みのる日記

サッカー観戦記のブログです。国内外で注目となる試合を主に取り扱い、勉強とその記録も兼ねて、試合内容をレポートしています。

Rマドリード × サラゴサ

2007年01月17日 | サッカー: リーガ
06/07 リーガ・エスパニョーラ 第18節: レアル・マドリード 1-0 レアル・サラゴサ
(2007/1/14)

■ 大激震の冬を迎えたレアルの復活勝利
現在スペインだけでなく、日本からも一番に注目を浴びてしまっているチームがレアル・マドリードです。ベッカムの米国移籍が決まってしまいましたね。
カペッロ新体制のレアルは今季、規律正しい守備偏重へガラリとそのスタイルを変貌させ、攻撃も魅惑的ではなくともカウンター重視の戦術が効果的で、「クラシコ」にも勝利するなどそれなりに結果だけは残してきました。
しかしこの年末年始に激震が走ります。先週までのリーガの4試合の結果は、攻守でふがいない惨敗を含む1勝3敗。内容も結果も満足なものとならず、評判は一気にがた落ちとなってしまいました。それに伴うように、くすぶり続けていた内部の不満も続々と表面化します。カペッロ監督の反対勢力の筆頭と言われてきたFWカッサーノは、もうすでに年末の時点でクラブとの関係が決壊。控えの立場では自身のブランド力が低下してしまうMFベッカムは、来季からの米国移籍をこの冬に電撃的に決定。ベンチ入りすら許されなくなったFWロナウドは、その冷遇に憤怒して練習をすっぽかす日々。厳格なカペッロ監督は、この三名の大物選手を今後絶対に起用しない姿勢を強調しました。加えて不振が原因でチームの秩序も全体的に乱れており、もはや全選手の意思はバラバラになっている現状です。限りなく暗く寒い冬を迎えたレアルは、粛々とした人事と起用でもってこれをどうにか整え、再建への第一歩を踏み出そうとしています。

そのレアルの対戦相手はサラゴサです。今季のサラゴサは得点力が好調。攻撃と守備の役割分担が明確な好チームで、前節には首位のセビージャをも撃破してみせました。3位のレアルの真下につく4位にまで浮上しており、間違いなく今節の最大の注目カードです。低迷中のレアルにとっては、厳しい相手との試合になりました。

レアルのフォーメーションです。
GKカシージャス。DFは左からラウール・ブラボ、カンナバーロ、エルゲラ、ミゲル・トーレス。MFは後方にディアラとガゴ、左にラウール、右にレジェス。ややトップ下の位置にイグアインを配し、最前線にファン・ニステルローイを置く4-2-3-1としました。
最大の注目点は、獲得したばかりの新鋭イグアインのリーガ初登場です。同時期に獲得した、同じく若き才能あるガゴと揃って先発を任されました。
DF陣が少し気がかりです。ロベルト・カルロスとマルセロが負傷してしまい、セルヒオ・ラモスとサルガドは出場停止と、欠場者が相次ぎました。右サイドバックにはメヒアではなく、下部組織出身の若いミゲル・トーレスが選ばれました。

サラゴサはいつもの4-2-2-2。
GKセサール・サンチェス。DFは左からファンフラン、ガブリエル・ミリート、セルヒオ、ジェラール・ピケ。守備的MFはサパテルとセラデス。攻撃的MFはアイマールとダレッサンドロのアルゼンチンコンビ。FWはディエゴ・ミリートとエベルトンです。
ほぼ不動のメンバーですが、ただ一人、古巣対決となるはずであったディオゴが前節の稚拙な退場劇によって出場停止。好調であっただけに惜しまれます。この右サイドバックは、ピケが代役を務めることになりました。

開始から間もなく、レアルのラウールが前線で物凄いチャージを見せてボールを強奪。主将として何とかチームの現状を変えていこうとする気持ちの強さを見せてくれましたが、前半10分もしないうちに右太ももの裂傷でダウン。あえなくロビーニョとの交代になってしまいました。

サパテル、アイマール、エベルトンと中央をぶった切るようにつないで最初に大きなチャンスをつかんだのはサラゴサでしたが、実際には支配権はずっとレアル側にありました。サラゴサはシュートにまでなかなかもっていけません。
しかしながらレアルの方も堅いサラゴサの守備陣を前に四苦八苦し、ミドルシュートとセットプレーばかりが目立っている厚みのない攻撃内容です。

ただ、そのセットプレーのうちの一つが成功しました。レアルは前半41分のコーナーキックでショートコーナーを選択し、左サイドのロビーニョがファーへクロス。カンナバーロに向けられたこのボールをガブリエル・ミリートが競り勝ってヘッドで後ろに逸らしますが、その後方にいたイグアインがフリーでした。拾ったイグアインはすぐさま中央へ速いグラウンダーの折り返し。これをファン・ニステルローイが押し込んで、ついにレアルは国王杯を含めて350分にもわたった連続無得点時間に終止符を打ちました。レアルが先制します。

後半のレアルは守ってからのカウンターがよく冴えていました。そこから1点ものの決定機もいくつか作りましたが、いずれも決めきれません。レジェスがキーパーと1対1になるも、ボールがうまく足につかずに失敗。そのレジェスと交代したデ・ラ・レッドもまたキーパーと1対1になりますが、シュートがキーパーの正面に向かっていって弾かれます。ファン・ニステルローイの独走も、サパテルの懸命なカバーリングで見事にブロックされてしまいました。

しかし、引き続きサラゴサの方の攻撃は封じられっぱなしの状態です。サラゴサは後半40分のコーナーキックから、ニアサイドのピケのボワンとしたバックヘッドのすらしがゴールバーを直撃する、あわやというシーンを作っただけでした。
このままサラゴサは完封に抑え込まれ、復権を目指すレアルの嬉しい勝利となりました。

■ 良い意味で拍子抜けだったレアル
レアルはラウールが退いた後、レジェスがよく頑張ったと思います。得点してしかるべきフリーの場面を台無しにしたのは残念なことですが、流動的に走りながらキープ、パス、シュートと、レアルの攻撃を一人で牽引する存在でした。
サラゴサの方はやはりアイマールでしょうか。彼も左サイドと中央の間を自由に行き来し、受け手が攻めやすい効果的なパスを繰り出していきました。

攻撃に関してはそれくらいですかね。むしろこの試合の見どころは守備でしょう。双方の攻めに組み立てや崩しきる局面がまるでなく、退屈だった視聴者の方も少なくなかったのかも知れませんが、私はその守備合戦こそが楽しめました。

まずはレアルです。実は私は、例の惨敗と評されたレクレアティーボ戦とデポルティーボ戦をそれぞれ観ておりませんで、「一体レアルはどのようにひどくなってしまったのだろう?」というのが一つの個人的な試合の注目点でした。
ですが、この日のレアルは良い意味で拍子抜けといった感じの普通さだったのです。いたって普通です。取り乱すわけでも集中を切らすわけでもなく、サラゴサを90分間淡々とはね返し続けていました。
確かにこの試合のサラゴサのツートップは低いパフォーマンスではありました。ディエゴ・ミリートは決まって自身からボールコントロールをミスし、エベルトンにも動きに活発性が見られません。それでもサラゴサの両ボランチのエラーが何一つないボール捌き、ダレッサンドロの勢い、そして絶大な司令塔のアイマールといった攻撃の中核は健在です。しかしレジェス、イグアイン、ファン・ニステルローイの前線以外の全選手が高い守備意識でもって、ここを個別に潰しまくっていたのがさすがでした。とりわけ以下の中盤の3選手がその立役者です。

筆頭はロビーニョです。「守備貢献をしない選手」という批評をどうしてすることができましょうか。この試合で両チームを通じて最もボール奪取数が多かったのはロビーニョです。特にダレッサンドロの前に立ちはだかって彼を苦しめ続けました。対峙する左サイドバックのラウール・ブラボへのフォローには大抵駆けつけており、時にはガゴとともに三人でもって囲んだりもして、次々と彼を抑え込んで奪ってしまいます。この日のサラゴサはダレッサンドロに一番ボールを託していたのですが、その彼をとうとう不発のままにさせることができたのは間違いなくロビーニョがいたからこそです。さらにロビーニョは右サイドにも顔を出して、アイマールから奪い返してレアルの決定的なカウンターへ移行させること2回。チームへの直接的な貢献度はNo.1でした。

ディアラもそつなく守備をこなしました。こちらは主にアイマールとディエゴ・ミリートへの対処が担当です。ディフェンスラインの前にどっしりと構え、一人でも彼らを阻止してしいきます。レジェスの裏までサポートし、終始サラゴサの左サイドを分断させる障害となっていました。

そしてガゴです。素晴らしい守備意識でした。中盤ならどこでも幅広くケアし、体を寄せていってサラゴサを自由にはさせません。直接カットをしたのは2、3度ほどでしたが、怠りなく続けていたチェイシングは、守備面でロビーニョやディアラにも劣らない高い評価を与えることができると思います。自軍の後方に出向いていっては安全なつなぎ役としても活躍し、チームに安定感をもたらしていました。

この3人が中心となって、レアルはことごとくサラゴサを中盤から封じ込めてしまいました。脆さを見せていたカンナバーロの1対1の処理能力も確かめてみたかったのですが、それはかなうことがありませんでした。なぜならば、サラゴサは最前線へ供給することすらままならなかったためです。何度も同じように繰り返される、ペナルティエリア前までのレアルの厳しい守備による封殺。これが一定のペースで保たれたまま、そもそも最終ラインへの負担がほとんどなかったのが、レアルが危なげのない鉄壁さを誇っていた要因だと思われます。
全く低迷さを感じさせない、見事な守備力でした。

対するサラゴサは、この日もセンターバックの二人が非常に優秀でした。二人とも判断力がよく、セルヒオなどは持ち場を飛び出してでも右サイドへのフォローを欠かしません。また、ガブリエル・ミリートが圧巻でした。中盤まで突っ込んでいってプレスにインターセプトと大暴れ。さらに1対1が強く、ガゴ、イグアイン、ファン・ニステルローイらの突破を容易には許しませんでした。力ずくで、能力の高いレアルの個人技を最後まで制御していました。

さらにボランチのセラデスとサパテルですね。組織的な連動のないレアルにとっては、中盤の底に居座り続けて献身的に走り回る、この両者の関門をくぐり抜けるのが一苦労といった感じでした。二人とも巧みに回りこんで他と連係して囲む動きがとても秀逸です。そして最後まで攻守に安定していたサパテルなのですが、彼は本当にいい選手ですね。前回のセビージャ戦では「絶賛にまでは至らない」などと生意気に評したのが申し訳ないと思わされるほどです(笑)。一度もエラーすることなく、カバーにプレスにボール中継にと、冷静で堅実なプレーを90分間披露していました。

セラデスが交代から退場して前がかりとなった後は、度々致命的なカウンターを浴びてしまいます。ただし、その他のレアルの単調な通常攻撃に対しては容赦なく頼もしくバシバシと弾き返していき、一度も穴を見せることがありませんでした。こちらも見事だったと思います。それだけに、失点の場面でイグアインを見失ったのだけは実に悔やまれることでした。

■ 若きタレントの躍動の陰で・・・
もう一つこの試合で大きな興味を持たされたのが、レアルの若く有能な選手たちの登場です。クラブの首脳陣も非常に期待している三人が先発に名を連ねました。果たしてレアルというビッグクラブの中心人物へなっていくことができるでしょうか。やっつけ程度の紹介も兼ねて、個人的な感想を記載したいと思います。

まずはリーガデビューとなったFWゴンサロ・イグアインです。アルゼンチン出身の19歳。速さと巧さを兼ね備え、得点感覚にも非凡なものがあるそうです。レアルが欲してやまなかったトップ下タイプの選手。フランスとの二重国籍を所有し、フランス代表からも声がかかるほどの逸材であり、レアルはリーベルプレートから20億円以上とも言われる移籍金でもって彼を獲得しました。
そしてこの立て直しのための重要な一戦において前線を任されます。誰よりも注意深く一つ一つのプレーを見守り続けましたが、結論としては私は評価の難しいデビュー戦だったと思います。とにかく良い印象を次々に悪く塗り替えてしまったのが、軽率なミスのオンパレードでした。続発されるトラップミスやとんでもないパスミス、空振りも2度ほどあったでしょうか。ピッチ上の全22選手の中で、ダントツにミスの多い選手だったのです。
致命的なのが対面するパスへの対処でした。前を向いて受ける分には全く問題はないのですが、まずいのは相手陣営に背を向けて縦パスを正面から受ける場面です。何と4回中、4回とも全てうまく処理を出来ずに無条件にボールを渡してしまっていました。まず前線で納まりどころとなる起点にはなり得ないことが判明します。
ただ、こうしたミスについては、サラゴサという相手の厳しいプレッシャー、慣れない舞台、若さゆえの経験不足などがあったことをもちろん考慮せねばならないと思います。
そしてイグアインがこの日に見せた凄さは、フリーな体勢からの抜群のドリブルでした。ガブリエル・ミリートを2度も抜き去りかけたのは彼だけですし、カウンターの場面ではしっかりと溜めて溜めてレジェスの得点機をお膳立てしました。当然、先制点のアシストという結果も賞賛されるべきでしょう。一人でも打開していってチャンスメイクをするその能力は、もはや現段階でも通用しそうな雰囲気が存分に感じられます。グティとはまるで異なるタイプであり、場合によっては使い分けといった面でも楽しみが広がりそうです。カペッロ監督のサッカーが望むものは何よりも堅実さと完璧度。不安定な要素をいち早く克服して、堂々たるレギュラーにまでなってほしいですね。

続いてはイグアインの移籍直後に獲得した守備的MFフェルナンド・ガゴです。同じくアルゼンチンの選手で、20歳。若くしてボカ・ジュニアーズの主力となったばかりか、同チームのタイトル獲得に大きく貢献するまでになりました。「レドンド2世」との呼び声も高く、レアルは30億円近くを費やして彼を加入させました。手荒さのない華麗な守備活動を身上としており、ビルドアップの能力にも長けているそうです。
ガゴは前節のデポルティーボ戦ですでにデビューを果たしておりますが、私自身としては初めて観ることになりました。そしてこのガゴなのですが、イグアインとは異なり最低でも文句をつけることはできないといったプレーぶりでした。
守備では決してディアラのように直接的に体で阻む回数は多くはありませんでしたが、巧みに割って入って確実にサラゴサの勢いを遮断していました。そしてその守備エリアが相当に広範囲なのです。
また、中央の後方から前方までを自在に駆け巡りながら、左右前後にボールを散らすコンダクターとしても優秀でした。FWに預ける一直線の縦パス、左のロビーニョに展開させる横パス、一発のカウンターを成立させるダイレクトのロングパスなど、とうとうそのキックにはコントロールにも判断にも誤りが一度も出ません。
もっと得点に絡むような決定的なラストパスやシュート、終盤でも消えない運動量など、備えてほしいスキルの欲を言えばきりがありませんが、とりあえずこれだけ出来るのならば素晴らしいものだとただただ感服するばかりでした。この評判どおりのビルドアップ力が継続されるのならば、後方に閉じこもりがちで輝きを失いつつあるエメルソンの地位は相当心配されることになると思ってしまいます。

最後に、今季1部へ昇格していたDFミゲル・トーレスです。下部組織出身で、今月18日に21歳。逞しいフィジカルが売りで、屈強さを見せるとのことです。器用さも併せ持つユーティリティプレイヤーで、チャンピオンズリーグではサイドバックでなく、センターバックとして起用されていました。
ディアラのアイマール封じが大きな助けとなってはいましたが、右サイドバックのトーレスの守備は実に安定感あるものでした。その内容はインターセプト2回に、右サイドの突破阻止が5回です。特筆すべきはこの1対1での阻止率が100%であったことでしょう。一度もサイドを割らせませんでした。ディエゴ・ミリート、アイマール、ファンフランを相手に、弾き飛ばしてでもサイドからの攻略を許さず、その頑強さに嘘偽りのないことを証明してくれました。
課題は攻撃面でしょうか。攻め上がりの際の連係力不足はまだ仕方ないとしても、2度のクロスがいずれも可能性に乏しいものであったのは残念でした。サイドバックとして定着を狙うのであれば、ぜひ磨いていってほしい部分です。

結論を申し上げると、三人とももはや普通に用いても問題のない、計算できる選手たちばかりという感じを受けました。たった一試合で断定してしまうのは早計なのかも知れませんが、三人ともがこの試合の完封と勝利に直に関わっていたことは事実です。この年齢で、トップチームの試合に出場したばかりで、すでにこれほどのパフォーマンスを見せる力を所有していたことは、レアルにとっては低迷からの脱出と同じくらい大きな朗報だったと思います。

下部組織の代表格であるデ・ラ・レッドやハビ・ガルシアを筆頭として、自身の保有する若きタレントたちが数多く順調に育っている最中なのに、イグアインとガゴの補強に踏み切るという今回の行為には賛否両論もあったレアル・マドリード。しかしそれも、レアルが一大転機を図るための布石なのかも知れません。不平不満や怠慢なプレーを絶対に許さないカペッロ体制は現在、すでに切り捨てた冒頭の三名に加え、ラウール、サルガド、グティ、ロビーニョ、ロベルト・カルロス、さらにはユベントスから連れてきたカンナバーロやエメルソンまでもを売却候補に挙げているとされています。このそうそうたる顔ぶれが、近い将来に去って行く可能性は少なくないのだそうです。実績あるスター選手を限度一杯にかき集めて、華やかさこそを最大の魅力としてきたレアルの一時代が終焉を迎えようとしています。軍隊さながらの統制で選手たちを厳しく従事させ、結果こそが最重視されるプロフェッショナルに徹する新生レアルへの改革が始まりつつあります。

今節の結果、レアルの3位は変わらないものの、上位のセビージャとバルセロナがそろって敗北。レアルが今冬の遅れを取り戻すかたちとなり、再び優勝争いは混戦模様となりました。


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