分けでも結果を出すために、考え抜いた末に編み出した正当な戦い方で、失敗しているのならともかくそれで成功したのならば、どのような内容でもそれは非難されるべきではないと思うのです。
とにかく、インテルの選手たちは自分たちの能力の範囲内で何が出来るのかを見出し、それをもとに着々と準備し、そして精一杯に実行した上で頂点に立ちました。実に立派な優勝だったと思います。おめでとうと申し上げたいです。
大の親日家でいてくれているフェルナンドンも、好きなこの日本でビッグタイトルを獲れて、喜びの声を上げているのだとか。よかったですね。
試合終了後にインテルの若い選手たちが、彼らにとって英雄であるロナウジーニョにこぞって握手などを求めたところ、ロナウジーニョは敗戦の落胆のそぶりも見せずに気丈に全員に応じたという記事を目にしました。こちらも立派なことですよね。
この悔しさをばねに、まずは来年2月にリバプールを制し、勝ち上がり、そして欧州連覇を成し遂げ、再びこれに挑戦してきてほしいと思っています。