みのる日記

サッカー観戦記のブログです。国内外で注目となる試合を主に取り扱い、勉強とその記録も兼ねて、試合内容をレポートしています。

盛岡商 × 作陽 #1

2007年01月09日 | サッカー: 国内その他
第85回 全国高校サッカー選手権大会 決勝: 盛岡商業高等学校 2-1 作陽高等学校
(2007/1/8)

■ 岩手の猛進力対岡山の組織力
今回でもう85回目ともなる高校サッカー選手権。天皇杯並の歴史と伝統を持ち、数多くの名勝負と名選手を生み出してきて、年始のサッカー大会としてはもうおなじみです。
年始の忙しさや録り溜めしていた欧州サッカーの観戦などで、今年はとうとう決勝戦しか観ませんでしたが、私も本当は好きですよ。高校サッカー。ただの一つも試合を落とせない高校生たちの真剣さは、やはり心を打たれるものがあります。

波乱とPK戦に満ち溢れたと言われる今大会で見事にファイナルまで勝ちあがってきたのは、お互いに初の決勝進出となる盛岡商業高校と作陽高校です。どのようなチームなのかは全然知りません。よって予習だけは欠かしませんでした。だって最初で最後のせっかくの観戦ですからね。
付け焼き刃の知識ですが、両チームの特徴とこれまでの戦績です。

昨年の地区予選決勝で惜敗を喫した相手である遠野を、今度は辛勝ながらも破って雪辱を果たし、全国行きを決めて岩手県代表となったのが盛岡商です。前回大会ではその遠野がベスト4という大躍進を見せていて、彼らに追いつき追い越すべくベスト4以上を目標にして今大会に臨みました。
本来はFW成田とFW東館の2人のスピードスターをトップに擁し、電撃的に奪うことの出来る得点力こそが武器の攻撃的なチームです。
しかし強豪のひしめく全国大会ともなると、さすがにその攻撃力を100%出し切れるものではありませんでした。初戦の大分鶴崎こそ打ち合いで制しましたが、続く武南戦です。優勝候補大本命の滝川第二を下した武南の実力は本物で、速いパスのつなぎから圧倒的に試合を支配されました。カウンターから同点とし、何とかその後は守りきって、ようやくPK戦でもって勝利することができたのです。準々決勝の広島皆実戦では攻め込めたものの1点どまり。準決勝の八千代戦でも試合終了間際での相手のまさかのオウンゴールにより、どうにか1点を得ることができました。
苦戦を続けながらも決勝まで駒を進めることができたのは、看板の攻撃力ではなく奮闘に次ぐ奮闘を見せた守備陣の力があってこそに他なりません。体を張り、連動的に動いて守備網を広げ、最後まで耐え凌いできました。FWまでもがチェイシングを絶やさない全員の高い守備意識でもって堅く守り、ワンチャンスをモノにしてきたのです。武南と八千代を完封に抑えたのは胸を張れる結果だったでしょう。課題であった守備面が一気に開花し、勝負強さも備えて逞しくなったのが今大会の盛岡商です。
率いるのは喉頭がんに冒され、昨年末には心臓病のために大手術を受けた満身創痍の齋藤監督。それでも執念で指揮する彼を慕う盛岡商イレブンは、何としてでもこの優勝を勝ち取って来年度に引退するこの齋藤監督に花道を飾らせるべく、全力でもって初の決勝の舞台に挑みます。

対するのは岡山県代表の作陽です。
このチームはシステムからして特質です。今大会全48チーム中、作陽を含めてわずかに2校しか採用していない4-5-1を基本形として採用しています。長身のストライカー村井を頂点に置き、その下から3人のシャドーストライカーが襲い掛かる、相手としてはつかみづらい攻撃が特徴的です。武器は何と言っても、作陽の代名詞でもある組織力。ピッチ全面にバランスよく敷かれる守備網からボールを奪っていき、攻撃への切り替えも実にスムーズです。穴のない、つけ入る隙の少ない好チームだと言えるでしょう。
もう一つ作陽が得意とするのが試合の中での適応力です。様々な選手と様々なフォーメーションが実戦で試されてきて、誰が出場しようともどのような流れの展開になろうとも取り乱すことなく的確に対処ができます。また野村監督の、対戦相手の研究への力の入れ方が尋常ではありません。何でも相手の試合のビデオを事前に3回もチェックするそうなのです。徹底的に相手の攻撃パターンを頭に叩き込み、それに沿った対応策を事前に練り上げる準備を欠かしません。象徴的なのが準決勝での神村学園戦でした。同点に追いつくべく神村学園は五領、中村と投入して反撃のためのシステム変更を行いましたが、前の試合でもこのシステム変更によって飛躍的にサイドアタックが向上していたことを知っていた野村監督は、すぐさま自チームにも変化をほどこしました。ボランチは中央に1枚として、左右にMFを2人ずつ並べる守備的な布陣へ組み替えます。果たして神村学園の右サイドの中村はことごとく不発となり、作陽が秀逸に全体を完璧に封じきる、1-0の逃げ切りを成功させたのです。
相手を読む監督の思い通りに選手たちも動くことができ、理解力と状況判断は抜群のチームです。タレント軍団で個人技が主体の静岡学園に対しては確かに大苦戦しました。しかしながら、培ってきたゲームコントロール力によって、組織を主体とするチームには試合運びにおいては競り負けることがありません。このような玄人好みのサッカーを伝統的に毎回見せてきた作陽ですが、その中でも今年のチームは作陽史上最強に仕上がっているとの評判です。そしてその期待を裏切らず、岡山県勢としては初となる決勝進出という快挙を成し遂げました。あとはもう一試合だけ勝利して、全国にその名を轟かせるだけです。

猪突猛進型な勢いを有して突貫していく盛岡商。冷静沈着な組織を繰り広げて迎えうつ作陽。好対照な、興味深いカードの決勝戦となりました。

盛岡商はチームの顔とも言える、攻撃的な4-2-2-2。快速ツートップの下に2人のアタッカーを配します。
GK石森。DFは左から土屋、中村、藤村、平。守備的MFは千葉と諸橋。攻撃的MFは左に林、右に松本。FWは成田と東館です。
準決勝では出場停止だった東館が戻ってきて、盛岡商の象徴であるFWコンビが復活しました。この2人に劣らぬ速さで攻撃力を披露している2年の林、効果的な攻撃参加が顕著であった千葉にも注目です。

作陽の方もベースである4-2-3-1を変えてきませんでした。
GK安井。DFは左から長谷川、石崎、堀谷、桑元。守備的MFは酒井と立川。1.5列目は左から濱中、宮澤、小室と入ります。FWは櫻内のワントップです。
不動のワントップとして君臨していた村井は、今大会は負傷のために万全な状態ではなく、試合途中からの出場が目立っています。
代役の櫻内は何と数週間前まではDFの選手。突然のコンバートで全国大会がFWでのデビュー戦となりましたが、いきなり得点を挙げるなど及第点の出来を見せています。
MFでは宮澤のチャンスメイクにも注目ですが、現在注目を一身に浴びているのが小室です。今大会の作陽の中で最も光り輝いていた選手で、俊足を武器に4得点と、大会得点ランクの首位に立っています。絶好調で乗りに乗っている、作陽の最終兵器です。

■ 運命の決勝戦
決勝戦のオープニングとなったのは盛岡商の平のミドルシュート。盛岡商が持ち前のスピードアタックで猛然と詰め掛け、作陽へシュートを浴びせるスタートダッシュに成功しました。これを前にして作陽はロングボールとスルーパスで前線を走らせることしかできません。圧倒的に盛岡商のペースでした。
しかし、ここを凌いだ作陽は流れを徐々につかんでいったかのように、ゆっくりとじわじわ自分たちのサッカーへと持ち込んでいきます。序盤にはなかった前線でのパスワークも復活。後方からの攻撃参加も見られるようになり、立川のスルーパスからサイドバックの長谷川がクロスを入れ、櫻内がヘッドに至るという崩しきる場面も出てきたのです。最終的に前半でシュートが多かったのは作陽の方であり、ロングボールばかりを狙わざるを得ないのは盛岡商側になっていました。
次第に次第にですが、主導権が盛岡商から作陽へと移って行く前半戦でした。0-0で折り返します。

決め手に欠いていた作陽は、後半の頭から櫻内に代えて真打ちのエース・村井を登場させます。彼のポストプレーに期待がかかります。
ただし、またも開始からペースをつかんだのは盛岡商。作陽は前半戦の終盤が嘘であったかのように防戦一方で、カウンターしか道がありませんでした。ただ、そのカウンターの一つが炸裂します。

後半11分、ボールが渡ってきてそのまま右サイドを駆け上がったサイドバックの桑元は、一度村井に預けます。そこで我々は驚愕のプレーを目にしました。村井は囲んでくる3人の盛岡商のDFをあざ笑うかのように180度ターンしてかわし、振り向きざまに渾身の強烈ミドルシュート!ゴールバーに嫌われて豪快に弾かれましたが、そのこぼれ球を詰めていた桑元がヘディングで押し込み、作陽が待望の先制点です。詰められた場面で、盛岡商のDFはあまりの出来事に一瞬呆然と立ち尽くしてしまいました。それほどの目覚しい個人技によって、押されていた作陽がリードします。

もちろん盛岡商はさらに攻撃に比重をかけていきます。ようやく崩すこともできてきました。そして後半18分です。このシーン、直前に日本テレビが試合と全然関係ないところを映し続けていて、何が始点となったのかもまるでわからずに多大に彼らの放送中継能力に不満を抱いたのですが、とにかく千葉がペナルティエリア内で倒されて盛岡商がPKを獲得しました。
この千載一遇のチャンスにてキッカーを託されたのが、八千代戦でも劇的なオウンゴールを呼び込んだ林。盛岡商を牽引してきたこの2年生が重責を担います。しかし!林の左足から繰り出されたシュートは、わずかにゴール左枠外へ・・・。ムードが沈みかねない大きな失敗でしたが、幸いにも他の3年生たちが全く下を向くことがありませんでした。すぐさま林に駆け寄り激励し、何事もなかったように反撃を再開したのです。

これに盛岡商のベンチからも援護がありました。松本に代えて、突破力に優れる切り札的な存在である大山を左MFとして投入。林は右MFに転向します。そしてこれが直後に大当たりとなりました。
後半26分、その大山が左サイドでパスを受けて相手DFと1対1の勝負を挑みます。そこから大山は惑わすような動きで、かつ鋭い突破によって見事に抜き去り、左サイドを深くえぐることに成功します。大山は即座にマイナスの速いグラウンダークロス。ボールは一直線に3人、4人と選手たちの間をすり抜けていって、最後にこれをフリーで待ち構えてゴールに結びつけたのが林!!!!一度シュートミスをしてしまったのですが、すかさずもう一度押し込んでゴール内へと突き刺しました。貴重な同点弾でもって、林が見事にPK失敗の汚名を返上します。
作陽が村井なら、盛岡商は大山。途中出場の起用に応える両者の活躍がチームを得点へと導き、前半とは一転して試合があわただしくなりました。

イーブンとされた作陽は一度巧みなパスワークからチャンスを作り上げ、度々効果的なカウンターも築き上げていきましたが、盛岡商の勢いを止めることができませんでした。自陣の裏に飛び出てくる盛岡商の選手たちへの放り込みに四苦八苦します。
そしてとうとう、試合終了5分前にしてこらえきれなくなってしまいました。運動量がまるで落ちない盛岡商の成田が左サイドを鮮やかに突破。成田はDFを振り抜き、グラウンダーのラストパスを中央へ送り込みます。これを東館がDFを引き連れてスルーし、オーバーラップしてきたフリーの千葉が着実にゴール右へと決めて、盛岡商がついに逆転!後半戦の流れは変えることがかなわなかった作陽の、盛岡商の怒涛の推進力に屈した瞬間でした。

ラスト5分で作陽は村井のポストプレーから小室がシュートを放つも、反撃はそれまで。試合終了の笛と同時に作陽の選手たちは一斉にかがみ込み、盛岡商の選手たちは歓喜を一杯に表現して駆け回りました。
盛岡商は自身初、そして岩手県勢として初となる全国一の栄冠に輝きました。


「盛岡商 × 作陽 #2」に続きます。


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